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魔王の娘が勇者の戦利品になりました

作者: 詩月ミゲル

私は魔王の娘として生まれた。


白い肌に白い髪、そして赤い瞳。

白は縁起が悪いからと魔王の城から離れた塔に幽閉されて過ごしている。


陽の光で肌を焼くことも試したが肌が赤く腫れただけだった。


日光に弱いのならと洞窟に閉じ込められた事もあったが環境が悪く体調を崩したのでこの塔に落ち着いたのだ。


魔王の娘といっても爪も牙もなく、能力は千里眼を持つ第三の目のみ。

身体能力は人間の娘と同等。

寿命も100年程度らしい。


因みに今は50歳くらい?

ようやく魔族としては成体になろうとする年頃だ。


永らく人間界を支配していたけど、最近は旗色が悪くなったので次の魔王になる兄様は最近魔界に帰ったらしい。


私以外の姉妹も母様もほとんど魔界に帰っている。


今は最後まで戦うと決めた兄弟姉妹と魔王である父様が残っているだけだ。


私は明日、最後の大きな呪いをかけるための生け贄にされるらしい。

昨晩最後の晩餐にといつもより豪華な食事を持ってきたメイドが涙ながらに教えてくれた。


そんな彼女も魔界に帰り、塔から出ることも許されず私はただ生け贄になるのを待っていた。


「白い魔物は貴重だからな。儂は始めてお前がいてよかったと思ったぞ」

はじめて父様に誉められた。

ヒドいと思ったけど嬉しくもあった。

千年生きる魔族の感覚だと明後日死ぬのが明日になった程度である。


朝はお気に入りのドレスに着替え、メイドと別れの挨拶を交わした後、窓際で景色を眺めながらその時を待っていた。

ドンドンと乱暴にドアを叩く音がした。


ノックにしてはおかしいので千里眼でドアの向こうを覗く。

(人だ…)


このドアは外側から鍵がかかっているので、叩かれても私は何も出来ない。

因みに窓際にも鉄格子がはまっている。


「お姫さまー?」

冒険者の声だ。


窓の外から姿が見えたのだろうか?


「私はただの魔王の娘です。人質にできる程の価値もないのでそっとしておいて下さい」

父である魔王の顔は片手で数える程しか見たことがない。

私には人質としての価値も無いだろう…


「魔王ならたった今倒しました」


なんともう倒されてしまったのか!

慌てて私は魔王の間を確認する。


魔王と側近たちの亡骸がかなりグロテスクな状態で散らばっていた。


「おえっ…」

あまりの惨状に吐いた。

部屋の端にある小さな水道までは持ちこたえたので床も服も無事だと安心した途端に眩暈がして床にへたりこむ。


ドアの向こうでは冒険者たちがこの部屋をどうするか話し合っていた。


「魔王の娘に訊く。何故この部屋に閉じ込められているのだ」


「それは私が白の娘として生まれたからです。普通の人間程度の能力と寿命しかなく、不吉とされる存在のため幽閉されています」


「本当に何の力もないのか?」


「一応千里眼が使えますが、ファイアボールの一発も撃てませんし、ナイフの使い方すら知りません」


冒険者たちは再びどうするか話し合いを始めた。


「そなたの千里眼を我がパーティーのために使うと誓うなら出してやってもいいぞ」


「50年間ここから出たことがありません。私には冒険者なんて無理です」


見てもらった方が早いと私は非常用の覗き窓を開いた。

10センチ四方なのでほぼ穴だけどこれなら姿が直接確認できる。

そこから手を出して中を覗くよう促した。


「うわっめっちゃカワイイ」


「確かに白いわね」


「失礼だが本当に魔王の娘なのか?」


「言っていたことは全て真実のようだ」


口々に感想を述べると再度冒険者たちは話し合いを始めた。


「魔王の首は撃ち取ったが、奪われた国宝『神の勲章』が見つからねば俺たちは勇者になれない。隠し場所を教えてくれたら出してやる」


そう冒険者のひとりが言うと覗き窓に地図が差し込まれた。


受け取って神の勲章の形や目ぼしい場所を確認すると、目を閉じて私は千里眼を使った。

神の勲章は魔王の玉座の下にあった。

外に出られることに一瞬喜んだが次の瞬間には絶望に変わる。


「勲章は見つかりました。でも、取り出すのは無理です。重い扉と強力な結界が張ってあります」


そう言った後、再び洗面台にダッシュして吐いた。

あのグロテスクな映像は何度見ても慣れない。


「それくらいなら一晩休めば問題ない。すまぬが食糧庫の場所も教えてくれないか?」


私は再び千里眼を使った。自分の家のはずなのにどこに食べ物があるかもわからないのだ。


「ありました。人が食べられるのはパンとお菓子だけですが場所をメモしておきますね」


魔王が永く支配していたので今の人間界の公用語は魔界語と同じだ。

私は食糧庫のと、ついでにこの部屋の鍵の場所もメモして冒険者たちに渡した。


この辺りは特に荒らされていないし、非戦闘員は既に魔界に逃げていって誰もいなかったので今度は醜態を晒すことはない。


「本当に私をここから出してくれますか?」


「あぁ。約束しよう」

冒険者のリーダーらしき人物はしっかりそう言うと去っていった。


その日の晩。

半信半疑ながら私は部屋の荷物を纏めた。

幸い立派な宝石のついたアクセサリーを結構持っているのでこれを売れば生活費には困らないだろう。

冒険者に取られる事を前提に半分は小さな宝石箱に纏め、残りをハンカチで袋状に包むとスカートの下に吊るしたりドロワーズに縫い付けたりと服のあちこちに隠した。

着替えは下着なら全部詰め込めそうだ。ドレスも着替えが欲しい。

荷運び用の馬車が残っているのでそれを持ち出せないか交渉してみよう。

普通のなら普段着の私服も持っているものだが、幽閉していることが後ろめたいからか父様は私にドレスしか与えなかった。

控えの間があれば侍女の服もあったかも知れないが、全員通いで夜の番もいなかった為にこの部屋には私の荷物しかない。


後は本も少し持ち出せたらいいなと思う。

50年間の暇潰しは本とボードゲームだった。

ゲームは相手がいないと出来ないが本はひとりでも読める。


(本当に明日には外に出して貰えるのかしら?)


寝間着に着替えると私は眠りについた。


***


次の日。

冒険者たちは本当に神の勲章を手に戻ってきた。

魔王を倒せるのだから魔王より強い力もあれば強力な結界の解除する魔力だってあって不思議ではない。


「約束通り自由にしてやる」


扉が開いた。


冒険者たちも着替えを持っていたらしく昨日のようにボロボロではなかった。


「魔王の娘。約束通り解放してやる」


「ありがとうございます」


私はシーツに自分が背負えるだけの最低限の荷物を包んで待機していた。


「荷物はそれだけか?」


「いえ、できれば馬車や荷車が残っているのでそれを使ってもう少し持ち出したいです。私は馬車を扱えませんのでこの宝石で誰か御者をやって頂けませんでしょうか?」


この宝石が高いか安いかはわからないが、対価を支払えば引き受けてもらえるかも知れないと良さそうなものを見繕って差し出すを

断られたらこの包み1つで出ていけばよい。


「ちょっ…すごいお宝」


「どうする?」


「俺は宝石なんかいらない」

冒険者のリーダーがそう言った。


「しょんぼりするな。宝石はいらないが馬車があるなら都まで俺が連れていってやる」

リーダーはそう言うが周りは納得していない顔だった。


「ここから出してくれたお礼です。好きなものを持って行ってください!」

私は宝石箱を開いて差し出した。


「良いのか?」


「はい。このままでしたら死ぬところでしたし、宝石がいらないなら本でも家具でも好きなものを持って行ってください」


「それじゃ、僕はあそこにあるチェス用のテーブルを貰っていいかな?有名な名匠のビンテージ品なんだ」

鑑定士の若者が言う。


「いいですよ。駒も椅子も差し上げます」


「マジ?」

目を輝かせて喜んでいる。


「それじゃあ私はこのペンダントを…ところであの壁にかかっているドレスは置いていくの?」


「はい。昨日着たので干していますが、置いていきます」


「貰っていい?」

遠慮がちに魔法使いの少女がきく。

体型が似ているので彼女でも入るだろう。


「ドレスも靴もあの箱に入っているの以外ならいくらでも持っていって結構です」

ウキウキと魔法使いが私のドレスルームに消えていった。


「俺はこの宝石と、昨日食糧庫で見つけた酒でドワーフが飲めるモノがあれば知りたい」


「後で案内します」


「私は情報が欲しいのだが、宝物庫が空だった理由を知りたい」


「母様たちが魔界に持って帰ったのでしょう。まだこの世界に残っている者もこの後魔界に帰るかと思いますので、頃合いを見て魔界への扉を封印すれば良いと思います」


「ところでその本は?」


「できれば持ち出したいのですが…」


「貸し出して頂けるのでしたら私が馬車で運びましょう。住む場所が見つかるまで保管もいたします」

壮年の魔法使いは読書家らしく私のコレクションに理解を示してくれた。


「俺はお前が欲しい」


「どうぞ、どう…って、えーーーっ!?」


リーダーの剣士が言ったことに思わず耳を疑った。


「私ですか?」


「一目惚れした。結婚してくれ」


「戦利品にお姫さま。物語の定番だな」

パーティーの仲間たちが彼を冷やかす。


焦げ茶の髪に俊敏そうな細身の身体。

私より頭ひとつ分高い背丈。

優しそうな表情、大きな傷跡が気になるけどそこそこ整った顔立ち。


(悪い人には見えないわね。父様を殺してるけど)


「あと50年くらいしか生きませんが大丈夫ですか?」


「俺が51年生きる。絶対に不幸にはしない」


「不吉な存在ですよ?」


「俺の国にはそんな迷信はないから安心しろ」


「子供とか欲しくないんですか?」


「魔族とのハーフの知り合いがいるから問題ない」


「ご両親は悲しみませんか?」


「俺は孤児だ」


その後も不安要素をあれこれ訊ねるも全て問題ないと即答された。


「そもそもこの塔に登ったのもコイツが窓からカワイイ子が見えたって言ったからだぜ」


「勇者が選んだ嫁なんだから誰も文句は言わないわよ。独身の勇者は他にもまだいるんだし」


「大丈夫。幸せにしてくれるよ」


冒険者(勇者確定のパーティ)のメンバーたちも後押しする。


誰も反対しない。


「はい。私を差し上げます」


こうして私は魔王の娘から勇者の戦利品になった。


「マジでいいの?やった!」

もうすぐ勇者になる冒険者は私を力いっぱい抱きしめた。

苦しいけど嫌じゃない。


その後は馬車で1か月。

私は冒険者一行と王都へ向かった。

夜まで一緒はまだ早いと魔法使いの少女が一緒の馬車で寝ることになったが、彼女と友達になれた。


移動している間はずっとリーダーの隣にいたら私も彼を好きになることができた。

彼の方も自分の目に狂いはなかったと、結婚の約束を後悔することはなかった。


魔界との扉については結局その場で封印してしまった。

帰りたい者がいれば後日封印を一時的に解く旨を立て札を立てたので、帰りたい者は魔王の城で待つはずだ。

後日王国側で残留した魔族、魔物の帰還と正式な扉の封印を行うらしい。


そして私はただの勇者の嫁になった。


はじめての外の世界は戸惑う事も多いけれど報酬で与えられた田舎の領地で今日も平和に暮らしている。

魔王の娘と勇者が恋に落ちる過程をもう少し細かく書こうか迷ったけどとりあえずこれで投稿します。

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