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崖っぷち貴族の生き残り戦略  作者: 月汰元
第6章 紛争編
196/313

scene:195 王家との絆

 この戦いで、ベネショフ骨騎兵団にも多くの死傷者が出た。追撃戦での混乱に巻き込まれたのだ。それでも他の領主軍の死傷者の数に比べれば最少だった。


 王都に戻ったデニスは、家族に迎えられた。デニスたちを心配した家族が、王都まで来ていたのである。

「本当に無事だったのね。良かった」

 デニスは母親のエリーゼから抱きしめられた。アメリアとマーゴも抱きついてくる。


 エグモントが表情に影があるデニスの傍に寄り、肩に手を置いた。

「よくやってくれた。親として誇りに思うぞ」

「ですが、部下たちの何人かを死なせてしまいました」


 分かっているというように、エグモントが頷いた。

「それが戦争なのだ。部下たちの死に責任があるのは、ラング神聖国の連中だ。お前ではない」


 ゼルマン王国は戦勝国となった。だが、完全な勝利を手にしたわけではない。ラング神聖国軍を罠にかけるまでは順調だったのだが、敵の総指揮官を倒し追撃戦に移った頃から歯車が噛み合わなくなった。


 良いところを見せられなかった各貴族軍が、我先にラング神聖国軍を追撃した。そして、敵の殿軍と戦いになった。ところが、この殿軍は多くのボーンサーヴァントを含む精鋭部隊であり、手痛い反撃を受けたのだ。


 戦いにおいて、追撃戦は敵の被害を大きくするチャンスである。だが、各貴族軍が混乱したことで、追撃戦が不完全な形で終わった。


 ゼルマン王国に、二度と手を出そうと思わないような打撃を与えようと計画していた軍部は、追撃戦は失敗と判断した。ラング神聖国の脅威を、完全には払拭できなかったということだ。


 不安が残ったまま、盛大な凱旋パレードが行われた。そこで初めてベネショフ骨騎兵団の存在がおおやけになる。パレードでライノサーヴァントを目撃した王都民たちは大騒ぎした。


「こ、怖い。あれは何なの?」

「知らんのか。あれがベネショフ骨騎兵団だ。たった一五〇騎で、一万のラング神聖国軍へ突撃し蹴散らかしたそうだぞ」


「うわーっ、すげえ」

 父娘の話を聞いた少年たちが、大騒ぎしながらベネショフ骨騎兵団へ手を振る。


 デニスはライノサーヴァントに乗ってゆっくりと大通りを進んだ。大勢の見物人たちが手を振り、勝利を讃えてくれている。デニスは溜息を吐いた。ロルフたちの死が、心に引っかかっているのだ。


 パレードは終点である白鳥城へ到着し終了した。デニスはライノサーヴァントをボーンエッグに戻し城に入った。他の貴族たちも続々と城に入ってゆく。


 これから論功行賞が行われるのである。

 デニスは凱旋パレードの前に内務卿に呼ばれ、勝利の報酬として何が欲しいか質問されている。今回の論功行賞では、デニスが欲しいと言ったものが、国王より贈られるはずだ。


 バルナバス秘書官が今回の戦いで功績のあった貴族の名前を挙げる。最初に呼ばれたのは、ブリオネス家だった。敵を倒した数ならば紅旗領兵団なのだが、デニスが敵大将を倒した功績が評価されたようだ。


 エグモントとデニスは国王の前に進み出た。

「ブリオネス家のデニス、並びにベネショフ骨騎兵団の活躍を称賛し、褒美を与えるものとする。兵士たちには王家から報奨金、ブリオネス家にはクワイ湖の自由航行権を与える」


 クワイ湖とは、王都の東にある大きな湖である。湖の中央に島があり、そこには迷宮への入り口があった。その湖島迷宮から魔物が溢れ出し、島とその周辺が危険な状態になっていた。


 国王はクワイ湖を航行する船を許可制にした。島とその周辺には近付かないように徹底させるためである。

 現在、許可されている船は一二隻しかない。湖船貴族と呼ばれている者たちの船である。


 ブリオネス家への論功行賞が終わり、次はクリュフバルド侯爵家のランドルフの名前が挙がった。敵を倒した数ではウルダリウス公爵家の紅旗領兵団より少ない侯爵騎士団が選ばれたのは、公爵家のハーゲンが兵力の配置を変え、中小領地兵士に多大な損害が出たからだ。


 公爵とハーゲンもパレードの前に呼ばれ、国王より叱責されたらしい。だが、紅旗領兵団の活躍で敵を撃退できたのも事実なので、叱責だけで済んだ。

 賞罰をはっきりさせたことで、論功行賞で三番手となっても、公爵は文句を言わなかった。


 すべての論功行賞が終わり、エグモントとデニスが国王に呼ばれた。案内されたのは、王族が生活している奥の部屋である。そこには国王と内務卿、それにイザベル王妃が待っていた。


「デニスよ、余の次女テレーザをどう思う?」

 いきなり、そう質問されてデニスは困惑した。テレーザ王女については、あまり知らなかったからだ。


「はい、可愛い女性だと思います」

 そう答えると、国王が嬉しそうに笑う。国王はデニスとテレーザ王女の婚約について話し始めた。どうやら以前から王家で考えていたことらしい。


 本来はもう一年待って、ブリオネス家が子爵になってから婚約話を持ち出すつもりだったが、デニスの活躍が目覚ましいので、これなら他の貴族から文句も出ないだろうと判断したようだ。


 政略結婚、しかも相手は王女様だ。男爵家が断れるはずなどなかった。ただ貴族家の結婚は、ほぼ政略結婚であり、恋愛結婚などほとんどなかった。デニスだけが特別だというものではないのだ。


 デニスがエグモントの顔を見ると驚いていない。薄々予想していたようだ。来月に婚約を発表することが決まり、ラジオ放送でも発表するように指示された。


 デニスたちは王家のリビングへ案内された。そこではテレーザ王女とアメリアが楽しそうに話をしていた。

「アメリア、どうして?」

 デニスが驚いて声を上げる。


「デニス兄さん、今日はテレーザ王女に呼ばれたのです」

 凱旋パレードを見物していたアメリアに、テレーザ王女の使いが呼びに来たらしい。アメリアと王女は同じ歳であり、姉妹のように仲が良くなっている。


 国王がデニスとテレーザ王女の婚約について話すと、王女とアメリアが目を丸くした。

「父上、本当に兄さんと王女様が、婚約するんですか?」

 娘に尋ねられたエグモントは、肯定した。


 テレーザ王女は王妃に抱きつき、恥ずかしそうにしている。その様子から見ると、嫌がってはいないようだ。それが分かったデニスはホッとした。


 王族とブリオネス家の者でガヤガヤと雑談が始まった。

「ところで、デニスはクワイ湖の自由航行権を手に入れて、どうするつもりなのだ?」


 国王の質問にデニスは考えを纏めてから答えた。

「もちろん、船による輸送を行おうと考えております」

「だが、すでに一二隻の船が運行しておる」


 確かに湖船貴族たちが輸送船を出しているが、あまり盛んではない。独占している湖船貴族が、不当に輸送費を吊り上げているからだ。


 大量の穀物などを王都に運ぶためには仕方なく使っているが、ほとんどの商人たちは陸路で運んでいる。

「私は安い輸送費で、荷物を運ぶようにしようと思っています」


 国王が眉をひそめた。湖船貴族たちの反発が予想できたからだ。そのことを指摘すると、デニスが笑った。

「そのような阿漕あこぎな商売をしている連中に、遠慮する必要があるとは思えません」


 ちなみに、湖船貴族と呼んでいるが、実際は豪商たちである。その財力はかなりのもので、王都の役人などに賄賂を贈って既得権益を守っているようだ。しかし、今回だけは国王の命令なのでブリオネス家の参入を阻止できなかった。


 国王が満足そうに頷いた。国王自身も湖船貴族たちに良い印象を持っていなかった。デニスと湖船貴族が揉めるようなら、それを機会に湖船貴族を片付けようと考えているのかもしれない。


「デニス様は、英霊追悼の儀式に出席されるのですか?」

 テレーザ王女が質問した。


「はい、ベネショフ領の兵士も、今回の戦いで死んでおります。その追悼のために行われる儀式ですから」

 国が行った戦争で戦死した者たちは、戦場近くで火葬にされ骨だけになって遺族の下へ帰ってくる。英霊追悼の儀式は、その遺骨が家族や領主に渡される場でもある。


 ロルフたちが遺骨となって戻ってくるのだと思うと、鼻の奥がツンとするのをデニスは感じた。デニスの悲しげで辛そうな表情を見たテレーザ王女が、

「ごめんなさい」

 そう呟いた。


 それが聞こえたデニスは、無理に笑い謝る必要はないと言う。

 その様子を見ていた国王が、一つの提案をした。

「デニス、英霊追悼で剣舞でも舞ってみるか?」


 英霊を慰めるために、貴族たちが剣舞やスピーチなどをすることが慣例となっている。

「しかし、剣舞の練習などしたことはありません」

「上手い下手は関係ない。音楽に合わせて気持ちを込めて舞えば良いだけだ」


 国王はそう言うが、他の貴族たちも見るのだ。あまり酷い剣舞を披露することはできない。エグモントは国王の提案を聞いて考えた。


 国王はどうして、デニスに剣舞を勧めたのだろう。デニスの心に悲しみが渦巻いているのを感じて、気をまぎらわせるために勧めたのかもしれない。

 こうして、デニスは英霊追悼で剣舞を披露することになった。



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イラストはhimesuz様で、描き下ろし短編も付いています
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― 新着の感想 ―
[一言] 歌ったほうがよくない? ミュージカルやヅカみたいに踊りながら歌う?
[良い点] 言霊コトダマンとあわせて、またアイドル化が進んでまうな。
[一言] 王族との婚姻は案内人でも起こりえる イベントだったので期待してました。 貴族のしがらみはしんどいね。 次は湖畔迷宮を探索かな?。 楽しみです。
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