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崖っぷち貴族の生き残り戦略  作者: 月汰元
第5章 群雄編
152/313

scene:151 予選開始

 東アジア予選の開始が宣言され、真名能力者同士での戦いが始まることになった。

 試合のルールは金的・目潰しなどの急所攻撃が禁止の他は、すべてありというもののようだ。決着は場外へ落ちた場合、試合続行不能と審判が判断した場合、ギブアップ、それとダウン後のテンカウントの四つである。


 雅也は選手たちの動きを見ていて、気づいたことがある。選手たちの所有する真名は『豪脚』『豪腕』『頑強』が多いようだ。


 一流兵士になるには、これらの真名が最低でも必要だと言われているので、彼らのバディは一流兵士なのかもしれない。だが、斎藤が試合で使う真名は『怪力』『装甲』『頑強』『敏速』であるので、パワーと防御力に関しては上回っているはずだ。


 ただ四、五人だけは『剛力』の真名を持っているのではないかという感触を得た。彼らの動きや放たれる気配からの印象なので不確実だが、ほぼ間違いないだろう。


 その中の一人が獅子王である。最初に会った時、おしゃれで高級品を身に着けた彼の印象は、どうも気に入らない奴というものだった。現在の彼は気に入らないという度合いが増したようだ。


 京極審議官と仕事をするようになって、嫌味な感じが倍加したと感じた。朱に交われば赤くなるというが、京極の傲慢という毒素を取り込んだのかもしれない。


 ちなみに『剛力』と『怪力』の筋力強化率を比較すると『怪力』の方が高い。しかし、女性の斎藤より『剛力』を持つ他の男性選手の方が筋肉量が多いので、『剛力』を持つ選手に対しては総合的に互角だと計算している。


 一試合目が始まった。中国人のヤオと韓国人のチャンヨンの戦いである。ヤオはジークンドーの使い手で、チャンヨンはテコンドーを習得しているようだ。


 真名能力者同士の戦いは、これまでの格闘技大会で行われた試合と全く異なるものとなった。攻撃に込められているパワーが違い、命中すれば身体が弾き飛ばされることになる。


 それだけの攻撃を受けても『頑強』の真名を持つ者がほとんどなので、一撃でノックアウトとはならない。雅也はなぜかプロレスの試合を見ているような気分になった。


 技が派手に決まるのだが、ゾンビのように起き上がってくるからだ。観衆は盛り上がった。攻撃を受けた選手のリアクションが派手なので見応えがあるのだ。


「うおっ、五メートルくらい飛んだぞ。あれで死んでないのかよ」

「うわっ、ゾンビみたいに立ち上がった」


 チャンヨンの回し蹴りがヤオの肩に命中。その衝撃でヤオの身体が宙を舞う。派手に飛んだヤオは場外に落ちた。ヤオのリングアウト負けである。


 七試合が終わった。ここまでの試合で、日本人である獅子王、中国人三人、モンゴル人二人、韓国人一人の勝ち抜けが決まっている。


「斎藤さんの相手は、韓国のテコンドー使いか。積極的に前に出て接近戦でパンチを叩き込むのがベストだな」

 テコンドーの多彩な蹴りは脅威であるが、接近戦で蹴りを出し難くしてパンチで勝負すれば勝てると雅也は考えた。


 宮坂師範も賛同した。

鉤突かぎづきを相手の肝臓に叩き込め。動きが止まったら、頭を狙え」

 肘を曲げ体重を拳に乗せて放つパンチを鉤突きと呼ぶ。そのパンチによるレバーブローの指示を出した宮坂師範は、ジッと対戦相手の動きを注視した。


 斎藤の名前が呼ばれた。斎藤が試合場に現れると、観衆がざわざわと騒いだ。初めて女性選手が出てきたからだろう。

「女性か、大丈夫なのか?」

 そういう声が、あちこちでささやかれた。


 斎藤の試合相手は、ドウォンという韓国人である。審判の合図で試合が始まり、ドウォンが軽やかなステップを踏み始めた。


 ステップでリズムを刻んだドウォンは、斎藤の頭に回し蹴りを放った。斎藤は冷静に跳び退いて回し蹴りを躱す。ドウォンが続けざまに後ろ回し蹴り、回転蹴りを繰り出す。


 斎藤は下がって避ける。そこに「下がるな」という宮坂師範の声が飛ぶ。

 ドウォンが回転蹴りを出そうとした時、斎藤が前に出た。体当りするように技の出鼻を潰して、体重と『怪力』によって生み出されたパワーが乗る鉤突きをレバーに叩き込む。


 斎藤の拳がドウォンの脇腹に潜り込み大きなパワーを解き放った。衝撃で相手の身体が弾け飛んだ。

「おわっ、なんちゅうパワーや」

 観衆から声が上がる。


 ドウォンが素早く立ち上がった。だが、顔を歪め痛みを堪えている。斎藤は積極的に前に出た。蹴りの間合いより前に出て、拳を相手のボディに叩き込む。


 その拳を腕でガードして間合いを取ろうとするドウォン。間合いを詰めようとする斎藤に、テコンドー使いは珍しくパンチを放った。


 斎藤は敵の攻撃がよく見えていた。雅也と地稽古を繰り返したことが、功を奏したようだ。

 敵のパンチを躱して、カウンターで相手の頬に拳を減り込ませる。そのパンチで、ドウォンは脳震盪を起こしノックアウト負けとなった。


 女性が勝ったことで場内に拍手の嵐が巻き起こった。

「凄えな。普通じゃありえねえぞ」

「これが真名能力者同士の戦いなんだ」


 九試合目、ある意味注目の選手が登場した。覆面レスラーであるストロング・ダーガンだ。台湾のプロレスで活躍してる日系人らしい。


 格闘技好きの雅也もダーガンは知らなかった。ジュニアヘビー級の体格と全身がバネという感じの動きをしている。雅也好みのレスラーだ。


 ダーガンの相手は、モンゴルの選手だった。この試合は、ダーガンが圧倒的なパワーで相手を圧倒した。最後はアイアンクローを相手に決めて、そのまま片手一本で場外に放り投げた。


 宮坂師範が鋭い視線をダーガンに向けながら尋ねた。

「あの選手のパワーは、他の者より一つか二つ上だ。どう思う?」

「俺たちと同じ『怪力』の真名を持っているのかもしれませんね」

「ふむ、武術の技量で対抗するしかないか」


 二回戦は、斎藤が関節技を決めてギブアップさせた。斎藤は順調に勝ち上がり、準々決勝になった。最初の試合は獅子王とダーガンである。


「日系人らしいな。日本語は分かるのか?」

「もちろんだ」

「だったら、警告しておこう。僕は敵に容赦しない主義なんでね。早めにギブアップすることを勧めるよ」


「ふん、ギブアップだと……どっちが必要か、戦えば分かる」

「どういう意味だ?」

「弱い犬ほど、よく吠えるということだ」


 獅子王の顔に険しい表情が浮かんだ。

 試合が始まり、獅子王が得意の正拳突きを繰り出す。『剛力』の真名を持つ獅子王の正拳突きは、身震いするような威力を秘めていた。


 その一撃が命中すれば、相手は血反吐を吐いて倒れる。それは『頑強』の真名を持っていても耐えられないほどの威力だ。


 獅子王の放った正拳突きをダーガンが躱し、獅子王の背後に回って腰を抱きしめると、そのままブリッジするように投げた。ジャーマンスープレックスという技である。


 プロレスなら弾力のあるリングで行うので、受け身を取れば耐えられる。だが、この大会のリングは地面と同じ硬さである。普通なら確実に脳震盪を起こす。


 『頑強』の真名を持つ獅子王は、その威力に耐えて起き上がる。

「やってくれたな。クソ野郎」

「下品な男だ」

「……許さん」


 ダーガンは獅子王を格下扱いした。戦っているうちに獅子王の格闘技術が攻撃だけだと分かったのだ。得意の正拳突きが簡単に躱されるようになり、焦った獅子王は反則の金的蹴りを放った。


 ダーガンは防御したが、少しだけ入ったようだ。激痛で転げ回るダーガン。その身体を獅子王が蹴ろうとする。審判が止め、獅子王に警告を与えた。


 審判は試合を続けられそうか、ダーガンに確かめた。起き上がったダーガンは、燃えるような目で獅子王を見つめ、続ける意志を審判に伝える。


「おとなしくしていればいいのに」

 獅子王は吐き捨てるように言った。だが、ダーガンを本気にさせたことを後悔することになる。


 ダーガンは絞め技と関節技を使い始めた。獅子王は翻弄ほんろうされ、最後に逆さまに身体を持ち上げられ、頭から落とされた。パイルドライバーが決まったのだ。


 獅子王はクタッとなって倒れた。ダーガンの勝利である。担架が運ばれ、獅子王は病院へ運ばれた。

 それを見ていた京極審議官は、不機嫌な顔で立ち上がり帰ると言い出した。


 黒部は溜息を吐いて、京極審議官の後に続いた。護衛は安全確認をするまで待ってくれと言ったが、京極審議官は構わず試合場から外に出るドアへ向かう。京極審議官がドアを出た瞬間、中に入ろうとした人物と擦れ違った。


「あっ」

 京極審議官が小さな声を上げた。黒部が京極審議官の方に視線を向ける。その視線の先には、胸からナイフが生えている京極審議官の姿があった。



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イラストはhimesuz様で、描き下ろし短編も付いています
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― 新着の感想 ―
[良い点] よもやのナイステロww さらば京極、君の無様は忘れないwwww
[一言] 回復させる間もなく即死かな 暗殺者有能っすわ
[一言] やったぜ!(やったぜ! 名も知れぬ暗殺者さんナイスゥ!(本音 そのままエスケープしてくれれば見逃しても良い気分だよ(上から目線
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