喧嘩は他所で
部屋の中は、ゆっくりと夜の静けさに包まれつつあった。
カーテン越しに射し込む夕暮れの光が徐々に薄れ、代わりに照明の柔らかな灯りが、部屋全体に温もりを広げていく。壁際に置かれた観葉植物の影が、わずかに揺れていた。
通常よりも高い体温を帯びた桜の身体を、龍護がそっとソファへ横たえる。
額には冷たいタオルを、体には薄手の布団を静かにかけてやった。
異能制御用の指輪を装着したまま能力を使えば、その力は行き場を失い、使用者自身に跳ね返る。
程度や系統によって違いはあれど、多くの場合は自力で動けなくなる──と、学園では知られている。
「……熱いな」
龍護は、すっかり温まってしまったタオルを静かに取り外す。その拍子に指が額に触れ、思わず眉根を寄せた。彼女の皮膚は焼けるように熱を持っていた。
ソファの近くでは、渚が静かに口を開く。
「……桜の指輪に埋め込まれている“空の珠”、もう少し大きいのにしたほうがいいかもしれません」
渚は冷静に言いながらも、視線の先にある桜の顔を一瞬見つめた。
「本人に自覚はないでしょうけど、Sに匹敵するほどの力を持っていますし、このサイズでは、もう抑えきれない気がします」
渚の言葉に、スマホを弄っていた春も手を止めた。いつもの軽薄さは鳴りを潜めた表情がわずかに引き締まり、眉間にしわが寄る。
「……校長に伝えておく」
画面に数度指を滑らせると、春は薄いオレンジが入った携帯をパチンと閉じる。
「もうすぐ千夏達が帰ってくる。メールはしといた」
空気が落ち着きを取り戻しつつある中、恭哉が額ににじんだ汗をそっと拭い取った。
静かな部屋には、桜の荒い呼吸だけが微かに響いている。
「……ぁ?」
静かな吐息の合間に、かすれた声が漏れた。桜のまぶたがわずかに震え、ゆっくりと開く。照明の柔らかな光が眩しかったのか、一度まばたきをしてから、わずかに眉を寄せた。
体を起こそうとした拍子に、布団が肩から滑り落ちる。手をつく腕にはまだ力が戻っていないようで、ぐらりとバランスを崩しかけたのを、龍護が背に手を添えてそっと支える。
「どこも痛くないか? 気分は?」
さっと側に膝をついた恭哉の声は、気遣いと安堵の色が混ざっていた。
「……平気。ちょっとだるいくらい。でも、動けないほどじゃないよ」
小さく笑ってみせる桜の顔に、ようやく血の気が戻ってきていた。頬にかかった汗を拭い、渚が膝をついてタオルを手際よく畳んで脇に置く。
リビングの窓の外では、すっかり陽が落ち、藍色の空が遠くまで広がっている。虫の鳴き声が時折かすかに聞こえ、風が木々を揺らす音が、涼しげに響いていた。
だが、ふと桜の表情に陰が落ちる。
──さっき、許可もなく異能を使ってしまった。教師にも、委員会にも、何も報告していない。
……明日、反省文とか書かされるかも。いやだ。絶対いやだ。
「……言い訳、考えとかなきゃか」
(待って、あいつの顔とか服とか、何にも覚えてないじゃん……!これじゃ証言になんない……!でもでも龍兄達が覚えてるだろうし大丈夫!でも指輪つけたままとはいえ異能使ったわ…。あ~……もう、ほんっとこういうの苦手。めんどくさ……)
悶々と呟くように口を動かしていたその様子に、渚が小さく息を吐いて肩をぽん、と叩く。
「桜。自覚ないだろうけど、今の、ぜんぶ声に出てたからね」
「……っ!」
しまったという顔で、慌てて口を塞ぐ桜。
(今さらだろ……)
会話を聞いていた恭哉は、心の中だけでそっとツッコミを入れる。
そのとき──
廊下の向こうから、元気な声が響き渡った。
「「ただいまー!」」
「「ただいま」」
「ただいま帰りました」
空気が一変し、部屋に活気が戻る。
ドアの開閉音と共に外の空気のにおいがふわりと部屋に流れ込んでくる。
「おっ。全員帰ってきたな」
春がパッと顔を明るくして笑い、龍護が玄関へ声をかけた。
「美優」
「怪我ですか?」
「あぁ」
呼ばれた美優がひょっこり顔を出し、続いて悠紀、一夜、千夏、南絃と続く。
千夏は入ってすぐ覇気のない桜に目を見開き、慌てて駆け寄ってきた。
「もうっ……いつも無茶ばっかして!何かあったらどうするのよ。こっちが死ぬほど焦るんだから」
目尻に涙を浮かべたその言葉には本気の叱責が込められていた。
遅れてふらりと歩み寄ってきた南絃は桜の表情をじっと見つめている。言葉はないが、拳をわずかに握りしめて震える指先が、その胸の内を物語っていた。
「やったのは?」
「“珠狩”か他の組織の者のどっちかだ」
桜の答えに、空気が少しだけ重くなる。
悠紀は無言で眉をひそめ、情報端末を取り出し、すぐに報告用のテンプレートを立ち上げる。
「……報告はこちらでまとめます。あまり騒ぎが大きくならないように事実だけを簡潔にまとめますので詳細を教えてください」
その傍らでは、一夜が少し気を落ち着けて顔を出す。
「桜……本当に無事でよかった」
差し出した手はわずかに震え、指先がわずかに動く。
「……あの、何か必要なものはある? 水とか……」
言葉に迷いが少し残るが、気遣いがにじみ出ている。
すると、そのすぐ後、龍護が無言で水の入ったコップを差し出す。桜は見上げて、小さく笑いながら受け取った。
「……ありがと、龍兄」
小さな声で返す桜に、龍護は肩をすくめるだけだった。
コップを両手で包んだまま、桜は視線を落とす。飲み終えた水の冷たさが、まだ喉元に残っていた。
「昔から、お前がぶっ倒れると、俺が面倒見る役だったろ」
桜の喉がひく、と鳴った。冷たい水が熱をさらってくれているのか、胸の奥がじんと滲んでいく。
「……それ、小さい頃の話でしょ」
「今でも変わってねぇよ。むしろ余計に」
ぽそりと落とされたその声には、怒りでも呆れでもなく、ただ――兄のような、静かな温度があった。
「……なんで分かるの。私、何も言ってないのに」
「言わなくても、顔に書いてある。昔から」
何もかもを見透かされてる気がして桜は目を伏せた。なんて返せばいいのかわからなかった。
あぁ、もう。
(……龍兄のばーか)
心の中でだけ、そう呟いて水をもう一口飲んだ。
龍護は桜の背中にそっと手を置き、軽くぽん、と叩いた。何も言わずに、そのまま静かに立ち去っていく。
その背中には、言葉にしないけれど、確かな愛情と覚悟が込められていた。
「相変わらずすごいなー。美優ちゃんの治癒は」
「どういたしまして。褒めても何も出ませんよ、春先輩」
体を動かして調子を確かめている桜に安心した笑顔を向け、美優はすました顔でお茶を飲む。いつもながらどこにしまってあるのか不思議だ。
「今週終わればもう夏休みだ。久しぶりに天空家に帰れるぞ」
「私は実家帰りませんけど」
嬉しそうに伸びをした春の横で渚が冷たい声音で呟く。ずーんと落ち込んでいる春を一夜が宥めている横で、桜があれ?と言いたげな顔で周りを見回す。
「そういえば大路先輩は?」
てっきり一緒に帰ってくるとばかり思っていた人の姿が見受けられない。気づいてなかった一同も同じく周りを見回し、もしかして、と春が眉間にしわを寄せると、予想通りの答えが返ってきた。
「売店でチョコ買ってくると言ったっきりです」
予想を裏切らぬ行動に春の眉間のしわが更に深くなり、ぐぐっと拳を握り締めた彼は唸る。
「あのチョコバカぁッ……。いい加減チョコ見ると買わずにいられない病直せよなぁ。ったく。……美優ちゃん、君でも無理?」
「無理です。そんな病気ありませんから」
「あの人のは病気というか、子供の衝動買いみたいなものだから直せないですよ」
さらりと、かつ完璧な正論で返された上、恭哉にも無理と断言された春はうなだれたままソファに沈み込んだ。室内には、静けさと笑い声がゆっくりと溶け合っていく。
「……って、おい、誰かチョコ止めて来いよ!」
ここにはいないが、一応紹介しておこう。
大路 戒。右耳にトランプのピアス、右手首にはチェーンの先に指輪を通していて、薄黒の瞳をした、優男と見紛う外見の人物──だが、れっきとした女性だ。
ランクは《Z》。龍護たちと同じ学年で、生徒会執行部でも最年長にあたる。
「──まぁ、あいつはそのうち戻ってくるさ。ここ、生徒会と委員会の役員しか出入りできない階だしな」
春が気の抜けた声でそう言ったとき、ソファの一角から渚がゆっくりと眼鏡を押し上げた。
指先でそっとレンズを押し上げながら、春の軽口に一瞬、口角がわずかに動く。けれどその笑みは消えて、すぐにいつもの無表情へと戻った。
「……たぶん両手にチョコ持って帰ってきますね、あの人」
「はぁ……チョコ依存症、どうにかしてくれよなぁ」
春はソファに仰向けになり、頭の後ろで手を組んで天井を見上げた。
だらしなく広げたブランケットが床に落ちかけ、彼は片足でそれを引き戻す。視線は天井の淡い明かりの中を漂い、どこか上の空だった。
カーテン越しに差し込む西日が、彼の輪郭を淡く照らし、照明と混じって部屋の空気を茜色に染めていく。
廊下の隅に吊るされた小さな時計の針が、ゆっくりと夕刻の終わりを刻んでいた。
フロアの外では、鳥が一羽、軽やかな鳴き声を上げて飛び去っていく。
静かな風が木の葉を擦らせ、小さなざわめきとなって窓辺をかすめた。
春の言う通り、このフロアに出入りできるのは、執行部や委員会の役員、そして教師のみ。
三珠学園の寮は、中央棟を軸に放射状に配置された四棟から成り立っている。
一つは無能力者寮。異能を持たない者が過ごすための施設で、安全を確保するため、異能が一切使えないように“空の珠”が贅沢に組み込まれている。
そして、高等部の男子寮・女子寮、中等部の男子寮・女子寮は、それぞれ六階建ての構造で、基本的に異能の使用は禁止。制御指輪に加えて寮内にも抑制措置が施されている。
また、各棟には共同フロアが別途用意されており、食事や入浴といった生活の基盤をそこで行う。
中央に位置するのが、今、彼らがいる「委員会兼異能者教師寮」。
一〜三階は教職員の居住区、四・五階は中等部委員専用、六階からは高等部委員会・執行部のフロアとなっている。
各階に簡易キッチンや個別浴室、談話スペースが完備されているため、生活には困らない。
「……さて。千夏、飯作って?」
ソファに寝転んだ春が、半分甘えるような声を上げる。
だらしなく広げたブランケットが床に落ちかけ、彼は片足でそれを引き戻しながら天井を見つめた。
「食堂行けばいいでしょ。……料理長も泣いて喜ぶと思うよ? このメンバーで押しかけたら」
キッチンカウンターの椅子にいた千夏が、冷ややかな視線で兄を見た。
唇の端がかすかに上がりかけたが、本人はそれに気づいていない。
委員会所属の生徒も、高等部や中等部の寮と同様に食堂や大浴場を利用できる。だが、わざわざ別棟まで移動するのは面倒なので、皆このフロアに備えられたミニキッチンや共用スペースで済ませてしまうのが日常だった。
「だって、千夏の飯の方が美味いし?」
「……そんなこと言って、料理長に何回包丁持って追いかけられたか覚えてる?」
「えーと、五回くらい?」
「二十五回も、です」
室内に漂うのは、まだ夕食前の静けさ。
どこか遠くで水音が響いたかと思えば、すぐに消えた。日が落ち始めたことで、気温が少しずつ下がり、窓の外からひんやりした夜気が漂いはじめている。
空の色は茜から薄藍へと移り変わり、窓際のレースカーテンがほのかに冷えた空気に揺れた。
千夏の額に青筋が浮かび、兄に対して殺気混じりの笑みが浮かんだ。
ソファに身を沈めたまま他人事のように笑っている春に、桜は内心と小さく嘆息する。
「まぁまぁ……! 一緒に作ろ? ね? そんな怖い顔しないでさ、千夏」
「……桜が言うなら」
千夏がため息混じりに頷くと、桜はすかさず腕を取ってキッチンへと誘導する。
足音がフローリングに軽く響き、二人の背後には、ダウンライトの柔らかな光がキッチンのカウンターを照らし始めていた。
そんな空気を切るように、ぽつりと低い声が届いた。
「消し炭作るなよ」
聞こえないふりをしていたが、明らかに龍護の声だった。
桜はその言葉に反応し、軽く片足を上げて「抗議」と称した蹴りを龍護の脇腹へお見舞いする。
「いってぇな……」
「まったく。誰が消し炭作るって?」
「さ、桜。僕も手伝うよ」
エプロンを身につけた一夜が青筋を立てた桜と睨み合う龍護の間に割り込む。
背中の布地がわずかに揺れ、エプロンの紐がくるりと揺れる。
カウンターでは、包丁がまな板を叩く音がカツン、と響き始める。
まるで夕刻の訪れを告げる合図のように、厨房に明かりが灯り、鍋や器の音が次々と鳴り始める。
ある程度作り終えたところでお皿の用意をしていると、報告書をまとめていた悠紀が端末から目を離し、落ち着いた声で尋ねた。
「夕食の前に、簡単で構いませんので、先ほどの出来事の報告をいただけますか。情報整理して提出しますので」
「う……それって夕飯の前じゃないと、ダメ?」
桜は観念したように肩をすくめた。ああ、また残業確定だ……。
悠紀は困ったように眼鏡を押し上げた。
その動作もどこか事務的で、それでいて少しだけ優しかった。
「のちほどでも構いません。ただし……終わるまで寝れないと思ってください」
「うっ」
小さく反応した桜に、恭哉が思わず吹き出した。
「まぁ学園に侵入者があったんだから早めに報告するに越したことはないわな。頑張れ」
がくりと肩を落とした桜の背中を慰めるようにぽんぽんと叩いてやる。
その手のひらのあたたかさが、少しだけ気持ちを軽くした。
ふと、南絃が立ち上がり、無言で台所のほうへと歩いていく。
床板がぎし、とわずかに鳴った。
その背に、わずかな気遣いがにじんでいた。
「昨日の残りの味噌汁、火つけとく」
「……ありがと、南絃」
窓の外では、薄暮の空が藍へと染まり切り、月が雲の切れ間から顔をのぞかせていた。
木々のざわめきが静かに部屋へと流れ込み、虫の声が涼しげに鳴き始めている。
包丁がまな板を叩く音、湯の沸く音、味噌汁の湯気が立ちのぼる匂いが、ゆっくりと部屋を満たしていく。
灯りに照らされた室内は、穏やかなぬくもりと、安心感に包まれていた。
――こうして、彼らの日常の夜が、またひとつ幕を開けていく。
翌日の昼頃。生徒会・執行部室にて。
広々とした室内には、木の温もりを感じる長机とソファがいくつか配置されていた。昼休みのざわめきが収まり始めた頃、窓から差し込む陽光が柔らかな斜光となって床に伸びている。レースカーテンが梅雨明けの湿った風にふくらみ、外庭の木々がゆるやかに揺れていた。
そんな中、扉が開いて数人が遅れて入室する。
「遅い。いつまでもたもたしてたのさ」
窓際に立ち、腕を組んだまま出迎えたのは渚だった。陽の光に縁取られたシルエットが淡く揺れる。落ち着いた声音ながら、口調は容赦がない。
入ってきた一同に視線を向け、渚が鋭さを含んだ声で叱責する。
千夏が「うわっ」と小さく悲鳴を上げ、悠紀が即座に深く頭を下げて「申し訳ありません」と丁寧に繰り返す。
一方その頃、他の面々はというと──ソファでだらりと横になる者、ちゃぶ台を囲んで弁当のふたを開ける者、それぞれが「またか」と言わんばかりの反応だった。湯気の立つ味噌汁の香りと、誰かの箸が器に当たる音が、部屋にのどかな昼の気配を広げている。
棚の上に置かれた小さなラジオからは、どこか懐かしいジャズが静かに流れていた。
その喧騒から少し離れたソファの一角では、美優が桜の左腕を治癒していた。
焦げた布が袖にわずかに残り、まるで内部から爆ぜたような痛々しい傷跡が肌を裂いていた。右腕よりも左の方が深くえぐれており、皮膚の一部は黒く変色していた。
それでも、美優の指先から漏れる淡い蒼光が、桜の腕をそっとなぞるたびに、肌はゆっくりと、静かに本来の色を取り戻していく。
「何があったの?」
二人の前に膝をついた千夏が、震える声で問いかけた。顔色は真っ青で、握られた拳が膝の上で小刻みに震えている。
「ぼっ、僕が説明します!」
桜ほどではないが、左右の腕に包帯が巻かれた一夜が、勢いよく立ち上がった。その拍子に椅子がぎしりと軋み、テーブルがわずかに揺れる。
──ゴンッ。
彼の膝がテーブルの縁に思い切りぶつかる。
「……あっ……」
目の前で弁当を広げていた春が、おかずを箸から取り落としそうになり、慌ててキャッチ。が、隣でお茶を口にしようとしていた渚の手元に伝播するように、その揺れが及ぶ。
渚の手がわずかにズレた瞬間、湯気を立てたお茶がそのまま左肩へと盛大にぶちまけられた。
「……」
「ごっごごごごめんなさいいいいぃぃっ!!」
渚は顔色ひとつ変えず、ただ黙って濡れた袖を見下ろしている。
──その無表情が、逆に怖い。
動かない。喋らない。目も合わせてこない。
「……動かなすぎるのも怖いんだよ……」と誰かが小さくつぶやいたが、もちろん届くはずもなかった。
顔面蒼白どころか、真っ白になった一夜は、汗をかきながら何度も謝罪を繰り返す。
声は裏返り、謝っているうちに涙目になり、手を振り回しながらさらに焦り、ついには謝罪スパイラルに突入。
静かすぎる渚と、動きすぎる一夜──極端な二人の対比に、室内の空気は完全に凍りついていた。
(……どうすればいいんだ)
その場にいた全員の心の声が、ほぼ同時に一致した瞬間だった。
「あー一夜。何があったか話してもらえるか?」
静けさを破ったのは、勇者・悠紀だった。ソファに腰掛けたまま、膝に置いた書類から一度だけ視線を上げ、眼鏡を指先で押し上げる。
その声は穏やかだったが、部屋の空気を引き戻すには充分すぎる切っ先を帯びていた。
「は、はいっ!」
一夜は謝罪の波からようやく這い上がり、咄嗟に背筋を伸ばす。
未だ無言のままの渚を一瞬だけ見やるが、彼女の瞳は窓の外の梢の揺れをじっと見つめたままだ。
一夜はごくりと喉を鳴らし、ほんの少し距離をとってから、おそるおそる口を開いた──
✦
事の起こりは、ほんの数十分前。購買前にて。
昼休みの始まりと同時に、購買前にはいつも通りの光景が広がっていた。
パンや弁当を求めて並ぶ生徒たちの列。焼きたての香ばしいパンの匂いに誘われ、腹を鳴らす声が聞こえる。揚げ物の香りも風に乗って漂い、生徒たちは今日の昼飯を選びながら談笑していた。
購買部のおばちゃんが「コロッケ揚げたてだよ〜!」と呼びかければ、「マジか、買うわ!」と男子生徒が小走りで駆けてくる。
にぎやかで平和な、どこにでもある昼休み──そう、ほんの数分前までは。
だがその空気は、突然の怒声で打ち破られた。
「それは俺のカツサンドだ!」
「いーや俺のだ、早い者勝ちだ!」
「俺が先に取ったんだよ!」
「俺だってば!」
「やんのか」
「上等だ!」
購買部の一角で、二人の男子生徒が子どもじみた怒鳴り合いを始める。
互いに制服の襟を掴み、鼻先がぶつかりそうな距離で睨み合う様は、滑稽なようでどこか危うい。周囲の生徒たちは野次馬根性丸出しで「やれやれ〜」「もっとやれ〜!」とはやし立て、スマホを構える者まで出てきた。
だが──引火したのは、冗談では済まされない“力”だった。
「百ボルト!」
雷を纏った拳が振り抜かれ、紫電が空を裂くように走る。乾いた破裂音と共に火花が床を焦がし、熱気が波のように広がった。
もう一人の男子生徒は咄嗟に姿を地に沈めるようにして消えた。
透過の異能──物質をすり抜けることで地中に潜った彼は、音だけを頼りに相手の足元を狙っていた。
その時──
「校内での異能行使は厳禁です。速やかに異能を抑えてください」
穏やかな声が喧騒を切り裂いた。
風に揺れる黒髪、スカートの裾を手で押さえつつ、購買部脇の通路から現れたのは美優だ。
「……私じゃ止められないのに」
生徒会室に向かう途中でたまたま通りかかった美優は、巻き起こる騒ぎにため息をつきながら声を発した。本来ならこれは執行部の役目だが、彼らが不在の場合、生徒会が代理で対応することもある。
「ヤバッ。生徒会の役員だ」
「見つかったぞ!」
一部の野次馬が慌てて退き始めるが、当の二人はひるまない。
異能を制御しきれぬまま、さらに暴走させた。
「これは……誰か呼ぶしかないかな」
そう言って周りを見回すが、当然周囲には野次馬と教師達の他止められそうな人はいない。声音は変わらず穏やかだが、状況は明らかに悪化していた。非戦闘系の異能を持つ彼女では、止めるには限界がある。
だからこそ、わざと聞こえるように言ってみる。
「……やめないと、執行部の“狼”が来ますよ〜?」
ピクリと反応する片方の男子。高等部で桜の異名を知らない者はいない。中等部にすら悪名が轟く、執行部の猛犬。
「すっこんでろ」
地面からの声と共に、美優の足元を拳が突き破った。
「──っ!」
とっさに跳び退こうとしたが、タイミングがわずかに遅れ、左足に打撃を受ける。
「いっ……!」
片膝をついた美優の足から血が滲む。スカートの裾が破れ、布地に赤が染み込んでいく。
「何やってんだ!」
その怒声が響いたとき、周囲の草木が突如として動き出した。地面を這うように伸びたツタが、男子二人の足元を絡め取り、引き倒す。
「美優、大丈夫!?」
駆け寄ってきたのは一夜だった。彼の顔は怒りに染まり、拳が震えている。美優は顔を上げ、笑みを浮かべながら指輪を外す。
「私は大丈夫だよ、掠っただけ」
淡く光る治癒の異能が傷を塞ぎ、彼女は再び立ち上がる。
だが──その背後にまだ雷の気配が残っていた。
「また生徒会かよ。喧嘩の邪魔すんな」
苛立ちを込めて吐き捨てる男子に、一夜はいつもより低い声音で、しかし静かに言い放った。
「黙れよ」
男子の膝が、見っともなく震えた。一夜の表情を見た途端──その“怒り”に、体が萎縮したように。
「よし、ここか。喧嘩してる馬鹿ってどいつだ。叩きのめしてやんぜ」
紅玉の瞳が、笑うように光った。
桜が風を巻き上げるように購買部に現れ、太刀を肩に担いで仁王立ちしている。制服の裾がひるがえり、日差しを背にした彼女の姿に、場の空気が一変した。
「執行部の狼だっ」
「あれが執行部……」
「や、やべっ……!」
桜の姿に恐れをなした雷の男子が、制御しきれぬ雷の槍を放つ。空間に雷が裂け、放射状に炸裂する。
「っ、馬鹿野郎!こんなとこで……!」
桜は怒声と共に地を蹴った。視界の端、呆然と立ち尽くす無能力者の教師たち──。
「早く逃げて!」
だが雷の威圧に凍りついた彼らは、微動だにしない。
「くっ──!」
桜は身を滑り込ませるように教師たちの前へと立つと、紅桜の太刀を抜いた。
バチン!
太刀が雷槍を打ち払った瞬間、刃を伝って逆流する電流が肩に突き刺さる。
「──ッ……!」
腕が痙攣し、制服の袖が裂ける。飛び散った鮮血が太刀を染めたが、桜は歯を食いしばり、構えを崩さない。
「う……腕が……」
教師たちが怯えた声を上げる。だが桜は雷の槍を続けざまに叩き落とし、睨みつけるように敵を見据えていた。
──その間、一夜は美優の前に草木を編んだ盾を展開。手にした戟を振り抜き、雷撃の進路を逸らす。
爆ぜる雷光の中、戟が震える。手が痺れ、刃を手放しそうになるも──
「桜っ!」
「お前は、美優ちゃんと先生たちを!」
短く言葉を交わすだけで、ふたりの動きは自然と連動する。
桜が正面で太刀を構え、雷を真正面から受け止める。
一夜はその脇から草木を伸ばし、逃れた雷光を吸収するように遮った。
桜が前に出る。一夜が支える。
連携は流れるように、まるで舞のようだった。
──だが、まだもう一人が潜んでいる。
「右後ろ……!」
一夜が叫ぶと同時に、地面がわずかに盛り上がる。
桜は太刀を構え直し、身をひねるようにして跳躍。
「任せた!」
地面をすり抜ける透過の異能──だが、五感を奪うその状態では敵の位置を正確に掴めない。飛び出してきた男子の動きは、わずかに遅かった。
そこへ、一夜の戟が突き刺さるように放たれた。
地を裂くような軌道。透過から抜け出した瞬間の無防備な足元を、寸分違わず捉える。
「ぐっ……!」
敵の体が吹き飛び、地面を転がった。
「無能力者は、今すぐこの場から離れてください!」
桜が叫び、太刀を構え直す。その足元にはなおも雷が走っていた。
だがもう逃さない。
全身を使って踏み込み、太刀の峰を肩口へと振り下ろす。
──空を裂いた紅桜の一閃が、制裁の雷鳴を打ち砕いた。
見下ろす足元には、気絶したままの雷使い。焼けた焦げ臭い空気がまだ肌を刺す。
桜はゆっくりと息を吐いた。
太刀を下ろし、左腕の傷を見下ろす。袖は裂け、皮膚の下が赤く腫れていた。
「……ったく、購買前でやることじゃないでしょ」
苦笑混じりに呟きながら、ふと後ろを振り返る。一夜と美優が教師たちを気遣っていた。皆、まだ強張ったまま動けずにいる。
静けさが、ようやく購買前に戻りつつあった。
生徒会執行部室の中は、昼下がりの穏やかな光に包まれていた。
窓から差し込む陽射しが、整然と並ぶ長机の資料にやわらかく反射し、淡く揺れている。
白と紺を基調とした室内では、空気清浄機の低い稼働音がかすかに響き、誰かが淹れたばかりの紅茶の香りがほのかに漂っていた。
壁際には過去の議事録が綴じられたファイルがずらりと並び、活動予定表が掲示されている。
一方で、春が持ち込んだらしいスナックの空袋や、座椅子に投げ出されたジャケットが隅に転がり、整然とした空間に小さな生活感が滲んでいた。
桜は、そんな部屋の一角──窓際のソファにもたれ、巻かれた腕の包帯をじっと見つめていた。
思ったよりもしつこく残る痛みに、じわりと奥まで響く感覚が抜けない。
そのすぐ隣では、千夏が小さな保冷パックを清潔なタオルでくるみながら、静かにため息をついた。
「──ってわけで、異能者同士の諍いがあってね。美優が止めに入ったんだけど……」
一夜が言葉を選びながら続ける。
普段はどこか力の抜けた口調も、今はわずかに熱を帯びていた。彼の横で折りたたみ椅子の背もたれがきしんだのが聞こえる。
「美優は攻撃系じゃないから、一撃食らっちゃってさ。たまたま僕が通りかかったから、応戦して──」
「で、私が飛び入り参加したってわけ」
桜は冗談めかして言うが、千夏の視線はその腕に巻かれた包帯から離れず、微かに眉を寄せていた。
そんな空気を読んで、悠紀が端正な声で静かに言葉を重ねる。
「一人の生徒が異能を暴発させ、能力のエネルギーが四方八方に飛び散りました。その際、桜さんと一夜君が、異能を持たない教師の方々を庇った結果……このような事態に」
言葉の端に、冷静な分析の中にも痛ましさが滲んでいた。
「数名の負傷者は出ましたが、桜さんがいなければ、教師の方に致命的な被害が出ていた可能性は十分にあります」
「……結果オーライってことだな。ま、怪我だけで済んだなら、よかったんじゃね?」
春の軽口に、千夏が鋭い視線を向けて噛みついた。
「よくないわよ! 怪我してよかったなんてこと、あるわけないでしょ!」
「……わりぃ」
小さな声で春が返すと、部屋の空気が一瞬、静まりかえった。
紅茶の香りが、ふと気づけばすっかり薄れている。
「……気にしないで、春兄。こんくらいで済んでよかったって、私も思ってるから」
笑おうとした口元は、どこか引きつっていた。
あの瞬間、手に感じた太刀の反動。鼻先をかすめた焦げた空気の匂い──それが、わずかに桜の表情を曇らせる。
「桜ちゃん! “こんくらい”なんかじゃないよ。これ、見た目以上に重症だからね?」
美優が、そっと膝をついて桜の腕を確かめる。包帯越しでも、その痛々しさは隠しきれなかった。
「完治まではまだ少し。傷は塞がってるけど、無理するとすぐ開くから、動きすぎないように」
「ん、ありがと」
桜が短く返すと、そのまま窓の外に視線をやった。
昼休みの終わりを告げるチャイムが遠くに鳴り、グラウンドでは制服姿の生徒たちがボールを追っていた。
そんな彼女を、千夏は横からじっと見つめた。
「……あんまり暴れると、傷口開いちゃうって言ってたよね。
でも、桜が大人しくしてるところ、想像できないなぁ」
「言っても聞かないんだろ、あいつは」
ぽつりと呟いたのは、南絃だった。いつも冷静な彼のその声に、部屋の空気が再び、わずかに張り詰める。
──その沈黙の中、桜が立ち上がる。
弁当箱を膝の上で軽くまとめながら、口角を上げた。
「……傷も治ってきたし、お腹もいっぱいになったし──さっきみたいな奴、まだいるかもしれないしね。ちょっと見回ってくるよ」
その瞬間、誰よりも早く動いたのは龍護だった。
動きはない。彼は、部屋の隅に置かれたローテーブルの縁に肘をついたまま、視線だけを桜へと向けた。
それに気づいた桜が、ふと足を止める。午後の光がそっと彼女の肩に降り注ぎ、微かな影を落とした。
言葉はない。ただ、龍護の目が、何よりも雄弁に語っていた。
──止められないのはわかってる。
──だからせめて、無事で戻ってきてほしい。
(……ごめんね、龍兄)
心の中でそう呟いて、桜は視線をそらす。
だがその瞬間──
「……っ!」
無言のまま、南絃の手が桜の胸元をぐっと掴み上げた。
「南絃……?」
驚いて顔を上げた先にあったのは、いつもと違う彼の顔だった。滅多に感情を表に出さないはずのその瞳が、今は明らかな怒気をたたえている。
「……菊地の言葉、ちゃんと聞いてなかったのか?
完治したわけじゃないって、言われただろう。
どうしてお前は、いつも“自分のこと”だけは、そんなに無頓着なんだ」
低く抑えた声の奥にある怒りは、静かに、しかし確かに響いていた。
「……南絃が怒るの、久しぶりに見たな」
ぽつりと漏らした春の声に、誰もが無言のまま見守る。南絃の怒りが、部屋の空気をじわりと締めつけていた。
桜は何も言えなかった。目を伏せ、胸元を掴まれたまま、ただ黙って立ち尽くす。
――馬鹿だな、私。あんな言い方したら、こうなるって、わかってたのに。
ふと、龍護の視線がまた自分を捉えていることに気づく。その眼差しには、言葉にできない想いが静かに宿っていた。
春はその様子を見て、小さく呟いた。
「……止められないなら、せめて支えるんだよな。お前は」
その声に、千夏が堪えきれずに叫ぶ。
「桜! 無茶はやめなさい! あなたの体は、もう普通じゃないんだから!」
怒りと、言葉にできないほどの心配が交じる千夏の声。
春がそれを受けて、軽く笑いを混ぜたような口調で言う。
「南絃、心配性だな」
「……ですが」
と、今度は悠紀が淡々とした口調で口を挟む。
「南絃君の言葉は、的を射ていると思います。桜さんの体は、今はまだ非常に不安定な状態です。いくら自己治癒力が高くても、無理をすれば──本当に命に関わることだってある」
それでも桜は、はっきりとした声で応じた。
「大丈夫だって。……自分の体のことくらい、自分が一番よくわかってる」
それはまるで、自分の命の価値を軽んじているかのような響きだった。
「……いくら自分が嫌いだからって、無茶をしすぎだと思わないのか」
南絃の言葉に、桜はピクリと反応する。
彼女の表情が、わずかに歪んだ。
すぐに目を伏せたその変化を、渚と悠紀は気づかなかったが、龍護や春、恭哉、美優──彼女をよく知る者たちは、誰ひとりとしてその揺らぎを見逃さなかった。
龍護は何も言わず、ただ静かに見守っていた。
美優はそっと目を閉じ、痛みを分け合うように息を吐いた。一夜と千夏はさりげなく渚と悠紀を離し、気まずさを和らげようと席を立つ。
やがて、桜は小さく呟いた。
「……私の体、どうしようが……私の勝手でしょ」
声には、悲しみと後悔が滲んでいた。張り詰めた言葉のあと、しばらく静寂が落ちた。
はっとしたように、南絃が顔をしかめて言う。
「……済まない」
「……謝らないでよ。別に、気にしてないし」
そう言って、桜は顔を上げる。口元に浮かべたのは、いつものような笑顔──でも、それはどう見ても作られたものだった。
恭哉がそっと桜の肩に手を伸ばしかけたが、その手は途中で止まる。
「……ちょっと、顔、洗ってくる」
桜はそれだけ言って、ゆっくりと歩き出す。恭哉が追おうとしたが、春がそっと腕を伸ばして、それを止めた。
「……まだ、引きずってたのか」
誰の言葉ともなく、沈んだ声が溢れた。
ふと、龍護がソファの端に手を添えた。そのささやかな動きに、春が横目で彼を見た。
──止めないのか? とでも言うように。
龍護は、ただ一度だけ首を振る。
──止めても歩く。ならばせめて、背中を見失わないように。
春はわずかに笑い、視線を窓の外へ移した。それが龍護の“答え”であることを、春は誰よりも理解していた。
ドアが静かに閉まり、桜の姿が見えなくなる。
その静けさの中で、千夏はタオルを強く握りしめた。
自分の言葉は、彼女の心には届かない。いくら本気で心配しても、桜はきっと──また、自分を責める結論にたどり着いてしまう。
「……本当に、手のかかる子だよ」
ぽつりと漏らした千夏に、春が軽く肩をすくめて返す。
「お前みたいに無茶しない子が妹だと、こっちは助かるけどな」
「……それ、嫌味?」
「いや、マジで感謝してる」
何気ないやり取りのなかに、桜との“差”が滲む。
千夏は、自分を律する強さを持っている。
桜は違う。誰かを守ろうとするあまり、自分のことはいつも後回しだ。
「──あの子が無茶しようとしたら、ちゃんと止めろよ」
春は龍護に向けて、静かに言った。龍護は返事をしなかった。視線は、扉の向こうへと消えていく少女の背中を追っていた。
止めることはできない。
けれど、どれだけ傷ついても──決して彼女を見失わない。
言葉にせずとも、彼の覚悟はそこにあった。
桜と龍護が、二度にわたって取り返しのつかない喪失を経験していること──
それを誰よりも深く知っているのは、他ならぬ彼ら自身だった。
最初の喪失は、桜の実兄である天空 螢斗の死。
二度目は、両親を含む天空家の人々を巻き込んだ、あの大火事による悲劇だった。
螢斗は桜の二歳上で、龍護にとっては一つ上の先輩にあたる存在だった。理性的で、穏やかで──いつも感情に流されることなく冷静だった彼は、周囲から絶大な信頼を寄せられていた。
どんなに苛立ちを覚えても、決して自分を見失わない強さがあった。桜にとっては、何よりも大切な兄であり、追いかける背中だった。
ときには喧嘩もした。でもそれは、たいていすぐに仲直りして、また他愛もないことで笑い合う──そんな、ささやかな日常の連なりだった。
螢斗は“空の珠”の正統継承者として生まれ、幼い頃から異能を扱いこなし、五歳の時にはすでに周囲を驚かせるほどの才能を示していた。
誰もが疑わなかった。彼が珠を継ぐのだと。
もちろん、桜もそう信じて疑わなかった。
──けれど、あの日。
すべてが変わってしまった。
その引き金が、何だったのか。今でも、誰にもはっきりとは言えない。
「……一番、後悔してるのは──俺じゃなくて、桜だろうな」
静かな声で、龍護がぽつりと呟いた。その語尾には、やるせなさと痛みがにじんでいた。
「……自分のせいで、兄を失ったんだから」
重たく沈むような言葉だった。その瞬間、部屋の空気がふっと凍りつくような静寂に包まれた。
次から過去編に入ります!
桜咲にとって最初の難関突入です・・・。勉強の合間に書いていますので、色々と酷いです。
・・・・次回お楽しみに?