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崖っぷち貴族の生き残り戦略  作者: 月汰元
第7章 迷宮と宇宙編
216/313

scene:215 岩山迷宮の迷宮主

 スライムや毒コウモリ、赤目狼、鎧トカゲ、カーバンクルが出没する五階層までは、最短ルートを選び短時間で走破した。


 六階層に下りたデニスたちは、森林エリアを見回した。迷宮の森林は、地上の森より混沌としている。普通の森だったら、気候や土の状態に合う植物だけが育つものだが、迷宮の森は手当り次第に植物を集めて育てているような感じがする。


 その森林エリアのあちこちで、探索者たちが活動している気配が伝わってきた。

「この六階層も賑やかになったな」

「ここで活動する探索者は、四〇人ほどに増えたそうです」


 ゴブリンやオークを倒しながら森の中を進み、洞窟に入ってボス部屋に向かう。オーガが番をしていた場所だ。その奥に七階への階段がある。


 その階段を下りたデニスたちは、雪と氷に覆われた世界を久しぶりに目にした。

「うわっ、寒い」

 デニスたちは急いで防寒用の装備に着替える。


 雪の中を歩き出すと、大雪猿と遭遇した。真っ白い大猿が吠え声を上げながら襲いかかってきた。最初に迷宮を探索していた頃は、この大雪猿でさえ脅威だったイザークが、『剛力』を使って長巻の一撃で斬り捨てた。


 最初の頃は、『剛力』の真名を持っていても一撃で斬り捨てるなどできなかった。イザークの武術の技量が上がったので、こういう真似ができるようになったのだ。


 次に氷晶ゴーレムと遭遇したが、デニスの爆砕球で粉砕した。八階層に下りたデニスたちは、防寒装備を着替えてから、廃墟の街に出る。


 デニスたちは、街で遭遇したスケルトンを斬り伏せながら、廃墟の城の地下一階へと進む。聖印でロックが解除された扉を開くと、広大な森と湖が見えた。


 この広大な森には、蛙面の巨人と人面カマキリがいる。分かっているのは、蛙面巨人を倒すと緋鋼をドロップすることがあるというくらいで、九階層についてはほとんど判明していない。


 デニスが忙しくなって、調査を中止していたからだ。

「さて、本格的に調査を始めるか」

「デニス様、何から調査しますか?」

 イザークが確認した。デニスは少し考えてから湖を指差した。


「湖から調査する」

 フォルカが湖に目を向けた。

「あの湖には、何か居そうですけど」

「それも確かめるんだ」


 デニスたちは湖に向かった。ここの森はドングリを実らせる木が多いようだ。それも桃ほどの大きさがありそうなドングリである。


「あのドングリ、どんな魔物が食べているんだろう?」

 フォルカが疑問に思ったようだ。デニスも気になった。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 岩山迷宮の二〇階層にある迷宮主が住む部屋で、巨大な水晶球に映し出されるデニスたちの姿を見つめている存在がいた。


 異界において神の眷属であった巨人族の姫である。異界の最高神であった龍帝から『摂理』の真名を盗もうとして失敗し追放され、迷宮の主にされたのだ。


 二八〇年間に渡り迷宮に力を与え続ける罰を与えられた姫は、身長四メートルもある美しい女性という存在だった。


 神に次ぐ存在であり強大な力を持っていた姫は、二八〇年近くの間に力を吸い取られ、見る影もない卑小な存在となっていた。だが、それでも人間と比べれば巨大な存在である。


 己の力では抜け出せない迷宮で、力を失い続けていた年月は、あまりにも長かった。

「ふん、面白い。わらわを倒すために来るのか」

 姫は退屈していた。そして、卑小な存在である人間が、神の眷属であった自分を倒しに来るということに腹を立てた。


「久しぶりに、迷宮改変の力を使ってやろう。新しい魔物の誕生だ」

 龍帝の眷属だった姫は数多くの真名を所有していた。その中の一つを選び、魔物の核とするように迷宮コアを操作した。姫が見ていた水晶が、迷宮コアである。


 その迷宮コアは、迷宮という空間を造る機能と魔物を作り出す機能を持っている。通常は自動的に魔物を作り出しているのだが、知能の高い存在が迷宮主となった場合は、迷宮主が魔物を作り出せるようになる。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 デニスたちがドングリの森を進んでいると、木がへし折れるような音がした。

「何だろう?」

 フォルカが音がした方向に目を向ける。


「確かめよう」

 デニスが宝剣緋爪を抜いて駆け出した。その後ろにイザークとフォルカが続く。何かが戦っている気配が伝わってきた。デニスは慎重になって進む。


 森の一画で蛙面巨人と巨大な猫が戦っていた。デニスたちは木の陰に隠れ覗き見た。フォルカが首を傾げる。

「あれって、虎じゃなく猫ですよね」

「そうだな。それも山猫とかじゃなくて、家猫の類だな」


 丸い顔に丸い目、鼻も口も小さく纏まっていて可愛らしい。ただ巨大だった。身長五メートルの蛙面巨人と同等の体格をしており、その巨大猫の額にはルビーのような宝石が見える。


 後ろ足二本で立ち上がり上から叩きつけるようなパンチが、蛙面巨人の顔面にヒットして巨体が吹き飛んだ。

「えーっ、猫パンチが強烈過ぎるだろう」


 倒れた蛙面巨人に襲いかかった巨大猫は、巨人を踏みつけ首に噛みついた。その巨人を振り回して、ポイッと捨てる。


 巨大猫の額にある真紅の宝石が輝き、宝石の二〇センチほど前方に光が現れ蛙面巨人に向かって放たれた。その高エネルギーを秘めた光は、巨人の胸を一瞬で焼き穴を開けた。


「逃げ……」

 デニスたちが逃げようとした時、巨大猫の目がこちらに向けられた。どうやら気づかれていたようだ。デニスたちは森の奥に逃げ込もうとした。だが、追いつかれた。


「散開、爆裂球で攻撃しろ!」

 デニスが指示を出し、三人はそれぞれの方向に走り出す。デニスはいくつかの真名を解放して戦闘態勢に入った。


 巨大猫は最初の獲物にデニスを選んだようだ。デニスに向かって一直線に走ってくる。デニスは、『爆砕』と『爆噴』を使った重起動真名術を発動。


 爆噴爆砕球は巨大猫の肩に当たり爆発した。かなりのダメージを与えたようだが、致命傷にはほど遠い。そこに巨大猫の両側から爆裂球が飛んできて巨大猫にダメージを与える。


「ダメか。恐ろしく頑丈な化け物だ」

 巨大猫がデニスに向かって飛びかかり猫パンチをデニスに向かって叩き込もうとした。デニスは『怪力』と『加速』を駆使して猫パンチを避ける。


 空振りした猫パンチは、デニスの背後にあった木をへし折った。凄まじいパワーだ。その時、巨大猫の宝石が輝き始める。


 デニスは巨木の背後に隠れた。だが、巨大猫の宝石から放たれた光線は、巨木の幹を貫通しデニスの肩を掠めた。装甲膜を展開していたのだが、一瞬で破壊され肩の皮膚が炭化して一筋の線が付いた。


 焼け付く痛みでデニスの身体がビクリと震える。痛みを堪えながら、デニスは巨大猫の懐に飛び込み緋爪で右前足を斬り付け離脱した。


 緋爪は右前足の筋肉を切り裂いていた。フォルカが後ろから飛び込んで、その足を斬り付ける。同時にイザークも反対側の足を斬っていた。


 巨大猫が振り返りイザークに襲いかかる。その隙にデニスが爆噴爆砕球を首に叩き込んだ。かなりのダメージを与えたはずだが、致命傷にはならない。


 それから三人で攻撃を続ける。何度か巨大猫の反撃を受けたが、戦闘不能になるダメージだけは避けた。

 デニスが五度目の爆噴爆砕球を巨大猫の鼻に命中させた時、転げ回って藻掻き始めた。デニスは飛び込んで首に緋爪を叩き込んだ。


 イザークたちの蒼鋼製長巻では致命傷を与えられなかっただろうが、緋爪は動脈を切り裂き致命傷を与え巨大猫の命を奪った。その巨体が消えた時、額にあった宝石が残り、デニスの頭に新しい真名が飛び込んだ。


 デニスが新しく得た真名は『光子フォトン』というものだった。

 戦いの緊張から開放されたデニスがホッとした時、誰かに見られているという気配を感じて周りを見回した。だが、周りには何者もいない。



今年最後の投稿になります。

良いお年をお迎えください。

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【書籍化報告】

カクヨム連載中の『生活魔法使いの下剋上』が書籍販売中です

イラストはhimesuz様で、描き下ろし短編も付いています
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― 新着の感想 ―
[一言] にゃーん!
[一言] ねこつよい。
[一言] ライオンが居る生活は・・・・(((((((( ;゜Д゜))))))))ガクガクブルブルガタガタブルブル 巨大家猫がいる生活は・・・・ ♪わぁヽ(*≧∇≦*)ノいっ♪ 是非飼いたいな
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