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崖っぷち貴族の生き残り戦略  作者: 月汰元
第5章 群雄編
169/313

scene:168 ラング神聖国のボーンエッグ

 マルコヴィチ国王が何かを思い出したような顔をする。そして、護衛兵に命じて白く小さな卵のようなものを持ってこさせた。

「これはラング神聖国の者から贈られたものだが、何か知っておるか?」


 明らかにボーンエッグだった。外務卿がデニスの顔をチラリと見てから答える。

「ボーンエッグだと思いますが、調べてみないと確かなことは断言できません」


 国王がボーンエッグを外務卿に渡すように命じた。護衛兵の一人がボーンエッグを外務卿に渡す。外務卿は困ったような顔をしてから、それをデニスへ手渡した。


「確認してくれ」

「分かりました」

 デニスは卵を調べ、その大きさからスケルトンが残した未使用のボーンエッグだと見当をつけた。


「やはり、ボーンエッグだと思われます」

 デニスが代表して答えると、マルコヴィチ国王がデニスへ視線を向けた。


「そのボーンエッグとは、どういうものなのだ?」

 意外な言葉を聞いて、デニスは困惑した。

「ラング神聖国の者たちから、説明はなかったのでしょうか?」


 質問に質問で返してしまったデニスを、外務卿がジロリと睨んだ。デニスは心の中で後悔しながら、国王の顔色を窺った。国王は気にしていないようだ。


「ない。贈り物の一つとして、宝石箱のような箱に入れられておった」

「ボーンエッグは、アンデッド系の魔物であるスケルトンを倒すと、残すことがあるドロップアイテムの一種でございます」


「ドロップアイテム? 武器を強化する効果でもあるのか?」

「そうではありません。ボーンエッグからはボーンサーヴァントが生まれるのです」

「ボーンサーヴァント?」


 ラング神聖国は本当に何も説明しなかったようだ。なぜ説明もしなかったのだろう? バイサル王国がボーンサーヴァントに関する情報を持っているか、探ろうとしたのだろうか? デニスは頭の中で推理したが、答えは出なかった。


「陛下、私の荷物の中に自分が使用しているボーンエッグが入っておりますので、持ってきてもらってもよろしいでしょうか?」

 城に入る時、謁見に不要な荷物は兵士に預けたのだ。


「いいだろう。持ってこい」

 護衛兵の一人が謁見の間を出て、すぐに戻ってきた。どれがデニスの荷物か分からず、外務卿などの荷物も一緒に持ってきたようだ。


 デニスは自分のウエストポーチからボーンエッグを取り出した。

「ボーンエッグには、いくつか種類がございます。私が持つものは一番数の多いものです」


 デニスはボーンサーヴァントを披露するので、場所を空けてくれるように頼んだ。高位貴族たちが並んでいた場所を少し空けてもらい、ボーンエッグを投げ上げた。


「スケルボーン」

 デニスのボーンワードを合図に、ボーンエッグがボーンサーヴァントへと変化する。


 現れたボーンサーヴァントを見て、護衛兵たちが剣の柄に手を置いた。

「心配はございません。これは私が使役するボーンサーヴァントでございます」


 バイサル王国の者たちが、突き刺すような視線をボーンサーヴァントに向けていた。

「挨拶をしなさい」


 デニスの言葉で、ボーンサーヴァントが優雅にお辞儀をする。

「ほう、面白い。これがボーンサーヴァントというものなのか? しかし、なぜラング神聖国は説明をしなかったのだ?」


「私には分かりませんが、ラング神聖国の国内では一般的なものだったので、説明は不要だと思ったのかもしれません」


 そんなことは絶対にないとデニス自身は思っていたが、国王の質問に答えた。それを聞いたエゴール王子が不機嫌な顔をする。


「ボーンサーヴァントは、貴国でも一般的なものなのか?」

「いえ、最近になって使い始めたものでございます。ラング神聖国は昔から召使い代わりに使っていたと、聞いております」


 エゴール王子が身を乗り出した。

「召使い以外にも使えるものなのか?」

「他にも使えると思います。ただ、我が国では使い始めて半年ほどです。まだまだ研究が必要だと考えております」


 デニスの答えを聞いて、エゴール王子が考える表情を見せた。国王は何度か頷きながら、質問をした。

「それで、ボーンエッグからボーンサーヴァントへ変化させるには、どうすれば良いのだ?」


「ラング神聖国から伝え聞いた話によりますと、『魔勁素』の真名の力をボーンエッグに注ぎ込み、合図となる言葉を決めれば良いということです」


 当然ながら、『頑強』や『剛力』の真名の力を一緒に注ぎ込むめば、より使えるボーンサーヴァントになるという情報は教えなかった。そこは駆け引きである。


 デニスはリターンワードを唱え、ボーンサーヴァントをボーンエッグに戻した。

「そのボーンサーヴァントは、誰にでも使えるものなのか?」

 エゴール王子からの質問だった。デニスは否定し、『魔勁素』の真名の力を注いだ者しか命令者になれないと伝えた。


「陛下、試してみてもよろしいでしょうか?」

 エゴール王子が国王の許可を得て、ボーンエッグに真名の力を注ぎボーンサーヴァントを誕生させた。


 この件で、デニスたちはバイサル王国の王家、及び貴族たちの信用を得て、両国の貿易拡大は好意的に受け止められた。


 ダメ押しとばかりに、外務卿が贈り物をすると言い出した。ラング神聖国が贈り物をしたと聞いて、ゼルマン王国から何もなしというのは、まずいと考えたようだ。


「デニス殿のベネショフ領では、発光迷石照明を製作しています。それを我が王家からの贈り物としたいと思っております。ただ照明は部屋に合ったものを贈らなければなりませんので、今回は設置したい三部屋を選んで頂き、その部屋に合った照明を次回の訪問の時にお渡しする予定です」


 エゴール王子が眉間にシワを寄せた。

「発光迷石は、人が身に付けていなければ光らなかったはずだが」

「ベネショフ領の発光迷石照明は特別なものでして、命じるだけで良いのです」


 ヨシフ侯爵が、その性能を証言してくれた。

 国王が納得し、国王の執務室とエゴール王子の部屋、大会議室を選んだ。


 謁見が終わり、デニスたちはヨシフ侯爵の屋敷に戻った。

「デニス殿、いきなり発光迷石照明の件を言い出したので、驚いただろう」

 外務卿に声をかけられた。


「分かっています。ラング神聖国が王家に贈り物をしたと聞いて、何か贈らないわけにはいかなかったのでしょう」

「すまん、照明の代金は必ず支払うので、製作を頼む」

 デニスは承諾した。


 その後、デニスはバイサル王国の迷宮について調べた。結果、この国の迷宮は数が少ないことが判明した。全国で三つしかないのだ。


 しかも、アンデッド系の魔物が出る迷宮は存在しないらしい。

「ラング神聖国の連中は、この国の迷宮を調査してから、贈り物にボーンエッグを選んだな」

 スケルトンからボーンエッグを手に入れられなければ、ボーンサーヴァントを戦力化することはできない。単なる珍しい贈り物として扱うしかないのだ。


 エゴール王子が火薬を開発したのも、迷宮が少ないことが関連しているのかもしれない。周辺諸国が真名能力者を大量に育て始めた場合を想定し、何らかの対抗手段が必要だと考えたのだろう。


 バイサル王国の国力は確かなものだ。農地は肥沃で生産性は高い。おかげで貴族の収入は多く、豊かな生活を送っていた。ただバイサル王国の領土を狙う周辺諸国は多いようだ。


 ヌオラ共和国も、その一つである。最近になって国境線付近の土地で、何度も小競り合いを起こしているらしい。


 この国の辺境を治める貴族と中央地帯を治める貴族では、格差ができているようだ。辺境貴族は王家の支援を増やすように訴えていると聞いた。


「外から見れば、問題なさそうな国なんだが、内側には多くの問題を抱えているんだな」

 クリュフバルド侯爵とデニスは、布製品と綿糸の市場を調査した。デニスたちが考えていた以上に、布や糸に対する需要が多いようだ。


 特に布に対する需要は高く、綿織物の相場が高くなっている。

「この国では、綿糸より綿織物を輸出した方が良いかもしれませんね」

「ベネショフ領も綿織物の大量生産を始めるのかね」


 そう言ったクリュフバルド侯爵の視線が鋭くなっている。

「クリュフ領は高級織物が多いようですから、ベネショフ領は安物の綿織物を産業の一つに加えるのは、どうかと考えたのです」


「ふむ、ムウロン領のような安い織物を産業に育てようというのか。ラオムウロン伯爵が良い顔をせんのではないかな」


「我が領の生産品は輸出専用とすれば、問題ないのでは?」

「面白いことを考える。それなら問題ないだろう。だが、ムウロン領と全く同じような製品を産物とするのは、伯爵が嫌がるだろう」


 デニスが頷いた。

「そこは考えます」



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【書籍化報告】

カクヨム連載中の『生活魔法使いの下剋上』が書籍販売中です

イラストはhimesuz様で、描き下ろし短編も付いています
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― 新着の感想 ―
[良い点] 国内の貴族間では新参者は敵を作らないように立ち回らなければいけないから大変ですね。 そして周辺諸国が不穏なので、せめてヌオラ共和国とは仲良くしておきたいですね。
[一言] 火薬が戦略上真名術よりも優れているから開発しているって言うよりも 国内のダンジョンの数が少なくて真名術に頼り難いってハンデの結果か 火薬を安定的に生産してその上で武器も量産ってぶっちゃけハー…
[一言] 良くも悪くもバイサル王国のボーンサーヴァント技術は銃のせいで停滞するだろうね召使いなら他の真名を入れる必要が無いし銃は使えるしで成果が出ているから研究の必要が無いしボーンサーヴァントを輸入す…
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