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崖っぷち貴族の生き残り戦略  作者: 月汰元
第5章 群雄編
168/313

scene:167 エゴール王子

 バイサル王国の王都ジラブルまでは、馬車で半日以上が必要だった。

 到着した頃には日が暮れ始めており、ヨシフ侯爵は馬車を屋敷へ急がせた。屋敷に入ったデニスたちは、豪華な食事で歓待された。


「バイサル王国の料理はどうかね?」

 ヨシフ侯爵が尋ねた。バイサル王国の料理は、ソーセージや肉を使った料理が多いようだ。香辛料が大量に使われており、大変美味しいものだった。ただデニスの舌にはしつこいと感じられた。


「バイサル王国の料理は初めて食べましたが、美味しいものですな」

 外務卿が代表して答えた。

 最後にデザートとして、プリンが出てきた。


 デニスは思わず尋ねた。

「このデザートは?」

「最近流行り始めたプリンというデザートです」


 カラメルソースもかけられており、雅也の世界にあるプリンと同じものだった。デニスはスプーンで掬って口に入れる。独特の食感と甘い味、カラメルソースのちょっとした苦味を感じた。旨い。


「美味しいです。バイサル王国は砂糖が豊富なんですか?」

「最近になって、我が国の最南端であるルシュカ半島で栽培されるようになり、出回るようになったのだ」


 砂糖が取れる作物は、砂糖人参と呼ばれているものらしい。形や色はニンジンと似ているが、味は果物のように甘く瑞々しいという。

 デニスは貿易品として砂糖も加えようと考えた。


「ところで、ゼルマン王国の貴族であられる方々が来られたのは、特別な理由があるのですか?」

「我々は、ゼルマン王国とバイサル王国の貿易を拡大しようと考えております」

 クリュフバルド侯爵が貿易拡大の話をした。


「綿織物に、綿糸ですか。確かに我が国では、布製品や糸の需要が高まっているようですが、我が国民の目は厳しいですぞ」

 ヨシフ侯爵は、バイサル王国民の目が肥えていると言いたいらしい。


 クリュフバルド侯爵とデニスはそれぞれの商品見本を取り出して、ヨシフ侯爵に見せた。辺りは暗くなっており、ヨシフ侯爵は燭台のロウソクの火に近付けて、品質を確かめた。


「デニス殿、照明は持ってこられていないのですか?」

 クリュフバルド侯爵が、商品見本に火が燃え移りそうなのを心配してデニスに尋ねた。

「これは失礼、気づきませんでした」


 デニスは荷物から、カンテラのような発光迷石照明を取り出した。テーブルの上に置いて明かりを灯す。

 眩しいほど光が部屋中に溢れた。


 ヨシフ侯爵が目を細めて、発光迷石照明の光を見つめる。

「これも貿易商品なのですかな?」

「そういうわけではないのですが、これもベネショフ領の特産品です」


「ふむ、発光迷石を贅沢に使った豪華なものだね。それに魔勁素を供給していないのに光っている。どういう原理か、分からんな」


「その原理は、我がブリオネス家の秘密になっております」

「そうだろうね。注文したら引き受けてくれるだろうか?」

「ゼルマン王国でも何ヶ月も待ってもらうほど注文が来ているのです。ですので、少量しか注文には応えられません」


 注文に応えられないのは、デニスが忙しくて発光迷石を作製する時間がないのが原因である。職人の仕事より、次期領主としての仕事を優先しているのだから仕方ない。


 明るい光の下で綿織物と糸の品質を確かめたヨシフ侯爵は何度も頷いた。

「いい商品です」

 品質に関しては満足したようだ。


「そういえば、マルコヴィチ陛下と謁見する予定はあるのですか?」

 オスヴィン外務卿が首を振った。

「今回は正式な訪問ではなく単なる視察ですので、マルコヴィチ陛下には御挨拶せずに帰ろうかと考えています」


「それはいかん。ゼルマン王国の外務卿や侯爵がいらしたのです。陛下も挨拶をしたいと思うはずです」

 何気なくデニスのことは忘れられていたが、男爵家の次期領主でしかないので仕方ないだろう。


 ヨシフ侯爵が話を進め、デニスたちはマルコヴィチ国王に謁見できることになった。但し、すぐにというわけにはいかず、三日ほど待つことになる。


 デニスたちは、ヨシフ侯爵の屋敷に宿泊することになった。但し、デニスや侯爵の部下たちまで、世話になることはできない。部下たちは、宿屋に宿泊するように命じた。


 デニスは王都ジラブルの見物をしながら、いろいろ調査した。市場でどんなものが売られているかを見て回り、砂糖が割と安い値段で売られているのが分かった。


「安いと言っても、一袋に大銀貨が必要だからな」

 デニスは砂糖五袋を大銀貨数枚出して購入した。


 デニスが支払った大銀貨は、当然バイサル王国の貨幣である。両替商で手数料を払ってバイサル王国の貨幣に替えたのだ。


 リリオラ磁器も調査した。白地に青で模様を描いた綺麗な磁器だ。これならゼルマン王国の貴族や商人の間で人気になっているのも納得である。


「ティーカップを、何セットか購入するか」

 まだまだ貴重な磁器なので高価だ。今度は大銀貨でなく金貨が必要だった。


 ジラブルの商店街を見て回り、仕立て屋で意外なものを発見した。この国では場違いなチャイナドレスである。雅也の世界にバディを持つクールドリーマーが、この街にいる証拠だった。


 三日が経過し、マルコヴィチ国王に謁見する日となった。

 ヨシフ侯爵に案内されて城へと向かう。この国の王城は白鳥城より大きく、無骨な城だった。無敵の竜が住むドラトス城と呼ばれているようだ。


 城内に入ると、謁見の間へ案内された。赤い絨毯が敷かれている部屋には、護衛の兵士と高位貴族らしい者が待っていた。


 デニスとクリュフバルド侯爵、外務卿が頭を下げて国王が出てくるのを待つ。五分ほどして、玉座から声が聞こえた。


おもてをあげよ。余がマルコヴィチ・ドラ・バイサルである。そちたちがゼルマン王国からの訪問者かな?」

 ヨシフ侯爵が前に出て、デニスたちを紹介した。デニスが玉座を見ると、堂々とした恰幅の良い男が玉座に座り、その横に王子らしい若い人物が立っている。


 ヨシフ侯爵の紹介では、若い男性はエゴール王子だそうだ。王家の長男であり、優秀な人物のようだ。


「今では疎遠になっておるが、ゼルマン王家とは親しくしておった時期もあった。今後は両国の友好関係を深めていこうではないか」


 外交辞令に過ぎないと思われるが、マルコヴィチ国王は友好関係を深めたいと言っているので、外務卿も賛同し貿易を拡大したいと伝えた。


「ふむ、奇妙なことだ。別々の国から続けざまに貿易を拡大したいと、この国を訪れるとは」

 国王が言う別の国とは、ラング神聖国のことらしい。


 その言葉を聞いた外務卿は、

「我が国では、変革の時が訪れたのだと言う者もおります。様々な才能を持つ若者が世に出て、世の中に大きな変革を引き起こす時代が始まると言うのです」

 そうマルコヴィチ国王へ伝えた。


「なるほど、余の息子であるエゴールも、その一人に違いない」

「光栄です。ですが、私はちょっとしたものを発明しただけでございます」

「謙遜せずとも良い。あの夜空に咲く花は見事であった」


 その言葉で、デニスは花火を連想した。そうなると火薬を発明したことになる。エゴール王子を観察すると、父親である国王に対して溜息を吐いていた。


 火薬を発明したとすると、火縄銃くらいは作っているかもしれない。

 但し、火薬ができたからと言って急速に銃器が発達するとは思えない。一定以上に発展させるには、基礎科学の分野が遅れているからだ。


 エゴール王子がデニスたちに視線を向けた。

「ラング神聖国では、蒸気機関を発明したようです。そのことはゼルマン王国では知られていますか?」

 外務卿がデニスに視線を向けた。答えろということらしい。


「はい。ラング神聖国の武装蒸気船は、ゼルマン王国にも入港し、その素晴らしい性能を披露してくれました」

「私も素晴らしいと思った。但し、ラング神聖国は武装蒸気船と称しているが、碌な武器を装備していなかった。あれでは本格的な海戦を行えるとは思えない。その点はどう思う?」


「そうかもしれません。ですが、港町などの近くをゆっくりと進みながら、町を攻撃することは可能でしょう。その対策は必要になると思います」


「陸側に強力な武器があれば、解決する問題だと思わないか?」

「その通りです。ですが、武装蒸気船に搭載されている武器と同程度のものでは、対抗できないと思います」

 エゴール王子がニヤッと笑った。


 その笑いから余裕が窺えた。製造が簡単な鋳造砲などを開発したのかもしれない。

 ゼルマン王国でも火薬を開発し、火器などの研究を始めた方が良いのだろうか? デニス自身は、あまり気乗りがしない。火薬の開発などより、真名術を強化した方が良いのではないか、という気がしているからだ。



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イラストはhimesuz様で、描き下ろし短編も付いています
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― 新着の感想 ―
[一言] 火力は大事と思うけど 継続性が出来れば王子の考えも解り得るけど 生産が間に合うのかと思う 異世界技術力でテンプレを行うために必要なことを 無視しての開発は自滅の元ととか考えていないのかな い…
[一言] 現代の様な高火力の銃器でもない限り、真名術による肉体強化と鉄の盾を装備した歩兵を盾にしたら正面からの攻撃には戦術面では意味を成さないだろうな
[良い点] スリーパー達とそのバディの考えが各々あって面白いですね。
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