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崖っぷち貴族の生き残り戦略  作者: 月汰元
第1章 明晰夢編
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scene:12 鎧トカゲと鉄

 デニスは鎧トカゲと戦ってみることにした。もしかすれば、震粒ブレードで鎧が切れるかも、と考えたのだ。


 四階層を少し進むと、鎧トカゲと遭遇した。

 背丈はデニスの胸ほどで頭部から背中、腹部に至るまでダークグリーンの鎧皮で守られている。この皮は通常の剣では切れないほど強靭なものだ。


 鎧トカゲが前足をゆらゆらと動かしながら迫ってきた。デニスは震粒ブレードを上段に構え待ち受ける。先に攻撃を仕掛けたのは、鎧トカゲだった。


 鋭い爪の生えた前足でデニスの胸を引っ掻こうとした。震粒ブレードが振り下ろされ、その前足を払う。剣では切れないと言われる鎧皮で覆われた前足に震粒刃が食い込み、強靭な皮を削り取る。


 震粒ブレードは前足の半分ほどまで切断し止まった。鎧トカゲがギャアギャアと叫び声を上げて飛び下がる。だが、逃げるようなことはなかった。


 執念深そうな目でデニスを睨む鎧トカゲ。前足の一本は力なくだらりと下がっている。不思議なことに血などの体液が出ていない。


 迷宮に住む魔物には血が流れていないのかもしれない。魔物が魔源素で出来ているというのは、本当なのかもしれないとデニスは感じた。


 鎧トカゲが大口を開けて襲いかかった。震粒ブレードが、その肩に叩き込まれる。喘ぐような様子を見せた鎧トカゲが倒れた。そして、静かに消える。


「こいつは嬉しい誤算だ。鎧トカゲにも震粒ブレードが通用する」


 鎧トカゲは防御力に優れているが、赤目狼よりスピードが劣る。その防御力を切り裂く武器があれば、デニスにとって戦いやすい相手となった。


 三匹目の鎧トカゲを倒した後、小ドーム空間を発見した。中には四匹の鎧トカゲが待ち構えていた。戦いは魔物と目が合った瞬間から始まる。


 赤目狼に取った戦法が通用するか試してみる。入り口に陣取り、なるべく複数と同時に戦うことを避けたのだ。


 競い合うように鎧トカゲが走り寄る。だが、入り口は大きくないので一匹か二匹がデニスの前に出ると、後の鎧トカゲは後ろに並ぶしかない。


 最初の一匹に震粒ブレードを振り下ろす。肩口から胸が切り裂かれ、鎧トカゲが後ろに倒れた。そのトカゲは仲間に蹴られて横に転がり、空いた隙間に新しい鎧トカゲが飛び込んできた。


 その頭に震粒ブレードが食い込む。耳障りな叫びを響かせ、鎧トカゲが床に這いつくばった。素早く震粒ブレードを上段に戻し止めの一撃を同じ頭に振り下ろした。


 三匹目が襲いかかるのを待って、タイミング良く鎧トカゲの首の根元に袈裟斬りの要領で打ち込んだ。そいつは一撃で息絶えた。


 次の鎧トカゲも首の根元に一撃すると死んだ。最初の鎧トカゲは死んでいなかった。床をのた打ち回っている敵に、止めの一撃を振るい戦いに終止符を打った。


 デニスは荒くなった呼吸を整えながら、鉄の鉱床を探した。小ドーム空間の隅に輝きを目にして確かめる。鉄の金属結晶があった。


 迷宮では不思議なことに錆びないようだ。これを外に持ち出すと錆び始めるのだが、迷宮内部では錆びないので見つけやすい。


 二〇キロほどを採掘して戻り始める。初めの頃は一〇キロが精一杯だったが、この頃は二〇キロを背負っても大丈夫なようになっていた。


 体力面でも向上しているようだ。地上に戻ると地面に鉄を投げ出し休憩する。水筒からごくごくと水を飲み、身体中に水が染み渡るような感覚を味わう。


「ふうっ、生き返る」

 相も変わらず不味いライ麦パンを食べる。硬すぎるし舌触りが悪い。パンの中に小麦の表皮が混じっているのだ。


 昼飯を食べてから、もう一度迷宮に潜った。午前中に通った通路を進み、小ドーム空間に到着。鎧トカゲが一匹だけ復活していた。


 他の場所から移動してきたのか、この場所で生まれたのかは分からないが、時間が経つと迷宮内の魔物は復活する。


 デニスは速攻で鎧トカゲを倒し、二〇キロの鉄を採掘。地上に戻るとまだ太陽は高い位置にある。町に戻ることにした。


 鉄四〇キロは、リヤカーに乗せて運ぶ。木工職人のフランツが作ってくれたものだ。全部が木製なので耐久性に問題があるが、四〇キロほどなら問題なく運べる。


 町に戻って鍛冶屋に向かった。町の鍛冶屋は、ディルクという名の小柄な男である。しかし、肩から腕にかけての筋肉は発達しており、鍛冶屋らしい体形をしていた。


「ディルク」

 デニスが鍛冶屋に声をかけた。ギョロッとした眼の男が、デニスを見た。


「何だ、デニスかい。何か用か?」

 領主の息子だが、跡継ぎではないので気軽に話しかけるのが習慣となっている。


 本来なら礼儀に反するのだが、デニスにはそれを許す雰囲気がある。実際にデニス自身が礼儀など気にしない性格なのも原因の一つだ。


「買って欲しいものがあるんだ」

「何だ? 食い物なら間に合っているぞ」

「鉄だよ」

「な、何だって!」


 ディルクは驚いて大声を出した。デニスがリヤカーにある鉄を見せる。


「鉄だよ。鉄」

「北のクリュフで仕入れてきたのか。高いんじゃねえか?」

「全部で、金貨一枚と大銀貨二枚でどう?」


 ディルクが顔色を変えた。

「金貨一枚に大銀貨二枚だと……安すぎる。もしかして、迷宮の鉄か。あそこには鎧トカゲがいただろ。凄えな」


 鍛冶屋なのに、迷宮についても知っているらしい。そのことを尋ねると、

「当たり前だ。この町の鍛冶屋なら、一度は迷宮の鉄や銅を採掘に行きたいと思うもんだ」


 この町には鍛冶屋が三人いる。ディルクが一番の年長で、他の二人は彼の弟子だ。三人とも細々と農機具や鍋の製作や修理をして食べている。


 ディルクは王都で鍛冶関係の仕事をしていたらしい。何かあって、故郷であるベネショフに戻ってきたという。腕は王都の職人にも負けないと言っていた。本当か嘘かはデニスには分からない。


「買うのかい?」

「もちろん、買うに決まってんだろ」

 近隣で最大の都市であるクリュフで買えば、確実に三倍はする。良質の鉄は高いのだ。


 雅也の世界では、鉄は安いという事実を知っている。ありふれた金属であり、大量生産しているからだ。だが、この世界では違う。


 製鉄技術が未発達で、一つの炉で日産一〇〇キロほどが精一杯の世界なのだ。そして、出来上がった鉄も質の悪い鉄だ。人力や水車を動力にしてハンマーで叩き、不純物を取り除く鍛造により鉄を精錬していた。


 とにかく製鉄は、物凄く手間がかかるのだ。それは他の金属も同じなのだが、鉄ほど需要がないので、ほとんどの金属は迷宮から回収される量で足りてしまう。


 デニスは鉄を売った金を持って屋敷に戻った。

「デニス、王都へ行くぞ」

 帰るなり、エグモントの言葉がデニスの耳を打つ。


「王都へ……何か起きたんですか?」

「ゲラルトが結婚すると手紙を寄こしたのだ」


 デニスは驚いたが、目出度いことだ。エグモントの顔に浮かぶ怒りが理解できなかった。

「お目出度いことではないの?」

「馬鹿を言うな。ゲラルトは婿入すると書いて寄こしたんだぞ」


 『婿入り』貴族の世界では珍しいことではなかった。だが、ゲラルトはブリオネス家の長男であり、次期当主である。


「ええーっ、まずいじゃない」

 ゲラルトが婿入りすれば、残るのはデニスだけということになる。けれど、デニスは貴族としての教育を受けていない。


 デニスはエグモントと一緒に王都へ行くことになった。


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