ねずみホイホイ
この前、営業で名古屋へ行きましてん、へえ、車だすわ。
高速から一般道へおりたら混んでましてなあ、信号きっちり守りよりますんにゃわ。
何してんねん! イラついたけど前が詰まってるさかい、どないもなりまへん。
ようやく信号通り過ぎたらパトカーが停まってましてなあ、隠れてるつもりやろうけどよう見えたある。
そういうことやったらしゃあない。トロトロ進むと橋がある。
な? 橋のてっぺん過ぎたらもう見つからへん。アクセル踏みますわなあ、下り坂や、ええ按配にスピードが出ますわ。
駐車してる車はない、自転車もいてへん。快適ですわ。
遠くの信号が赤になりましてん。このまま行ったら信号を青で行けるな。そう思いまんがな。
ほたらどうです? 赤い旗持ったおっさんが道塞ぎよった。
しもた! ねずみ取りに引っかかってもうた。舌打ちしても後のまつりですわ。
「急いでござるみたいだけどよぅ、速度超過だわ! 免許証と車検証持って降りてきてちょう」
こてこての名古屋弁ですわ。
「ここよぅ、制限五十なんだわ。ほんだで、二十キロ越えとるでね」
きたない言葉で型通りの説明すんにゃけど、目の前をえらい勢いで走って行きまっせ。
「あれもスピード違反ちゃいまんの? あれ、捕まえんかいな」
言うたりましたわ。しやけど知らん顔で伝票書いてまんねん。
「なあ、またスピード違反だっせ! 早う捕まえんかいな!」
「お前ゃーが違反するもんだで捕まえれんのだろう、とーれーこと言っとってかん!」
どうです? え? どうです?
そうでのうても、こっちはお客との予定がおますがな、苛々しまんがな。
妙に時間かけて伝票こさえて、免許証返してもろたんですわ。
走りだしたらお客から電話ですわ。遅刻やー言うてきつう怒ったはります。
こんだけ離れたらええやろ、時間取り戻さな。
縫うように走りだしたんですわ。
……ほたらね、
あーー あーーーーー
サイレンですわ。うーーやおまへん、あーーですわ。
兄ちゃん、揉み手しながらバイク停めて言いましてん。
「大将! もうかりまっか!」