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ラージアンの君とキス  作者: 月宮永遠
2章:生きるか死ぬか
16/42

5

 食い入るようにディーヴァを見つめる夏樹に、天使のような美少女は悪戯めいた笑みで応えた。


「その代わり私が勝ったら、ラージアンの試合に夏樹も出てもらおうかな」


「え……?」


「ふふ、ブラジルを真似てサッカーフィールドを造ったんだ。後で皆で遊ぼうね」


 嫌な予感しかない。


「夏樹はもちろん、日本を応援するでしょ?」


「まぁ……」


 複雑な顔をしている夏樹の頬に、ディーヴァはペタンと日本の国旗シールを張りつけた。


「じゃあ、私はコートジボアールね」


 そういって、ディーヴァは自分の頬と、シュナイゼルの頬に国旗のシールを張りつけた。何だか面白くない。


「シュナイゼルもコートジボアールを応援するの?」


「私は……」


「ラージアンVS人間よ!」


 ディーヴァはビシッと夏樹を指差した。すごく人間くさい仕草だ。そして意味が判らない……。

 試合が始まると、夏樹も手に汗を掻きながら観戦を始めた。

 地球への帰還がかかっていると思うと、観戦する身にも力が入る。

 前半一六分で日本が先制点を決めると、思わず立ち上がってガッツポーズを決めた。


「きたぁ――っ!」


 敵対しているはずのディーヴァも、嬉しそうに立ち上って「きたぁ――っ!」と歓声を上げた。しかも腕を拡げて夏樹に抱きついてくる。何だか憎めない女王様だ。

 しかし、後半に入るとコートジボワールが攻勢を強め、日本は次第に追い込まれていった。


「ドログバが入ってから、流れが変わったようだ」


 シュナイゼルの言葉に頷かざるをえない。一対二で逆転負けすると、がっくりと肩を落とした。


「私の勝ちだね! じゃあ、夏樹に試合に出てもらうよっ」


 力なく項垂れる夏樹の隣で、ディーヴァは無邪気に笑う。

 苛立ちが芽生え、心は濁った。

 サッカーの試合結果で、地球に帰れるかどうかを左右されるなんて……どう考えても理不尽過ぎる。


 ――無茶苦茶だよ……。


 俯いて唇を噛みしめていると、シュナイゼルに肩を抱き寄せられた。彼もディーヴァと同じラージアンなのだと思うと、急に触れられるのが嫌になり、腕を跳ねのけて部屋を飛び出した。


「夏樹」


 シュナイゼルとディーヴァの声を無視して家の外へ飛び出したが、見知らぬ街並みを見て、自然と足は止まった。


 ――どこにも、行く所なんてない……。


「夏樹」


 シュナイゼルの声だ……。

 追い駆けてきてくれたのだと知って、ささくれ立った心は少しだけ潤った。

 しかし、素直に振り向けず、無言で立ち尽くす夏樹の肩に、シュナイゼルは優しく手を置いた。


「ディーヴァは、夏樹を気に入っている。彼女の発言は、夏樹を傷つけようとしたわけではない。一緒にいたいと思うから、さっきは賭けに勝って喜んだのだ」


「……」


 素直に頷く気にはなれなかった。

 ディーヴァは自分勝手で無神経だ。彼女は、不安で仕方ない夏樹の気持なんて、これっぽっちも理解していない。

 せめて、いつ帰してくれるのか……、それだけでも教えて欲しい。

 何だか泣きそうになり、力なくその場にうずくまった。


「夏樹……」


 不安と悲しみに押し潰されそうだ。ここには、夏樹の気持を判ってくれる地球人なんて、一人もいやしないのだ。

 小さく丸まっていると、シュナイゼルが傍で膝をつく気配がした。

 息を詰めてじっとしていると、シュナイゼルは夏樹の背中から覆いかぶさり、そっと広くて固い胸の中に引き寄せた。長いしっぽまでも夏樹を包み込むようにして、全身で慰めてくれる。


 ――私、子供みたいだ……。


「私にも抱かせて」


 ひんやりした身体にくるまっていると、場違いに明るいディーヴァの声が聞こた。

 天使のような美少女は、しゃがんで夏樹に目線を合わせると、無邪気な笑みを浮かべて夏樹の頬に優しく触れた。


「瞳が潤んでる」


「帰らせてよ……」


「そのうちね」


 ディーヴァはシュナイゼルから夏樹を受け取ろうとした。

 夏樹がシュナイゼルの首にしがみつくと、ディーヴァは命じる口調で「シュナイゼル」と名前を呼んだ。





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