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少年よ

作者: 幻視図書

 この世界には五柱の神がいる。火を司る赤の神、水を司る青の神、大地を司る緑の神、光を司る白の神、闇を司る黒の神。

 白の神は人間を作り、人間を自分の子供として加護を与えた。黒の神は魔族を作り、魔族を自分の子供として加護を与えた。人間と魔族は赤の神と青の神、そして緑の神が作ったライノと呼ばれる星に住み始めた。人間と魔族はライノの土地を半分に分けそれぞれ自分たちの領土として暮らし始めた。しかし、人間と魔族の関係は悪く、一触即発の状態が続いていた。赤の神の加護を強く受けた者は赤い髪色を青の神の加護を強く受けた者は青い髪をというように人間と魔族の髪色は加護を強くうけた神に関係していた。それゆえ人間の多くは白い髪を、魔族の多くは黒い髪を持っていた。ごくたまに生まれてくる赤毛や青毛、緑毛は珍しい技能の才能をもっていることが多いので重宝されている。

 しかし、人間の黒髪と魔物の白髪だけは特異な力を持って生まれることが多く忌子として忌み嫌われていた。

 人間の住む領土と魔族の住む領土の境目付近に人間の住む小さな村がある。村の名前はチナノといった。チナノ村の近くには大森林があり、大森林の中には小さな掘立小屋がある。

 かつてチナノ村で暮らしていた一組の夫婦とその子供がいた。子供の名はアレンかつてチナノ村で生まれた子供だが髪の色が黒かったために村から家族ごと追い出されたのだった。

 アレンは物心ついた時から、村の存在を知っていた。アレンが近づくと村の人間はアレンを追い出そうとするのだ。アレンにはそれが不思議でしょうがなかった。アレンも村の皆と遊びたかった。しかし、それはできなかった。アレンは村の大人に見つからないようにただただ遠くから村の子供たちが遊んでいるのを見ていた。

「なぁ、おっかあ。なして、おらたちはあの村に近づいたらだめなんだ?」

 そうアレンが質問すると母は決まって、困ったような悲しいような顔するのでした。

 生まれた時から森の中にいるアレンは時折、父と一緒に狩りに出かけていた。無口な父は狩りのやり方をアレンに教えてはくれない。ただ、獲物がいると静かに指をさしそれを狩ってアレンに手本を見せる。同じ獲物が現れるとまた獲物に向かい指をさし、今度はアレンの番だとアレンに向かって表情で語りかけてくる。アレンはそんな父の意思を正確に読み取り、先ほどのお手本のように獲物を狩った。父はそんなアレンを見ると満足そうにうなずいた。狩りの後はアレンたちがいつも獲物を洗っている水場に行き、獣を解体する。

 肉はアレンたちの食料にするためとっておき、毛皮などは街まで父が持っていきそれをうって生活に必要なものを買ってきていた。

「今日は大量だったね、おとっちゃん」

「……あぁ、これなら母ちゃんも喜ぶ」

 そういって、父はめったに見せない笑顔を見せた。


「……そっちはいたか?」

「いや、こっちもいない」

「しょうがねぇ、ここらを燃やして。賊をあぶりだしてやるか」

 少女は逃げていた。スラム育ちの少女は名をティナといった。彼女は白髪の魔族だった。生まれてすぐに両親が亡くなった彼女は、物好きなスラムの老婆に育てられ今日まで生きてきた。老婆はスラムで生きるすべをティナに教えてくれた。白髪ということで忌み嫌らわれている彼女が今日までまっとうに生きてこられたのもすべて老婆のおかげだった。しかし、そんな日々も長くは続かなかった。老婆は重い病気にかかったのだ、老婆の病気を治すために必要な薬はとても高価で貴重だった。ある日、ティナは風のうわさで老婆の病気を治す薬が魔王の城にあることを知る。そこで、ティナは魔王城へと忍び込み薬を盗み出すことに決めた。自分を育ててくれた老婆のためなら、この手すら汚してもいいとティナはそう思ったのだ。

 結果、彼女は失敗した。経験がないとはいえ、スラムで育った彼女だ。盗む方法も技術もそれなりに知っていた。しかし、知ってはいてもそれを実行することはできなかった。彼女は自分の甘さを痛感していた。そして彼女は追われる身となった。

「とりあえず、森の中まで逃げてきたけど。これからどうしよう。早くしなきゃおばあちゃんが死んじゃうよ……」

 ティナが逃げた先、それはアレン達が住んでいる森だった。アレンの父は森の異変に気付いていた。そしてアレンの父はこの森を愛していた、たとえどんな理由があろうともこの森に火を放とうとしている輩を許しておけなかった。アレンの父は侵入者を片付けるとティナの場所へと向かった。

「……こんなところで何をしている。お前も奴らの仲間か?」

 やや怒気をはらんだ口調でアレンの父はティナに問う。

「ぐすっ」

 ティナは泣いていた。老婆の薬を盗むのは失敗し、挙句の果てに見知らぬ森の中で追ってくる兵に怯えながら歩き続けていたのだ、そこに来てアレンの父が急に現れるものだからいろんな感情がいっぺんに押し寄せて泣いてしまった。

 さすがのアレンの父もティナが泣き出すと思っていなかったのだろう、目に見えてうろたえだしていた。

「……その、すまない……」


 アレンの父であるレオはその日森の異変を感じ取っていた。長年森に棲んできたレオは森の様子が手に取るようにわかっていた。

「……侵入者は全部で16人か……。何やら一人を追っているようだが」

 ただ事ではない様子を感じつつもレオははじめ侵入者に対しては傍観の姿勢をとっていた。しかし、侵入者の男はあろうことかレオにとっての禁句を言ってしまったのだ。

 たとえどんな理由があろうともレオはこの森を傷つけることは許さない。侵入者はレオの逆鱗に触れてしまったのだ。一流の狩人であるレオに一介の兵士にすぎない侵入者とでは実力の差は歴然であった。しかも、ここは森の中レオにとっての庭みたいなものだ。勝負はあっという間に決着がついた。

 レオはその場に倒れこむ兵士達に向かって告げる。

「……さっさと、この森から立ち去れ。」

「ひぃ、この化け物め」

 兵士は一目散に逃げだした。

 残るは追われていた者だけである。レオはティナの下に向かった。

 ……正直、レオは困っていた。目の前にいる少女が泣き出してしまったのだ。きつめに話しかけてしまったのは失敗だなと目の前で泣いている少女を見て思った。レオはこういった事の対処の仕方がわからなかった。レオは元々口下手なのである。困ったことに、今はアレンもいない。これは持久戦になりそうだとレオは思った。


 ティナが泣き出してどれくらいたったのっだろう。少しづつ落ち着きを取り戻してきたティナは改めて目の前に現れた男を見た。レオはティナが泣き止んだのを見るとその場に座り込むと、穏やかな顔をしてティナの方を向いた。レオは地面の方を軽くトントンとつつき座るようにティナに促す。ティナもそれを感じ取り、その場に座る。

「……この森にどうしてはいってきた?」

 レオは尋ねる。実際この森に迷い込んでくる迷い人ぐらいなら偶にいる。レオはそう言った者たちに対して森を害さない限りは傍観の姿勢を貫いていた。

「……私、逃げてきたんです……。私はティナって言います。魔族の出身です。でも私は白髪で生まれてきて……魔族の間では白い髪をもつ子は忌子なんです。」

 レオは驚いた。アレンと同じ境遇の娘が目の前にいたのだ。レオはできればこの娘を助けてやりたいと思った。

「……忌子だからこの森に逃げてきたと?」

 ティナは口をつぐんだ。盗みを働いて逃げてきたと言えば、目の前の男はどう思うのだろう。もしかしたら、追ってきた奴らに引き渡されるかもしれない。ティナはそう思った。だから、ティナは言い出せなかった。私が今捕まれば、おばあちゃんを助けられない。

 レオはティナの沈黙を肯定と受け取った。

「……今日のところは疲れただろう。近くに私の家がある、そこに私の家族もいる。そこで休んでいくと良い」

 それはティナにとって予想外の言葉だった。自分が忌子であることを明かしても、優しくくしてくれた人は老婆に続き二人目だった。それがティナにはどうしようもなくうれしかった。だからこそ、なおさらこの人を巻き込んではいけないと思った。

「いえ、大丈夫です。私は追われてる身でもありますし……私に肩入れするとあなたたちの身まで危なくなります」

「……大丈夫だ。追っては私が追い払った」

 レオはそう告げ、ティナを強引に我が家に連れていった。口下手なレオにはこれが限界だったのだ。家にさえ行けば、あとは妻が何とかしてくれる。そうレオは信じていた。


 レオの妻であるシノは驚いていた。レオがいつもより早く帰ってきたと思えば、アレンと同じぐらいの年の子を連れていた。レオはこの子を頼むという視線をシノに送った後、また狩りに出かけていた。シノは誰よりもレオの真意をくむことがうまかった。レオの目は口ほどにものをいうのだった。シノは取り残されてぽかんとなっている少女を椅子に座らせるとこれまでのいきさつを聞いたのだった。


 戻らなきゃ……。シノにここに来るまでのいきさつを話したティナは改めてそう思った。ここで話している間にも老婆の命は削れて言っているのだ。

「私、戻ります。お世話になりました。あの人にお礼言っておいてください」

 今、城に戻るのは得策ではないだろう。さっきので城の警備はもっと厳重になっているはずだ。それでもティナにはあきらめることができなかった。


 アレンは薄暗い地下牢の中にいた。この日アレンは狩りで獲った獲物の皮などを売りに魔族の街に来ていた。アレンたちは、月に一度魔族の街に行き自分たちの狩った獲物からとれた毛皮などを売って日用品を手に入れていた。アレンはこの日、初めて毛皮を一人で売りに来ていた。いつもは父と一緒に来るのだが、アレンももう一人前と呼べる年齢になったので、レオはアレン一人で行かせたのだ。アレンは、いつも毛皮を買い取ってくれる店に着いて毛皮を売ろうとしていた時に、周りに護衛を付けた裕福そうな男に絡まれた。

「妙に臭いと思ったら、人間がいたのか」

 魔族と人間は仲が悪くお互いに憎しみ合っている。中にはそうでない人間や魔族はいるがごくごく少数だ。そんな中でアレンが魔族の街に毛皮を売りに来るのは単純に魔族の方がましだからである。人間は忌子であるアレンを全員忌み嫌っているのだ。

「おら、毛皮を売りに来ただけで、すぐ出ていくから勘弁してほしいだ」

 アレンは何も悪くないがケチつけてきた魔族はどう考えても身なりが権力者のそれだった。逆らうわけにはいかない。

「人間が僕の目の前に現れたことが罪なんだ。誰かこいつをつまみ出せ」

 どう考えても横暴である、しかし人間であるアレンの事をかばう者はいない。アレンは毛皮を売らずに引き下がるわけにはいかない。これを売らなければ、アレンの家族が暮らしていけないのだ。

「おら、何も悪いことしてねぇ。毛皮を売るまで帰るわけにはいかねぇ」

 アレンがそういうと魔族の男は額に青筋を浮かべて怒鳴る。

「こんな無礼な人間は牢にでも入れておけ」

 こうしてアレンは捕まってしまった。薄暗い地下牢では何もすることがなく、アレンは暇を持て余していた。

「おっかぁ達、おらの帰り待ってるだろうなぁ」

 アレンはここから出て早く帰りたかった。アレンには生まれた時から力があった。怪力だったのだ。牢屋の鉄格子を開けようと思えばいつでも出られた。それでもアレンがそうしなかったのは、出てもすぐに捕まるからである。アレンが見たところアレンが収容されているのは城の中である。当然、牢屋を出ても警備が山ほどいる。十人ぐらいならアレンの力でなぎ倒せるが、それ以上はどうしようもない。

「ちょっと、放してよ!早くしないとおばちゃんが」

 アレンが思案にふけっていると騒がしい女性の声がきこえた。どうやら新しくこの牢屋に入れられる人の様だ。どうやら新人はアレンの隣の牢屋に入れられたようである。

「出してよ、おばあちゃんが死んじゃうよ……」

 どうやら隣の人にはのっぴきならぬ事情があるようだ。暇を持て余していたアレンは隣の

 新人に訳を聞いた。

「なぁ、おめえどうしてこんなところに入れられたんだ?」

 事情を聴くに、アレンの隣の人はティナというらしい、育ての親である老婆が重い病気にかかり、それを治す薬をこの城に盗みに入り捕まったらしい。アレンはティナの話を聞いて助けてあげたいと思った。

「おらは、ここから出たい。だから、おらに協力してほしい。協力してくれたらおらはティナの協力をする」

「わかったわ。お互いに協力しましょ。アレン」

 こうしてアレンとティナは協力し牢屋を脱出することにした。手始めにアレンは牢屋の鉄格子を曲げて外に出た。ティナも自分の鉄格子を曲げてもらい外に出る。

「まずは宝物庫をめざしましょう。そこに薬があるはず。ただ、見張りの兵士がいるはず。それを何とかしないと」

「それはおらに任せろ。おらが隙を作るから、ティナはその間に取ってきてくれ」

「わかったわ」

 アレン達が宝物庫に着くと十人ぐらいの兵士が周りを固めていた。アレンはそれを持ち前の怪力でなぎ倒していく。ティナはその間に宝物庫に忍び込む。

「城中の兵士が集まってくるまでに見つけ出さなきゃ」

 ティナは目的の薬を必死になって探す。しかし、ここは一国の宝物庫である。中にはたくさんの宝物があり、なかなか目当てのものを探し当てることができない。

「これでもない……。もう、どこにあるのよ」

 外ではアレンの叫び声が聞こえる。

「あ、あった。それにこれは……」

 ティナが宝物庫から出るとアレンが城の兵士に組み倒されていた。

「テ、ティナ、すまねぇ。おらだけじゃ抑えきれなかった」

「いいのよアレン、時間はしっかり稼いでたわ。これを見なさい、城の兵士ども」

 そういってティナは、薬のほかに盗んだ球体のガラス玉を空高く掲げた。その瞬間ガラス玉はまばゆいばかりの光を放つ。兵士はその光をもろに見てしまい、一時的に視界をなくした。

「今よ、アレン」

「わかった」

 ティナの声を聴きアレンは自分を組み倒していた兵士を投げ飛ばす。それを合図に二人は一斉に逃げ出す。

「はぁはぁ、ここまで逃げ切れば安全ね」

 ティナの出身地であるスラム街まで二人は逃げたのだった。

「ありがとう、アレンがいなかったらこの薬も手に入れられなかった」

「いや、ティナがいなかったらおらもあそこから出られなかった。ありがとう。早くその薬飲ませてあげるといいよ」

「そうね、また機会があったら会いましょ」

 そういって二人は帰った、己がいるべき場所へ。


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