受け継いだ者として
脱出口である二つの扉と三つの窓の位置、相手と自身のそこまでの距離、そこへ行くまでに起きるであろう妨害ややらなければならない事。それらが脳裏を駆け巡り、今までの経験則と自分と相手の様子から弾き出された策が形になる前に体が動き出した。
躊躇いなく灰谷に背を向けるとボーっと突っ立っていた渚の胸倉を引っ掴み、抵抗する間も与えず腹に一発叩き込んで強制的に意識を奪い去り、開いた窓から力任せに外へ放り投げる。それを外で待機していた桜鈴が受け止め、ゆっくり降下して慎重に地面に横たえる。
「やなこった」
舌を出すおまけ付きで挑発的に中指を立てると力一杯窓枠を蹴り、くるりと後ろに一回転して地に降り立つ。二階だったため無事着地成功、と思ったが、傷が思ったより深かったのか腹部に激痛が走り、片膝をついて傾いだ上体を支える。上を見上げると憤怒の表情をした灰谷が鋭い眼差しでこちらを睨みつけていた。
今だッ、狼。
心の中で叫ぶのと物陰に潜んでいた紅花が灰谷の手から“海の珠”を弾き飛ばすのとは同時だった。突然の事に大きく目を見開いた灰谷が己の指から零れて宙へ舞った“海の珠”へ手を伸ばした。その指が届く前に壁を蹴って再度ジャンプした紅花が珠をくわえ、そのまま下へ降り立つ。
「ナイス!紅」
『ふぅ。成功してよかったです』
笑いかけた桜の手のひらに珠を落として擦り寄る紅花の頭を労いの意味を込めて撫でてやる。ブルブルと怒りで体を震わせていた灰谷は突然奇声を発し、なんと躊躇いもなく窓から飛び降りた。
異能者ならまだしも無能力者が飛び降りるのはさすがにダメだろう。
そう思ったのだが、それは杞憂だったようだ。灰谷はあらかじめ用意しておいた鉤爪付きロープを自分が飛び出した窓枠に掛け、勢いを殺して難なく地面に降り立った。
「珠を、寄越せ」
「これは私達が受け継いだものだ。お前に渡す気は毛頭ない」
意識を失っている渚に“海の珠”をかけてやり、灰谷を牽制するように異能で包帯を燃やし、太刀を引き抜く。炎の中に桜が舞い散るさまを連想させる太刀が陽光を受けて輝く。ついでとばかりにわき腹に突き刺さったままの小刀も無造作に引き抜き、炎で燃やしておく。栓の役割を果たしていた小刀がなくなり出血量が増えたが、すぐにおさまり始めた。
「渡して貰うさ。是が非でも」
ぞくっと背筋に悪寒が走り、咄嗟に身を伏せる。頭上を何かが薙いでいった。数本の髪が犠牲になる。
肩越しに後ろを見ると危ない目をした男が得物を持っていた。他にも数十人はいる。どいつもこいつも見覚えのないやつらだ。
「この学園の人じゃないな」
「その通り。彼らは皆“死神の鎌”に所属している無能力者ですよ」
「“死神の鎌”・・・死神の鎌、か。嫌な組織名だな。あんたが手引きしたのか」
「僕以外の誰がいますか」
にやっと気味の悪い笑みが灰谷の顔に広がる。すでにいつも教壇に立っていた面影はなく、今はまったくの別人にすら見えた。あまりの変わりようにいつものアホ面はどこへやった、と心の中で吐き捨てつつ二人に渚を守るように指示すると、桜鈴と紅花はそれぞれ鳴いて答える。
「ぶっ潰す!」
力強い宣言が合図だったように男共が飛び掛ってくる。
「数が多いな」
ざっと見て目に入った人数の多さに些か疲れた面持ちでボソリと呟く。倒しても倒しても後から後からわいてくる。これではきりがない。怪我をしていなかったら楽に相手出来る数だが、怪我をしている身では少々荷が重い。
それに加え、仕事と『玉探し』で異能を使いすぎたため体力も異能量残り少ない。
「知ってますよ。異能者は無能力者に異能を行使してはいけないんでしょ?」
その言葉を聞いた瞬間、桜の中で数秒思考が止まった。
「なんでそれを知っている」
探るような目を向けると灰谷は得意げに語りだす。
「僕らが何の情報収集もしてないと思ってるのかな。この学園には何人も協力者がいてね。そのうちの一人に聞いたんだよ」
協力者・・・。ここに他にも仲間がいるのか!?けど、採用時には厳しい審査があるって九条さんに聞いたけど・・・。
灰谷が語った衝撃の事実に桜の動きが僅かに鈍る。
「もらった」
「っ!!」
三人の武器を同時に受けた瞬間、後ろから男が頭目掛けて鈍器を振り下ろす。避けようと足に力を込めるが、腹部を激痛がつき抜け逆に足から力が抜けていく。
鈍い音がした。
視界が反転し、地面に両手両膝をつく。立つことはおろか、体を動かすことすらままならない。ともすれば消えてしまいそうな意識を繋ぎとめてるだけで精一杯だ。異能の使い過ぎと血を流しすぎたらしい。それに今の一撃がトドメをさした。
「手間かけさせやがって」
腹を蹴られ他愛なく地面に転がる。ガンガンと後頭部に鈍い痛みが鳴り響き、声を出さないように唇を噛み締める。目だけを動かすと桜鈴が渚をつれ空へと避難し、紅花は疾風のように何処かへ駆けていく。この人数を相手にするより助けを呼んだほうがいいと判断したのだろう。
今の私にできることは・・・。
「さて。貰いますよ、“空の珠”を」
伸ばされた手を視界の端に捉え、残った異能をかき集めて劫火を放つ。無能力者に異能を行使してはならないと確かに規定にはあった。が、危害を加えられた場合の自己防衛のためなら行使もやむなしとも書いてあった。それに正統継承者には特別な掟がある。
珠を守るためならたとえどんな相手でも異能行使を許可する。といっても殺したとなれば話は別になる。が、それ以外なら容赦しなくてもいいのだ。
肉が焼ける嫌な臭いが鼻をつく。思わず顔をしかめながらも力の入らない腕で上体を起こす。
「このッ。よくも」
怒りに満ちた声が耳朶を打つ。鉛のように重い腕を持ち上げ、“空の珠”に触れる。
「・・・・・・私に・・・珠を守る力を・・・敵を射抜く雷を・・・」
掠れて聞き取り辛い声を発すると雷雲が現れ、男達へ雷を落としていく。こんな時でも“空の珠”は、翼は、主の求めに応じてくれる。そのことに感謝して灰谷を見据える。
「珠は・・・諦めな。こいつは私を主に選んだ。お前らの言う事なんかきかねーよ」
「諦める?誰が諦めるものか。珠を、寄越せ」
語尾を置き去りにしてこちらに向かってくる灰谷。“空の珠”から発せられた雷雲が雷を放つ。それらを避けもせずに食らい、にもかかわらず動きを止めず、焼け焦げた手が首へ手がかけられる。
それを避けるだけの余裕も余力もなかった桜は簡単に捕らわれた。ぎりぎりと首を絞められ、必死に抵抗するも体が思うように動いてくれない。しだいに視界がちかちかしてきた。
酸欠だ。手の中にあるはずの珠の感覚も薄れていく。
ふと胸の奥にしまっていた言葉が泡のように浮かび上がった。
――――「この珠は大切なものだ。絶対守り抜かないとならねぇ。どんな手を使っても、どんなことをしても」
懐かしい言葉。ぶっきら棒で、けど優しくて、とても悲しい言葉。
「だからってお前に命を懸けろとは言わねぇし、罪を犯せとも言えねえ。この珠は確かに大切だ。だが、それ以上に大切なのはお前の命と意思だ。自分の命すら守れねぇ奴が、他のもん守れるわけねぇだろ・・・ッ。それにっ、人を殺してまで守れなんて・・・・・・俺がお前に、言えるわけ・・・ねえだろうが」
――――俺にとっては、お前の命のほうが、何倍も、何十倍も、大切で大事だ
そうだね。龍兄の言うとおりだよ。自分の命を大切にできない奴が何かを守れるわけないよね。優しい龍兄が人を殺めろなんて、私に言えるはずないよね。
でもね。この珠は私の両親が、天空家の人達が、何百人以上の人がずっと命を懸けて守り続けてきたものなんだよ。この珠には大勢の人の命が籠められてるんだよ。
だから、私は――――。
「・・・ッ・・・の・・・」
残りの力を振り絞って“空の珠”に異能を注ぎ込む。触れた者を容赦なく襲う劫火を。
この珠を、守らなくちゃいけないんだよ。
それが、正統継承者に選ばれた私の責務だから。
たとえ、人を殺めたとしても――――
くたり、と桜の体から力が抜け仰け反る。灰谷は手を離し桜を見下ろす。彼の手から開放された桜は地面に横倒しになる。“空の珠”は燃え上がる真紅の光に染まっている。
「へへっ。頂き」
一人の男が真紅に染まった“空の珠”に触れる。と、“空の珠”から劫火が放たれ男に襲いかかる。肉が焼ける嫌な臭気が辺りに満ちる。男は痛みにのた打ち回り、やがて静かになった。死んではいないが酷い火傷を負っている。もう一秒でも長く触れていたら、死んでいたかもしれない。
「気を失う間際に異能で珠を覆ったか」
用心のためか“空の珠”の手錠を桜にかけ、唸るような低い声で“空の珠”を見つめる。これでは触れられない。ならば。
灰谷は桜の身体を肩に担ぎ上げ、携帯を取り出すと誰かに電話する。相手はワンコールで出た。
「・・・あぁ。柊さんですか?天空 桜、捕獲しました」
『ご苦労。では例の場所へ連れて来い。生かして、だぞ』
「わかりました」
通話を終えると携帯を仕舞い、桜を担いだまま歩き出す。灰谷の動作に伴って桜の手足がぶらぶら揺れる。
「異能者など、この世から一匹残らず消えてなくなってしまえ」
引き攣れた笑い声が風に流されていく。彼は人気のない場所に止めておいた車に桜を投げ込み、白煙を上げながら発進させた。
特別棟の屋上。ここでお馴染みのメンバー+貴之達は仲良くお喋りをしていた。そこへ慌しい足音が近づいてきた。
「ん?なんのお「菊地!こいつを頼む!!」
バン、と壊れそうな勢いで開かれた扉から入ってきたのは恭哉だった。彼の背中には血塗れの悠紀が背負われており、瞬時に顔色を変えた一同によって素早く横たえられた悠紀の傷をざっと診た貴之が顔をしかめる。千秋と紗夜はさりげなく栞に血を見せないよう体の位置を変える。
「これはまずいな。菊地さん、すぐ頼む」
「お任せを」
お茶を飲むのを中断して治癒を開始する美優。余程急いでここまで来たのか、恭哉は珍しく息を切らしていた。荒く速い息を何度も繰り返し呼吸を落ち着かせる。
「で、何があった?」
至極冷静な愁の声に滲んだ汗を拭った恭哉は唇を湿らせてから話す。
「俺らは真海を探してまず進路指導室に行ったんですが」
なるべく詳しくわかりやすいように噛み砕いて話す。話を聞いていくにつれ一同の顔には困惑と疑問の表情が浮かんだ。
「灰谷って異能者だったっけか?」
恭哉の話が終わると春が皆に確認する。聞かれた方はお互いに顔を見合わせえて「無能力者だったはず」と口を揃えて断言する。
そう。灰谷は無能力者。異能を使えるはずのない者だ。今まで異能を隠していたのなら話は別だが、それにしたって教師採用試験でわからなかったとは思えない。教師採用試験ではそれは厳しい審査が行われるそうな。少しでも疑わしい者は即座に門前払いにあうとか。
「じゃあいったい誰が・・・」
深刻な顔で黙り込んだ一同。
「何か聞こえないか?」
鋭い目を虚空に向けた愁の声が全員の思考を中断させる。耳を澄ましてみると鳥の羽ばたきのような音が聞こえる。それもだんだん近づいてくるようだ。
いち早く音の正体に気づいたのは龍護だった。
「桜の・・・」
飛んできたのは桜色のオーラを纏った不死鳥だった。間違いない。桜の異能の具象化だ。名前は、確か桜鈴。
「君、何でここに」
問い掛けながら螢斗が腕を差し出すとそこに舞い降りる。不死鳥は言い難そうに首を左右に動かしながら口を開く。
『桜が・・・連れ去られた』
「――――ッ!」
「桜がそんな簡単に捕まるわけがない」
即座になされた螢斗の反駁に桜鈴が静かに同意する。
『その通りだ。あいつは強い。だが、手負いの状態で三十人あまりの得物を持った無能力の男相手を相手にするのは些か厳しい』
「三十・・・って・・・」
『我らはこいつを守るだけで精一杯だったのだ』
「こいつ?」
まったく揺るがない口調で問い返したのは南絃。内心では形容し切れない感情が荒れ狂っているだろにおくびにもそれを見せない。さすがとしかいいようがない。
桜鈴は螢斗の腕から飛び立つと下に降下していく。数秒後、はぁはぁと喘ぐように息を継ぎながら紅花と渚を吊り下げた倍の大きさぐらいになった桜鈴が上がってきた。貴之が渚を受け止めると元の大きさに戻った桜鈴はほっと息をつく。元々人を運べる力もないし、大きさもないのだ。
「渚・・・」
貴之が渚の頬を撫でるように叩く。すると渚の瞼が震え、ゆっくりと開く。そこに自我の光が灯っているのを認め、貴之は安心したように胸を撫で下ろす。
「よかった」
「私・・・」
体を起こした渚は頭を押さえて不思議そうに左右を見る。その様子を見ていた涼亮が呟く。
「覚えてないのか」
「?何を」
本当に覚えていないらしい。貴之は渚の前に膝をつき穏やかな笑みを向ける。
「渚。何があったか話して欲しい」
薄暗い倉庫。そこに眼鏡をかけた一人の男が立っていた。肩には意識のない少女を担いでいる。男は左右に目を走らせ、声を上げる。
「連れてきたぞ、柊さん」
男の声が倉庫の中を反響し、薄暗闇に溶け込むように消えていく。そのまま待っていると左側から足音が聞こえた。
一度目を瞬いた男は視線を滑らせる。闇に慣れてきた視界に小汚い服を着た男が三人組の姿が映った。
数歩先で立ち止まった三人組へ少女を担いだ眼鏡の男は声を張り上げる。
「柊さん。約束どおり天空 桜を連れてきた。さっさと異能者を始末してくれ」
興奮でか早口にまくし立てると一歩足を踏み出す。やけに静かな倉庫に荒い息遣いのみが不気味に木霊す。
疾走する鼓動を幾つ数えただろう。眼鏡の男が痺れを切らしてさらに言い募ろうと口を開くと同時に真ん中の男が一方前へ出た。
「そうだな。では、天空 桜をそこへ置いていけ。準備を始めよう」
「・・・他の珠を狩らなくてもいいのか?」
「まずは“空の珠”から、だろう。違うか?」
返ってきた声にそうだな、と心の中で同意し眼鏡をかけた男は肩に担いでいた少女−−−−桜−−−−を乱暴に下ろす。ドサッという音と共に桜は埃っぽい地面に落とされた。固く閉じられた瞼は開く気配がなく、衝撃でどこかの傷口が開いたのかじわじわと赤いものが床を這っていく。桜を担いでいた男は立っていた場所から数歩下がる。
三人のうちの真ん中、柊と呼ばれていて男がゆっくりと歩みを進め、桜の傍らに膝をつく。そして彼女の頬にそっと触れると慈しむように撫でる。次に彼女の手首にかかった手錠を認めた目がほんのわずか細められる。
「目的は果たした。――――お前はもう用済みだ」
柊は眼鏡をかけた男に手のひらを向ける。男はほとんど反射だろうが横へ飛ぶ。
断末魔の絶叫が倉庫の中に反響する。悲鳴をあげた当人の左膝から先が失くなっていた。左膝からはおびただしい鮮血が噴水のように噴き出し、コンクリートの床をあっという間にどす黒く染め上げていく。つい数秒前まで男が立っていた場所には半円の穴が開いており、後ろの壁には直径3メートル程の大きな円形の穴が開いていた。
気を失いそうな激痛の中、異能者という単語が脳裏に浮かんで消える。
「あぁ、外れたか。だが、ゴミにしてはなかなかいい声で鳴くな。苦痛に歪んだ顔は何にも変えがたい」
柊のとても愉しそうな笑い声を聞き、男は夢中で喚く。
「話が違うッ。俺が天空 桜をこいつらに渡せば異能者を皆殺しにしてくれるって話じゃなかったのかよ。灰谷ぃぃ!」
柊の後ろにいた背の低い男がふっと嘲りの笑みを浮かべる。柊は出てきた名前に僅かに反応を示す。
「カイタニ。その方があなたにそう言ったのですか?」
「・・・あぁ・・・。ぅ・・・そ・・・・・・さ・・・。おでは、ぐぅまの中で、待っでろ、言わ・・・・・・た・・・・・・。そっ・・・だら、あいづは・・・ぅ・・・女を・・・連れてぎゃがった。ぅぐ・・・そいつを・・・ここに、置いて・・・ぐれッば・・・異能者を・・・皆殺しに・・・ぅう・・・しでくれるって・・・」
あまりの痛みで上手く呂律が回らないのか、それでも必死に言葉を紡ぐ男。聞き終えた柊は面白そうに笑みの形に唇を歪める。
「ほぅ。ではそのカイタニという方は今どちらに?」
「しっ・・・じら・・・ね・・・・・・。俺を、ここに・・・置いて・・・・・・どっか行っちまっ・・・だ」
「これ以上聞いても何も出てこなそうだな」
今まで黙然と腕を組んで事の成り行きを見ていた男が口を開く。柊は頷くとつかつかと床に倒れ伏している男に近付き、彼のポケットを漁ると鍵を取り、次に腕を組んでいる男に目を向ける。
「それでは『変化』を解いて頂けますか?いい加減この格好にも厭きました」
「はい、九頭龍さん」
組んでた腕を解き、まずは自分の身体に触れると次に九頭龍と呼んだ柊に触れる。二人の姿が変わっていく。小汚い無精ひげを生やした男の姿から、高校生くらいの少女と青年へ。
少女は髪は金髪、瞳はライトグリーン。
青年の方は銀髪、白みがかった銀の瞳。
つまり№5の姿をした神崎 詩藍と九頭龍 海夢に変わってしまった。どちらも漆黒のローブを羽織っている。
「なっ・・・化け・・・だ・・・」
「失礼ね。これはあたしの異能、『変化』よ。触れたものになら何にでもなれるの。あんたが柊って呼んでた人にも触れさせてもらったよ」
「ひっ・・・柊ざん・・・は?」
「さぁね。死んだんじゃな~い?大丈夫。あんたもすぐ、仲間入りさせてあ・げ・る」
無邪気な声音で冷たく宣告し、クスクスと実に楽しそうに笑う神崎。男はひぃ、と情けない悲鳴を上げて腕と残った右足で必死に後退る。
「ふぅ。赤の他人のふりをするというのは意外と窮屈ですね。疲れました」
肩を揺すりながら息をついた海夢はいまだ意識を失ったままの桜の前に片膝をつくと奪った鍵で手錠を取り去る。まだ戻っていない男が詩藍を突き、じとーっと半眼で睨めつける。
「メンゴメンゴ、朱葉。わっすれってた」
あはは、と白々しく白状すると軽く男の肩を叩いて変化を解く。長い銀髪を鬱陶しげにかき上げた朱葉が呆れたように嘆息する。
「私を忘れるなんていい度胸じゃない、詩藍。殺されたいのかしら?」
「ごめんって。悪気はなかったんだから許してよ」
「嘘ね」
「この純粋無垢な瞳を見ても嘘って言えるのかしら?」
わざとらしくライトグリーンの瞳をウルウルさせながら朱葉に詰め寄る。朱葉は今にも「純粋と無垢って意味辞書で引いてこい。馬鹿」と言いたそうな顔をして喉元まで込み上げてきたため息を呑み込む。
「ええ、言えますけどなにか?」
真正面から見返してはっきりきっぱり言い切ると、詩藍は傷ついたような顔をして地面に座り込む。悲劇のヒロインのようなその仕草に呆れを隠せない朱葉はやれやれと言わんばかりに首を振る。
読者の皆様。新年明けましておめでとうございます。今年もどうぞよろしくお願い致します。
去年は色々と初めての事だらけでバタバタしていましたが、今年はそれらに慣れ、より良いものにできたらと思っております!
これからもどうか珠巡りをよろしくお願い致します。




