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崖っぷち貴族の生き残り戦略  作者: 月汰元
第4章 新領地開発編
139/313

scene:138 戦場のボーンサーヴァント

 爆裂球攻撃を命じたデニスは、その結果を厳しい顔をして受け止めた。

「これが戦争か、酷いものだな」


 爆裂球攻撃を受けたオルロフ族の騎馬戦士たちは、暴れようとする馬を抑えながら、無残に死んだ仲間を見て怒りを覚えた。だが、それと同時に弓矢の攻撃が効かず、強烈な真名術の攻撃を仕掛けてきた敵に恐怖した。


 そんな現状で、動揺した騎馬戦士たちが一番恐れたのは、もう一度同じ攻撃を受けることだ。騎馬戦士の指揮官は、部下たちに突撃することを命じた。弓矢が効かないので槍で攻撃することを選択したのである。


 デニスはもう一度爆裂球攻撃を仕掛けようと思っていたが、騎馬戦士たちが急襲してきたのでチャンスを逃した。カルロスがデニスの傍に立ち尋ねる。

「デニス様、どうしますか?」

「先頭の奴らを、ボーンサーヴァントを使って攻撃する」


 カルロスはデニスの命令を兵士たちに伝えた。

 槍を構えた騎馬戦士たちが迫ってくる。待ち構えるベネショフ領兵士の背後で、ボーンサーヴァントが長巻を持って命令を待っていた。


 騎馬戦士が攻撃の間合いに入る直前、ボーンサーヴァントが動き出した。兵士に駆け寄り、その肩を蹴って空中に飛び上がったのだ。


 空中でボーンサーヴァントの長巻が騎馬戦士に向かって閃いた。馬の手綱を放し防御しようとする騎馬戦士。だが、半数以上が長巻で斬られて落馬した。

 間近で長巻を持ったボーンサーヴァントを見て、悪魔の使いだと言い出す騎馬戦士が現れた。


 その後、騎馬戦士とベネショフ領兵士との戦いが始まった。数が多く馬という機動力を持つ騎馬戦士と装甲膜を展開し真名術で強化して戦う兵士の戦いは激烈なものになる。


 しかもボーンサーヴァントたちが素早く立ち回りながら、馬の足に長巻を突き刺している。おかげで馬が暴れ落馬する騎馬戦士もいた。


 味方の兵士が危険になると、デニスが宝剣緋爪を手にして飛び出しそうな様子を見せる。すると、カルロスが止めた。

「指揮官は後方から命令を出すものです。戦いたいのは分かりますが、我慢してください」


 デニスも分かっているのだが、命令を出すより先に身体が反応してしまうのだ。

「自分の身体を動かす方が楽だな」

「それでは五〇〇の敵は倒せませんぞ」


 もっともな意見だ。デニスは戦いを観察し必要な命令を出し始めた。

 戦いが激しくなると、ベネショフ領兵士に対する騎馬戦士の恐怖が強くなった。必死で戦っている蛮族の口から恐怖の言葉が聞こえるようになる。


「こいつら悪魔だ。槍で突いたのに、なぜ血を流さないんだ」

「悪魔だ。骨の化け物を従えているのが証拠だ」


 騎馬戦士の数が半減した時、その戦意が崩壊した。デニスたちに背を向け逃げ出し始めたのだ。

 デニスは兵士たちの様子を観察した。かなり疲労している。追撃は難しいだろう。


「よし、最後の攻撃だ。爆裂球を用意しろ!」

 疲れてはいるが兵士たちの戦意は高い。真名術を放つために騎馬戦士の背中を睨みながら集中する。


 ベネショフ領兵士から爆裂球攻撃が一斉に放たれた。その一撃で騎馬戦士から多数の死傷者が出た。

 この時点で、デニスたちの戦いは終わった。馬に蹴られて怪我をした兵士はいたが、死者は出なかった。デニスはとりあえず安堵する。


 全体的な戦いは討伐軍が優勢なようだ。紅旗領兵団と侯爵騎士団は、騎馬戦士たちを撃退し勝どきを上げている。だが、紅旗領兵団を率いるメルヒオールは渋い顔でデニスたちの方を見ていた。

 まるでイタズラを仕掛けて失敗した子供のような顔である。


 オルロフ族はミモス山付近の草原から去った。追撃は後列で待機していた子爵・男爵の貴族部隊に命じられた。前列の主力部隊は思っていた以上に兵士たちの疲労が大きかったからだ。


 追撃は短時間で終わった。オルロフ族に逃げられたのである。

 ゲープハルト将軍がホッと息を吐き出す。見回すと各貴族軍の兵士と王家の兵士が喜びの声を上げている。

「何とか終わったな。死傷者はどこが多い?」


 将軍の質問に副官がメモを見ながら答えた。

「一番多いのはセシェル領です。次が我らの兵士たちで、三番めが紅旗領兵団のようです」


「ベネショフ領はどうした。かなり激しい戦いをしていたようだが?」

「負傷者はいるようですが、死者はいなかったらしいです」

「ふむ、それは興味深い。あれほどの激しい戦いで死者が出なかったのか」


「防御用の真名術を使っているのだと思われます」

 将軍はベネショフ領の兵士が防御用の真名を所有していると聞いていた。だが、『頑強』や『鉄壁』の類だろうと考えていたのだが、違うようだと認識を改めた。


「あの奇妙な化け物は何だったのだ」

 将軍は確かめなければならないと思った。

「デニス殿を呼びましょうか?」

「そうしてくれ」


 デニスは副官に呼ばれて、将軍の下に参上した。

「将軍、何かありましたか?」

「そうではない。ベネショフ領の兵士たちが、奇妙なものを使役していたようなので確かめたかったのだ」


 デニスは奇妙なものというのがボーンサーヴァントのことだと分かった。

「あれはボーンサーヴァントと呼ばれるものです」

 将軍が首を傾げた。聞いたことがないようだ。


「賢人院のグリンデマン博士から聞いたのですが、我が国でも昔は使用されていたようです」

「聞いたことがないから、ずいぶん昔のことなのだろう。貴殿も所有しているのか?」

「はい」

 将軍は見せてくれと頼んだ。


 デニスはベルトポーチからボーンエッグを取り出した。

「これは倒したスケルトンが落としたものです」

「白い卵のようだな」

 将軍がジッと見てから言った。


 デニスはボーンエッグを空中に放り出しボーンサーヴァントへ変化する言葉を唱えた。この言葉をベネショフ領の兵士の間では『ボーンワード』、戻す時の言葉を『リタンワード』と呼んでいるようだ。


 空中でクルクルと回るボーンエッグが小さなスケルトンに変化し地面に立った。

「おっ!」

 将軍が驚いて声を上げた。間近で初めて見ると誰でも驚くようだ。


 ボーンサーヴァントの戦いぶりを見ていた将軍と副官は、一人前の兵士以上の働きをしていたのを知っていた。

「そのボーンサーヴァントは何体ほどいるのだね?」

「九〇体ほどです。これだけのボーンエッグを集めるのには苦労しました」


 これだけの数を手に入れるために、兵士たちは数千体のスケルトンを倒したはずだ。最初、どうしてボーンサーヴァントを欲しがるのか、謎だった。最近になって分かったのだが、ベネショフ領の戦力不足を兵士たちは不安に思っていたのだ。そこでボーンサーヴァントなら戦力として使えると思ったらしい。


 そのことは将軍も理解した。ラング神聖国がボーンエッグを集めているという情報も聞いて、重大な情報だと考えた。


 負傷者の手当が始まった。ここで活躍したのが、デニスが製作した治癒の指輪である。王家が買い上げた治癒の指輪は将軍に預けられており、それが使われたのだ。


 その様子を見て、将軍が溜息を吐いた。草原のあちこちで感謝の言葉が上がる。

「あの指輪もベネショフ製だったな」

 将軍は辺境の小領地であるベネショフ領について不思議に思い始めた。なぜ急に変わったのだろうと疑問に思ったのだ。


 王都に戻ったデニスたちは、人々に歓呼で迎えられた。デニスたちにとって初めての華々しい凱旋パレードである。大通りを行進する討伐軍は、胸を張って進んだ。


「こういうのは、いいな」

 デニスがイザークに言った。

「そうですね」

 イザークだけではなく、兵たちも満面の笑顔だ。


 パレードが終了すると、討伐軍の貴族たちは白鳥城の謁見の間に集められた。そこで論功行賞が行われるのだ。デニスは謁見の間で国王が現れるのを待った。


 国王が謁見の間に入ってきた。貴族たちが一斉に頭を下げる。

おもてを上げよ」

 デニスが顔を上げると、にこやかな顔の国王の姿があった。


 バルナバス秘書官が前に出て、今回の戦いで功績のあった貴族の名前を挙げると告げた。その時、自信ありげに胸を張ったのは、ダリウス領のメルヒオールとクリュフ領のランドルフだ。


「オルロフ族の騎馬戦士と戦い、最も多くの敵を倒したのは、ベネショフ領の部隊でございます」

 ベネショフ領の名前が挙がった瞬間、シーンと静まった。


 デニスが喜びを顔に表し国王へ視線を向けた時、紅旗領兵団を率いたメルヒオールが唇を噛み締め、デニスを睨んでいるのが目に入った。



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カクヨム連載中の『生活魔法使いの下剋上』が書籍販売中です

イラストはhimesuz様で、描き下ろし短編も付いています
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― 新着の感想 ―
[良い点] 本部付きであっても追撃戦での爆裂の使用で、それなりの成果は出たろうが、メルヒオールが全てお膳立てをした甲斐があってインパクト大だったよう。突破したのが五百でなく七百ぐらいだったら被害も出て…
[良い点] サブタイが恰好良すぎる! メルヒオールは御前でなければハンカチでも噛んでいそう (グギギ)
[一言] そもそもこの戦いに主人公らは参戦する必要無かったのに、 嫌がらせ目的で参戦させて、嫌がらせ目的で前方に配置し、 嫌がらせ目的でわざと敵騎兵を主人公らのほうに誘導した。 全ては主人公らを甘く…
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