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崖っぷち貴族の生き残り戦略  作者: 月汰元
第4章 新領地開発編
131/313

scene:130 ボーンサーヴァント誕生

 探偵事務所の資料室で、雅也はグリンデマン博士からデニスが聞いた話を冬彦に語った。

「ボーンサーヴァントですか。面白そうですね。でも、その真名の力を卵に注ぎ込むというのは、どうやるんです?」


 雅也が渋い顔になる。その部分があやふやなところで、実際にやってみないと分からなかった。

「たぶん、真名を解放すると精神から溢れ出す力みたいなものを感じる時があるんだ。その力を卵に注ぐということなんだと思う」


「へえー、でも、真名はいくつも種類があるんでしょ。どの真名なんです?」

 どの真名と尋ねられて返答に困った。真名の基本である『魔源素』あるいは『魔勁素』だと思っていたのだが、それだけでいいのだろうか、と疑問が頭に浮かんだのだ。


「さあな。適当でいいんじゃないか」

「でも、その真名の種類や数によって、生まれてくるボーンサーヴァントの出来が違ってくるとか、しないんですか?」

 冬彦が鋭い意見を言うので、雅也は驚いた。


 真名の数については、雅也は考慮していなかった。『魔源素』だけを解放して、その力を注ぎ込めばいいと思っていたのだ。


 考えてみると冬彦の意見にも納得する点がある。雅也が同時に真名を解放状態にできる数は八つだ。しかし、それは瞬間的なもので、安定した状態で保持できる真名の数は五つだった。


 その五つの真名から発せられる力を同時にボーンエッグに注ぎ込んだら、どんなボーンサーヴァントが生まれるのか、雅也は面白いと感じた。


「面白い意見だが、こればかりは実際に試してみないと分からないな」

「試してみましょうよ」

 冬彦はどんなボーンサーヴァントが生まれるのか見たいようだ。雅也自身も見たいと思っていたので、試すことにした。


 まずは、五つの真名を解放する。選んだ真名は『魔源素』『頑強』『怪力』『加速』『雷撃』である。解放された真名から発せられる力を、手に持っているボーンエッグへと導く。


 ボーンエッグに真名の力が吸い込まれていくのを雅也は感じた。

「卵が光ってる」

 冬彦が凄い発見をしたかのように声を上げる。


 卵が虹色に光り、その光が鼓動するように明滅を繰り返し始めた。その状態が二〇秒ほど続いた後、卵が手から飛び出す。


 床に落ちた卵は、質量保存の法則に逆らうように巨大化しながら変化する。どこからかは分からないが、何らかの力を吸収しているのだろう。そして、背丈が一メートルほどのスケルトンが生まれた。

「可愛いスケルトンが生まれましたね」

 冬彦が笑いながら、雅也に告げる。


 ボーンサーバントが誕生した瞬間、この存在との繋がりのようなものが雅也の頭に発生した。言葉では説明しづらいが、ボーンサーヴァントへの支配権を感じた。


「こっちに来い」

 雅也が命令するとボーンサーヴァントがカチャカチャと音をさせて雅也に近付く。最初に二つの言葉を決めなければならないようだ。


 一つはボーンエッグからボーンサーヴァントへと変化させる時の合図の言葉である。雅也は『スケルボーン』にした。

「何で、そんな合図にしたんです?」

 冬彦が理由を知りたがった。


「どうでもいいだろ。スケルトンが生まれる(ボーン)から『スケルボーン』なんだよ」

「ああ、ボーンは骨じゃなくて、生まれるの方だったんですか。先輩の発音が酷いんで分かりませんでした」


 雅也が赤面して、英語をしっかりと勉強するんだったと後悔する。それはともかく、もう一つであるボーンサーヴァントからボーンエッグに戻す合図は『リターンエッグ』にした。


 試しに「リターンエッグ」と命令すると、ボーンサーヴァントが収縮しボーンエッグに戻った。冬彦がボーンエッグを拾い上げ「スケルボーン」と言いながら放り投げた。


 カランと床に落ちて転がる。

「やっぱり、僕が命令してもボーンサーヴァントにならないみたいです」

「当たり前だろ。支配権は俺にしかないんだから」


 雅也がボーンエッグを放り投げて「スケルボーン」と命令する。空中で小さなボーンエッグがボーンサーヴァントへと変化し、ガチャッと音を立てて床の上に立った。


 冬彦が手を叩いて称賛した。

「凄いですね。僕も欲しいな」

「真名能力者じゃないから無理だ」


 雅也は冬彦とボーンサーヴァントに腕相撲をさせた。結果、ボーンサーヴァントが勝った。

「凄い力だ。ボディガードにもなるんじゃないですか」

「おかしいな。グリンデマン博士の話では、弱い存在で召使い代わりにしかならないと言っていたんだが」


 後にデニスが調べて分かったのだが、ボーンサーヴァントは注ぎ込んだ真名の力によって変化するらしい。『頑強』の真名を解放して、その力を注ぎ込めば頑強なボーンサーヴァントが誕生するようなのだ。


 雅也はボーンサーヴァントに『雷撃』を放つように命じた。だが、ボーンサーヴァントの指先からバチッと音を立て火花が散っただけで雷撃球は生まれなかった。


 ボーンサーヴァントは真名を取得する代わりに、真名が持つ力の一部をその身に宿すことができるらしい。

 雅也が誕生させたボーンサーヴァントは、『魔勁素』の真名だけで誕生したボーンサーヴァントに比べて、頑丈で力が強く、一瞬だけ加速する能力と電気ショックを放つ能力を持つことになった。


「ところで、スケルトンには耳がないのに、何で音声の命令に従えるんです?」


 雅也は首を捻った。考えたこともなかったのだ。

「……骨伝導?」

 冬彦に疑わしそうな目で見られてしまい、雅也は分からないと正直に告げた。


 冬彦が試してみようと言い出した。ボーンサーヴァントが五歳児ほどの知能を持っていると聞いて、何かを教えることもできるんじゃないかと思ったらしい。


 パソコンを持ってきて立ち上げ、あるDVDを入れて再生した。すでに亡くなったアメリカのアーティストがゾンビと一緒に踊る作品が始まった。


「何をするつもりだ?」

 雅也が冬彦に問い質す。すると、ニヤッと笑った冬彦が、

「このダンスをボーンサーヴァントに教えて、踊らせてみるんですよ。そうすれば、音が聞こえて知能があることが証明されます」


「何で、このダンスなんだ?」

「ゾンビとスケルトン、アンデッド繋がりに決まっているじゃないですか。ボーンサーヴァントに僕の動きを真似るように命令してください」


 雅也は溜息を吐いて、冬彦の動きを真似るように命じた。ボーンサーヴァントが冬彦の動きを真似て踊り始めたのを、雅也は冷めた目で眺めた。


 その時、資料室のドアが開いて資料を持った仁木が入ってきた。そして、小さなスケルトンと一緒に踊っている冬彦を見て驚き、持っていた資料を落とす。


「な、何やってるんだ?」

 冬彦が慌ててダンスをやめ、照れ笑いして頭を掻いた。その横では、ボーンサーヴァントが口を開け頭蓋骨を掻いている仕草をしている。


「ち、違うんだ。僕はこいつにダンスを教えていただけなんだ」

 冬彦が言い訳している様子も忠実のボーンサーヴァントは真似していた。但し、声は出ていない。


 雅也は真似をやめるように命じた。仁木がボーンサーヴァントに視線を向ける。

「こいつは何です?」

「スケルトンのドロップアイテムから生まれたボーンサーヴァントだ」


 雅也が説明した。

「驚きましたね。こんなものがあるんだ。でも、これをどう使うんですか?」

「ラング神聖国では、召使い代わりに使っているみたいだ」


 科学が発達している日本社会では、それほどの利用価値はないと雅也は思った。しかし、それは思い違いだった。人間が危険だと判断する場所で、代わりにボーンサーヴァントが作業した方がいいというケースは多いのだ。


 雅也はボーンサーヴァントをボーンエッグに戻し、探偵事務所を出て第一工場へ向かった。

 第一工場は武装翔空艇が公表されてから一層警備が厳重になっている。入館証と指紋・顔認証が一致して初めて入ることが許される。


 工場の開発区画へ行くと、中村主任が空自の制服を着た人物と言い争っていた。

「片山さん、ちょっと待ってください。今更、組み込むジェットエンジンを変えたいというのは、どういうことなんですか?」


「やはり、最大速度がマッハ以下というのは問題なのだ」

 問題を起こしているのは、航空自衛隊の片山二等空佐だった。


 雅也はまたかという顔をする。

「あっ、聖谷取締役」

 中村主任がホッとしたような顔をする。雅也は気を引き締めて対応を代わった。


「片山さん、今ジェットエンジンを変えれば、試作機の開発は数年遅れますが、それでいいんですか?」

 片山二等空佐が顔をしかめた。

「待ってくれ。組み込むことを提案したジェットエンジンはすでに開発済みで、交換するだけでいいんだ。ジェットエンジンの交換くらいなら、一年くらいの遅れで実現できるんじゃないか」


 雅也は専門外の人間なので、細かな技術的問題は分からない。だが、一年ほど第一工場で仕事をした経験から、大まかな作業量を把握していた。


「冗談じゃないですよ。あなたは専門家でしょ。ジェットエンジンを変えるということは、機体設計からやり直すことになるんですよ。それを分かってて言っていますよね」


「しかしだね。我々としてはスクランブル、緊急発進にも使える機体が欲しいんだ」

 雅也がニヤリと笑う。そのことについては調べていたからだ。

「だったら、現在の設計で十分でしょ。スクランブルでもマッハを超えて飛行することは、ほとんどないと聞いていますよ」


 片山二等空佐が渋い顔をする。マッハを超えて飛行できないということが仮想敵に知られれば、必ず音速以上に加速して逃げられるようになると主張した。


「スクランブルの目的は、他国の軍用機が防空識別圏内に侵入してきた際に、その軍用機に警告を与え追っ払うことではないですか。逃げるのなら追いかける必要はないでしょう」


 雅也は片山二等空佐の要求を退け、今まで通りの設計で開発を続けることを承知させた。自衛隊は別に第六世代の戦闘機を開発しているので予算もないはずなのだ。

 この頃になると、自衛隊の間に雅也を手強い交渉相手だと評価する声が上がっていた。



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【書籍化報告】

カクヨム連載中の『生活魔法使いの下剋上』が書籍販売中です

イラストはhimesuz様で、描き下ろし短編も付いています
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― 新着の感想 ―
[良い点] そういえばリーゼル経由で謎の歌手の素性がバレているかもしれませんね。歌の巧さだけで繋がるかはわかりませんが、あの女性空手家に。
[一言] >安定した状態で保持できる真名の数は五つだった。 >選んだ真名は『魔源素』『頑強』『怪力』『加速』『雷撃』である 装甲膜は安定して展開出来る真名じゃないのか?
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