かつて規格外だった少女は、更に規格外な少年のせいで少しおかしい程度で済むのです①
「おう、ミシェル!
この子がお前の妹だ!」
と言うわけで、妹が生まれた。
シャルロット・パルーシャ。
まさに7年前までの俺の体だ。
魔力身体能力その他はそのまま。
「うぎゃ、うぎゃー」
今、全国の兄の気持ちが分かったかもしれない。
妹は可愛い!
可愛いは正義だ!
よって妹は正義だ!
見事な三段論法展開。
ほら、あれじゃん。
俺の妹がこんなに可愛い○○○○○とかいうラノベもあるし。
そうまさに、最高にハイって奴だァァァァ!
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「にーさま、にーさま。
おもしろいおはなししてー」
「みしぇるさま、みしぇるさま、私も聞きたいです」
か、かわええ。
現在三才のシャルロット。
そして現在四才のアリーシャ。
シャルロットは昔から構っていたせいか、一番最初に喋った言葉が『にーさま』だった。
親父が凄い悔しがり、お袋が『あらあら、シャルロットったらミシェル大好きだものね。仲が良くて私は嬉しいわよ』と言っていた。
アリーシャはこのとき既にシャルロットと一緒に行動している。
原因は俺。
『アリーシャはシャルロットの専属になるんだから、一緒に行動させた方がいいんじゃない?』と親父に言ったら、『そうだな、ミシェルがそう言うんならその方が良いだろう』と言って現在は完全に幼馴染みポジションにいる。
いくら貴族でお金持ちでも、退屈なのはどうしようもない。
本を金で買ったとしても、三才の子供が読めるようなものは殆んどない。
劇を見に行くには王都にいく必要があるし(パルーシャ領には劇場はない)、することと言えば走り回るか人に話を聞く位しかない。
手や顔が少し砂で汚れているから、恐らく外で遊び疲れて俺のところに来たんだろう。
「それなら先ずはてを洗ってきな。
俺は部屋にいるから終わったら部屋に来るといい」
はーい、と返事をするとトテトテと二人で洗面所まで走っていく。
「それではお茶とお菓子の用意をしなくてはなりませんね。
私はお茶の用意をしますから、食堂にお菓子を手配しなさい」
側のアルが近くのメイドに指示をして俺の後ろをついてくる。
さて、今日はどんな話をしよう?
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俺の部屋。
奥の窓の近くにベッド、その横に読書机、部屋の真ん中にはソファーとガラステーブル。
そのガラステーブルを挟んで俺は話を始める。
「昔々、桐壺帝と言う人がいました。
彼には沢山の側室がいましたが、そのなかに桐壺の更衣と言う女性がいて、彼女を特に大切にしていました」
彼女は光源氏と言う玉の男子御子(玉のように可愛らしい男の子)を生みましたが、周りの嫉妬により病気がちになり、ついにはなくなってしまう。
皆さんご存知、源氏物語・光源氏の誕生だ。
このあと桐壺の更衣に似た女性、藤壺が登場する。
あれこれあって、光源氏はマザコンとロリコンを拗らせ、あっちこっちの女を愛していく。
お姉さん兼義母属性の藤壺、藤壺似のロリっ子若紫(後の紫の上)、ツンデレ許嫁属性の葵の上、果ては歳上オカルトヤンデレの六条御息所その他あれこれ女性を巻き込み、最後は死ぬと言う何かもう救い用のない物語だが、更級日記の作者である菅原孝標女など、当時の人には人気だったらしい。
あ、すっかり忘れてたけど、この話滅茶苦茶長かったわ。
てへっ!
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日はすでに西の地に落ちようとしているのに、俺はまだ解放されない。
何故か源氏物語は少女二人に大人気、と言うか途中からメイドさんたちも集まって、どっかの空き地の紙芝居やさん見たくなっている。
「まあまあ、メイド達も皆話を聞き始めるなんて。
ミシェルのせいで邸がたち行かなくなっちゃうわ」
いや、お袋も何でこんなところにいるの?
終わったのは何とか雲隠の所まで。
このあと宇治十帖まであるんですけど。
いや、ここまででおしまいってごまかせるんじゃないか?
まあ、めっちゃ疲れた。
「アル、お茶入れてくれ。
話し疲れた」
アルから紅茶を受け取りそれを飲み干す。
さて、このあとは軍の調き……もとい訓練をしなくては。
めんどくせぇなぁ。




