《500文字小説》冬のあらし
白く煙るような雪の中、私達は黙々と歩みを進めていた。こんなに沈黙が続くのは初めてだ。風に舞うように、時には視界を遮るように降る雪のせいだけではない。
彼とは中学生の時、たまたま隣の席だった。互いにザ・ザとかクィーンといった昔のロックが好きで、最近の音楽にはメッセージ性が無い、なんて評論家ぶった話をして仲良くなった。異性を意識しなくていい友人。そんな関係がずっと続くと思っていた。
白い風景の中、駅の影が見えた所で私は足を止めた。先を歩いていた彼も立ち止まり、振り返る。
「後悔しない?」
「するさ、きっと。でも諦めたくないんだ」
「……相手が友達の奥さんでも?」
「……彼女も僕と一緒に幸せになりたい、って言ってくれてる」
「そう……」
「お前に会って、話せて良かった。すっきりしたよ」
そう言って笑う。その笑顔は雪で消されてしまいそうだった。
駅に着いて、改札口へ向かおうとする彼を呼び止め、手を伸ばす。頭や肩に積もった雪を払ってあげた。彼は礼を言うと、改札の向こうへと消えた。
私は手を見つめる。とけた雪で濡れていた。付き合いは長かったのに、触れたのはこれが初めてだった。そっと手を握ると、痛むような冷たさを感じた。
久々の500文字小説を書きました。当初は違う話だったのですが、昨年の冬にも似たような話を書いたなと思い、このような話になりました。