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崖っぷち貴族の生き残り戦略  作者: 月汰元
第4章 新領地開発編
132/313

scene:131 迷石ラジオ

 大斜面の開発を進めるベネショフ領では、並行して町の区画整理を始めていた。道幅を広げ街路樹を植えている。そのために他領から大勢の労働者が来ている。


 領主であるエグモントが集めた労働者も多いが、近隣の領地から自然に集まってきた人々も多い。人が集まり始めると、その人々を目当てに商人も集まり始めた。


 デニスは単純労働者を集めると同時に職人も集めた。木工職人のフランツや鍛冶屋のディルクが工房を持っている区画を工房街として発展させることにしたのだ。


 その職人たちに迷石ラジオを作らせた。問題はラジオで何を放送するかである。

「デニス兄さん、何を考えているの?」

 屋敷のリビングでラジオ放送の番組内容を考えていたデニスは、アメリアの声で顔を上げた。アメリアがボーンエッグを持ってデニスの傍に来ていた。


「ボーンエッグはどういう風に使うの?」

「ボーンサーヴァントが欲しいのか?」

「見てみたい」


 雅也が先にボーンサーヴァントを誕生させたので、やり方は分かっている。問題は確かめねばならない疑問があることだ。真名の種類と生まれるボーンサーヴァントの関連をはっきりさせたかったのである。


 デニスたちは王都から戻ってから何度か岩山迷宮の八階層に潜っており、追加で何個かボーンエッグを手に入れている。デニスが一個、アメリアたちが一個ずつ、リーゼルが二個である。


 リーゼルはスケルトンに関して当たりを引く確率が高いようだ。デニスは合計三個持っているので、最初の一個に『魔源素』の真名だけ解放した状態で力を注ぎ込み、ボーンサーヴァントを誕生させた。


「凄い。本当に小さなスケルトンが生まれた」

 生まれたボーンサーヴァントを見てアメリアが興奮している。


 次に雅也と同じ『魔源素』『頑強』『怪力』『加速』『雷撃』の真名を使ってボーンサーヴァントを誕生させる。その二体のボーンサーヴァントで力比べをすると、『怪力』を含む真名を使って誕生させた方が明らかに力が強いということが証明された。


 アメリアも『魔勁素』『剛力』『頑強』の真名を使ってボーンサーヴァントを誕生させた。『頑強』の真名は七階層の氷晶ゴーレムから手に入れたものである。そして、真名が三つなのは、真名を扱うアメリアの技量がデニスより劣っているからだ。


 アメリアが持っていたボーンエッグから生まれたのは、アーマードスケルトンのボーンサーヴァントだった。もちろん、一メートルほどの身長しかないが、兜と鎧を着けて誕生した。


「ふーん、アーマードスケルトンのボーンエッグからは、兜と鎧を装備した奴が生まれるんだ」

 アメリアは嬉しかったようで、玩具おもちゃのような兜を撫でた。


 三体もボーンサーヴァントが誕生したので、名前を付けることにした。最初のボーンサーヴァントは、『二等兵』、次が『上等兵』、アメリアのボーンサーヴァントは『マルコ』と名付けられた。


 この三体に力比べをさせると、二等兵・マルコ・上等兵の順番で強いことが分かった。どんなスケルトンから手に入れたかではなく、どんな真名を使ってボーンサーヴァントを誕生させたかが重要らしい。


 但し誕生する時の形は、どんなスケルトンから手に入れたかで決まるらしい。アメリアはマルコを家族に自慢した。マーゴがもの凄く羨ましかったらしく、デニスに泣きついた。


「マーゴもほしいよぉ」

「困ったな。マーゴは真名能力者じゃないからな」

「マーゴもマニャノーヒャクサになる」


 最後には泣き出したマーゴを宥めるため、ある約束をした。今すぐは無理だが、八歳になったらボーンサーヴァントをプレゼントするというものだ。


 母親のエリーゼは、マーゴを抱き上げ頬ずりをする。

「泣き虫さん、お兄ちゃんを困らせちゃダメよ」

 マーゴがプクッと頬を膨らませた。


「姉さんだけ、ずるいんだもん」

「仕方ないでしょ。マーゴはまだ小さいんだから」

 マーゴは母親に抱かれて機嫌を治した。


 その様子をエグモントは微笑みながら見ていた。

「デニス、放送局の件はどうするつもりなのだ?」

「まずは、音楽と王都や各地で起きた出来事を情報発信するつもりなんだ」


 ベネショフ領ならば、何月何日に収穫祭が行われるだとか、王都ならば御前総会や武闘祭が行われるだとかいう情報を流すことになる。


 エグモントは首を捻った。

「そんなに話すことがあるのか?」

「なければ、音楽を流せばいいと思う。それに放送局はベネショフ領だけでなく、王都と他の領地にも設けるつもりなんだ」


「そんなことが……しかし、音楽はどうする?」

「王都の賢人院に所属する音楽家や市井の音楽家に協力してもらい、その音楽を記録モアダに録音して放送する」

「放送局に何人ほどの人間が必要なんだ?」


 ベネショフ領と王都で協力して放送を始めるつもりなので、ベネショフ領で五人、王都で四人が必要だとデニスは考えていた。


 デニスが九人だと答えると、エグモントが頷いた。予想していた人数より少なかったから安心したようだ。

「放送する時間は、どうする?」


 ゼルマン王国は一日を二四分割して時間を決めている。王国の時計は、真夜中の零時から始まり二四時間後に一周する。その時間を管理しているのはアズルール教会の役割であり、王都の教会本部にある聖堂に置かれている時計が正しい時間だという。


「一〇時から一三時までの三時間、一六時から一九時までの三時間にするつもりなんだ」

 複数の記録モアダを使って、録音データを繋げていけば一時間程度の番組を作るのは可能だとデニスは思っていた。そして、一日に六本の番組を作る。


 但し、二本分はいくつかの音楽を繋げて作る予定なので、実質は四本分を作ればいいことになる。


 デニスは王都に出向き、王都モンタールの酒屋で働いていたルトポルトをスカウトすることにした。ルトポルトはクールドリーマーであり、彼のバディは仲里真司という日本人だ。


 酒屋から出てきたルトポルトは、疲れた様子の小柄で三〇代の男だった。デニスが声をかけた。

「ルトポルトさんですね」

「そうだけど、君は?」

「ベネショフ領の次期領主デニスと申します」


 ルトポルトは慌てたように姿勢を正した。相手が貴族だと分かりビクついているようだ。デニスは落ち着かせようと笑いかけ、スカウトに来たと告げた。


「私をベネショフ領で設立される放送局で雇いたいというのですか?」

「そうだ。君のバディは日本でラジオ局の仕事をしているのは分かっている。君にも放送局関係の知識があるということだ。その知識をベネショフ領のために使ってくれないか」


「えっ、この国でラジオ局……無理でしょう」

「いや、電波を使うわけじゃないが、真名を使ってラジオ放送のようなことが可能になるんだ」

「デニス様は、真名能力者なのですね?」


 デニスは頷いた。

「そうだ」

「でしたら、条件があります」

「給料だったら、酒屋の倍を出そう」


「金の話ではありません。私は真名能力者になりたいんです」

 ルトポルトは臆病な性格で、迷宮に潜り魔物と戦う勇気が持てなかったという。だが、特別な存在になりたくて、ずっと考えていたらしい。


「いいだろう。君を真名能力者にする。簡単なことだ」

 デニスはルトポルトのスカウトに成功した。二人は賢人院の音楽家や市井の音楽家を訪ね歩き、演奏や歌を記録モアダで録音し、三〇時間分の音楽データを作り上げた。


 並行して放送局の局員も雇う。教養と声に特徴がある人物を選び、放送局の体制が整った。

 デニスは約束通りに迷石ラジオを白鳥城に納入した。


 登城したクラウス内務卿が待合所を通った時、ある一角だけ人が集まっている場所があった。興味を持った内務卿が近付くと、声が聞こえてきた。声が聞こえた場所には、デニスが置いていった迷石ラジオがあった。


「……素晴らしいですね。賢人弦楽四重奏団の『暁の誓い』でした。次は王都の歓楽街で評判になっている歌姫シニャータが歌う『雪に舞う人』を聞いてもらいましょう」


 ピタと呼ばれる弦楽器による伴奏が始まり、甘く独特な響きを持つ声の歌が聞こえてくる。曲は、恋人を戦争に送り出した若い女性が、彼の訃報を聞いて名前を叫びながら雪が降る外に飛び出し、彼との思い出の場所で身体を横たえ夢を見るというものだ。


 歌姫シニャータの悲しみが込められた歌は、聞いている者の心を揺さぶり涙を浮かべさせる。

 クラウス内務卿は思わず聞き入ってしまい、国王に呼ばれていたのを忘れた。


「い、いかん」

 急いで国王の下へ向かう。

「遅かったではないか」

 国王を待たせてしまったようだ。内務卿は青い顔で謝罪した。


「申し訳ございません。途中で興味を引くものを見つけて、時間を忘れてしまいました」

「ふむ、そちが時間を忘れるとは珍しい。それは何なのだ?」

「ベネショフ領のデニスが献上した迷石ラジオでございます」


「何を言っている。デニスが献上した時、そちも見たであろう」

「はい。しかし、放送を聞いたことはありませんでした。陛下は放送を聞いたことがございますか?」

「余が待合所に行って、一緒に聞くわけにもいかんだろう」


「でしたら、もう一台をデニスから手に入れ、一度聞いた方が良いかもしれません」

 国王はデニスに命じて、迷石ラジオをもう一台用意させ購入し執務室に持ち込んだ。そして、午前中の放送は忙しくて聞けないので、午後の放送を聞いた。


 そして、軽快なしゃべりと音楽を聞き、その魅力に取り憑かれた。娯楽の少ない世界でラジオ放送は麻薬のような存在となる。国王が午前中の放送まで聞くようになったので、仕事が溜まり始めた。


 それに気づいた内務卿は執務室から迷石ラジオを運び出し、王妃などの王族が生活するプライベート区画に置いた。聞きたかったら、早く仕事を片付けてから聞けというわけである。


 迷石ラジオを執務室から運び出す時、国王が悲しそうな顔をしたのを内務卿は見てしまい、少し心を痛めた。一方、放送を聞けるようになった王妃やテレーザ王女たちは大いに喜んだ。



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【書籍化報告】

カクヨム連載中の『生活魔法使いの下剋上』が書籍販売中です

イラストはhimesuz様で、描き下ろし短編も付いています
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― 新着の感想 ―
[良い点] 仕事に支障があるからと言って、娯楽を取り上げられて悲しそうな顔をする王様カワイイですねwww
[一言] 王様可哀想(泣)馬車馬がごとく仕事して早くラジオに行かなきゃw ラジオが有るのは王城の待合室だから、それなりの商人や貴族が聞きに来るんでしょうから、これからのラジオの売り上げが良さそうですね…
[良い点] こうして日常的に触れる情報量がどんどんと増えていくわけです・・・!
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