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ラージアンの君とキス  作者: 月宮永遠
2章:生きるか死ぬか
17/42

6

 夏樹を抱きしめる腕が、離される――。


「やだ……」


 小さく囁くと、シュナイゼルは片腕で夏樹を抱え直して立ち上り、ラージアンの女王から距離を置いた。


「すごいね、夏樹。シュナイゼルを支配しているの?」


「え?」


「私の命令より、夏樹を優先した。うーん、興味深いなぁ……」


 首をひねってディーヴァを見つめていると、意地悪い笑みを向けられた。


「でもね、ここでは私が一番だから。私がすっかり満足するまで、夏樹は絶対に地球に帰さないよ」


「……っ」


 絶望に襲われて、耐え切れずに涙を零した。はらはらと流れ落ちる雫を、ディーヴァが細い指で拭う。


「涙って綺麗だね」


「――ディーヴァ」


 シュナイゼルはいさめるように、女王の名を呼んだ。彼女は仕方なさそうに溜息をつくと、眼差しを和らげて夏樹を見つめた。


「言い換えれば、私が満足さえすれば、夏樹は地球に帰れるんだよ?」


「……」


「これから、ラージアンにサッカーをやらせたいと思うんだ。私は夏樹にも来てほしいけど……、どうする?」


 意地悪な聞き方ではなくて、夏樹の気持を推し量るような聞き方だった。

 夏樹は目元を乱暴に拭うと、シュナイゼルの腕の中で身をよじり、ディーヴァの目を見てはっきり答えた。


「行く」


 ディーヴァの表情がパァッと華やいだ。


「良かった! さっきのサッカー観戦の記憶は、全個体に共有しておいたから。皆、実際にボールを蹴ってみたくて、うずうずしているよ!」


 しかし、試合をするといっても、具体的にどうするのだろう……。

 いまいち想像できなかったが、巨大なスタジアムの前で降ろされた時、ディーヴァは本気なんだなと改めて実感した。

 巨大なスタジアムは、ブラジルに新設されたアレーナ・ダス・ドゥーナスそのものだった。

 本当に、ワールドカップを参考に造ったらしい。


「十万個体収容できる設計だよ。全員は入りきらないから、とりあえず先着順で中に入れた」


「へえ……?」


 相槌を打ちながら、不思議に思った。

 今のディーヴァの言い方だと、まるで中に既に人が……ラージアンが入っているみたいだ。

 中へ入ってみて、気絶しそうになった。


 ――な、何あれ……!?


 観客席は真っ黒に覆われていた。

 埋め尽くさんばかりのラージアン達が、隙間なく座っているではないか。

 本当に眩暈がして、くらりと倒れかけると、すかさずシュナイゼルが支えてくれた。


「夏樹」


「何で、こんなに……」


「観客いないと、つまらないし」


「それにしたって、多過ぎじゃ……」


「そぉ? あ、私たちはこっちね。専用の放送室だよ」


 ディーヴァは意気揚々とスタジアムの中へ入った。

 その後ろ姿を、シュナイゼルと一緒に追いかける。途中でシュナイゼルのように、スラリとした一体のラージアンに出会った。

 ディーヴァは無視して通り過ぎたが、彼はその後ろを騎士のように従い、歩き出した。


「カーツェは、ディーヴァを守る八体の近衛の一柱だ」


 夏樹の疑問を読んだように、シュナイゼルが教えてくれた。

 カーツェは、他の個体に比べて痩身だ。シュナイゼルのようにスレンダーな体躯をしている。それ以外では、他のラージアンとの違いはよく判らないが、たった八体しかいない近衛の一柱なのだから、何か秀でた能力があるのかもしれない。

 広々とした放送室に入ると、ディーヴァは当然のように真ん中に座り、その隣に夏樹を座らせた。夏樹の隣にシュナイゼルが座り、カーツェは部屋の後ろで騎士のように起立している。


「よーし、それじゃ早速始めようか。えーと……、先ず選手を決めないとね」


「そこから!?」


 思わず、全力で突っ込んでしまった。





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