終りへの旅路
『封印の方法は君の中の人達が知っている。
これは君にしか頼めないんだ』
「何故?」
白い世界が急に色と形を帯び始める。
天井が出来上がり、壁が出来上がり、四方にステンドグラスが出来上がる。
ステンドグラスの模様は何かの物語の一節だろうか。
一枚は三人の人が描かれている。
真ん中には一人の女性が、両側には花束を持った二人の男性が。
一枚は白い龍の前に立ち塞がる先程の三人。
一枚は白い龍の胸に短剣を突き刺す女性。
一枚は黒い翼を広げながら天へと手を伸ばす女性。
白い玉が数倍に膨れ上がり、半分に割れる。
現れたのは一人の女性。
白い翼に銀の髪の毛。右目は黒く染まり左目は銀になっている。
『理由を説明する前に私の自己紹介をしよう。
私はアンリ。
パルーシャ家に生まれ、世界を救うことを女神に頼まれた聖女だ』
「パルーシャ、しかも聖女か。
なるほどご先祖様か」
『ここは私の空間、私の世界。
命を懸けて人と魔族を守り、神になった私の世界。
私が君に頼んだ理由、それは君がこの世界の人間では無いからだ。
私の力はこの世界の人々を守るために有るんだ。
だからこの世界の人間に命を懸けろ、と言うことは出来ないのだ。
だからこの世界の人間ではない君を呼んで世界を救わせようとしたんだ』
「最初に、なにもしなくていいと言っていたのは?」
『あれは嘘だ。
すまないな、だが仕方のない事だったんだ』
「ならば何故、今俺にばらしたんだ?」
『この世界は君に沢山の物を既に与えただろう?
愛情、友情、人情。
それは君をコントロールするための手綱であり、この世界に繋ぎ止める鎖なんだ。
大切なものができてしまった時点で、君は断ることは出来ない。
そうだろう、シャルロット・パルーシャ、いや、白銀山一樹?』
白銀山一樹。
それは前世の俺の名前。
「何でこのタイミングで俺の名前を出すんだ?」
『二つの意味がある。
一つ目は、完全に君の動きを縛るため。
この時点で僕の言うことに従うことは、前世と決別してこの世界で生きることを決めたと言うことだ。
二つ目は、後戻りをさせること』
「後戻り……?」
何を言っているのだろうか?
『つまり、僕も少しは君に負い目が有るってことだよ』
「後戻りが……出来るのか?」
空中に写し出されるのはあのときのホテルの映像。
『あの時、僕が君の魂を拾い上げなければ君は奇跡的に息を吹き替えしていた。
この時に戻って、白銀山一樹としての一生を終えることも可能だ。
君の今までの記憶はすべて消えて、罪悪感を感じる必要もない』
元の世界に戻れる。
何もかもを忘れて、前と同じ幸せな生活が出来るのだ。
何もかもを忘れて元の世界に帰るか、命を懸けて世界のために戦う。
なるほど、答えは分かりきっているな。
「俺は世界を救うために命を懸けるつもりはない」
『そうか。
それが君の選択か』
「だが、皆を見捨てるつもりはない!」
十数年も一緒にいた仲間であり、家族なんだ。
見捨てられるはずはない。
「俺は第三の選択を提案する。
元の世界には帰らず、大切な人だけを守る」
『どうやって?
領の全体に決壊でも張るつもりか?』
「いや、そんなまどろっこしいことはしない。
仲間のためにプシュケーとやらを封印する。
その結果で世界が救われようと知ったことじゃない」
自分の過去を捨てるつもりはない。
でも誰も見捨てない。
これが俺の選択だ。
『全く。
先祖には似ずにめんどくさい性格だ。
まあ、行動はそっくりだがな』
「話はそれだけか?
帰るぞ」
『いや、最後に一つ。
白銀山一樹、感謝する。
女の成りをしていても、お前は一丁前に男だ』
遅くなってすみません!
あと十話程お付きあいください。




