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ラージアンの君とキス  作者: 月宮永遠
3章:宇宙戦争
34/42

13

 シュナイゼルは夏樹の右耳についているサポートギアに、小さなチップを取り付けた。


「これは?」


「機能拡張チップだ。これで夏樹の周囲に酸素シールドを展開できる。ゲートまで走り抜けるが、いいか?」


「わ、分かった」


「よし」


 シュナイゼルは夏樹の頭を撫でた。


「あ……!」


 機体の外は、荒れ果てた荒野だった。

 ひび割れた大地に巨岩が突きだし、夕陽を浴びて深い陰影を落としている。

 風が流れる度に、乾いた砂塵さじんが舞った。

 熱風が喉の奥を焼いた。何もしていなくても息苦しいが、かろうじて呼吸できるのは、サポートギアに取り付けたチップのおかげなのだろう。


「ここを突き進むと、中継都市にぶつかる。近づけば兵士達がやってくるだろう。なるべく振り切るが、やむをえない時は撃破して行く」


「兵士?」


 問いかけた途端、ズゥンと重たい地響きが聞こえた。足元が揺れてよろめくと、シュナイゼルにすかさず片腕で抱き上げられた。


「急ごう」


「えっ!?」


 シュナイゼルはいつになく高速で駆けた。風圧が辛くて、まともに正面を向けないくらい速い。

 巨岩の影に隠れながら疾走していると、障害物が切れた途端に、いきなり巨大なモンスターが目の前に現れた。


 ――何っ!?


 全身鎧で覆われており、兜の奥から、真っ赤に光る八ツ目だけが覗いている。トリケラトプスのような一角怪獣に騎乗して、鋼鉄の機関銃のような武器を手に持っている。

 グォォッ!!

 一角怪獣は大気を揺るがすような咆哮ほうこうを上げた。身体を飾る呪文のような紋様が、不気味に赤く光る。


「――見つかった。もう隠れても意味はない。突っ切ろう」


 シュナイゼルは止まるどころか、疾走速度を更に上げた。巨大なモンスターは、驚くほど機敏な動作で、鈍色に光る銃口をこちらに向けた。

 バラララ……ッ!!

 躊躇ためらいなく撃ってきた。赤く光る無数のレーザ弾が飛んでくる。恐るべき威力で巨岩を粉砕し、砂塵を巻き起こした。

 夏樹は悲鳴を上げたけれど、けたましい発射音や衝撃音に全てかき消された。

 シュナイゼルは巧みに攻撃をかわし、巨岩の背中に夏樹を降ろすと、そろりと頭を撫でた。彼が何をしようとしているのか分かってしまい、思わずその手を掴んだ。


「だめっ!」


 ――あんなに大きくて、強そうなモンスター、まともにやり合ったら殺されちゃう!


 首を左右に振る夏樹の頬を、シュナイゼルはそっと両手で包み込んだ。恐怖に戦慄く唇に、硬質な人差し指をそっと押し当ててる。静かに、と言うように――。


「心配いらない。すぐ戻る」


「シュナイゼル……ッ!」


 夏樹は手を伸ばしたけれど、シュナイゼルは風のような身のこなしで、あっという間に飛び出して行った。

 岩場からそっと様子を伺うと、シュナイゼルは両腕を細長い剣へと変形させて、巨大なモンスターと正面から対峙していた。鋭くて切れ味の良さそうな剣だが、相手はシュナイゼルよりも何倍も大きい。ハラハラしながら見守っていると、巨大な銃口が、シュナイゼルに向かって火を噴いた。

 バラララ……ッ!!

 レーザは硬い石を砕き、巻きあがる砂塵はシュナイゼルを覆い隠した。


「ひ……っ」


 悲鳴を上げないように、必死に口を両手で押さえた。殺されてしまったんじゃないかと思った。

 しかし、シュナイゼルは神速で弾道を躱すと、風を切り裂いて剣と化した両腕をひらめかせた。

 屈強そうなモンスターは、手にした武器ごと切り裂かれた。赤い八ツ目から光が失われ、怪獣の上から地響きと共に崩れ落ちる。

 ズゥン……ッ!

 倒れた身体から薄緑色の体液が流れ出し、独特の生々しい匂いを辺りに漂わせた。


「夏樹」


 シュナイゼルは何事もなかったかのように夏樹の元に戻ってくると、口をきつく押さえている夏樹の手に、そっと触れた。


「あ、あ、あ……」


「夏樹、大丈夫だ」


 素早くシュナイゼルの全身に目を走らせた。どこも怪我をしていない。艶やかな黒いフルメタルのような身体には、傷一つついていなかった。


「け、怪我してない?」


「ああ」


 ほっと息を吐いて、くたりと身体から力を抜く夏樹を、シュナイゼルは再び片腕で抱き上げた。


「急ごう。バルカナスが集まってくる」


「バルカナスって? さっきの?」


「そうだ」


 シュナイゼルが宙を疾走し始めた途端、後ろから、複数のバルカナスが追いかけてきた。

 目に映るだけでも五体はいる。

 大きな図体の割にかなり高速だ。騎乗している怪獣の角で、障害物を粉砕しながら、一直線に追いかけてくる。追いつかれたら――考えただけでもぞっとする。


「――殲滅する」


「えっ!?」


 シュナイゼルは一際高く跳躍すると、安定した岩場の上に夏樹を降ろした。

 彼の額の信号は、深い紫に変色している。戦闘意識が高まっている証拠だ。気をつけて、言葉をかける間もなく、シュナイゼルはバルカナス達に向かって駆け出した。


「シュナイゼル……ッ!」


 シュナイゼルは離れたところにバルカナス達を誘導すると、宙に浮いたまま戦闘態勢に入った。

 彼の背中に広がる空間が、突然、波紋が広がるように震え出す。次いで、何もないところから、巨大な弾丸が幾つも現れた。

 いかにも破壊力がありそうで禍々しい、鋼の塊だ。

 側面に刻まれた模様は、稲光にも、噛みこむ鋸刃のこばのようにも見える。

 ドドンッ!!

 迫りくるバルカナスに、シュナイゼルは高速で弾丸を叩きつけた。強烈な衝撃波は、夏樹が座りこんでいる岩をも揺らした。

 ドォンッと轟音を響かせて、バルカナス達は騎獣ごと崩れ落ちる。

 離れている夏樹のところにも、地響きと共にあらゆる破片が飛んできた。目には見えないシールドのおかげで、夏樹とその周囲は無事に済んだが、それ以外の硬い岩肌はボロボロになった。





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