-プロローグ-
無気力な主人公が核聖域という異空間を通じて様々な人達と出会い心を動かされ、また心を動かしたりする。現代SFバトルもの(予定)です。
今回初の投稿なので更新ペースとか遅いかもしれませんが、少しでも色々な方に手に取っていただけると嬉しいです。
燃えるように赤い御旗を掲げ、俺はメガホンを取った。
目の前には短い髪のよく似合う女の子が、どこか儚げで、けれども力強く俺を睨む。
玉虫色に包まれたこの異様な空間でさえも、凛とした瞳と蒼い刀を突きつけた彼女はとても可憐に見えた。
よし、いける
言ってしまえ叫んでしまえ!ずっと言えなかったこの言葉、今ならこの想い絶対に届く。いや、届いてみせる!
「俺とーーーーーーー
まずは友達から始めよう!!!」
ズコーーーッ
床にぶつけた頭を掻きながら目覚ましのベルを止める。カーテンを開け、背伸びをしながら階段を降りてふと思った。
夢の中でくらい積極的になれよ、俺。
冷たい風が頬を撫でるとはよく言ったもので、12月半ばとなると流石に寒い。早めの期末試験も終わってみんなが浮き足立つ中、俺は黒いマフラーと黒いコートで縮こまりながら登校する。
集合写真の隅で何となくピースをして終わった文化祭を迎えた俺にとっては高校生最初の1年がもうすぐ終わってしまう事よりも、吐いた息が白いことと今朝のテレビの占いが1位だった事の方がよっぽど感慨深かった。確か占いの内容は…
ッカーン
本日2度目の頭部への衝撃。こうかはばつぐんだ。
たわいもない考え事に水を差された衝撃に対し、反射的に頭を上げるとすぐにわかった。どうやら立ち漕ぎしていた学ラン野郎のカバンについてるマイクにぶつかったのだ。
…え、マイク?
しかもあれは、いわゆるフレディーかつ、マーキュリーなやつがよく使っていたスタンドマイクの先っぽ?
謝れという文句と、カバンのマイクについての疑問のどちらを叫ぼうか迷ったが、学ランの下からチラリ覗いた、しかしはっきりと確認できた純白の布切れが目に入り、口をついて呟いた。
ありがとうございます。
学ラン野郎は学ラン少女だった。
妙な夢とマイクスタンドとちょっとしたラッキーのおかげですっかり目が冴えてしまいいつもより早く教室に着いてしまった。かといって特別やることもなくアニメの主人公よろしくボーッと窓の外を見ていると声がかかる。
「おはよう。今日は早いじゃないか。」
「おはよう、横花。」
いつもより随分早いな、と言おうとすると横花は黙って黒板の隅を指差しつつ勝手に隣の席に座った。指を指した先にある 横花 康太郎 の文字を見てなるほどと呟いた。
「なあ、今日転校生が来るらしいぜ。」
「転校生?こんな時期に?」
「あぁ、なんでもうちの学校期末終わるの早いから都合が良かったらしい。」
「前の学校ではバンドのボーカルやってて、容姿端麗、頭脳明晰、おまけにお金持ちなんだってさ!
すげーよな」
「おいおい。そんなの尾びれがついただけだろ、どんだけバカ正直なんだよ」
「ええ?そうなのか?あー、だから美少女説と美男子説があるのか」
そりゃあいくらなんでも情報が曖昧すぎるだろ。ため息をつきなぎら、ないないと手を左右に振って見せると横花は腕を組み直して話を続けた。
「でもどうせなら美少女がいいよな。クリスマスも近いしなんだかわくわくするぜ」
「今からその調子じゃあコロっと落ちそうだな」
そんなちょろくねーよと頭をかく姿は色恋沙汰が好きな男子高校生というよりは好奇心旺盛の子犬の方がしっくりときていた。
おーっすコウタロー!
数人の男女グループに呼ばれたのをきっかけに会話はすっぱりと終わり、わりぃと言い残して横花はいつもの友達の輪の中に帰っていった。
まあでも美少女であるに越したことはないよな。うんうん。そう思うとなんだか少しドキドキしてきた。
振り返って見れば、この胸の高まりはこれから起きる出来事のほんの予兆だったのかもしれない。
ホームルームの前に連絡がある。
担任の一言で沸騰寸前の土鍋のようにざわつき始める
。小太りの担任も口元がにやけているのが抑えきれていなかった。
「時期外れではあるが転校生を紹介する。入っていいぞ。」
はい
ガラリと扉を開け黒板の前に立ち、カツカツと自分の名前を書いていく転校生。さわやかな顔立ちによく似合うショートヘアーに学校指定の学ラン。一見美少年のようだが、スカートからすらりと伸びた華奢な足が彼女の性別を物語っていた。カバンには不自然にマイクがぶら下がっていたがそんな事は一切問題が無いように思えてしまった。
静水上 伊緒梨 黒板に書かれた文字だ。
「シズガミ イオリ です。ええと、皆さんどうぞよろしくお願いします。」
かわいーーーーーーーーーー!!!!!
彼女が恥ずかしそうににこりとほくそ笑んだその瞬間、クラスの気持ちが一つになった。
学ラン男の娘、もとい学ラン女の娘の爆誕である。
ゴールが決まった時のサッカーのサポーターのように盛り上がるクラス。ある女子は目覚めた…と震えながら呟き、ある男子は一筋の涙を流し拝み、ある小太りの担任は騒ぎに乗じて小躍りしている。
そんな中俺は驚きのあまり1人静寂に包まれていた。あれは今朝の白パン…じゃなくて、フレディー女子。
いやいやいや、そうでもなくって…あれは今日夢で会った女の子に瓜二つじゃないか…?あまりの偶然の連続衝撃を受け、じっとその転校生を見ていたが、担任の教師の一言が追い打ちをかける。
コホン…えーじゃあ静水上の席は…アヤクニ。
あそこにいるアヤクニ ハルの隣だ。
朱国 春。アヤクニ ハル。
それって俺の名前では?
ふと今日の占いの結果を思い出した。
本日のラッキーカラーは白。
運命の人に出会える予感。