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崖っぷち貴族の生き残り戦略  作者: 月汰元
第6章 紛争編
203/313

scene:202 トリザス派の襲撃

 バイサル王国の王族が乗る船が遭難した件を、王都の王政府に伝えた。

「父上、この状況をどう思います?」


 エグモントは首を振った。

「分からん。王子の具合はどうなのだ?」

「『治癒』の真名術を使って治療したから、大丈夫だと思う」


「そうか。問題はバイサル王国の船で何が起きたかだな」

「王子の様子が落ち着いたら、確かめましょう」

 グルード王子の容体は、その日の午後になって落ち着いた。


 デニスは、グルード王子が寝ている部屋へ行き事情を聞いた。

「僕はゼルマン王国ベネショフ領に住むデニス・ブリオネスです」

 王子がホッとした顔をする。


「そなたのことは、兄から聞いている。助けてくれたのだな。感謝する」

「いえ、当然なことをしただけです。船で何が起きたのでございますか?」


「トリザス派の襲撃を受けたのだ」

 襲ったトリザス派というのは、王政に反対し過激な活動をしている組織のようだ。聞いた限りでは、テロ組織のような気がする。


 数人の覆面をした者が、船員に見つかって戦いになったらしい。王子は護衛の指示で操舵室に避難したのだが、不審者は王子の命を狙っていたらしく操舵室まで追ってきた。


 王子の護衛とトリザス派とで戦いになったようだ。船員も戦いに巻き込まれ、操舵手と船長が殺された。三人の護衛が殺され、王子を守る護衛が二人に減った時、船が暗礁に乗り上げたらしい。


 王子の話では、襲撃者は四人いたという。一人が護衛に倒されたので、船が転覆した時には三人に減った。今回、王子の他に三人が救出されている。その中に襲撃者が含まれている可能性がある。


 デニスは生き残りの三人を別々の個室に移し、監視の兵を付けた。

 グルード王子がゼルマン王国へ来訪したのは、視察が目的らしい。兄のエゴール王子から、迷石ラジオを手に入れてこいと言われているそうだ。


「迷石ラジオですか。ラジオはベネショフ領で製作しているので、提供いたします」

 王子が初めて笑顔になった。

「感謝する。せっかくゼルマン王国へ来たのに、こんなことになって……何もできずに帰国することになるのかと残念に思っていたのだ」


 デニスは迷石ラジオを王子の部屋に運んで、使い方を教えた。

 ラジオから聞こえてくる音楽を聞いて、驚いていた。


 エグモントは助け出した他の三人を尋問した。一人目は商人のオスニエル、二人目はメイドのクラリス、三人目は船員のジェイコブだと答えている。


 デニスは尋問したエグモントに確認した。

「この中にトリザス派の襲撃者がいるのでしょうか?」

「さあな。王族を襲うように命令された者だ。かなりの訓練を受けていると思う」


 厳しい訓練を受けた者なら、簡単に正体がバレるようなことはしないだろうとエグモントは考えているようだ。そうなると、三人を自由に動き回らせることができなくなった。


 三人は王都から派遣されてくるだろう部隊に引き渡すことになるだろう。その部隊は五日後にベネショフ領に到着する予定だ。


 デニスは王子の身の安全を守るために何ができるか考え、王子に二人の護衛を付け王子の部屋に二つの箱を置いた。


「グルード殿下、この部屋に入る時は、『ファーマー』という名前を名乗ります。例えば、『デニス・ファーマーです』という具合にです。それを確認してからドアを開けてください」


「分かった。これほど厳重なのは、トリザス派の襲撃者が生き残っていると考えているからか?」

「そうでございます」


 王子は大きな溜息を吐いた。

「ところで、そこの箱は何なのだ?」

 ドアの両脇に置いてある大きな箱に目を向けている王子に、デニスは微笑んだ。


「あれは万が一の時に、王子の身を守るものが入っています。開けないでください」

 グルード王子は納得していない顔をしたが、承知した。


 デニスが王子の部屋を去って数時間後、ドアがノックされた。

「アメリア・ファーマーです。食事を持って参りました」

 王子がドアを開けた。


 アメリアは料理を載せたトレイをテーブルの上に置いた。

「君は、デニスに似ているな」

「はい。デニスは私の兄です」


 アメリアとグルード王子は、同じ年頃である。

「ベネショフ領では、誰もが迷宮に挑戦すると聞いたが、本当なのか?」

 バイサル王国では変な噂が流れているようだ。


「いえ、それは間違いです。迷宮に挑戦する者は限られています。兵士たちが迷宮で訓練をしているので、勘違いしているのでしょう」


「なるほど、兵士たちか。それで君はどうなんだ?」

 アメリアは少し言い淀んだ。

「……私は兄に頼んで、迷宮に入れるように鍛えてもらいました」


「そうなのか。羨ましい」

「なぜです?」

「バイサル王国の王都ジラブルの近くには、迷宮が一つもないのだ。それで王族であっても迷宮に潜った経験のある者は少ない」


「それは残念ですね」

「そうだ。ここに居る間に、迷宮に挑戦させてもらえないか?」

 アメリアは命を狙われたのに気楽なものだと思った。だが、グルード王子にしてみれば、切実な問題だった。わざわざゼルマン王国へ行って、何の収穫もなかったと報告するのは、王族としての誇りが傷つくからだ。


「兄に相談してみます」

「よろしく頼む」

 アメリアはデニスのところへ行き、迷宮の件を相談した。


「面倒なことを。しかし、相手は王族だから無視もできない。だけど、今は襲撃者が生き残っている恐れがある。自重してもらうしかないな。王都へ行ってから、迷宮に挑戦することもできるのだから」


 その日の夜、皆が寝静まった頃。生き残った襲撃者の一人が動き始めた。見張りをしていた兵士を薬で眠らせ、誰にも知られずに部屋を抜け出した襲撃者は、王子が眠っている部屋に向かった。


 襲撃者は王子の部屋近くまで来て、二人の護衛兵が立っているのを見た。

「チッ、邪魔です」

 見張り兵から盗んだ剣をチラリと見た。


「ここは吹き矢を使うか」

 麻痺毒を仕込んだ針を飛ばす吹き矢を取り出し、護衛兵に向けて飛ばす。一人の首筋に刺さった瞬間、クタッと護衛兵が倒れた。


「おい、どうした?」

 もう一人が倒れた兵を助け起こそうとした。その時、首にチクリとした痛みを感じて、身体が動かなくなった。襲撃者が使う毒は、即効性が高い反面、麻痺するだけで致命的な毒ではない。即効性が高いという理由で選んだものだった。


 襲撃者はドアノブを回した。鍵が掛かっている。小さな道具を取り出し、鍵穴に差し込んで操作すると、意外に簡単にロックが外れた。


 ドアを静かに開けて中に入った襲撃者が、寝台まで近付き剣を振り上げた瞬間、背後で気配がした。振り返ったところに、棍棒が脇腹に叩き込まれる。


 肋骨が確実に折れた。痛みで倒れた身体に何者かが、棍棒を叩き付ける。その音でグルード王子が目を覚ました。


「何者だ?」

 王子が明かりを点けると、小さなスケルトン二体が、倒れている人物に棍棒を叩き付けている。王子が大声を上げた。


 その声で騒ぎに気付きデニスが、部屋に飛び込んだ。

「やめろ!」

 停止するボーンサーヴァント。デニスは王子が無事なのを確認して安心した。


「お怪我はありませんか?」

「大丈夫だ。それより、これはボーンサーヴァントなのか?」

「ええ、僕のボーンサーヴァントです。用心のために、置いていて助かりました」


 王子を殺そうとした者は、メイドのクラリスだった。彼女はトリザス派の一員であり、襲撃者の一人だったようだ。


「結構、可愛い子だったのに、何て物騒な世の中なんだ」

 後から駆けつけたイザークが、嘆くように零した。


 残りの二人に厳しい尋問が行われ、監視の兵が増やされた。

 元気になった王子は、ベネショフ領の町を見て回り、開発中の大斜面を見学して楽しい日々を過ごした。その後、王都より部隊が来て白鳥城へ行くことになる。


 デニスも説明のために王都へ向かう。


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【書籍化報告】

カクヨム連載中の『生活魔法使いの下剋上』が書籍販売中です

イラストはhimesuz様で、描き下ろし短編も付いています
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― 新着の感想 ―
[気になる点] 迷石ラジオをもってかえっても受信できないから 分解して中を確認するくらいしかできないのでは? 言霊を使って尋問しないのはなぜ? ボーンワードなしでなんで勝手にサーヴァントになったの? …
[良い点] >あれは万が一の時に、王子の身を守るものが入っています キーワードを言わずに入ってきた奴を襲え、かな? [気になる点] 暗殺者が毒薬を隠していたのは「女しか無い穴」だろうか? 諜報や拷問…
[一言] 眠り薬やら矢やらがどっから出てきたのか。 まさか身体検査や持ち物没収をしなかったの? 素人過ぎだろう 見張り兵3人、普通なら死んでたね。
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