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崖っぷち貴族の生き残り戦略  作者: 月汰元
第6章 紛争編
194/313

scene:193 国境門の戦い

 クラベス森林を抜けてきたラング神聖国軍の別働隊を指揮するクリャベス将軍は、当初何が起きたのか分からなかった。騎兵のような部隊が整列しようとしている部隊に襲いかかったのだ。


 放出系の真名術で攻撃されているのは理解できた。だが、その真名術は奇妙なものだった。通常一つの目標しか攻撃しないはずなのに、複数の標的を攻撃している。


「何だ、あの真名術は?」

 クリャベス将軍が呟いた。驚いている間にも味方の兵士が次々に倒されていく。

「いかん、不意を突かれて混乱しておる。立て直さねば」


 その時になって、敵が騎乗しているものが尋常なものでないことに気づいた。

「あれは、小型の骨鬼牛ではないか。しかし、ここは迷宮ではないんだぞ」


 部下の兵士たちに反撃するように命令した。弓矢・槍などで反撃が開始されたが、小型骨鬼牛に乗っている騎兵たちは、その攻撃を撥ね返した。何か真名術を使っているらしい。


「クソッ、真名術で攻撃しろ」

 そう命令を出したが、敵はもの凄い勢いで通り過ぎてしまった。残ったのは、味方兵士の亡骸と負傷者の苦悶の声だけである。


「何という奴らだ。これだけの軍勢を突き崩して、走り抜けていきおった」

 走り抜けた敵騎兵は、クルリと回ってこちらに顔を向けると、またもや放出系真名術で攻撃を始めた。


 騎兵の攻撃で味方兵士が倒れていく。クリャベス将軍が全力で反撃しようと決めた時、伏兵が現れた。味方と同規模の敵である。


「我らは罠に嵌ったのか。私に課せられた目的だけは達成せねば」

 別働隊に課せられた目的は、国境門を守備するゼルマン王国に襲いかかり閉ざされている門を開放することである。今頃はラング神聖国軍の本隊が国境門を攻撃しているはずなのだ。


 クリャベス将軍は伏兵に反撃しながらも北へと進んだ。目的の国境門がある方角である。敵の貴族軍の攻撃で兵を削られながらも国境門を目指す。


「もう少しだ。もう少しで国境門に辿り着く」

 ラング神聖国軍の別働隊は、満身創痍となりながらも諦めなかった。クリャベス将軍も肩に矢を受け血を流しながら進んでいた。


 別働隊は国境門に辿り着いた。門のこちら側では、ゼルマン王国の兵士が門を守って戦っている。クリャベス将軍は勝利を確信した。


「行け! 門を開放するんだ!」

 生き残った兵士たちが、『教皇陛下のために!』と叫びながら突貫していく。フォルタン教皇を神の使いだと信じ崇めている兵士が、死を恐れずに走る。


 不思議なことに信心深くない兵士は混乱の中で死に、盲目的に神を信じる兵士たちが生き残ったようだ。このことにより別働隊は、死を恐れぬ兵士の集団となった。


 国境門を守っていた兵士は、背後から襲われたせいか、すぐに逃げ出した。別働隊の兵士は歓声を上げ、固く閉ざされていた門を開ける。


 門の外で待ち構えていたラング神聖国軍の本隊が、開かれた国境門から雪崩込んだ。その数二万、ラグマ街道を埋め尽くすような勢いでゼルマン王国へ走り込んでくる。


「やったぞ。ゼルマン王国は、フォルタン教皇陛下のものだ」

 クリャベス将軍が歓喜の叫びを上げた。

 ラング神聖国軍の兵士は、ラグマ街道に沿って進む。前方に壁が現れた時、兵士たちは混乱した。


「何だ、これは?」

 クリャベス将軍は、嫌な予感を覚え街道の両側に立ち並ぶ建物を調べさせた。


「将軍、建物のドアが開きません」

「しまった。これは罠だ」

 将軍が血が滲むほど唇を噛み締めた。


 街道を塞ぐ壁や建物の上に、無数の兵士が現れた。次の瞬間、様々な放出系真名術がラング神聖国軍を襲う。そして、無数の矢が降り注ぎ始めた。


 ゼルマン王国軍の作戦は、国境門の内側に敵を誘い込み殲滅するというものだったのだ。形としては二万ほどのラング神聖国軍が、三万のゼルマン王国軍に包囲され、弓矢と真名術で攻撃されるという形となった。


 次々に倒れる兵士たちを見て、クリャベス将軍は撤退を考えた。だが、後方からは続々とラング神聖国軍の兵士がゼルマン王国へ侵入している。ここで撤退命令を出せば、必ず混乱する。安易に撤退命令は出せない。


 将軍は突破口がないか調べさせた。そして、三箇所に突破口になるのではないかという場所を見つけた。その三箇所を重点的に攻めるように命じる。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 デニスはベネショフ骨騎兵団を率いて、国境門の近くに来ていた。その傍にいたゲープハルト将軍が彼に話しかけた。

「デニス殿、作戦は上手くいったようですな」


「ええ、後はラング神聖国軍を締め上げ、二度と我が国を攻めようとは思わないほどの血を流させるだけです」

「そうですな。貴族軍にも、もう一働きしてもらわなければ」


 そこにダリウス領の次期領主ハーゲンが近付いた。

「将軍、こんなところで話をしている暇があるのですか。敵軍が動き始めていますぞ」


「すでに手は打ってある。その補強策として、貴族軍が集まり次第、命令を出します」

 命令と聞いて、ハーゲンが顔をしかめた。命令という言葉が気に入らなかったのだろう。将軍も大変だ。


「ほう、その内容を教えてもらえるかな」

 公爵家は王族の血が流れている。将軍と言えども気を使わねばならないらしい。将軍が説明を始めた。それによると、ラング神聖国軍に対する包囲網には、三箇所に脆い部分があるという。


 その三箇所の中で、一番広い場所をダリウス領の紅旗領兵団とベネショフ骨騎兵団が援護に入り、二番目の場所にクリュフ領の侯爵騎士団、三番目に中小領地兵士を援護に入れるという。


「その配置には、承服できない」

「なぜですか。これは時間をかけて、検討した結果なのです」

 ハーゲンはベネショフ骨騎兵団を外し、中小領地兵士を代わりに入れてくれと言い出した。


「ベネショフ骨騎兵団との連携は取りづらい」

「ですが、紅旗領兵団の実力に見合う兵士となると、ベネショフ骨騎兵団しか……」

「ふん、中小領地兵士の面倒は我らがみる」


 ハーゲンが強引に配置を変えた。デニスとしても気の合わないダリウス領と組むよりは、ベネショフ領だけで戦った方がいいと判断したので、承諾した。


 デニスたちは、指定された場所へと向かう。その場所では、五〇〇人ほどの王国兵士がラング神聖国軍の攻撃を防いでいた。


 デニスは建物と建物の間にある空き地に築かれたバリケードを守る戦いに加わった。邪魔になるのでライノサーヴァントをボーンエッグに戻している。


「デニス様、ここを攻めているラング神聖国軍の兵士は死に物狂いとなっているようです」

 運が悪いようだ。ラング神聖国軍の中にも信仰心の厚い者と、そうでもない者がいる。そして、狂信者と呼ばれる者が、ここを攻めている敵に多いようだ。


 狂信者の狂気が周囲に伝染し、普通の兵士だった奴らも死に物狂いとなって攻めてくる。守っている王国兵士の死傷者がどんどん増えていた。


「隊長、我々と代わろう」

 デニスが交代を申し出た。隊長がホッとした表情を見せる。

「お願いします。敵は狂信者、気を付けてください」


 その時、敵から炎の塊が投じられた。敵の誰かが真名術を使ったのだ。王国兵士が炎の爆発に巻き込まれ、デニスの足下へ放り投げられた。


 デニスは厳しい顔で傷ついた兵士を抱き上げた。

「しっかりしろ。今、治療してやるぞ」

 『治癒』の真名術を使った。酷い火傷だったが、傷が治っていく。ただ完全に治癒できるわけではない。治癒は人間の細胞が元から持っている能力を使うので、その機能が低下すると治癒の効果がでないのだ。


 これは医師で研究者の三河教授が突き止めた原理だ。この世界では『治癒』の真名術は、クールタイムが必要だと知られているが、その原理までは突き止めていなかった。


「ありがとうございます」

 火傷を負った兵士が一命を取り留めたので、隊長から礼を言われた。


 デニスは王国兵士とベネショフ骨騎兵団を交代させた。

「いいか、散弾を使って敵を一掃する」

 デニスは部下たちに命じた。十数人の騎兵が爆裂散弾を一斉に放ち、後ろに控えている者たちと交代する。


 交代を繰り返し、襲いかかるラング神聖国軍兵士を撃退する。その時、敵の将軍らしい人物とデニスの視線が交差した。


 その敵将軍は何人かの兵士を集め、デニスの方を指差して命令している。デニスは嫌な予感がした。

「全員、『装甲』の真名を使え」

 ほとんどはすでに装甲膜を展開していたのだが、デニスの命令で徹底された。


 敵の真名能力者が、一斉にデニスを目掛けて放出系真名術を放った。


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【書籍化報告】

カクヨム連載中の『生活魔法使いの下剋上』が書籍販売中です

イラストはhimesuz様で、描き下ろし短編も付いています
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― 新着の感想 ―
[一言] ダリウス領のハゲは馬鹿なのか? 現場で勝手に配置変えるなよ、
[一言] 戦術の手順を割り込んで変えさせ、その戦いで惨敗したら、その者に対する措置は、誰もが当然と思われる程厳しくなるのでしょうね。鬱陶しい脇役は、早くいなくなって欲しいです。
[一言] 上層部がゴミだと負けるんだよねぇ 神聖国と組んでるんじゃないのか。
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