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ラージアンの君とキス  作者: 月宮永遠
1章:ラージアンと私
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4

 シュナイゼルを含む謎の生物が部屋を出ていった後、バラバラに座っていた夏樹達の多くは、部屋の隅に集まった。


「だめだ、電波入らない……」


 ほぼ全員が試したが、どの携帯にも電波は入らなかった。輪になった一人が不安そうに「ここって、地球だよね?」と尋ねる。その問いに、はっきり答えられる者はいなかった。


「ラージアンって何?」


 この問いにも、答えられる者はいない……。


「シュナイゼルって名乗った奴の話だと、あいつらの女王が満足すれば、無事に帰れるんだろ? あいつらが知りたがってる、地球の最強生命体について考えてみようぜ」


「そんなことを聞いて、あいつら、どうするつもりなんだろう。真っ先にそれを殺して、地球を侵略するのかな……」


「侵略とか、ありえねーし。何か、大掛かりな番組の収録なんじゃないの? わけわかんねーけど……」


 輪になって冷静に意見交換しているようで、まだ皆、混乱の淵から抜け出せずにいた。

 当然だ。夏樹もこれが現実だとは、とても信じられない。


 ――実は、ヨシ兄が仕掛けたイベントの余興だったりして……?


「考えてもわかんねーし……、とりあえず、さっき聞かれたことを、考えてみようぜ」


 その言葉に反論する者はいなかった。果てしない疑問に蓋をして、それぞれ考える素振りを見せる。


「なんだろな……。ライオンとか?」


「シャチ?」


「陸か海かで、大分違うよな……」


「ウィルスは? エボラ、HIV、ノロ? 大勢死ぬよね」


 その質問に、全員がなるほど、という顔を見せた。


「でもウィルスに個体って考え方あるんですかね? あれっていっぱい増殖するから、恐いんじゃ?」


「集団で戦っていいなら、スズメバチは? オオスズメバチだっけ、最強のスズメバチ。あれって日本にしかいないんじゃないの?」


「そんなヤバいの、日本にしかいないんスか?」


「ていうか、束になって襲いかかっていいなら、やっぱ人間なんじゃないの」


「でもさっき、あの人……」


 ヨシ兄のことだ。

 顔を強張らせた夏樹を、気遣うような視線が周囲から寄せられる。


「あの人が、人間って答えたら、シュナイゼルは、試してみたい、って言ってたよな……。最強の生命体と、戦ってみたいのかな……」


「過去も含めていいなら、恐竜は? ティラノザウルス、T.rex」


 なるほど、という声が幾つか上がった。


「でも、試してみたい、って言われた時に、実存する生き物じゃないと、あいつらキレたりしないかな……」


「身体が大きいと優位だよね。像じゃない? ライオンでも倒せないんじゃない?」


「熊だと思う。熊害……、三毛別羆事件さんけべつひぐまじけんとか、もはやホラーだよ」


「何それ」


「日本の熊害事件だけど、世界中で熊害は幾つも実例があるよ」


「最大の陸生肉食獣なら、ホッキョクグマ? 大きいですよ」


「じゃあ、海はシャチで、陸はホッキョクグマ?」


「ホオジロザメは?」


「シャチの圧勝だと思う」


「陸はやっぱり像だと思う。草食だけど、もしアフリカ像とホッキョクグマが正面対決したら、体格差で像が勝つと思う」


「もし、シャチとアフリカ像が正面対決したら?」


「ありえないよ、住む世界が違うから……」


「まとめると……、地球史上ならティラノザウルス、現生生物なら海がシャチで、陸が像」


 一応、答えはまとまった。

 その後、ここは何処で彼等は何者なのか……、再び議論を始めたが、答えは見つからないまま、シュナイゼル達、謎の生物が戻ってきた。ヨシ兄も一緒にいる。


「ヨシ兄ッ!!」


 夏樹と祐樹は同時に叫んだ。ヨシ兄はシュナイゼル達を警戒しながら、夏樹達の傍へ駆け寄ってきた。


「大丈夫!?」


「平気! 夏樹達は!?」


 ヨシ兄の全身に目を走らせたが、幸いどこにも怪我はしていなようだ。駆け寄る足取りもしっかりしていた。


「先ほどの質問について、考えてくれただろうか?」


 シュナイゼルの問いかけに、中心になって話をまとめていた男の人が、一歩前に出た。


「地球史上ならティラノザウルスで、現生生物なら、海に住む生き物がシャチで、陸に住む生き物が像ということで、話がまとまりました」


「そうか。ありがとう、参考にしよう。君達は、元いた場所に帰そう」


 シュナイゼルのあっさりした返答に、全員が戸惑いを見せた。帰してもらえるのだろうか……。

 疑問を口にする暇もなく、足元が急に透けた。


「きゃあっ!?」

「うぉ」


 皆驚いて、その場で足踏みしている。

 まるで透明な硝子の板の上に立っているかのようだ。足元には、お台場の街並みが透けて見える。

 しかし、皆が床を抜けてゆっくり地上へと降下していく中、夏樹だけは、この訳の判らない部屋に取り残されたままだった。


「夏樹!?」


「祐樹!」


 降下していく祐樹が、夏樹を見上げて手を伸ばす。夏樹は拳で床を叩いたが、どうにもならなかった。


 ――何で、私だけ……!?





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