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崖っぷち貴族の生き残り戦略  作者: 月汰元
第5章 群雄編
145/313

scene:144 サキリ迷宮の骨鬼牛

レビューを頂きました。ありがとうございます。

 領主屋敷を辞去したデニスとゲレオンは、確保していた宿に戻った。そこには二人の兵士が待っていた。

「ご苦労さまです。交渉はどうでした?」


「上手くいった。ベネショフ領は、ここの港を確保した」

 ベネショフ領が寄港地を必要としているのは、この世界の航海術と天気予報がそれほど発達していないからである。


 航海中に天気が崩れそうだと判断すれば、急いで港や岬の風の当たらない側に避難しなければならない。そういう時、ベラトル領のような港を確保しているということは、非常に重要なのだ。


 それに港で商品を降ろし売ることもできる。ここは公爵領が近いので、人口の多いダリウスまで商品を運び売ることも可能だろう。ベネショフ領の者が直接公爵領で売ることは、公爵が良い顔をしそうにないので、間接的にでも売れば利益になる。


 ベラトル領で一日の休養を取ったデニスたちは、ハロルトの部下に案内されてサキリ迷宮へ向かった。この迷宮は暗い森の中にある。


 迷宮の入り口で案内のベラトル領兵士と別れたデニスは、ゲレオンと二人の兵士を連れて迷宮に入った。ハロルトは迷宮内部も案内できる者がいるから案内させようかと申し出てくれたが、デニスは断っている。


「デニス様、案内してもらわなくても良かったのですか?」

 ゲレオンがデニスに確認した。


「まだベラトル領に知られたくないことがあるのだ」

「それは何です?」

 デニスがニヤッと笑った。


「四階層まで行ったら話すよ」

 ゲレオンは肩を竦め、迷宮の奥に向かって進み始める。サキリ迷宮の一階層は、迷路型エリアであり出没する魔物は、お馴染みの緑スライムだった。デニスたちは相手をせずに先に進んだ。


 二階層へ下りる階段を見つけて進むと、一階層と同じような迷路型エリアだと分かった。ここで遭遇した魔物は、大ネズミと毒霧ガエルだけだった。


 デニスたちが苦戦するような相手ではないので、蹴散らしながら三階層へ下りる。三階層は狼が骨だけになったアンデッドであるスケルトンウルフだ。デニスは初めて遭遇したスケルトンウルフを見て笑いを浮かべた。


「よし、しばらくスケルトンウルフを狩りまくるぞ」

 ゲレオンが少し驚いた顔をする。スケルトンウルフから得られる真名は『敏速』であり、コボルトと同じだ。今更欲しい真名ではなかった。


「何が目的なんです?」

「スケルトン以外から、ボーンエッグが得られるのかどうかを知りたい」

「狙いはボーンエッグだったのですか」


 ゲレオンを始めとする兵士たちは納得し、デニスたちはスケルトンウルフを狩りまくった。結果、一八匹目でボーンエッグを手に入れた。


「小さなボーンエッグだ。これだと、小型犬ほどのスケルトンウルフが生まれそうだな」

 デニスが呟いたように、スケルトンウルフのボーンエッグはウズラの卵より一回り小さかった。


 ゲレオンもデニスの手の中にあるボーンエッグを覗き込んで溜息を吐いた。

「役に立ちそうにないですね」

「そうだな。だが、岩山迷宮のスケルトン以外でもボーンエッグを残すことがあると確認できた」


 デニスは目的である四階層へ下りることにした。四階層に下りたデニスは、目的が骨鬼牛であることを打ち明けた。

「骨鬼牛もアンデッドなのですか?」

「スケルトンと同じ骨で出来ているようだからな。おそらくアンデッドだろう」

「それで、ボーンエッグが手に入るかもと考えたのですね」


「ああ、大きな骨鬼牛のボーンサーヴァントだ。使い道が多いぞ」

 デニスは骨鬼牛からボーンエッグを手に入れられるかもしれないと期待して、この迷宮に潜ることにしたのだ。


 そんな話をしながら四階層に下りたデニスたちは、そこが草原エリアであることを知った。だが、普通の草原ではなく、生えている草が全部黒色だというのが異様だった。


「黒の草原ですか。背中がゾクリとするような光景ですな」

 ゲレオンが睨みつけるように黒い草原を見ている。


 このエリアの天井や壁にも光苔が生えており、そこから発せられる光で草原が照らされている。しかし、生えているのが真っ黒な草だからだろうか、薄暗い感じがする。


「あちらに見えるのが、骨鬼牛でしょうか?」

 草原のあちこちに動いている黒い影がある。遠くから見ても巨大なことが分かった。黒い草原の中を巨大な影がゆらゆらと移動している光景は、この世のものではないような感じを覚えた。


 デニスたちは巨大な黒い影に向かって近付いた。その輪郭がはっきり見えるようになると、骨で作られた巨大なサイのような化け物だと分かる。


 これは動物のサイの骸骨が動いているという感じではなく、骨で作られたサイなのだ。骸骨ならば、骨と骨の間に隙間があるはずなのだが、その隙間が骨で作られた装甲のようなもので埋められている。


 一瞬、そういう魔物なのかとも思ったが、頭を見るとアンデッドだと分かる。眼窩には眼がなく空洞になっており、頭蓋骨の中身がないのだ。


「こ、これは大きいですね」

 兵士の一人が声を上げた。体長が四メートル、体高が二メートルほどだろう。その頭には巨大な角がある。


 その声が聞こえたのか、骨鬼牛がデニスたちの方に鼻先を向けた。デニスは宝剣緋爪(ひそう)を抜いて構えた。ゲレオンたちも長巻を構えている。


 骨鬼牛がデニスたちに向かって駆け出した。その巨大な足がドスッドスッと地響きを立て、串刺しにしようと凶悪な角を突き出しながら迫る姿は肝を冷やすほど迫力がある。デニスは緋爪の一撃で頭蓋骨をかち割れると思ったが、それで突進が停止するかどうか不安になった。


「避けろ!」

 ゲレオンたちに命じて、デニスは横に跳んだ。ゲレオンたちも必死で避けた。骨鬼牛が通りすぎ、土煙と千切れ飛んだ草の葉が舞い上がる。


 起き上がったデニスは、ゲレオンに尋ねた。

「なあ、頭蓋骨を斬り裂いたら、あいつの突進が止まると思うか?」

 ゲレオンが肩を竦めて答える。

「無理かもしれませんね。攻撃を真名術に変えませんか?」


「そうだな」

 デニスは『爆砕』と『爆裂』の真名術で攻撃することにした。通りすぎた骨鬼牛は、ゆっくりと向きを変えデニスたちを目指して突進を再開する。


 もの凄い迫力のある存在が猛スピードで迫る前に立ち止まり、迎え撃つには度胸が必要だった。デニスは右手を骨鬼牛に向け爆砕球を放った。


 爆砕球は骨鬼牛に命中し、頭蓋骨を文字通り粉砕した。その爆発力は凶悪で、離れた位置にいたゲレオンたちも爆風で薙ぎ倒したようだ。


 骨鬼牛は消滅し、何も残らなかった。デニスも一匹目からボーンエッグが手に入るとは思っていなかったので落胆はしない。


「デニス様、あの巨体を一撃とは凄いですね」

 ゲレオンが近付いて賛辞を贈った。

「次はゲレオンが相手してみるか?」

「ええ、やってみます」


 結果として、ゲレオンの爆裂球の一撃では倒せず、兵士たちの二撃目、三撃目でようやく倒せた。

「氷晶ゴーレムより頑丈なようですな。もしかして、こいつから手に入れられるのは『頑強』の真名ですか?」

「ハロルト殿の話では、そうだ」


 デニスたちは草原を歩き回り、七匹目の骨鬼牛と遭遇した。今回はデニスが爆砕球攻撃することになった。突進してくる骨鬼牛に爆砕球を放つ。


 この骨鬼牛の頭蓋骨も爆砕し粉々になる。すると、魔物が消えた後に卵がポトリと落ちた。

「ボーンエッグだ!」

 兵士の一人が、興奮して走りより卵を拾い上げた。卵の大きさは鶏卵ほどである。


 兵士はボーンエッグをデニスに渡した。

「本当に出ましたね」

 ゲレオンはまじまじとボーンエッグを見つめた。


「どんなボーンサーヴァントが生まれるのか、楽しみだ」

「デニス様、何に使われるのです。馬の代わりにされるのですか?」


「そういう使い方もするだろうが、使い道は他にも無数にあるさ」

「でしたら、たくさん集めましょう」

「もちろんだ。父上やアメリアの分も集めないとな」


 デニスたちが迷宮の奥へと進むと、前方に小さな丘が見えてきた。その丘には砦のようなものが建っていた。ハロルトから聞いた情報では、砦の周りに死神ワイトが出没するため、誰も砦に近付けないという。



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【書籍化報告】

カクヨム連載中の『生活魔法使いの下剋上』が書籍販売中です

イラストはhimesuz様で、描き下ろし短編も付いています
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― 新着の感想 ―
[一言] スケルトンウルフもちょっとした仕事に使えそうだし面白そう。 ワイトもそう思います。
[一言] 小さな狼型は、嗅覚や俊敏を込めたら、そうとうイケそうですよ。 大きなサイ型なら、農耕や輸送に使えそう。 いや、畜力動力にも使えるかも!?
[良い点] 4つ脚の獣型のボーンサーバントは色々使い道が多そうですね。
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