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ラージアンの君とキス  作者: 月宮永遠
2章:生きるか死ぬか
14/42

3


 シュナイゼルに抱っこされたまま飛行を続け、やがて、一際大きなドーム状の白い建物の前で降ろされた。


「ディーヴァの住居の一つだ」


 ――あの大きな身体で、玄関を通れるのかな……。


 昨日見たディーヴァの姿は、シュナイゼル達の五倍はありそうな巨体だった。腹部も大きく張り出していて、身動きするにも一苦労に見えた。

 シュナイゼルの後ろに続いて玄関に近付くと、夏樹はどきどきしながら気を引き締めた。これからラージアンの女王に会うのだ。

 夏樹が無事に地球に帰れるかどうかは、全て彼女次第だ。


 ――機嫌を損ねないよう、気をつけないと……。


「いらっしゃーい!」


「――っ!?」


 突然、玄関から弾丸のように少女が飛び出してきて、勢いよく夏樹に抱き着いた。

 咄嗟に反応できなかった。

 固まる夏樹に、ふわふわプロチナブロンドの少女は、すりすりと頬を寄せる。身長百六〇センチの夏樹と、同じくらいの背丈だ。


「夏樹ー」


「ディーヴァ!?」


 姿形はまるで違うが、声だけは昨日聞いた、ディーヴァと同じ声だ。


「そうだよ」


「え、えっ?」


 ――何で、人間……!?


 しかも、とびっきりの美少女。

 腰まである、艶やかなふわふわプラチナブロンド。宝石のような、パライバトルマリンの双眸。端正な人形めいた顔立ち。メイクをしているようには見えないのに、肌も唇もふるふるしていて、つやつやだ。

 改めて全身を眺めてみると、恰好までお人形のようだった。

 真珠のネックレスにイヤリング、オーガンジーのリボンカチューシャ、白いコサージュのついた女の子らしいワンピース……。


「驚いた? 本体だと移動し辛いから、外へ出る時は適当に擬態してるんだ。今日は夏樹に合わせて、地球人に擬態してみたよ」


「変身できるんだ……」


「ラージアンの標準能力だよ。誰でも出来る」


「そうなの!?」


 姿恰好が同い年に近いせいか、中身がディーヴァと知っていても、つい同級生のような気安さを覚えてしまう。敬語を使い辛い……。


「このお洋服、かわいいでしょ。夏樹もサポートギア、もらったでしょ? 好きな格好するといいよ」


「ディーヴァって、美少女だったんだね……」


 昨日の姿を見ているだけに、目の前の変貌っぷりが信じられない。


「変幻自在な擬態能力だからね。夏樹そっくりにも擬態できるよ」


「やめて」


「あはっ!」


 ディーヴァは楽しそうに笑った。


 ――じゃあ、シュナイゼルも擬態……、人間の姿になれるのかな……。


 もやもやした想いを噛みしめていると、ディーヴァに腕を引かれた。か弱い少女の外見に反して、腕を引く力はとても強い。


「ったぁ……」


「ディーヴァ」


 痛みに顔をしかめていると、シュナイゼルはディーヴァから夏樹を引き剥がした。


「あ、ごめん! 今の痛かった?」


「ちょっと……」


「人間って弱いもんね。忘れないようにしなきゃ。さ、入って。日本戦の前に、スペイン対オランダ戦を観なくちゃ」


 ディーヴァに続いて中へ入ると、西洋のお屋敷のような内装に目を丸くした。


「いろいろ地球の文化を調べてね、アール・ヌーヴォーのインテリアで統一してみた」


「アール・ヌーヴォー?」


「知らない? 十九世紀末から二十世紀初頭にかけて、ヨーロッパの都市は、典雅な曲線の造形美に彩られていたんだよ」


 ディーヴァの回答はよどみない。言われていれば、そのようなことを美術史で習った気もする。

 内装のコンセプトは、何となく判った。

 草花を描いたモリスの壁紙、猫脚の調度品、そこかしこに飾られた硝子の工芸品。美しいガレの陶器に、教科書で見たような十九世紀のフランス画家、ロートレックの絵画まで飾られている。


 ――あれって、ムーランルージュ? よく調べたなぁ……。





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