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異世界転生の砦姫  作者: 姫都幽希
終わりへの旅路
54/65

砦姫

 ドアに手をかけ……


「まって!」


 シャルロットが声をかけてくる。


「お兄さん、ちょっと悲しそうな顔をしてる」


 なんて鋭いんだろう。

 思えば来たときから彼女はずっと俺に気をかけていたんだろう。

 笑顔で話しかけて、俺が自分から話せるようにお膳立てまでしてくれていた。


 だからこそ申し訳ないと思う。


 既にこの十数年間の彼女の体と未来を奪い、挙げ句の果てに自分で死のうとしているんだ。

 皆が幸せになれるように、とか、自分がしなくちゃ誰もできない、とか言い訳をして、罪悪感から逃げようとしている。


「ごめん」


 それはほとんど意識もせずに口から漏れていた。

 何を謝っているんだろう。

 もう後戻りもできないと言うのに。


「お兄さん。

 何を謝っているんだか、私は馬鹿だからわかんない。

 でも」


 シャルロットがこちらをまっすぐな目で見る。


「いいよ」


 それが彼女の答え。

 何もわからないし、何を謝っているんだかもわからない。

 自分の知らないところで物語の主役の座を奪われ、その物語はもう終わろうとしているのに、それでも許すと彼女は言った。


「ただ、二つだけお約束。

 1つは、絶対にここに帰ってきて他の話を聞かせてくれること。

 もう1つは、さっきのお話みたいに、めでたしめでたしで終わるように頑張って!」


ーーーーーー


 あれから数時間後。

 目の前には魂魄龍プシュケー。

 白い馬の骨を芯にして、身体中から黒いタールのようなものが垂れている。


「さて、正々堂々とは言えないかな。

 今回は不戦勝だ。

 次は決着をつけようじゃないか」


 自分の魔力を回転させる。

 それを薄いカーテンのように広げてプシュケーにかける、イメージをする。

 そのまま自分の中に引き込むように閉じていき……


 ここはどこだろう?

 さっきまではプシュケーの前にいたはずだ。

 しかし今は石畳の引かれた中世の町の中にいる。

 何かに誘われるかのように俺は路地の裏に入っていく。


 物凄い異臭がする。

 パルーシャ領はこんな感じではないが、中世の路地裏なんてこんなものだ。

 どぶには水とさえ言えないような黒い液体。

 端には腐った動物の死体。

 壁や地面は血があちこちに飛び散り、場合によっては死体が落ちている。


 一番奥、袋小路に出た。

 壁には血だらけの少年が一人。

 顔は殴られたのか、青いアザができている。

 片手は硝子の破片が刺さり、腹部は出血している。

 少年の回りには血がどんどん広がっていく。

 誰が見ても、もう助からないだろうと言うほどに傷ついている。


「ここまで頑張ってきたが、もう終わりか……。

 清々し……くは無いな。

 悔しい、悲しい、もっと生きていたかった。

 貴族になれなくても良いから、普通の平民として暮らしたかったのに。

 こんな腐った世界は、呪われればいいのに」


 そして少年は目を閉じた。

 俺は、何も言うことも何とかすることも出来なかった。


ーーーーーー


 ここはどこだろう?

 さっきまでは俺は中世の路地裏に居たはずだ。

 目の前にあるのは苔の生えた塔。

 何かに誘われるかのように俺は塔の中に入る。


 塔の最上階。

 そこには一人の少女が居た。

 地面を這うほどまで伸びた青い髪は煤けたように汚れている。

 少女は机の引き出しからナイフを取り出すと躊躇いなく自分の手首を切り裂いた。


「憎い、憎い、憎い!

 お父さんは私を売った。

 私を買った貴族の妻は私をここに幽閉した。

 ここには誰も来ない。

 誰も知られずにただ朽ちていく位なら、世界を呪ってここで死のう」


 そんな彼女の前にさっきの少年が現れる。


「なら、僕と一緒に世界を呪おう。

 呪って呪って呪って、この世界を全部壊してしまおう」


 少年が伸ばした手を少女は躊躇いなく握る。


 俺は、何も言うことも何とかすることも出来なかった。


ーーーーーー


 次は平原の戦場。

 捨て駒にされた人たちを少年たちは吸収した。


 次は城の牢獄。

 次は娼館の中。

 次は奴隷市場。

 次は、次は、次は、次は……。


 俺は世界の全てを巡って、色々な最後を見て、なにもすることが出来なかった。


 急にプシュケーの前に戻る。

 目の前にはさっきの少年たち。


「全部を見ただろう。

 この世界は救いようがない。

 だから俺たちと一緒に全てを壊してしまわないか?」


 それもいいかもしれない。

 全てを無かったことにすれば何も背負わなくて……


『1つは絶対にここに帰ってきて他の話を聞かせてくれること。

 もう1つはさっきのお話見たいに、めでたしめでたしで終わるように頑張って!』


 いや、それじゃあ駄目だ。

 確かに世界を無かったことにすれば何も背負わなくて済むかもしれない。

 でも、誰もそれを知らなくても、俺だけはそれを知っている。

 それじゃあ駄目だ。

 自分を騙しているのではめでたしめでたしでは終われない。

 だから、


「だが断る!」


 どんな思い期待も責任も全部背負う。

 それが砦姫でシャルル・パルーシャで白銀山一樹なんだ。


 どんな敵からも見方を守り、味方の命を背負う砦。

 民に進むべき道を示し、全ての行動の責任をとる大帝シャルル

 そして何より、


「全部を背負いがちなシャルロットを守るお兄さんだから」


 ちょっとハッピーエンドに行ってきます。

 何か書いててすごく恥ずかしくなった。


 これで異世界転生の砦姫、完結です。

 後日談を全て終えたら、きっとめでたしめでたしで終わります。

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