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崖っぷち貴族の生き残り戦略  作者: 月汰元
第6章 紛争編
204/313

scene:203 黄金ボーンサーヴァント

 王都から派遣されてきた部隊の指揮官は、ゲープハルト将軍の部下でフォンダル少将という軍人だった。

 デニスはトリザス派の一員だと思われるクラリスを引き渡した。


「デニス殿、この女は武器を隠し持っていたと聞きましたが、どこに隠し持っていたのですか?」

「隠し持っていたのは吹き矢です。筒や針は極めて小さなもので、化粧道具に偽装して化粧バッグに入れていたようです」


 救出された者たちがトリザス派の襲撃者かどうか不明で、相手が外国人だということもあり、身体検査や持ち物検査が徹底していなかったようだと説明した。


「なるほど、了解しました。デニス殿は我々と一緒に王都へ行かれるのですか?」

「ええ、王家の方々に説明することになっています」


 フォンダル少将たちは王政府の帆船であるロワイバル号に乗って王都へ戻るという。デニスはベネショフ領の造船所で建造した一〇人乗りヨット『モールビット号』で王都へ向かう。


 このモールビット号には、ボーン動真力エンジン三基を搭載しており、時速九キロで海上を走るだけの性能があった。それに帆船でもあるので、風の力も併用すれば相当な速度が出せる。

 但し、武装がないので海賊などに襲われた場合は、乗組員が撃退するしかない。


 出発間際になって、グルード王子がモールビット号に乗って王都へ行きたいと言い出した。

 襲撃者であるクラリスや他の生き残りと一緒に船旅をしたくなかったらしい。デニスはフォンダル少将と相談して、グルード王子をモールビット号に乗せることにした。


 その代わり、フォンダル少将と二人の護衛兵も同行すると決まった。その他にモールビット号で同行するのは、ゲレオンとその息子であるミヒャエル、アメリアとヤスミン、フィーネ、リーゼルだった。


 リーゼルたちの目的は、クム領へ行ってミトバル迷宮へ潜り『抽象化』『転換』の真名を手に入れることだ。ベネショフ領では、迷宮装飾品の生産が増え始め、それを求めて多くの商人がベネショフ領を訪れるようになっている。


 それに対応して、迷宮装飾品を作れる人材を増やそうと考えたのだ。また、ドリーマーであるリーゼルのバディ斎藤は、空手道場を持つために資金が必要だと考え、この二つの真名を使って資金稼ぎをするつもりらしい。


 『治癒の指輪』が有名となった地球では、迷宮装飾品を作れる真名能力者を育てようという計画が、各国で進められている。特に開発途上国と呼ばれる国では、強力に進められていて地球製の迷宮装飾品も多くなっている。


 ただ迷宮装飾品を作るには、魔源素結晶か魔勁素結晶が必要であり、魔勁素結晶を生産できる『結晶化』の真名を持つ真名能力者も重要視されているようだ。


 ベネショフ領を出たモールビット号は、西風を受けて順調に王都へと進んだ。ベラトル領の港で一泊してから、ロウダル領の港に到着。


 デニスはミヒャエルだけを連れて、グルード王子と一緒に王都の白鳥城に向かった。アメリアたちはゲレオンがリーダーとなって、ミトバル迷宮へ向かう。


 白鳥城に到着したデニスは、国王に挨拶してからオスヴィン外務卿の下に行く。今回の事件は外務卿が担当することになったらしい。


「デニス殿、遠路はるばるすまなかったね」

「いえ、バイサル王国は大切な貿易相手であり、その王族の危機となれば、一大事ですから当然のことです」


 外務卿は詳細を知りたがり、デニスは知っていることの全てを話した。

「なるほど、王政に反対しているトリザス派が首謀者ということだな。その組織は、ヌオラ共和国と関係していると思うかね?」


 ヌオラ共和国は、ヌオラ王国の暴王アメスサンドラを倒して設立した国だ。王政などは古い政治体制であり、全ての国は共和制になるべきだと主張している。


 と言っても、自由と民権が大事だとうたっているヌオラ共和国が素晴らしい国かというと、実際はそうでもなかった。特権階級である議員たちが貴族と同じように幅を利かせているのが、実情だからだ。


「その可能性はあると思われます。ですが、直接被害を受けていないゼルマン王国が口出しするのは、難しいでしょう」


「そうだな。だが、ゼルマン王国内でバイサル王国の王族が襲われた。少なくともトリザス派については徹底的に調べなければならんだろう」


 クラリスは厳しい尋問でトリザス派について喋ることになるだろう。ゼルマン王国にも尋問の専門家がいるのだ。彼らに任せれば、全てを喋ることになる。


「この後、何か予定があるのかね?」

「いえ、急ぎの予定はありません」

「ならば、テレーザ王女のところへ挨拶に行くがいい」

 外務卿がニヤッと笑った。


 デニスは苦笑してから、部屋を出た。城の警備をしている衛兵に伝言を頼むと、王家の執事らしい人物が現れ、デニスを案内した。


 久しぶりに会ったテレーザ王女とイザベル王妃は嬉しそうな顔をする。

「よく来てくれました。さあ、入って」

 王家のリビングで、お茶を飲み話を始めた。


「今回は、アメリアは来ていないのですか?」

 テレーザ王女が質問した。

「アメリアはミトバル迷宮へ行っています。友人たちが真名を手に入れるのを手伝うためです」


 王女が羨ましそうな顔をする。

「……羨ましい。私は一度も迷宮に行ったことがないのです。アメリアから妹のマーゴちゃんも、『魔勁素』の真名を手に入れて、ボーンサーヴァントが使えるようになったと聞いた時は、本当に羨ましく思いました」


 ハイネス王子は迷宮に行って真名を手に入れたらしいのだが、王女であるテレーザは許されなかったという。王族というのも窮屈な存在だとデニスは思った。


「迷宮に連れて行くことはできませんが、真名を手に入れ、ボーンサーヴァントを使えるようにすることは、できるかもしれません」

 テレーザ王女が目を見開いて驚き、次に笑顔になった。

「本当ですか。どうやるのですか?」


「私は『召喚(スライム)』という真名を所有しています。それを使えば、白鳥城の中でもスライムを召喚できるのです」


 テレーザ王女はボーンサーヴァントを使役したいと言った。王妃が困ったような顔をしている。

「危険ではないのですか?」


「相手はスライムですから、危険はありません。但し、スライムに攻撃されると痛みが走りますから、動きやすい服に着替える必要があります」


 デニスは執事に頼んでネイルロッドを作ってもらった。簡単な構造なので、城にいる職人が手早く作ったようだ。


 ネイルロッドが出来上がった頃、着替えたテレーザ王女とイザベル王妃が現れた。なぜイザベル王妃まで動きやすい服に着替えている? デニスは溜息を吐きそうになり堪えた。


「あのー、王妃様も参加されるのでしょうか?」

「ええ、私自身で危なくないか確かめようと思います」


 城の中が騒がしいのに気づいたハイネス王子まで見物に来ていた。執事に案内されて城の物置として使われていた部屋に入った。


 普段は雑多な物が置かれている物置が片付けられ、がらんとした広い空間だけが残っていた。そこにデニスと王族の三人、執事と護衛の兵士が入る。


 王女と王妃にはネイルロッドを持たせる。

「これからスライムを召喚します。それをネイルロッドで攻撃してください」

 ハイネス王子もやりたそうな顔をしていたが、我慢しているようだ。


「では、始めます」

 デニスがスライムの召喚を始めた。緑色のスライムが出現し床を這い始めた。それを王妃が攻撃する。二撃目で倒した。


 デニスは次々とスライムを召喚した。それを王女と王妃が叩く。執事は心配そうな顔をして見ており、ハイネス王子は参加したそうな顔をしている。



「あ……真名を手に入れたようです」

 王妃が先に『魔勁素』の真名を手に入れた。そして、一三匹目を倒したテレーザ王女が真名を手に入れたと声を上げた。スライムが五匹ほど残っている。


「僕が片付けるよ」

 ハイネス王子がテレーザ王女からネイルロッドを受け取り、スライムを退治する。王子は迷宮に行ってスライムを倒しているはずなのだが、目をキラキラさせている。


 スライムを絶滅させたハイネス王子がニコッと笑った。

「この武器は凄いな。簡単にスライムが倒せる。迷宮ではあんなに苦労したのに」

 どうやら剣か槍でスライムを倒していたようだ。かなり大変だったのだろう。


 その後、デニスは自分の荷物を持ってこさせた。その中に未使用のボーンエッグが入っている。ベネショフ領では定期的にスケルトン狩りをしており、ボーンエッグを集めている。


 そのボーンエッグはボーンエンジン関係で何かアイデアが閃いた時の実験用にと持ってきたものだ。その中には黄金スケルトンのボーンエッグも入っていた。


 王族の三人に対して『魔勁素』の真名の使い方を教え、まず初めに王妃のボーンサーヴァントの製作を行った。王妃が『魔勁素』の真名の力を注ぎ、デニスが『頑強』『怪力』『発光』『冷凍』の真名の力をボーンエッグに注ぐ。


 同じようにして王女用のボーンサーヴァントを製作したが、王女用には黄金スケルトンのボーンエッグを使った。


 最初に王妃がボーンワードを唱えてボーンサーヴァントを誕生させた時、ハイネス王子は軽く頷いただけだった。だが、テレーザ王女がボーンエッグをボーンサーヴァントへ変形させた時は、驚きの声を上げた。


「うわっ、何だこれは!」

 テレーザ王女用のボーンサーヴァントは、一回り大きく黄金色の鎧兜を身に着けたボーンサーヴァントだったのだ。衛兵たちの顔が引きつっている。守るべき対象が一つ増えたと分かったのだ。


「デニス様、これは?」

 テレーザ王女が尋ねた。

「これは黄金スケルトンを倒して手に入れた特別なボーンエッグを使ったのです。ちょっと派手ですが、白鳥城の中なら、不釣り合いではないでしょう」


 テレーザ王女は特別なボーンサーヴァントをもらったのだと知って喜んだ。ハイネス王子はもの凄く羨ましそうな顔をしている。


 ちなみに、ハイネス王子へボーンサーヴァントを贈る予定はない。欲しければ自分でスケルトンを倒して、ボーンエッグを手に入れるように、国王から言われているらしい。



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【書籍化報告】

カクヨム連載中の『生活魔法使いの下剋上』が書籍販売中です

イラストはhimesuz様で、描き下ろし短編も付いています
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― 新着の感想 ―
[良い点] がんばれ男の子(ハイネス王子)!
[良い点] 女性に煌めくプレゼント [一言] (黄金の輝きを押し付け先には相応しい)
[一言] 婚約者への贈り物になりましたか。 レアなのは間違いないし、貴族的には好いもの?に なるのかな、欲しがる人は多いでしょうね。 モールビット号のことがバレたらますます 頼られそうですね。 次回…
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