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崖っぷち貴族の生き残り戦略  作者: 月汰元
第4章 新領地開発編
111/313

scene:110 八階層の城

 デニスは今回の探索に宝剣緋爪と一緒に黄煌剣を持ち込んでいた。アンデッドが多い八階層では役に立つと判断したのだ。


 廃墟の町が再現された階層の大通りをゆっくりと進み始める。脇道から一体のスケルトンが現れた。その手には錆びた剣が握られている。

「ちょっと黄煌剣の威力を試したいから、一人で戦わせてくれ」

 デニスが頼むと、他の皆が頷いた。


 デニスは背中に背負っている黄煌剣を抜き上段に構える。そのままスケルトンが近付いてくるのを待った。スケルトンは戦闘態勢を取っているデニスを威嚇するように骨をカタカタと鳴らしながら歩み寄る。


 もう少しで剣の間合いに入るという瞬間、デニスが一歩踏み込み黄煌剣を振り下ろした。その刃がスケルトンの肋骨を斬り落とす。斬った瞬間に黄煌剣が光ったことに、デニスは気づいた。淡い黄色の光で神秘的な感じのする光だ。


 その光を浴びたスケルトンが塵となって消えた。

「うそーっ! スケルトンは二、三本の骨を斬られたくらいじゃ仕留められないはずなのに」

 リーゼルが大声を出した。


 アメリアたちはデニスを取り囲んで、黄煌剣を食い入るように見ている。

「すごいねぇ」「かっこいいぜ」「ステキです」


 黄煌剣の威力は確かめられた。やはりアンデッドに対しては大きな威力を秘めていたようだ。

「中々の威力だ。アンデッドには黄煌剣を使うことにするよ」

「それがいいみたいね」

 リーゼルも賛成した。


 デニスたちが城に近付くに連れ、遭遇するスケルトンが多くなった。そして、ついには普通のスケルトンではないものと遭遇した。


 そのスケルトンは鎧と兜を着て、立派な剣を持っていた。

「何か偉そうなスケルトンが出てきたぞ」

 リーゼルが顔をしかめた。強敵のようだ。


「あれはアーマードスケルトンよ」

 アーマードスケルトンは斬撃に強く、『恐怖耐性』の真名を持つ魔物だった。この魔物が装備している鎧や兜は、防御力が高く普通の剣や槍を弾き返すほどだという。


「蒼鋼製の武器なら、斬れるんじゃないのか?」

 デニスはアメリアたちが装備する蒼鋼製長巻なら斬れると考えた。しかし、リーゼルは渋い顔をしている。

「もしかすると、刃が欠けるかもしれない」


 その言葉を聞いて、アメリアが嫌そうな顔をする。滅多に手に入らない蒼鋼製の武器が傷付くのは嫌なのだろう。デニスにも、その気持ちは分かるが、刃こぼれを気にしながら戦うことはできない。

「長巻は予備があるから心配するな」

 そんな話をしている間に、アーマードスケルトンが迫ってきた。その動きも普通のスケルトンより素早い気がする。


 フィーネが突撃した。長巻を繰り出しアーマードスケルトンを攻め立てる。アーマードスケルトンは身体を丸め顔を腕で防御する。長巻の攻撃は鎧と兜によって防がれた。フィーネが大きなダメージを与えられず、攻めあぐねているのを見て、デニスが戻るように指示した。


 フィーネは弾かれたような勢いで戻った。そして、心配そうに長巻の刃をチェックする。

「刃は大丈夫?」

 ヤスミンがフィーネに声をかけた。フィーネは頷きホッとしたような顔をした。


「ここは私に任せて!」

 リーゼルが大声を上げ、『爆裂』の真名を解放する。アーマードスケルトンは攻撃がやんだことに気づき丸めていた身体を元に戻す。


 対峙したリーゼルは、アンデッドの空虚な眼窩がんかの奥に何かが光ったような気がした。それは魔物の闘気だったらしい。次の瞬間、アーマードスケルトンが攻撃を仕掛けた。剣の攻撃がリーゼルを襲い、リーゼルが長巻で受け流す。


 敵の攻撃を三度、四度と受け流したリーゼルは、攻撃が途切れた瞬間に爆裂球攻撃を放った。爆裂球は鎧を装備したスケルトンの胸に命中し爆発する。


 装備している鎧が吹き飛び中の骨が粉々になった。魔物は地面に倒れ、ゆっくりと塵となり消える。

 リーゼルがホッとした時、アーマードスケルトンが倒れていた場所に何かが転がった。フィーネが最初に気づいて取りに行く。


「フィーネ、何だった?」

 アメリアが尋ねた。フィーネは可愛い顔を傾げて、手の中にある卵のようなものをジッと見ている。デニスたちが近付いて、その手の中にある小さな卵を見た。


「リーゼルは、これが何か分かるか?」

「分かりません。ですけど、王都の探索者ギルドで、卵のようなドロップアイテムをラング神聖国が集めていて、高額で買い取っているというのを聞きました」


 フィーネはアーマードスケルトンを倒したリーゼルに、卵を渡した。デニスは探索者ギルドがいくらで買い取っているのかリーゼルに聞き、その金額で買い取らせて欲しいと申し出た。


 今度王都へ行った時に調べようと思ったからだ。隣国のラング神聖国が集めているという情報を聞いて、集めるには何か理由があり卵に利用価値があるのだと思った。


 リーゼルは承知してくれたので、卵はデニスのものになる。その後、城への道を進んだ。城門のところまできたデニスたちは、城門でアーマードスケルトンと再び遭遇した。今度は三体である。


「リーゼルは左の一体を、アメリアたちは右、僕は真ん中だ。フィーネは黄煌剣を使え」

 デニスは黄煌剣をフィーネに渡す。それぞれが散らばり戦闘を開始した。宝剣緋爪を抜いたデニスは、ゆっくりと前に出て上段に構える。


 宮坂流の極意は上段からの袈裟斬りにある。宝剣緋爪があれば、兜割りも可能だとデニスは思っていた。アーマードスケルトンが剣を振りかざし駆け寄って振り下ろす。その剣の腹を緋爪で叩いて軌道を変え、瞬時に振り上げた緋爪で斬撃を放つ。


 一瞬の攻防だったが、勝負が決まった。アーマードスケルトンの兜が割れ、頭蓋骨にも深い裂傷が刻まれる。デニスは油断なく敵を見つめた。だが、今の一撃が致命傷となったようで、その姿が塵となって消える。


 アメリアたちとアーマードスケルトンの戦いは互角だった。アメリアとヤスミンが激しく動きながら敵を掻き回し、フィーネが大きなダメージを与えようと狙っているようだ。


「加勢しようか?」

 デニスが声をかけると、必要ないという答えが返ってきた。


 アメリアとヤスミンは長巻の長さを利用して、敵の足を狙っている。アーマードスケルトンの足に防具がなかったからだ。しかし、敵の動きは意外に素早く攻撃が当たらない。


 フィーネは隙があると判断した時に、アーマードスケルトンの顔面を狙って突きを放っている。

 背後で爆裂球が炸裂する音がした。リーゼルの敵が致命傷を負ったようだ。残りはアメリアたちが相手をしている奴だけとなった。


 四度目の突きで、黄煌剣を頭蓋骨の額に突き入れることに成功した。黄煌剣が光り頭蓋骨が粉々になって分解する。アメリアたちは歓声を上げながら戻ってきた。


「さすがに八階層となると、強敵がいるようだな」

「やっぱり、リーゼルさんみたいに『爆裂』の真名が欲しいです」


 デニスはアメリアに『爆裂』の真名が必要か考えた。通常の探索者なら六階層で活動できるようになれば十分なのだ。とはいえ、八階層に連れてきたのはデニスである。このままでは中途半端な存在になる。


「いいだろう。八階層の探索が終わったら、『爆裂』の真名を取りに行こう」

「ありがとう」「やったぜ」「ありがとうございます」

 アメリアたちが感謝した。


 デニスたちは城の内部に入った。この城は石造りの三階建てで四角い建物がいくつか合体したような形をしている。入り口には大きな扉があり、その扉の下半分が破壊されている。


 デニスたちは破壊されている部分から中に入った。中は建物の一部が壊れた残骸や家具だったらしいものの残骸が散乱している。


 城の内部は薄暗いので、デニスは『発光』の真名を使って明かりを作り出した。明るくなると、中の様子がはっきりと分かるようになった。

「ここはビザンプト様式の城のようだな」


 デニスの言葉にアメリアたちが首を傾げた。

「ビザンプト様式というのは、三〇〇年ほど前に滅んだ前王朝の建築様式だ。天井に幾何学模様が描かれているのが特徴なんだよ」

「へえー、そうなんだ。でも、何で迷宮に前王朝の城が建っているの?」


 アメリアの質問に、デニスは答えられなかった。

「さあな。迷宮については分からないことが多いんだ」

 デニスは探索を始めようと声を上げた。


 部屋を確認して回った。一階部分の部屋には特筆すべきものはなく、デニスたちは二階に上がる。一階と同じように一部屋ずつ確認して回る作業を始めた。


「ほとんど残骸ばかりだな」

 デニスの声に、他の皆が期待はずれという顔をする。二階のほとんどの部屋を確認し、最後の部屋の前に辿り着いた。


 一番奥の部屋の扉を開けた時、そこで黄金色の鎧兜を纏ったスケルトンに遭遇した。

「もしかして、この城の主なのか?」

「そうかもしれないけど、何かを守っているガーディアンかもしれない」


 リーゼルからガーディアンかもしれないと言われたデニスは、黄金スケルトンの背後に注意を向ける。そこには宝箱のようなものが置かれていた。



1週間ほど正月休みです。

次回の投稿は来年1月5日(日曜)になります。

本年中はありがとうございました。

良いお年をお迎えください。

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イラストはhimesuz様で、描き下ろし短編も付いています
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― 新着の感想 ―
[一言] 今年もたくさん更新ありがとうございました。来年も更新お待ちしてます。
[一言] 卵のドロップかぁ…テイムモンスターかな?と言いたいが出所がスケルトンではな。
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