scene:186 キングスケルトン
デニスたちは骨鬼牛を中心に狩り、全部で四個のボーンエッグを手に入れた。三個が骨鬼牛のもので、一個がスケルトンからである。
「デニス様、あれは階段じゃないですか」
「一二階層への入り口か。確かめよう」
廃墟の一角に大きな穴が開いていた。フォルカは階段と言ったが、階段ではなく斜め下へ向かって伸びているトンネルだ。
デニスたちは用心しながら一二階層へ向かう。目的の階層に到着したデニスは、周りの様子をチェック。その階層も上と同じ廃墟エリアだった。
正面には廃墟の町並みがある。大きな建物は、左手の大きな教会らしい建物と右手の商業施設、正面の円形闘技場のような建物だけのようだ。
「キングスケルトンは、あの円形闘技場にいるのでしょうか?」
「いや、円形闘技場・教会・商業施設のどれかにいるらしい」
「決まっていないのですか?」
フォルカの質問にデニスは頷いた。
「探索者の中には、その三つの場所に正妻と愛人がいて、順番に回っているんじゃないか、と噂している者もいるらしい」
「えっ、でも、スケルトンでしょ」
「まあ、探索者の冗談だろうけど、キングスケルトンの居場所が三つのどれかというのは、本当らしい」
「では、一番近い教会から探しますか」
デニスたちは教会へ向かった。教会は石造りの二階建てで丈夫なものだったが、壁の一部と屋根が崩れ落ちている。
「扉は壊れてますね」
ミヒャエルが壊れた入り口から中を覗き込んだ。
「入口付近に魔物の気配なし」
デニスは中に入って、内部を確認した。椅子などの残骸がある。他は祭壇くらいしかなかった。床に燭台が落ちている。古いものだが、価値はなさそうだ。
祭壇の奥に石造りの台を発見した。その台には丸い窪みがあり、水で満たされている。噂では聖水だということだ。
「奥に行ってみましょう」
フォルカが先頭に立って、奥へと進む。階段を発見、そこを上がる。二階にはいくつかの部屋があり、その奥の部屋に大きなスケルトンが待ち構えていた。
「これがキングスケルトン?」
「いや、スケルトンの王は、王冠を頭蓋骨に載せ、手に大剣を持っているらしい」
この大きなスケルトンは、棒状の武器であるスタッフを持っている。体長二メートルほどで、大きな宝石を付けたネックレスを首につけていた。
「クイーンスケルトン? そんな上品そうな雰囲気じゃないな」
その大型スケルトンは、手に持つスタッフで壁をバンバン叩いている。怒りを表しているのだろう。
その怒りの原因は何だろう。まあ、魔物は四六時中怒っているものもいるので、原因はないのかもしれない。
大型スケルトンがフォルカに襲いかかった。スタッフの攻撃を受け流したフォルカは、長巻で薙ぎ払った。
蒼鋼製の刃は、大型スケルトンの肋骨を一本斬り飛ばす。だが、何のダメージも負わなかったように、反撃するスケルトン。
「援護します」
ミヒャエルが参戦した。二人は協力して大型スケルトンを壁際に追い詰め、フォルカが頭蓋骨をかち割ってトドメを刺した。
大型スケルトンが消えると、通常スケルトンのものより一回り大きなボーンエッグが床に落ちた。大きいと言っても骨鬼牛のものよりは小さいので、それから生まれるボーンサーヴァントも大した違いはないだろう。
ボーンエッグには多くの種類がある。デニスたちが入手したことがあるのは、スケルトン・アーマードスケルトン・大型スケルトン・黄金スケルトン・骨鬼牛などである。ちなみに、この順番で大きくなる。
この中でボーンサーヴァントにしたことがないのは、大型スケルトンと黄金スケルトンである。
黄金スケルトンのボーンエッグをボーンサーヴァントにしなかったのは、黄金色の鎧兜を身に着けたボーンサーヴァントが生まれたら、どんな使い方をすればいいだろうと迷っているうちに時間だけがすぎたのだ。
フォルカは『忍耐力』という真名を手に入れたようだ。
「この教会には、キングスケルトンはいないようだ。次は商業施設へ行こう」
デニスが指示を出した。
商業施設は死神ワイトの巣だった。
「黄煌剣が活躍しそうだな」
「そうですね。黄煌剣を持たない探索者はどうしているんでしょう?」
「教会で入手した聖水を使うそうだ。あれには死神ワイトに打撃を与える効果があるらしい」
「えっ、早く言ってくれれば、水筒に入れたのに」
ミヒャエルが残念そうに声を上げた。
「迷宮の外では、何の役にも立たないものだぞ」
その聖水はアンデッドだけに効果があるというものだ。
商業施設は、いくつかの商店が一つの建物に入っているという形式のもので、ショッピングセンターのようなものだったらしい。
死神ワイトが取り付いた死体と遭遇した。雅也たちの世界では、ゾンビと呼ばれる存在に似ている。ただゾンビと違うのは、その死体の首を落としても、死神ワイトを殺せる保証はないということだ。
ミヒャエルとフォルカが、黄煌剣で斬りつけ仕留めた。死体ごと死神ワイトを切り裂いたようだ。偶にふよふよと漂っている死神ワイトとも遭遇する。そういう奴は、黄煌剣の一撃で消えた。
この建物にもキングスケルトンはいなかった。遭遇したのは大型スケルトンだけ。そいつはミヒャエルが仕留め、ボーンエッグを手に入れた。大型スケルトンはボーンエッグを残す確率が高いようだ。
「この調子だと、キングスケルトンも大したことがないんじゃないですか」
ミヒャエルが言うと、デニスが顔をしかめた。
「調子に乗ると、大怪我をすることになるぞ。油断は禁物だ」
「すみません」
ミヒャエルは素直に謝った。
「結局、円形闘技場か」
デニスが愚痴った。
「三人とも、今日は運がないということかな」
「その代わり、ボーンエッグを手に入れたじゃないですか」
デニスたちは最初に見た大通りに戻り、円形闘技場へと進んだ。
闘技場に入ったデニスたちは、通路を通って血生臭い戦いが行われたと思われるフィールドへ出た。その中央には、体長三メートルのキングスケルトンが立っていた。
キングスケルトンは、王冠の他にも身につけているものがあった。黒いチュニックと七頭竜の刺繍があるマントである。
「キングスケルトンは、僕が仕留める。手を出さないでくれ」
「大丈夫なんですか?」
フォルカが心配そうな顔をしている。
「舐めるな。こんな奴には負けん」
大口を叩いたが、デニスは油断しているわけではなかった。いくつかの真名を解放し、慎重に宝剣緋爪を抜いて前に出た。
キングスケルトンの手には、情報通りの大剣が握られている。いきなりマントを翻したキングスケルトンがデニスに襲いかかった。
緋爪を上段に構えたデニスは、振り下ろされた大剣を上段から斜めに振り下ろした緋爪で弾いた。
「凄え」
ミヒャエルが感心して声を上げる。
重い大剣を軽い緋爪で弾くのは難しい。剣の重さだけでなく自身の体重も剣に乗せ、大剣の倍以上の高速で振り抜かなければ、軽い剣の方が弾かれてしまうからだ。
軽い緋爪で大剣と打ち合うデニスの剣技は卓越していた。だが、普通なら打ち合う必要はないのだ。大剣を躱し、反撃するのがベストな戦い方であるはず。
それができなかったのは、キングスケルトンの剣技も尋常なものではなかったからだ。大剣を振り下ろすタイミングや狙いが見事だった。
デニスが苦戦していると感じたミヒャエルが、援護しようと前に出ようとした。それに気付いたキングスケルトンの眼窩の奥で、何かが光る。次の瞬間、地面から二体の大型スケルトンが現れて、ミヒャエルとフォルカに襲いかかった。
「うわっ、こいつらどこから……」
慌てながらも、二人は大型スケルトンと戦い始めた。
躱せないタイミングで襲ってくる大剣を受け流したデニスは、一歩踏み込んで腰骨を薙ぎ払う。緋爪の刃が骨盤を切り取った。
キングスケルトンは、口をカチカチ鳴らして大型スケルトンを召喚した。だが、デニスが跳躍し一撃で大型スケルトンの頭蓋骨を断ち斬る。
パワーと戦いの駆け引きはキングスケルトンが上で、スピードと技の数はデニスが上だった。スピードでキングスケルトンを追い詰めても、最後にスルリと躱す上手さを王様は持っていた。
デニスは苦戦しながらも、楽しくなっていた。最近、今まで通り練習していても剣技が伸びなくなっていた。何かを変えなければ、と思っていたのだ。しかし、何を変えればいいのか分からず悩んでいたのである。
「なるほど、こういう剣もあるんだな。僕に足りなかったものかもしれない」
デニスは戦いながら剣技を盗み取ろうとしていた。キングスケルトンの動きを観察し、自分からも攻める。相手がどうやって防ぐのかを知るためである。
デニスはフォルカたちが苦戦しているのを、目の端で捉えた。
「決着を付けねばならないようだ」
キングスケルトンとの距離が離れた時、デニスは爆砕球を放った。予想通り、敵は余裕で躱して迫ってくる。デニスは初めて『加速』の真名を使った。
大剣の斬撃を超高速で斜め前に出て躱し、振り向きざま背骨を薙ぎ払う。背骨が切断され、上半身と下半身に分かれたキングスケルトンは一つになろうと地面で藻掻く。
デニスは上半身の方へ近付き、頭蓋骨に緋爪を振り下ろした。




