1話
「おめでとうございます~!」
突如くす玉が割れクラッカーが爆ぜる。
思考がまとまらない。
今しがたまで会社の同僚と飲んでいた
いつも通りの居酒屋で会社への愚痴、上司への不満それらを聞き流しながら
他愛ない雑談を肴に飲んでいたはずだ
確かちょっとトイレと移動しようとしたときに立ちくらみがした。
ふらついてテーブルに手を突こうとしたのになぜか空振りして倒れちまったんだよな
飲みすぎたのかな?まさか酒が弱くなったなんて
と顔を上げるとこれだ
なにやら金髪のエロい恰好したオネーチャンが満面の笑みでこちらにクラッカー向けて立っている
キャバのおねーさんのドレスのセクシーさのまま清楚さを足したような不思議な感じである。
純粋な白人顔ではなくどことなくハーフっぽい輪郭全体の造形は美人ともいえるのだが目元が少しパッチリしすぎている。そこがどうも印象を可愛いに落としているような気がするが。どちらにしても一生かかってもお目にかかれないような美人であることに間違いはない
「貴方は厳正なる審査の結果勇者として選ばれました~♪」
ソプラノヴォイスで歌うように言葉を発する。
「・・・は?」
たっぷり100は数えたくらいでようやく言葉の意味が脳に到達してきた
ただどうリアクションしていいのかも分からず口からはただ間抜けな声を出すだけだ
こちらの思考回路が動き出したことを確認したかのように彼女は微笑み話し出す
「まずは初めまして天鷺譲治さん。私の名はイリスティア。あなた方の言葉で言うなら神ということになりますね。」
まあ確かに女神級の美人だよなぁ、とか思いながら徐々に思考が覚醒してゆく。
よくあるよね?こういうパターン。日本人なのにあきらかにパッキンの神様が出てくるなんてお約束ですよね。まさか・・・
「はい!♪あなたは先ほど無事御臨終なさいましたのでぜひ勇者に転生していただこうかと♪」
「ちょっと待て~~!!!、説明端折りすぎだ! きちんと説明しろよ!説明!」
肩をつかんで女神をがくがく揺らしながらツッコミを入れる
無事なら御臨終しないだろ、とか御臨終即勇者って意味わからねぇよ
これ男神なら胸倉つかんで盛大に威嚇なんだが流石に美人だとちょっと手加減
それでもいきなりの勢いに驚いたようで一気に青ざめて涙目になってしまった。
いかんいかん。オンナノコは優しく扱わねば。まだ敵じゃないしね
手を放してとりあえずにこやかに説明を求めてみた。
最初のフレンドリーさはどこへやら少し離れた場所でちょっと怖がりながら説明をしてくれた。
とりあえず自分は死んでしまったらしい。アルコールと脳血栓のコンボであっという間だったそうだ。
まあしょうがないね。まあ末っ子だし両親には兄弟もいることだし大丈夫だろう。独り身だし幸いなことに彼女はいない。最近思うところもありPCのヤバイファイルはすべて削除しているからこれも問題ない。
「えらくアッサリ受け入れるわねぇ・・」
なんか横で美人があきれ顔になっとる。怖がっていたのがだんだん残念な子を見る目になってる気がするというかキャラ変わってません?さっきまでの高嶺の花オーラどこにいった?
「あんな魔獣みたいな勢いでつかみかかってきて何言ってるの!?キャラ作るのも疲れたわよ!」
だそうな。キャラだったんだ。まあ何処でも女ってのはオンとオフがあるんだろうね。
で、転生先は異世界エタナフェイア。剣と魔法の世界。お約束の勇者ってことは魔王討伐のチート転生ですね。じゃあ聖剣とかドラゴンとか従えてってオーソドックスなパターンですかね?
「その能力はもう品切れよ」
「どういう意味?品切れって意味がよくわからないんだが」
女神は少し考えをまとめる仕草をし人差し指を立てて言う
「まず前提条件。エタナフェイアにはステータスシステムがあるの。ステータスって念じてみて」
言われるまま念じてみる。すると脳内にゲーム的画面が映し出される
【名前】:天鷺譲治(****)
【HP】:0
【MP】:0
【攻撃力】:0
【固有スキル】:( )
【超級スキル】:なし
【上級スキル】 :なし
【一般スキル】 :なし
ほぼ名前以外は空欄だよな まあ死んでるからしょうがないんだけど
「固有スキルの欄を見てみて。無しじゃなくて空欄になってるでしょう?」
「ほんとだ。他はなしなのにここだけ空欄。ってことは一つしか入れられないってことか?」
うなずきながら彼女に答える。
「固有スキルは魂にまとわせるスキルだから。成長はしても複数持つことはできないのよ」
基本的にスキルには固有>上級>通常 この三つがあるらしい
通常を鍛えれば上級に。上級を極めれば固有になるらしいのだが上級を固有にするにはよほどの才と運がなければ達成は困難らしい。達人ってことやね。要するに
「そして勇者には一つ固有スキルとスキルポイントを与えて送り出すの。ただ・・・」
何か言い淀んでる。何か失敗を報告するみたいな感じに言い出したくない雰囲気なんだが
「ただ・・・・」
「ただ?」
促してみた。彼女は半ばあきらめと申し訳なさの混じった表情でこちらを向いて言葉にした。
「ただ、現在エタナフェイアに送り出した勇者 500人。あなたに与えるべき有用なスキルが残ってないの」
手を合わせてごめんねポーズで上目遣いにこちらを見る女神 どないせーちゅーんですか?
異世界にまだたどり着いてません。絶賛落下中ですが転生インターミッションはもう少し続きます