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崖っぷち貴族の生き残り戦略  作者: 月汰元
第5章 群雄編
166/313

scene:165 岩山迷宮の九階層

「ヤスミン、今の魔物は相当長生きしていそうだったけど、真名を手に入れた?」

「ダメでした」

 デニスの質問に、ヤスミンが残念そうに言った。


「おかしいな。長生きした魔物は、真名とかドロップアイテムを残す確率が高いんだけどな」

 それを聞いたリーゼルが苦笑いする。


「今のやり方で倒された魔物なら、意地でも何も残すものかと思って、死んだんじゃない」

「死に方によって、真名やドロップアイテムを残すかどうかが変わると……そんな馬鹿な」


「今のは、探索者の間で信じられている迷信みたいなものよ。でも、何か残してもよさそうな魔物が、何も残さないことがあるのは、事実よ」


 デニスは顔をしかめて、残された指輪を見た。

「これが聖印だとすれば、それで十分さ」

 聖印かどうかを確かめてみるべく、デニスたちは廃墟の城に向かった。


 城の地下一階に下りたデニスたちは、封印されている扉の前に立った。扉には指輪と同じ大きさの溝が刻まれていた。デニスは、その溝に指輪を嵌めた。


 カチリ、とロックが解除される音が響いた。デニスたちは顔を見合わせる。

 デニスは扉を開いた。今までビクともしなかった扉が簡単に開く。その扉の向こうに見えた九階層の光景は、広大な森だった。


 扉は五階層にあった扉と同じで、迷宮エリアを囲む高い壁の真ん中当たりに存在しているようだ。しかも、六階層の森林エリアより一〇倍は広そうである。


 さらに森の中央には広大な湖がある。

「一本一本の木が大きい」

 アメリアが感想を口にした。


 デニスも一本の木に注目した。高さが五〇メートル以上もある木がほとんどだった。中には一〇〇メートルを超える木もありそうだ。


「兄さん、長い階段がある」

 元気一杯に手を振っているアメリアが声を上げた。デニスが前に進むと、森林エリアの地上まで続いている幅五メートルほどの階段が見えた。


「この森林エリアで遭遇する魔物は、どんな奴だろう?」

「森林エリアには、ほとんどゴブリンがいるようよ」


 アメリアたちが先に階段を下り始めた。騒ぎながら二段跳びで下りている。

「転んだら大変だぞ。迷宮の中では慎重に行動しろ!」

 デニスが叱ると、「は~い」という三つの返事が返ってきた。


 階段を下りたデニスたちは、森林を見上げた。圧倒的な存在に、圧迫されるような感じがする。

「変な音がするぞ」

 フィーネが相変わらず少年のような言葉遣いで言った。


 その音というのは、ドスッドスッという地面が揺れるような音だ。

「その巨木のうろに隠れるんだ」

 デニスが指示を出した。一〇メートルほど先に根元に大きな穴が開いた巨木がある。その穴は四人が隠れられるほど大きかった。


 デニスたちが巨木の根本に隠れた直後、森の奥から巨人が現れた。身長五メートル、体重二トンほどありそうな化け物である。


 ただ巨人と言っても、顔はカエルだった。蛙面(あめん)巨人と呼ばれる化け物である。そいつの手には巨大な棍棒が握られていた。


 その巨人の後ろから、十数匹の人面サソリが出てきた。頭の部分に人間の顔のような模様がある体長二メートルほどの大サソリである。


 人面サソリと蛙面巨人は戦っているようだ。巨人は棍棒を振り上げ、人面サソリの上に振り下ろした。サソリたちは意外に素早い動きで棍棒を躱し、巨人の足に近付くと尻尾の毒針を打ち込んだ。


 猛り狂った巨人が何度も何度も棍棒を振り下ろす。二匹の人面サソリが棍棒で潰された。だが、その直後に巨人の動きがおかしくなった。


 サソリの毒が効き始めたのである。よろよろとした動きで、人面サソリから逃げようとする巨人が、地面に膝を突いた。


 その巨人に人面サソリが襲いかかった。蛙面巨人は近付いてくる人面サソリを薙ぎ払った。宙を舞ったサソリが、デニスたちの目の前に落ちる。


 転がった人面サソリが起き上がり、デニスたちに気づいた。

「僕が出て相手をするから、ここで待機していてくれ」

 デニスが虚から出た。


 宝剣緋爪を抜いたデニスは、人面サソリと相対した。宝剣による速攻が人面サソリを襲う。そして、サソリの頭をかち割り仕留めた。


 素早く周りを見渡す。人面サソリと蛙面巨人がデニスを注目していた。

「何でだよ。魔物同士の戦いはどうしたんだ」

 少し前まで戦っていた巨人を忘れたかのように、人面サソリが一斉に襲ってきた。デニスはサソリの毒針とハサミの攻撃を躱しながら、緋爪を縦横に振るった。


 人面サソリの外殻は、通常の剣や槍ではダメージを受けないほど硬い。だが、デニスの緋爪は、やすやすと斬り裂いた。すべての人面サソリが倒された時、今度は蛙面巨人がデニスを攻撃する。


 五メートルの巨体から振り下ろされる棍棒の一撃は、凄まじい威力を持っていた。

 棍棒が地面を叩くと、地面が爆発したかのように土砂を撒き散らし、人が入れるくらいの大きな穴が開いた。ただ毒が回っているらしく、よろよろと前進してくる。


 相手が弱っているなら、一気に倒すのが戦いの常道である。デニスは爆砕球攻撃を放った。爆砕球は蛙面巨人の胴体に命中し、腹部の半分を滅茶苦茶にした。巨人が地響きを立てて地面に倒れる。


 倒れた巨人は、ピクピクと痙攣しながら横たわっている。普通なら致命的な傷だが、蛙面巨人は驚異的な自己治癒能力を持っていた。

 巨人の傷がみるみるうちに塞がり、魔物の体組織が修復されていく。


「冗談じゃない」

 デニスはもう一度爆砕球を放った。今度は頭部に命中し、その部分を粉々にする。巨人が消えて、後に何かの金属が残された。


「兄さん、怪我はない?」

「大丈夫だ」

 アメリアが心配して声をかけ、デニスは拳ほどの金属を拾い上げながら答えた。


「その金属は?」

 リーゼルが尋ねた。デニスは金属の光沢や色、重さを確かめる。

「緋鋼だと思う」


 デニスとしては、もう少し九階層を調査したかったが、帰りが遅くなるので戻ることにした。地上に戻った時、日が暮れており辺りは真っ暗になっていた。

「ご苦労さん、疲れただろう。帰りはライノサーヴァントで行こう」


 デニスとアメリアがライノサーヴァントを出す。鞍はリヤカーに乗せて持ってきていた。二人乗りすれば、四人までは乗れる。デニス以外の四人が乗って町に戻った。


 デニスは協力してくれたことに感謝して、ヤスミン、フィーネ、リーゼルにはライノサーヴァントを与えることにした。

 聖印を発見できたことは、それだけの価値がある。


 今回手に入れた『分散』の真名は、使い勝手の良い真名だった。重起動真名術により『分散』と放出系真名術を組み合わせれば、雷撃球などを雷撃散弾に変えることができたからだ。


 迷宮でタフな魔物を相手する場合は、あまり使えない。だが、人間相手の戦いにおいては、大いに利用価値があった。散弾にすることで一つ一つの威力は低下したが、人間が相手なら十分だったからだ。


 ようやく岩山迷宮の九階層に行けるようになったデニスだったが、仕事が忙しくなり迷宮を探索する時間がなくなった。


 その日も、ブリオネス家の屋敷で、お客様を迎える準備をして忙しくしていた。

「デニス、クリュフバルド侯爵がいらっしゃったぞ」

 エグモントが厨房で指示を出していたデニスを呼びに来た。


 デニスは応接室へ向かった。

「我が家へようこそ」

 デニスは侯爵と次期領主のランドルフに挨拶をした。


「道中は寒くありませんでしたか?」

 冬になって寒い日が続いているので、エグモントが尋ねた。

「クリュフ領とベネショフ領は近いからな。我慢できぬほどではない。それより、陛下からバイサル王国と貿易を行う許可を頂いた。その相談に来たのだ」


 デニスが提案したバイサル王国との貿易は、侯爵から国王に許可を申請してもらった。その方が許可されやすいと思ったからだ。


「それは良かった」

 エグモントとデニスは喜んだ。ゼルマン王国は、今でもバイサル王国と貿易をしている。ただ少数の商人が小さな船で行っているので、大した貿易量ではなかった。


「本格的に貿易を始める前に、一度バイサル王国を見てこようと思うのだが、どうだろう?」

 クリュフバルド侯爵の提案に、デニスとエグモントは承知した。二人もそうしようと思っていたからだ。


 バイサル王国への出発は一〇日後に決まった。



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イラストはhimesuz様で、描き下ろし短編も付いています
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― 新着の感想 ―
[良い点] 新しいダンジョンのエリアに、デニス初めての国外で楽しみですね。
[一言] 毒持ちサソリがいっぱいいるのは怖いな。
[一言] >ただ巨人と言っても、顔はカエルだった ・・・元EDF隊員なのだろうか・・・
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