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少年魔術師と契約獣  作者: あさぎ つくも
少年魔術師と契約獣の出会い
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4




ルーク自身も珈琲を準備する。

互いに好きな物を味わい、人心地つく。

「最近、どうだ?」

鋭さを引っ込めて穏やかな表情で、バジルドはルークに話しかける。

団長の仮面を取った彼は、ルークの養い親の表情だ。

「どうって・・・普通ですよ」

「ほう?」

「毎日授業ばかり・・・変化なしですよ」

ハハッと乾いた笑みを浮かべながらルークは、クッキーに手を伸ばした。

殆ど授業に出ないでさぼっています・・・なんてことはもちろん言えない。

バジルドは、学園でのルークの様子は知らない。こうして、時々他愛もない話の中で報告するくらいだ。

学園の連中もルークが、バジルドの養子であるとは誰も知らない。知っていたら大騒ぎになってしまうからだ。だから、ルークさえ、口を滑らせることがなければ大丈夫だ。

「そうか・・・・入学してどれくらいになるんだったか」

「5年です」

「5年・・・か」

フッと小さく笑い、バジルドはミルクティーを一口飲む。

含みのあるその笑みに、ルークは内心穏やかではない。

「先日、俺の後輩から久しぶりに連絡があってな?」

「え?」

「学生時代によく俺に懐いていた可愛い後輩だ。何かあったかと思えば面白い話を聞いてな」

バジルドは、カップをテーブルに置くと、長い足を組んでその上に頬杖を付く。

端正な顔立ちの人は、何をしても絵になるな、とぼんやりとルークは思った。

「今、そいつは魔術学校で教鞭をとっているそうだ」

「っへ、へぇ・・・」

何やら、雲行きが怪しくなってきてはいないだろうか。

背中に冷や汗を感じながら、相槌を打つ。

「名前は、パメラスと言うんだが・・・知っているな?」

ギクリと肩が震える。

パメラス・・・その名を知らないはずはない。事実今日彼の授業はあったのだから。

こんな身近に養父と繋がりがある人間がいたなんて・・・ルークは、心の中で頭を抱える。

「パ・・メラス先生には、よくしてもらっています」

「そうか。あいつは優秀だったからな・・・それでだ。パメラスから不思議なことを聞いた・・・・俺が、手塩にかけて育てているはずの弟子が、『落ちこぼれ』と呼ばれていると、な?」

「・・・・」

「授業もまともに出ず、試験は無記入・・・・はて、俺の弟子は、そんなに出来が悪かっただろうか?

戦闘騎士団、団長のこの俺の弟子が?」

所々に棘を感じるのは恐らく気のせいではない。

たらたらと嫌な汗を掻きながら、ルークはバジルドを見る。

先程までの柔和な表情はいつしか隠れ、鋭い目、威圧感・・・戦闘騎士団、団長その人がそこにいた。

そこにいるだけでも肌を刺すようなプレッシャー。自然とルークの視線は下に向く。

「何か、弁明はあるか?」

授業をさぼり、試験も無記入。それに対して言い訳はあるのか。納得させられるようなものがあるのか。

そうバジルドはルークに問いかける。

「・・・・・」

サボりや無記入に対して養父であり師匠である彼を納得させられるようなものは、勿論あるはずがない。

だんまりを決め込むルークに、バジルドはため息をつくと徐に立ち上がり、ルークの傍まで行くと無言で立ち上がらせた。

「来い」

そう一言言うとバジルドは、部屋を出ていく。

一人、残されたルークは、頭をガシガシを掻く。

「あーーーー最悪だ」

まさか、ばれてしまうなんて・・・悪いことは隠し切ることは出来ない、そういうことなのか。

深く、深く肺が空になるまで息を吐き出したルークは、トボトボと師匠の後を追うために重い足取りで部屋を出たのであった。

二人が、向かった場所は家の庭だった。

そこそこ広い庭は、幼い頃よりルークがバジルドに稽古をつけてもらう場所として使われていた。

緑の芝生一面の庭には、植物は一切植えられてはいない。本当にただの庭であった。

適度な距離を置いて立つルークとバジルド。

「これを持て」

バジルドは、手に持っていた二振りの剣の内の一振りをルークに投げてよこした。

反射的に受け取ったルークは、やっぱり・・・と肩を落とす。

「師匠・・・」

「俺の弟子が、本当に『落ちこぼれ』だったか、試してやる」

バジルドが鞘から剣を抜く。

すらりと擦れる音を立てながら抜ける剣は、紛い物ではなく本物だ。

刀身を抜いた鞘をそのまま地面に捨てる。

片手で持ち、構えるバジルドにルークは、少し焦燥する。

「し、師匠、本当にするんですか?」

「当たり前だ。これは、訓練も兼ねている」

そう言われてしまえば、弟子である自分は否やを唱えることは出来ない。

仕方なく鞘から剣を抜いたその刹那、風を切る音にルークは咄嗟に剣を盾にした。

キインッ・・・、と剣と剣が交じる音が庭に響き渡る。

「―――――悪くないな」

「っいきなりっ」

グッと力を入れてバジルドの剣を弾き返す。そのまま彼から距離を取ったルークは、剣を持つ手が僅かに痺れを帯びていることに気付く。

「いきなりも何も、敵は待ってはくれないぞ」

「っでも、」

「でも、ではない。そら、次行くぞ」

そう言ったバジルドは、グッと踏み込みそのままルークの方に飛び込んできた。




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