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崖っぷち貴族の生き残り戦略  作者: 月汰元
第6章 紛争編
208/313

scene:207 さまよえる神の家

 デニスはクワイ湖の調査を進め、全域の調査を終えた。その頃、湖畔にある造船所を買収する。


 潰れかけていた造船所で、職人たちは造船ではなく普通の家の建築を行っていたようだ。それもこれも湖島迷宮から魔物が溢れ出し、湖を航行する船に制限がかけられたからだった。


 その造船所ではトライベル号と同じ船の建造を始めた。そして、ブリオネス家はトライベル号を使った輸送業組織『ブリオネス運輸』を始める。


 クワイ湖運輸総連の料金より格安の料金で荷物を運ぶと喧伝すると、ブリオネス運輸に荷物を持ち込む商人が増えた。それを面白く思わないのが、クワイ湖運輸総連である。


 だが、王家の調査が入ったクワイ湖運輸総連は、ブリオネス運輸に手を出すことができなかった。王家が監視していることが分かっているからだ。


 ブリオネス運輸は全国から船大工を集め、月に一隻という早さで輸送船を増やし顧客も増やした。クワイ湖運輸総連が初めて輸送料を下げた。だが、その値下げも中途半端でブリオネス運輸の安値には及ばない。


 湖船貴族とまで言われたクワイ湖運輸総連は力を失い、王都支部の支部長だったヨゼフは王家の兵士に逮捕され処刑された。


 そのことが王都の貴族や商人に知れ渡ると、ブリオネス家の影響力が強まった。ゼルマン王国には五大貴族と呼ばれている貴族家がある。


 ダリウス領のウルダリウス公爵家を筆頭に、クム領のクムファリス侯爵家、クリュフ領のクリュフバルド侯爵家、チダレス領のオルチダレス侯爵家、ムウロン領のラオムウロン伯爵家である。


 ブリオネス家は男爵に過ぎないが、来年には子爵となり次は伯爵になるのではないか。そして、五大貴族が六大貴族となるのでないかと言われるようになった。


 そう言われるようになった理由の一つが、ブリオネス運輸の目覚ましい発展である。ブリオネス運輸はクワイ湖の輸送業を支配する存在となり、クワイ湖運輸総連は弱小輸送業者に落ちぶれてしまった。


 デニスは白鳥城に登城すると、テレーザ王女に会いに行った。庭園で話をして、デニスがベネショフ領がどんな土地か説明する。王女は目を輝かせ早く行ってみたいと言う。


「デニス殿」

 ハイネス王子が現れて、デニスに声をかけた。デニスが挨拶して、王子がどこかへ行く様子だったので、どこへ行くのか尋ねた。

「兄上のところだ。見舞いに行く」


 第一王子であるルドルフは、セリーナ離宮で養生している。ルドルフ王子は幼少より身体が弱く喘息ぜんそく持ちのようだ。


 デニスとテレーザ王女も見舞いに行くことになり、一緒にセリーナ離宮へ向かう。セリーナ離宮は白鳥城の北側にある。大きな貴族屋敷という感じの建物で、壁は白い漆喰が塗られており清潔感のある外見だ。


 初めて会ったルドルフ王子は、身体の細い悲しげな笑いとでもいうような複雑な表情を浮かべている少年だった。椅子に座って本を読んでいた。


「ハイネス、また来たのか? おやっ、初めて見る顔がある」

 デニスは姿勢を正して挨拶する。

「お目にかかれて光栄に存じます。ブリオネス男爵家の次期当主デニスでございます」


「ほう、あなたがテレーザの……」

 理知的な印象だが、線の細い王子だった。

「デニス殿は、湖島迷宮の妖精サイレンを倒してくれたんだ。これで湖島迷宮の新生樹の実を採ってこれるよ」


 新生樹の実とは、喘息の薬になると言われているものだ。ハイネス王子が湖島迷宮に潜りたいと言い出したのは、第一王子の薬が欲しかったからだろう。


「新生樹の実というのは、湖島迷宮のどこにあるのでございますか?」

 デニスが尋ねると八階層だと言う。六階層のブラックスケルトンを狩りに行こうと思っていたデニスは、ついでに八階層へ行くのもありか、と考えた。


「六階層のブラックスケルトンを狩るつもりでおりましたので、少し足を伸ばして、八階層へ行って新生樹の実を採ってきましょう」


 ルドルフ王子が微笑んだ。

「それは嬉しいが大丈夫なのですか?」

 デニスが答える前に、ハイネス王子が身を乗り出した。

「デニス殿は、凄いのですよ。あのワイバーンを倒したことがあるんです」


 それにはルドルフ王子も感心したようだ。そして、テレーザ王女に目を向けた。

「テレーザは、素晴らしい婚約者を選んでもらったようだな」

 テレーザ王女は花のような笑顔を見せた。


「ところで、ブラックスケルトンを狩ると言っていたが、それはボーンエッグというものを手に入れようと思ってのことなのか?」


 デニスは頷いて、手に入れたブラックスケルトンのボーンエッグを見せた。

「これがブラックスケルトンのボーンエッグです。普通のスケルトンのものより、一回り大きく黒いのです」


「そのボーンエッグは、黒く大きいという以外に、何か特別なものを感じたのかな」

「ええ、これを手に入れた時、骨鬼牛のボーンエッグとは、少し違う力を感じたのです」


 普通のスケルトンのボーンエッグと比べて、骨鬼牛のものは圧倒的な力を感じた。そして、黒いボーンエッグを手に入れた時、鋭い力というものを感じたのだ。


 どう説明して良いか分からないが、馬力と瞬発力の違いみたいなものだ。黒いボーンエッグには瞬発力を感じたのである。


「デニス殿が羨ましい。ワイバーンのような強い魔物を倒すほどの強さと、これを作れる技術も持っているのだから」

 ルドルフ王子がこれと言ったのは、デニスが作った『治癒の指輪』だった。


 王子は呼吸が苦しくなった時に、治癒の指輪を使っているようだ。

「この指輪がなかったら、私は死んでいたかもしれない。だから、デニス殿には感謝しているんだ」


 雅也は日本の病院で、喘息患者に対して治癒の指輪を使った実験結果を見せられたことがある。治癒の指輪は気管支の炎症を一時的に抑えて症状を軽くするだけで、完治できないということだった。


 喘息の原因はアレルギーが原因であることが多く、そのアレルギーを何とかしないとダメだそうだ。ちなみに、アレルギーは治癒の指輪では治らない。


 ただ、西帝大学の三河教授から喘息のための特別な治癒の指輪というのを注文されたことがある。気管支の炎症だけを集中的に治癒する治癒の指輪を作れないかと依頼されたのだ。


 雅也は気管支の炎症を抑えるイメージを保持しながら治癒迷石を製作し、効果に変化があるか確かめてもらった。三河教授がその指輪の効果を確かめた結果、喘息の発作にだけは極めて効果が高いことが証明された。


 デニスは喘息用治癒の指輪を製作し、ルドルフ王子に贈った。大変喜ばれて、陛下から湖島迷宮への探索許可証をもらった。但し、王家専属の探索者の調査が完了してから許可するというものだ。


 その調査だが、難航している。迷宮の構造が変わり、昔の資料が役に立たないそうだ。一階層ずつじっくりと調査が必要になり時間がかかっている。それに、大量の魔物が下層から湧き出しているようで、中々先に進めないという。


 デニスは王都に来るたびに確認しているのだが、湖島迷宮の調査は進まない。

 そんなことをしている間に夏が来て、ブリオネス家が子爵になる日が決まった。デニスとエグモントは王都へ行き正装して白鳥城へ向かう。


 ブリオネス家のエグモントは、数多くの貴族が見ている前で子爵へ陞爵しょうしゃくすることを、国王から告げられ神妙な表情をして礼を述べた。


 その後はお祭り騒ぎである。その途中、デニスは国王から呼ばれた。国王の執務室へ行くと、国王とクラウス内務卿、コンラート軍務卿が揃って待っていた。


「何事か起きたのでございますか?」

 クラウス内務卿が代表して説明を始めた。

「湖島迷宮で、異様なものが発見されたのだ」


 異様なものと言われても、デニスには見当もつかなかった。詳しいことを聞くと、王家専属の探索者が湖島迷宮の五階層に下りたところで、不思議な屋敷を発見したらしい。


「どのように不思議だったのでございますか?」

「貴族の屋敷のような立派な建物だったのだが、中に入れなかったそうだ。窓がなく、入り口らしいものはあったが、どうやって開けるのか分からないらしい」


 探索者たちの話では、昔から噂のある『さまよえる神の家』ではないかという。昔から、そのように奇妙な建物が発見されることがあり、一ヶ月ほどで消えるらしい。


「見てみたいものですね」

「特別に許可を出そう。そちならば、何か分かるかもしれぬと思い、声をかけたのだ」

 国王が不安そうな顔をしている。


「その建物に何かあるでしょうか?」

「古い伝承の中に、『さまよえる神の家』が発見されると、国が滅びるというものがあるのだ」

 国王が教えてくれた。迷信だと言って切り捨てられない何かがあるらしい。



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【書籍化報告】

カクヨム連載中の『生活魔法使いの下剋上』が書籍販売中です

イラストはhimesuz様で、描き下ろし短編も付いています
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― 新着の感想 ―
[良い点] 何か超常の存在が絡んでいるのか、国が滅びるという伝承の詳細が気になる…。 ホラー話で誰も生存者がいないのに話が伝わっているような雰囲気もありますね。 完全に治すことは出来なくても効果の確…
[一言] 湖の運送にはそれだけのポテンシャルがあったということですよね。 前から、良い船で安価な輸送量で輸送が行われれば、 湖を使った水運によって周辺が大いに発展する状況だったんでしょう。 それを馬鹿…
[良い点] スタンピード的な?
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