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―愛のままにわがままに茸は僕だけを傷つけない―

 いつもの時間に起き、いつもの電車に乗り、いつものコースで学校に行く。


「誠人君おはよう」


 いつものように美羽がこちらに手を振りながら挨拶してくる。 ああ、いつもの日常だ。


 異世界、召喚、キノコを食べて死んだこと。

 全ては夢だったようだ。


「今日も平和で平穏な日だな」


 そう呟きながら背伸びをする。


 ゴリッ


 鈍い音が鳴り、右手の痛みと共に一気に意識が覚醒していく。俺は樹洞の中にいるようだ。


 夢・・・?学校が?今が?頭がズキズキする。


 痛みを感じることで夢ではないことを自覚し、段々と意識を失う前のことを思い出す。


「俺はキノコを食べて死んだのではなかったのか?」


 樹洞から顔を出すと、そこは魔獣の森だった。外は明るく、太陽の角度からまだ午前中だということはわかった。

 あれから何日たったのだろうか。

 生きていた喜びよりも、エルフィンとリーシャに対して怒りが湧いてくる。


「全部あいつらのせいだ、クソッ。俺は異世界でも馬鹿にされるのかよ」


 思わず樹洞の壁を殴る。右手の痛みに後悔する。


 痛みによって冷静になった俺は違和感に気付いた。違和感という名の新しい感覚だ。

 ああ、そうかこれがスキルなのか。

 俺はスキルについて勘違いしていたようだ。スキルとは便利な道具みたいなものだと認識していた。日本にはない異世界の便利な力。だが俺は理解した。スキルとは、生理現象だったのだ。

 人間は呼吸する。誰に教えられたわけでもなく呼吸する。しかし、その呼吸のメカニズムを知らない。知らなくても問題ない。実際に呼吸できるのだから。

 スキルもそうだ。誰に教えられたわけでもなくスキルを使える。メカニズムを知らないくても使用できる。スキルを習得するということが体の一部、生きる一部になるということだ。

 だからこそ俺は違和感という名の新しい感覚を理解する。

 今生きていることを理解する。


「ステータスオープン」


――――――――――――――――――


種族名 人間(ガイア):菌糸体

名称 佐野誠人(サノマコト) ♂ 16歳


レベル:2/99

HP 101/101

MP  11/11

力  F

体力 F

知性 F

精神 F

速さ F

器用 F

SP 1/10


スキル

状態異常吸収:Lv-

 全ての状態異常を無効化吸収する

寄生茸(キセイタケ):Lv-

 寄生茸化


右手 :

左手 :

副武装:

頭  :

上半身:

下半身:布のパンツ<品質劣化>

腕  :

足  :

装飾品:ステータスタグ<佐野誠人>


所持金:0ルピス


――――――――――――――――――


寄生茸(キセイタケ):Lv-

寄生茸化


 違和感でもある新しい感覚の正体は、<寄生茸(キセイタケ):Lv->このスキルだ。

 昨日食べた原色キノコは寄生茸だった。寄生茸を食べた俺はその毒で死に、その死体を養分に寄生茸が繁殖するはずだった。だが俺には<状態異常吸収:Lv->があった。

 毒による死は無効化され、寄生茸の特質は体に吸収された。結果、菌糸体となってしまった。

 菌糸体になってしまったが自然と自分の特性は把握していた。呼吸と一緒だ。

 左手に意識を集中すると手首から先が寄生茸となった。人の手の形をした茸だ。右手でそれを毟り取ると樹洞の外へ放り投げた。

 左手だった欠損部分は、MPを養分として菌糸再生した。左手はMP5を吸収して元通りになった。

 また、左手に意識を集中すると寄生茸だった左手は人間の手に戻った。

 これが菌糸人間になってしまった俺の能力だ。


 樹洞の中から先ほど放り投げた左手寄生茸の様子を窺う。今、左手寄生茸は草食や雑食動物を誘うフェロモンを出している。これで動物を誘っい寄生して増えていくのだ。


 ガザガサッ


 草影から灰色の塊が現われた。ネズミだ。それにしてもでかい。中型犬くらいの大きさだろうか。昨日の兎といい、異世界の動物は大きい。魔物と言われる所以か。

 その大ネズミは、警戒しながら左手寄生茸に近づく。こちらには気づいていない様だ。

 大ネズミは、臭いで左手寄生茸にを確認した後、勢い良くかぶりつく。二~三口齧ったところで苦しみだし動かなくなった。安全なことを確認して動かなくなった大ネズミに近づいてみると、死骸から寄生茸の成長が始まっていた。

 大ネズミの屍骸がゆっくりと萎びはじめ、それと比例して屍骸から生えた茸が成長していく。

 茸の成長が止まったことを確認して俺はその茸を躊躇なく食べた。

 空腹を満たす満足感と沸騰した血液が体をめぐるような感覚に襲われる。LVUPしたようだ。

 俺の寄生茸は全てを奪う。養分も経験値も魔石もだ。SPもスキルも増えた感覚はなかったのでこの大ネズミには魔石はなかったようだ。


 森を脱出しなくては。


 俺は太陽の位置を確認し、大凡の方角を把握。森の外へ向けて警戒しながら移動を始めた。

 菌糸人間になったがそれだけだ。戦闘能力もない生きているだけの人間もどき、それが俺だ。


「平凡に憧れていたはずなんだけどなぁ。人外になっちゃったよ」





 空が赤く染まるころ、森の切れ目が視界に入った。


「出口だ!」


 森の出口を発見した俺はすっかり気が緩み、声を張り上げ駆け出した。


 シュッ


 右太ももに痛みを感じる。

 恐る恐る確認すると矢が刺さっていた。


 グギャッギャッギャッギァ


 何かが擦れるような、醜い動物の様な、不快な鳴き声が聞こえてきた。

 複数の足音と共にそれは現れた。


 身長は120cm程だろうか、人間の子供サイズだ。人型で緑色の肌をしており、全身に毛はなく、尖った耳に尖った鼻、醜悪な外見をしている。

 恐らくこれがゴブリンという奴だろう。こんな奴らが3匹もいる。

 1匹は、錆びた剣を持ち、もう1匹はこん棒の様な物を持っている。その後ろに弓を持つ奴がいた。恐らくこいつが俺を撃った奴だ。

 せっかく生きていたんだ、こんなところで死ねるか。俺は剣を持つゴブリンに殴りかかった。しかし、矢の刺さった右足がうまく動かず殴る前に転倒する。

 剣を持つゴブリンは、まるで俺を嘲笑するように鳴き、剣を振り下ろし右腕を切断した。


 痛い痛い痛い痛い痛い。


 余りの痛みに声にならない声で叫ぶ。

 痛みと出血で頭が狂いそうだ。パニックになった俺は全身を寄生茸化する。すると、出血は止まり痛みは治まった。だが次の瞬間、俺の視界にゴブリンの振るったこん棒が入る。

 俺はゴブリンのこん棒によって頭を砕かれた。


 二度目の死である。





――パルシャワ王国王都、王宮にて


「どういうこと?何で何で?」


 野村美羽(ノムラミウ)が髪振り乱して宰相に詰め寄る。他の幼馴染達も宰相を睨みつけている。


「何度も言っている通り、今事実確認をしているところです。パトロンであるスペンサー男爵によると、マコトサノ様は、1人で魔獣の森に行かれ行方不明になったと。今から捜索隊を出しますが、あの能力ですと恐らくはもう・・・」

「魔獣の森ね、私も捜索に行くわ」

「お待ちくださいミウ様。貴重な異世界の方々を危険なところに行かす訳には」


「誠人君は貴重ではないのかい?」


 水野優紀(ミズノユウキ)は、宰相の言葉にイラついていた。


「スペンサー男爵という人は、その危険な所に誠人を一人で行かせたの?」


 久住真理(クスミマリ)は、スペンサー男爵に敵意を向けているようだ。


「まこちゃんは僕らの親友だよ。簡単に死ぬわけないさ。詳しい話が聞きたいからさ、そのスペンサー男爵て人を呼び出すか、居場所を教えてくれない?あのまこちゃんが一人で危険な所に行く愚行をするわけがないんだよ」


 そう僕が言うと、3人とも頷き、落ち着いてくれた。ああ見えてまこちゃんは、迂闊なことはしない。ちょっと抜けてるところがあるけどね。


「とりあえず、スペンサー男爵て人に話を聞こうよ。絶対に裏があるはずだ。」

「じゃあ、スペンサーなにがしに話を聞いたら、魔獣の森に行きましょう。私の誠人君センサーなら居場所なんて一発よ。待ってて誠人君!」


「みーちゃん・・・」

「美羽さん・・・」

「美羽ちゃん・・・」


 相変わらずみーちゃんは、まこちゃん絡みだと残念な子になるなぁ。まりっぺもまこちゃんのことになると大概なんだけどね、みーちゃんみたいに駄々漏れじゃないだけマシなんだよなぁ。


「ホズミ様、スペンサー男爵が詳しい話をするためにこちらに向かっているそうです。しばらくお待ちください」

「OKOK」


まこちゃん、僕は君ならどんな状況でもケロっとしていると信じているよ。





――とある公爵家の一室


「それでエルフィン様が婚約破棄をした理由はわかりましたか?」

「以前よりリーシャという名の女冒険者となんというか懇意にしていたというか」

「はっきりと言いなさいキャシー」


 花のように可憐で美しい私の主、公爵令嬢エリザベス=ウェールズ様が眉をひそめている。こんな顔も美しい。中身があれじゃなければ。

 エリザベス様は、ウェールズ公爵家の三女。ウェールズ公爵様と正妻のマリアンナ様ご夫妻が年を取ってからの子供である。だからなのか徹底的に可愛がられ甘やかされている。年の離れた兄や姉にも可愛がられ甘やかされている。出来上がったのは、高慢な我儘令嬢である。なまじ力のある家だから手が付けられない。花のように可憐で美しい外見と高慢で我儘な中身を持つ、私の使える愛しき主である。


「エリザベス様が婚約する以前より付き合っていたリーシャという女冒険者と結婚するためにエリザベス様と婚約破」


 エリザベス様が持っていたグラスが私に向かって飛んでくる。それを怪我をしない角度で受け止める。グラスは砕け散るが、私は意に介さず話を続ける。


「それで、どういたしますかエリザベス様」

「スペンサー家の借金はどうなったの?私に1000万ルピスの負債があるはずよね?あまりふざけたことを言う様なら1000万をすぐに返済しなさいと脅しなさい」


 エリザベス様、それはあなたのお金ではなくてウェールズ家のお金なんですけどね・・・。


「その件なのですが、先ほどエルフィン様が全額返済されたそうです。そのうえでの婚約破棄だそうです」

「どういうことなのキャシー。何故エルフィン様がそんな大金を。私と結婚する以外の道は全て潰したはずなのに」

「現在調査中ですがある程度は予測がついております」

「なんで、なんで、エルフィン様は、私のエルフィンは私の物になってくれないの。欲しい物は全て私の物になっていたのに。なんで・・・」


 原因はその中身ですよ。


「話を続けます。エルフィン様は、召喚者様のパトロンになっていました。支度金が500万ルピス、王都で購入した武具の買取価格が約500万ルピス。それで返済可能です。更に、現在エルフィン様の召喚者様は魔獣の森で行方不明です。1人で挑戦したとなっていますが、恐らくはリーシャという女冒険者が絡んでいるのかと推測します。うまく証拠を集められればエルフィン様を縛る道具になるのではと」


 エリザベス様は、ほくそ笑む。こういう顔も美しい。きっと心の中はどす黒いだろうが。


「証拠を集めなさいキャシー。逃がさないわよエルフィン様・・・」


 私はキャサリン=ロックウェル。代々ウェールズ家に使える従者の家系、ロックウェル家の長女。今日もエリザベス様の侍女件犬として暗躍する。





――パルシャワ王国王都、王宮にて


「あなたがスペンサーさん?」

「はい、私がエルフィン=スペンサーです」


 カケルホズミ様の問いに答える。何故か4人の召喚者様に睨まれている。何故だろう、という顔を心掛ける。

 宰相にマコト様について尋ねられた。予想通り。準備していた答えをする。宰相には疑われていない様だが、4人の召喚者様には訝しげな視線を向けられている。

ここで少し疑問を持った、素朴な疑問だ。その疑問を召喚者様達にぶつけてみた。


「ところで皆様はマコト様のご友人なのですか?」

「そうだけど?」

「そうですよ」

「出来れば友人の枠をこえて・・・」

「そうよ」

「私は、マコト様が1人残っていたので声をかけてパトロンになりました。皆様がご友人と申されるなら何故一緒に行動しなかったのでしょうか?」


 4人の召喚者様達は絶句している。異世界の方々の思考がよくわからない。

 結局、私は何もなく解放された。4人の召喚者様達はそれぞれ何か考え込んでいるようだ。

 さぁ早く帰って身を隠す準備をしなくては。ほとぼりが冷めたらリーシャと結婚だ。





 屋敷に戻ると屋敷中が静まり返っていた。


「リーシャ、リーシャはいるかい?誰かいないか?」


 貧乏貴族だが使用人くらいはいる。だがその使用人の気配もリーシャの気配もない。


「お久しぶりですエルフィン様」

「貴方は確か、エリザベス様の」

「侍女を務めています、キャサリンと申します。誠に勝手ながら使用人達は皆帰らせました。リーシャ様ならこちらに」

「なっ」


 キャサリンが手に持つ縄を引くと、猿轡をされ縛られたリーシャが引きづりだされてきた。


「貴様!」

「お静かになさいませエルフィン様」


 キャサリンはリーシャの首にナイフを当てる。


「ご機嫌麗しゅう、愛しのエルフィン様」


 キャサリンの背後から可憐で美しい女性が現われる。


「エリザベス様、貴方の仕業ですか」

「貴方が婚約破棄などするからいけないのですよ」

「ウェールズ家への借金を全て返済した時点で婚約は破棄されたはずです。元々私は、貴方と婚姻をするつもりなどないのです」

「あら、おかしなことを言いますね。私がエルフィン様のことを愛しているのですよ?それ以外のことなど意味のないことです」

「相変わらず貴方と言う人は・・・。早くリーシャを開放してください。人を呼びますよ?」

「よろしいのですか?召喚者殺しのエルフィ様」

「なっ」

「私の侍女のキャシーは情報を集めるのが得意なの。あなたとその女が召喚者様を騙し、魔獣の森で殺した証拠は全て私の手元にありますわ」


 エリザベスは、ほくそ笑み話を続ける。


「エルフィン様、貴方には2つの選択があります。まずは罪を認めること。私が手を回しますから貴方は無罪になるでしょう。平民のあの女は死刑になりますけどね。もう1つは私と結婚すること。あの女は傷をつけず解放しましょう」

「私は、私は、どうすれば・・・」

「返事は明日まで待ちましょう。ああ、貴方と結ばれるのが楽しみですわ」


 エリザベスは、リーシャを担いだキャサリンと共に、いつの間にか呼び寄せていた馬車に乗り屋敷を去った。

 私は膝から崩れ落ちその場にうずくまってしまった。

 一体どうすれば・・・。返事をくれる者は誰もいない。





――魔獣の森、境界付近


 夜明け間近の魔獣の森。

 俺は、ゆっくりと目を覚ます。確か頭を砕かれたはずでは。

 今の状態を確認するために体を起こし全身を眺める。

 右腕は切断された、体中に噛まれた跡がある。腹部には大きく食いちぎられた跡が。こうやって目視で確認出来るということは頭は無事に再生された様だ。


「頭の再生に一晩かかったという訳か」


 周りを見渡すと、寄生茸の生えた大ネズミの屍骸が3つあった。恐らく俺の噛みついた奴だ。更に奥には、寄生茸が全身にびっちり生えたゴブリンの屍骸があった。他にゴブリンの姿はなく気配もないのでこのゴブリンが死ぬのを見て逃げ出したのであろう。

 

「こいつは俺の腹に食いついたのか。ゴブリンは人間を食うのか」


 ならば逆に喰らってやる。

 大ネズミとゴブリンに生えた寄生茸を全て喰らう。2度ほどLVUPの感覚に襲われた。

 寄生茸を喰らったことでLVも上がり、体の傷や噛みつき後も治った。右腕は、手首の部分までは回復したがそれ以上は再生しなかったのでMP5を養分として再生させた。

 体を菌糸体から人間に戻すと何処がというわけでもなく違和感を感じる。この新しい感覚はスキルだ。さっき喰らった寄生茸の養分にスキルが宿った魔石が含まれていたのであろう。


パンチ:Lv1/5

拳が鋼鉄化するパンチ


 素手の拳が硬くなるスキルだ。スキルを身に付けた時点でどういうものか自然と理解している。

 Lvが最大まで上がればダイヤモンドくらい硬くなると思う。ただそれだけだが。

 そんなパンチも菌糸体になった時は便利かもしれない。茸の拳では簡単に砕けてしまうからな。


 俺は、ゴブリンが所持してたであろう、こん棒を拾い、森を出る。

 さぁ帰るんだ、人の世界に。





 森から王都へ進む道のり、王都へ近づくと段々と商人や旅人の姿が増えていく。

 王都を囲う城壁の城門への列に並ぶと、同じく並んでいる人の視線を強く感じる。

 改めて自分の格好を思い出す。パンツ一枚でこん棒をもったボロボロの少年。スラムの子供にしか見えないよなぁ。実に怪しい。


 俺の順番になり、訝しむ門番の視線を無視してステータスタグを提示する。門番は、20×10×5cmくらいの上部がガラスのようになっている黒箱の上にタグを置く。この道具、冒険者ギルドや商店にもあったがタグを読み取る魔法道具なのかな。

 タグを読み取ればステータスが・・・。

 今、俺のステータスは<種族名 人間(ガイア):菌糸体>になっていることを思い出した。

 何があっても良いように身構える。


「マコトサノ様、ご無事で何よりです」


 門番に敬礼された。

 別室で詳しい話を聞くと、俺は魔物の森で行方不明扱いとなっており、既に捜索隊が森に派遣されているそうだ。そんな時に王都に行方不明だった俺が現われた。いまここという奴だ。

 門番の1人が王宮へ報告に行っている間にステータスタグについて聞いてみた。<種族名 人間(ガイア):菌糸体>の扱いについて重要な事案だ。

 結論から言うとまったく問題なかった。魔法道具によるタグの読み取りは、名前、身分、犯罪歴、ルピスについてであくまで身分証としての機能だそうだ。ステータスについて無断で読み取ることは犯罪で、タグによるステータス表示も本人の意思で任意の項目を非表示にすることが出来るそうだ。そんなの聞いてなかったよ。

 冒険者の間などでは、表示するのは名前とステータスくらいで、スキルや装備品、所持金を隠すのが一般的だそうだ。

 確かに、装備品や所持金がそのつど表示されれば物騒だよなぁ。

 しかしこれは都合が良い。今後人前で表示させるときは<種族名>は隠しておこう。


 王宮との連絡が付き、衛士と役人がやってきた。今回の事情説明のため王宮に上ることになった。

 その前にパトロンと話をしたいことを伝えると、エルフィンさんと王宮で会えることになった。

 色々と問い詰めて奴に痛い目を見せてやる。



 


「誠に申し訳ありませんでした、マコト様」


 部屋に入るなり平謝りするエルフィンさん。

 王宮の客室に通された俺とエルフィンさんは2日振りの邂逅を果たす。たかが2日だが俺には長く感じた。


「エルフィンさん、色々と説明して貰えますよね?」


 最初から俺を騙す目的ならもっと簡単だったはずだ。それなのにエルフィンは懇切丁寧に状況の説明をしてくれた。リーシャさんもそうだ。魔獣の森で見殺しにするのならば懇切丁寧に戦い方や森での立ち回りを教えてくれたのはおかしい。

 結果としては悪意しかなかったが、その前に感じた善意は嘘ではないと思う。俺がお人好しだけなのかもしれないが、エルフィンさんとリーシャさんが悪い人には思えないのだ。

エルフィンさんに事情を聞くことにした。


 エルフィンさんがゆっくりと自分の置かれた状況を話し始めた。


「私は罪を認めます。自分の欲のため、目的のためマコト様を騙したことを。マコト様の気が済むまで罰儲けましょう。ただ1つだけお願いがあります。今回のことは私1人がやったこと。リーシャは無関係ということにしてもらえないでしょうか」


 そう言うと、エルフィンさんは土下座した。土下座の文化あるのかと変な所に感心してしまった。


「そうですね、悪いようにはしませんよ。それにエルフィンさんには罪を償ってもらいますから覚悟をしておいてください」


 青い顔をしているエルフィンさんをそのままに俺は衛士を呼び、ある依頼と伝言頼んだ。


 さぁ断罪の時間だ。





 謁見の間にて、王座に王が、そして両側に貴族や重役達が並ぶ。

 俺を心配してか幼馴染達も並ぶ。他の奴らは、やっぱりいないか。

 俺は王座の前で頭を下げて王の言葉を待つ。


「面を上げよ」


 俺はゆっくりと頭を上げる。一呼吸おいて王は話を続けた。


「サノ殿、まずは貴殿の無事を祝おう」

「ありがとうございます」

「早速だが、今回の件について説明してもらっても良いか?情報が錯綜しておってな。特にスペンサー卿が貴殿を騙したなどという話まである」


 俺はあたりをゆっくり見まわし、視線をウェールズ公爵の所で一瞬止めてから口を開いた。


「結論から申し上げますと、今回私が魔獣の森で消息を絶ったのは、私の不徳の致すところです」


 一度言葉を斬り一呼吸おいてから話を進める。


「皆様もご存じの通り、私のステータスは異世界人の中でも最弱です。なのでパトロンになろうという方はおられませんでした。そんな私に名乗りを上げたのが、スペンサー卿でした。この異世界で友人も仲間もなく孤立した私に手を差し伸べてくれたのは卿だけでした」


 幼馴染達が何とも言えない顔をしながらこちらを見ている。


「スペンサー卿は、親身になってこの世界のことや戦い方などを説明してくれました。そしてパトロンなのにまともにサポート出来ないことを詫びていました。まともにサポート出来ない理由、そしてそんな状況で無理をしてパトロンになってくれた理由を聞いた所、最初は渋っていましたがあることを打ち明けてくれました」


 話を止めてエルフィンさんを見る。頷いてくれたので話を続ける。


「スペンサー卿は商会を持っていましたが、経営不振に陥り大量の負債を抱えていたのです。経営に問題はなかったそうですが、ある時から急に得意先が理由もなく取引を停止したそうです」


 ウェールズ公爵に視線を向けてから話を続ける。


「そんなスペンサー卿に、ある条件と引き換えに負債を肩代わりすると提案する貴族の方がおりました。それはその方のご令嬢と婚姻するということでした。スペンサー卿は悩みました。卿には幼少の頃より結婚を約束した女性がいたのです。彼女を裏切る訳にはいかない、しかし商会が潰れれば取引先や従業員、使用人たちに迷惑がかかる。苦渋の決断の末、そのご令嬢と婚約したそうです」


 再度、ウェールズ公爵に視線を向ける。俺の視線の意味に気付き始めた貴族達が興味深そうにウェールズ公爵の表情を窺い始めた。


「それが卿がパトロンになってくれた最大の理由です。私が活躍すればパトロンになった卿の発言力も上がり、その貴族に頼らなくても負債を返済できるかもしれない。一種の賭けだったそうです。そんな孤立無援で戦う卿の境遇に私は自分を重ねました。それで国から頂いた支度金を卿に預けたのです」

「卿の負債は莫大でした。支度金だけでは足らず私は国の支払いで購入した武具を売り、そのお金も卿に預けました」


 俺は、王に向かって深く頭を下げる。王は召喚者が好きにして良い資金などで問題ないと話の先を促した。


「その資金で、卿は負債を返済し婚約も破棄しました。しかし、それでも問題が残りました。相手の家柄が格上だったのです」


 今度は、はっきりとウェールズ公爵を見る。何度か視線を向けているので周りの貴族達は、薄々スペンサー卿の相手を察していた。

 ウェールズ公爵は苦い顔をしながら大きく首を縦に振り、名前を公表することを暗黙で承諾した。


「今回問題となったスペンサー卿のお相手のご令嬢は、ウェールズ公爵家の三女。公爵と男爵とでは婚約破棄をしたとはいえ、遺恨が残ります。そこで私は、自分が活躍すればパトロンのスペンサー卿の株があがり発言力を増すのではないかと思い、単独で魔獣の森に向かってしまいました」

「それが行方不明騒ぎの真相か」

「はい。恥ずかしながら魔獣の森に行く途中で盗賊に襲われ身ぐるみを剥がされてしまい、安全に王都に戻れるようにと身を隠しながら移動していたため、それが行方不明疑惑に拍車をかけたのかと思います」

「サノ殿話よくわかった。スペンサー卿、疑って悪かったな」


 エルフィンさんは深く頭を下げる。だがこれで終わりではない。


「王様、一つ申し上げたいことがあります」

「なんだ?」

「すでに宰相殿に話を伝えていますが、スペンサー卿が結婚を約束した女性が攫われ、スペンサー卿は脅迫されているのです」

「なんじゃと」

「脅迫内容は、婚約破棄を撤回しなければ攫った女性を殺すということです」


 ウェールズ公爵を見ると顔を青くして慌てている。負債を負わせ借金のかたに婚約。ここまではウェールズ公爵も関与していたが、ここから先はご令嬢の独断なのだろうな。


「このことはすでに、宰相に伝え動いてくれているはずです」


 すると謁見の間に伝令が入り、宰相に書状を渡し耳打ちする。宰相は書状を確認し王に渡すと全員を見渡すとスペンサー卿に向かって話し始めた。


「スペンサー卿、リーシャは無事に保護いたしましたでご安心を」


 宰相は全員に向かって説明を勧めた。


「先ほど話題となった誘拐にいては騎士団の活躍により解決しました。取り調べはまだ途中ですが、犯人は、ウェールズ公爵家侍女のキャサリン=ロックウェル。自分が仕えるウェールズ公爵家三女エリザベス=ウェールズが一方的に婚約破棄を受けたことに怒り犯行に及んだそうです。今の所、キャサリン=ロックウェルの単独犯行の様です」


 トカゲの尻尾切りか。

 ウェールズ公爵を見るとほっとした表情をしている。王や宰相はこれ以上突っ込む様子もなので事は荒立てないということか。これで丸く収めろと。

 エルフィンさんの様子を窺うと俺に向かって頷いていたのでこれ以上は追及しないつもりか。

 しかしまぁ、釘くらいは指しておくかな


「王様にお願いがあります」


 ウェールズ公爵のことはこれで大人しくするからこちらのお願い聞いてね、の暗黙の了解は通じたかな。


「スペンサー卿とリーシャの結婚の後ろ盾になってもらえないでしょうか?貴族と平民、愛を貫いた二人の結婚を王が後押しする。素晴らしい話になるのではないでしょうか」


「よろしい。後ろ盾となろう。スペンサー卿、我が名において卿の結婚を祝福しよう!」





「マコト様、本当にありがとうございます」

「ハッピーエンドってことで気にしないで」

「しかし、私はマコト様を騙すという罪を犯しました。そんな私が・・・。リーシャとて許容しないと思います」

「だから気にしないでって。エルフィンさんが俺のパトロンになるて声をかけてくれたことは本当に嬉しかったし、リーシャさんは、最後まで懇切丁寧に指導してくれたんだよ?多少はね、納得しないこともあったけど終わり良ければ総て良しだよ」


「ああ、あとエルフィンさん達にはちゃんと罪は償ってもらうよ?俺は転生者の中で最弱だからさ、そんな俺を支えるとなるとこれから大変だよ。それがエルフィンさんが償う罪さ。覚悟しておいてねパトロン!」


 エルフィンさん号泣していた。

 釣られて、俺も号泣した。


「我が救世主マコトサノ様、このエルフィン=スペンサー、貴方を支える(パトロン)となりましょう」


 俺達は固い握手を交わした。

次話はepilogueになるので、文章量の関係から早めの更新になると思います。



現時点でのステータス


――――――――――――――――――


種族名 人間(ガイア):菌糸体

名称 佐野誠人(サノマコト) ♂ 16歳


レベル:5/99

HP 104/104

MP  14/14

力  F

体力 F

知性 F

精神 F

速さ F

器用 F

SP 1/10


スキル

状態異常吸収:Lv-

 全ての状態異常を無効化吸収する

寄生茸(きせいたけ):Lv-

 寄生茸化

パンチ:Lv1/5

 拳が鋼鉄化するパンチ


右手 :

左手 :

副武装:

頭  :

上半身:絹の服

下半身:絹のズボン

腕  :

足  :皮の靴

装飾品:ステータスタグ<佐野誠人>


所持金:0ルピス


――――――――――――――――――

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