scene:189 ボーンサーヴァントの活用法
デニスが迷宮でキングスケルトンを倒した後、雅也は冬彦の探偵事務所を訪れた。
「先輩、今日はどうしたんですか?」
「仁木さんに手伝ってもらいたいことがあってきた。それに久しぶりに冬彦と飲みに行こうかと思ったんだ」
仁木が雅也の方を視線を向けた。
「手伝ってもらいたいことって、何ですか?」
「スケルトンを倒して欲しい」
「なんだってー、どこかにスケルトンが現れたのか?」
冬彦が驚いて声を上げた。。
「違う。俺がスケルトンを召喚できるようになったんだ」
冬彦が理解できないという顔をしている。
「それはつまり、先輩がスケルトンを召喚して、仁木さんが倒すということ。何の意味があるんです?」
「スケルトンが残すボーンエッグを手に入れたいんだよ」
冬彦が納得したというように頷いた。
「ボーンサーヴァントが欲しいんですね。でも、たくさん必要なんですか?」
「軍団でも作ろうかと思っているんだ」
雅也が冗談を言うと、仁木と冬彦が苦笑した。
「冗談はともかく、俺も一つ欲しいな」
仁木が言い出した。冬彦も欲しそうな顔をしている。だが、冬彦は真名能力者ではないのでボーンサーヴァントのマスターになることはできない。
『召喚(スライム)』を使えば、冬彦を真名能力者にすることもできる。だが、大丈夫だろうか? 最近の冬彦はしっかりしてきているようだ。探偵事務所も順調で、社員も増やしている。
冬彦に秘密のいくつかを伝えているが、約束通り秘密を守っている。精神的にも成長したようだ。それに探偵は危険な状況に追い込まれることもあるだろう。用心棒代わりにボーンエッグを持つのは悪くない。
「スケルトンを倒すのは構わないが、場所はどうするんです?」
仁木はスケルトンを見られることを心配しているようだ。
「マナテクノの倉庫を借りた」
翌日、仁木と冬彦、小雪と斎藤、それに宮坂師範が倉庫に集まった。大量のスケルトンを倒さねばならないので、リーゼルのバディである斎藤にも参加を頼んだ時、宮坂師範も聞いていて参加したいと希望されたのだ。
仁木たちの手には、鉄パイプや木刀、金鎚などが握られている。
「それじゃあ、スケルトンをどんどん召喚するので、倒してください」
そう告げた雅也は、スケルトンの召喚を始めた。
スケルトンを初めて見た小雪と宮坂師範が驚いたように目を見開いている。
最初に仁木が動いた。鉄パイプを構えると飛び込んで、スケルトンの頭蓋骨に叩き込んだ。頭蓋骨がガシャッと割れ、スケルトンの姿が消える。ボーンエッグはなしだった。
それからスケルトンが次々に召喚され、雅也を除く全員が戦い始めた。最初は慎重になっていた宮坂師範も一体目を倒すと積極的に戦うようになる。
上段に構えられた木刀が頭蓋骨を割る。一つ目のボーンエッグが倉庫の床に転がった。宮坂師範がボーンエッグを拾い上げた。
「こいつを集めるのか?」
「そうです。どんどんスケルトンを倒してください」
小雪も宮坂師範から習った武術を活かしてスケルトンを倒している。意外にも冬彦もそうだった。以前に宮坂師範から習っていたと言っていたが、嘘ではなかったようだ。
何体召喚したか分からなくなった頃、ボーンエッグが二〇個になった。雅也はスケルトンを召喚するのをやめた。最後のスケルトンが冬彦の手で倒された時、ボーンエッグが残った。
「おおっ。また残った」
「終了です。ボーンエッグを回収します」
雅也はそれぞれに一個ずつ残して、ボーンエッグを回収した。
「先輩、僕がボーンエッグをもらっても……」
「分かっている。これから真名能力者でない者には、真名能力者になってもらう」
雅也はスライムも召喚できることを話し、スライムを倒してもらって『魔勁素』の真名を取得させた。
その後、ボーンサーヴァントを誕生させる要領を説明し、各自一体ずつのボーンサーヴァントを手に入れた。
「感動だ。僕もこれで真名能力者か」
冬彦が感動していた。
「言っておくが、このことは秘密だぞ。命が危険な時にだけ、ボーンサーヴァントを使えよ」
「大丈夫、約束します」
雅也は一六個のボーンエッグを手に入れた。雅也がボーンエッグを手に入れようと考えたのは、宇宙開発事業にボーンサーヴァントを利用しようと計画したからだ。
最初はロボットを利用しようかと考えていたのだが、無重力の宇宙ですぐに使えそうなロボットが開発されていないのが分かった。
そこで思いついたのがボーンサーヴァントである。真空中でもボーンサーヴァントなら大丈夫だと考え、一体だけ保有しているボーンサーヴァントを使って実験してみた。
思っていた通り、真空中でもボーンサーヴァントは大丈夫だった。だが、凍りつかないように保温する必要があると分かり、温度調節機能だけが付いた宇宙服を求めた。
雅也は日本で宇宙服の開発をしている宇宙航空研究開発機構のチームに相談し、ボーンサーヴァント用の宇宙服の開発を依頼した。
もちろん、高額の開発資金をマナテクノが援助するという前提だ。
小雪と一緒にマナテクノの本社に戻った。アメリカから報告書が届いていた。
「救難翔空艇三〇〇機の製造開始。アメリカは武装翔空艇に改造する予定か」
アメリカは救難翔空艇を軍事利用することを隠そうともしない。大国の自信というものだろうか。雅也は報告書に目を通し、マナテクノがアメリカの事業において黒字化することを確信する。
小雪が社外秘の書類を持って部屋に入ってきた。
「常務、星菱電気の重盛社長がいらしています。社長室へお願いします」
今年の人事で、肩書が変わった雅也は常務と呼ばれるようになっていた。雅也は書類を受け取って仕舞う。
「神原社長と話しているんだろ。俺も必要なの?」
「重盛社長は、常務に話があるようです」
「何だろう」
雅也は社長室へ向かった。社長室のドアをノックし中に入る。神原社長と六〇歳くらいの紳士が座って話していた。
「重盛社長、『共振データデバイス』の件では、お世話になりました」
「いや、こちらこそ『マナテクネット』の事業に、参画させてもらい感謝しています」
マナテクネットのキーデバイスである『共振データデバイス』を製作するのはマナテクノ、その他の部分は星菱電気が製作していた。
自衛隊に販売したのを契機として、政府関係機関に販売することになった。その販売を担当しているのは星菱電気なのだが、名前がマナテクネットとなっているのでマナテクノへ取引の話が来ることがある。
この販売を政府関係機関に限定したのは、『共振データデバイス』を製作できるのは、雅也だけだからだ。だが、この問題点を解決する方法がある。
『魔源素』『頑強』『結晶化』『抽象化』『共振』の真名の力を注ぎ込んだボーンサーヴァントを誕生させることだ。何体かのボーンサーヴァントが、特別な部屋で『共振データデバイス』を製作している光景を思い浮かべ、雅也は非現実的な気分を味わった。
「ところで、今日は星菱電気総合研究所で事件が起こり、その報告に来たのです」
神原社長が何だろうという顔をする。
「研究所の共振データデバイス研究室に、無断で入ろうとした者が逮捕されました」
「産業スパイですか。どこの国です?」
「某大国です。詳しいことは言えんのです」
警察か検察かは分からないが、口止めされているらしい。
神原社長が深刻な顔で、疑問を口にした。
「しかし、あの研究所の研究員は、アメリカ人と日本人だけだったはず」
「T大学の研究室と共同研究していた案件がありまして、問題の人物も研究所に出入りできるようにしていたのです」
スパイはT大学の留学生だったらしい。T大学の中でもずば抜けて優秀な学生で、共同研究をしていた教授は、研究を進められるのは彼しかいないと期待していたようだ。
「『共振データデバイス』に関しては、被害がなかったことを知らせておこうと思って来たのです。マスコミが騒ぐかもしれませんが……」
重盛社長が苦い顔をして謝った。
「『共振データデバイス』以外に被害があったのですか?」
雅也は気になったことを確かめた。
「実は、有機EL製造技術の一部が盗まれたようです」
大学の研究室と共同研究を行うということは、日本の企業では普通に行われていることだ。問題は、その大学の研究室に、大勢の留学生が所属しており、中には外国政府の命令で動いている者もいるということだ。
雅也は民間企業や大学に研究依頼をしてきたが、それが非常に危ういことだったのを理解した。
「重盛社長、『共振データデバイス』の研究班をマナテクノにもらえませんか?」
「えっ、どういうことです?」
「世界最高のセキュリティを施した研究所を建設しようと思います」




