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ラージアンの君とキス  作者: 月宮永遠
2章:生きるか死ぬか
18/42

7

 ディーヴァはきょとんとした顔で、ぱちぱちと瞬いた。


「え? だめ?」


「なんで決めておかないの? それに監督は? 審判はどうするの?」


「スタジアム造って、観客集めれば、後は何とかなるかなーって……」


「先ず選手が先でしょう!」


「そ、そうかな……」


 夏樹の剣幕に、珍しくディーヴァが押され気味だ。

 しかし指摘をしながら、藪蛇やぶへびかな、という気もした。特に審判に関しては、先日夏樹にやって欲しいとディーヴァに言われたばかりだ。案の定、ディーヴァは目を輝かせている。


「それじゃ、夏樹に任せる。適当にプレーヤーを選べばいいよ。マイク入るから、観客席に呼びかけてみて」


「私が決めるの!?」


「だって、私が決めたらつまらないし」


「無理だよ、選べない。サッカーも全然判らないし……」


「難しく考えないで、とりあえず十一人ずつ選べばいいよ。はい、マイク」


 ディーヴァの強引で物怖じしない性格が恨めしい。さあさあ、とばかりにマイクを向けられて、夏樹はごくりと喉を鳴らすと、やぶれかぶれでマイクに顔を近づけた。


「あの……」


 一言発すると、拡声された声がスタジムに響き渡った。

 十万ものラージアンがいる割に、会場は水を打ったように静まりかえっている。夏樹の声がやけにはっきりと聞こえて、緊張は余計に増した。


「わー、皆、うるさい!」


 ディーヴァはいかにも人間くさい仕草で、両耳を押さえた。あっけにとられて見ていると、シュナイゼルが教えてくれた。


「夏樹の聴覚では捉えられないようだが、我々ラージアンの光互換水晶クリスタルでは、同胞による膨大な量の電磁波を受け取っている」


「そ、そうなの?」


「そうだ。彼等は今、とても興奮している」


 ――わ、判らない……。こんなに静まり返っているのに……。


 マイクに向かって喋ることは躊躇われたが、ディーヴァに急かされて恐る恐る口を開いた。


「あの、これからサッカーの試合を、します……。十一対十一で試合をします。参加したい方、えっと……、フィールドに降りてきてください」


 その直後、開いた口が塞がらないような事態が起きた。

 今まで観客席に大人しく座っていた、ラージアン達が一斉に立ち上がり、我先にフィールドへ駆け下りたのだ――。

 目を覆うような光景だった。

 仲間を押しのけ、競うようにしてフィールドの中心に立とうとしている。

 さっきまであんなに静かだったのに、ラージアン同士の壮絶な争いで、フィールドが滅茶苦茶に破壊されていく。耳を覆いたくなるような轟音が響き渡った。


「あ、あ、あ」


 夏樹は、ここへ来てから、何度目かの恐慌状態におちいった。シュナイゼルに抱き寄せられると、きつく瞳を閉じて硬い胸に顔を埋める。

 こんな状況だというのに、ディーヴァは楽しそうに無邪気に笑っている。


 ――もう無理。もう耐えられない。


 あと一秒でもあの場にいたら、心を壊していたかもしれない。

 けれど、シュナイゼルは夏樹を横抱きにして、狂乱の場から連れ出してくれた。


「夏樹」


 スタジアムから連れ出してくれたことは判ったが、瞳を開ける気にはなれなかった。

 腕の中でぐったりしていると、優しく頬を撫でられた。


「夏樹」


「こ、怖かった……」


「難しいかもしれないが……、怖がることはない。ラージアン同士では、よくある光景だ。本気で殺し合っているわけではない」


「本当に? あんなに酷かったのに、よくあることなの?」


「そうだ。我々は闘争本能が極めて特化している。ああした小競り合いは日常茶飯事だ」


「……シュナイゼルも?」


「そうだ。立場上、他の個体に比べれば冷静だが、外敵と戦う時には容赦しない」


 ――こんなに優しいのに……。





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