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珠巡り  作者: 桜咲 雫紅
二章 記憶
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出しゃばるなんて許さない

今回は少し珍しい人がメインになります。


自分のせいで大切な人を傷つけてしまった。そんな経験、誰にでもあると思います。私にもありました。そんな時助けてくれる友達が居るって、とても幸せなことだと思うんです。



私は、あの日のことを生涯悔いるだろう


愛しい人を、自ら死ぬ寸前まで追いやったあの日を






けたたましい|車のタイヤと地面が擦れる(ブレーキの)音。窓ガラスが粉々に砕かれる音。車がひしゃげていく音。


外では人の悲鳴らしきものが上がっている。それから微かにただよう鉄の臭気と水が滴る音。・・・水?


「――――ぅ・・・・くっ・・・・」


ゆっくり目を開けるとそこにあるのは無残な姿になった商品棚。ひしゃげた車体。



――――夢を、見ている。



「なに・・・・・これ・・・・・」


体中に痛みが駆け巡っている気がする。己の体を見るとガラスの破片が突き刺さり、血塗れだった。


「――――――――ッ」


逃げようと足に力を込めるが動かない。その時初めて自分の意思では体を動かせない事に気付いた。



――――黒とどす黒い赤で支配された、世界(ゆめ)。



頭の中ではわかっている。なのに逃げられない。見たくない光景(モノ)を見せ付けられる。


顔が動き、自分のすぐ近くに倒れている人に固定される。よかった。人がいる。


「たす・・・・け・・・」


その人がこちらに向かって手を伸ばし、そのまま動かなくなった。虚ろな目が恨めしげにこちらを見ている。


死んでるッ。


本能的にそれを悟り、一歩でも遠くへ行こうと地面に手をつける。



ぴちゃっ



生暖かいものに触った感触がした。その感触に驚いて手をあげると不快な音がたった。恐る恐る手のひらを前にもってくるとそこから赤いモノが滴っていた。


――――・・・・・・赤い。ということは・・・・・・血・・・?


「誰の・・・」


もし生きているのなら手当てしないと。そう思いそっちに顔を向ける。本来なら生きているはずのない出血量だ。それでも誰かが生きている。その僅かな光に縋(すが)りたかった。



――――嫌ッ。見たくない。この先は見たくない。



「はっ・・・・」


呼吸が荒く速くなる。心臓が早鐘を打ち、眦に涙が溜まっていく。


「――――いやぁあぁぁぁぁぁぁ!!優!!!!」


そこには商品棚とガラスケースに挟まれ、血塗れのまま血の海で目を閉じている最愛の恋人――――優(すぐる)の姿があった。







はっと目を開けると見慣れた天井があった。体が異様なほど冷たく、がたがた震えている。眦から温かい涙が零れ落ちた。


あの日は、彼の誕生日だった。今日は出掛けないほうがいいと言った彼を、私が無理矢理連れ出した。


「久々に、見た・・・・」


まさか、あんなことになるなんて夢にも思わなかった。


涙声で呟き、彼女、藤崎 瑠璃(るり)は布団の中で自分の体を抱き締める。


「優・・・ぅ・・・」


最愛の人の名を囁き、瑠璃は嗚咽(おえつ)を押し殺して涙を流した。











「久しぶりね、瑠璃ちゃん。お見舞い?」


「はい。病室、変わってませんよね?」


「えぇ。異能者用病棟の五階の一番端よ」


「よかった。ありがとう」


顔馴染みの看護婦に頭を下げ早足に歩き出す。ここは三珠総合病院の異能者用病棟。表向きは三珠の人達用の病棟になってる。もちろん無能力者用の病棟もある。ここに来るには三珠に入っている異能者が必ずもっている指輪を持っていなければならない。一般人は家族か友人、関係者ではない限り入室不可だ。


「あった」


久遠(くおん) 優(すぐる)というネームプレートを見つけ、自然と頬が緩む。実に一ヶ月ぶりだ。ここの所忙しすぎて見舞いに来ることさえ出来なかった。


「優、久しぶり」


一応ノックをして部屋に入る。五階はすべて個室になっているので他の入院患者はいない。


一ヶ月ぶりに見た優は機械が外されていた。いつもは機械だらけで痛々しい姿だったのに。


「改善に向かってるってことかな?」


自分なりにそう結論付け優のベットに腰掛ける。機械が邪魔で触れなかった優の頬にも、髪にも、これで触れることが出来る。


「優・・・」


閉じられている瞼をそっとなぞる。この瞼の下には瑠璃の大好きな鮮やかな紫水晶(アメジスト)の瞳があるのだ。


「目を・・・開けて」


あの事故以来、優は昏睡(こんすい)状態になってしまった。優と瑠璃の手術を担当した医師はこう言っていた。




――――「久遠君の異能、『死の脅威』が昏睡の大きな原因でしょう」


「死の・・・脅威?」


聞きなれない言葉に瑠璃は顔をしかめる。優は自分の異能についてあまり語りたがらない人だった。医師は「ええ」と頷き話を続ける。


「久遠君は他の異能者と比べて生命力が低い。あの事故のとき一般人なら即死レベルだったにも関わらず、君達が生きていたのはひとえに一般人より高かった生命力のおかげ。ですが、久遠君にとってはそれでも致命傷だったんですよ」


「だから異能が勝手に発動し、彼を守ったと」


信じられない思いで優を見つめる。異能が勝手に異能者を救う?そんな話聞いたこともない。


「あくまで推測ですが。久遠君は今仮死状態のような状態なんです。病院に運ばれたとき出血もおさまっていましたし、まず間違いなく」


一瞬痛ましげに瑠璃を見て、いっそ冷酷(れいこく)と言っていいほどの言葉を感情を込めずに宣告する。


「久遠君がいつ目覚めるか、それともこのまま目覚めないかは我々にもわかりません。可能性としては・・・・・・このまま目覚めない可能性が、非常に高いです。それだけは覚悟しといてください。我々も全力を尽くしますが、今までに無いケースなので・・・なんとも言えません」




心臓は規則正しく動いてる。呼吸もしてる。今にも起きてきそうだ。


「ずっとこのままなんてやだよぉ・・・」


堪え切れない涙が頬を伝う。四年だ。四年も眠り続けている。彼の声も、優しい眼差しも、力強い腕の感触も、胸を熱くさせる微笑みも全て色褪せてしまう。


「久遠君の病室って、ここだっけ?」


「見りゃわかるだろうが。・・・っておい!大丈夫か!?」


「へーき・・・だよ」


「はぁ・・・。お前もういっそのことここに入院させてもらえよ」


「それがいい」


「うるさいよ、二人とも。私はこの通り、元気だ」


「「どこがだ!」」


二人分の怒鳴り声と同時に扉が乱暴に開けられた。そこにいたのは見るからに具合が悪そうな桜と彼女を支えてる悠紀、眉根を寄せている渚の姿があった。三人は入った途端瑠璃の姿を認めてはっと戦闘態勢になる。


瑠璃は気付かれないように微かに目元を和ませる。彼らにとっては敵だろうが私にとっては彼らは敵ではない。


「瑠璃・・・・」


渚が悲しそうな表情でこっちを見ている。瑠璃は心の中で謝る。ごめんね。そんな顔させたかったわけじゃないんだ。


「病人が大勢いらっしゃる病院ですので、ここでの戦闘は極力行いたくありません。ですが、あなたが手を出すのならこちらもそれ相応の行動をとらなければならなくなります」


悠紀が射抜くような鋭い眼差しで瑠璃を睨みながら確認するように宣言する。結界を張れば張った当人が認めたもの以外がすべて排除される仕組みになっているので、一般人が巻き込まれる心配はない。それは建物もしかりだ。なので気兼ねなく暴れられるはずなのだが・・・彼の真面目な性分がそれを許さないらしい。


「私は戦う為に来たんじゃない。お見舞いしに来ただけ」


戦闘はしないと言外に言うと、桜が緊張を解く。だが、紅玉色の瞳は隙なく瑠璃を見据えている。左手がさりげなく腰元に伸びているのは無意識だろうか。


「やろうか」


悠紀に支えられながらも桜は歩を進め、優の額にそっと手を置く。その瞬間痛ましげに顔を歪ませ、瞑目(めいもく)する。桜の体から薄桜色のオーラが漏れ出し、優の体を覆っていく。


「再生の力」


「ちょっ」


瑠璃が桜に掴みかかろうとすると、それを見越(みこ)した悠紀が桜を守るように立ちはだかる。


「黙って見ていてください」


静かだが有無を言わせぬ語気で告げられ、腰を浮かせていた瑠璃は渋々(しぶしぶ)といった感じに椅子に腰を下ろす。渚が小声で話しかけてきた。


「一ヶ月に一度、桜がああやって『再生と死滅』の異能を久遠君に流し込んでるんだよ。そのおかげかつい最近ようやく生命維持装置が外されてね」


だから優の体に機械が取り付けられてなかったのか。でも、


「『再生と死滅』の異能は行使した者の命を吸い取るんでしょ?死ぬよ」


「確かにこれは体力・精神力・生命力をかなり消耗させます。ですが、桜さんは一度思うと止まらない方ですからね」


悠紀が視線を桜に向けたまま呟く。その口調には諦めが混じっているのに瑠璃は気付いた。


「く・・・っ・・・」


静かな病室に苦しそうな声が響く。ゆらゆらと薄桜色のオーラが不安定に揺れるたびにそれを安定させようとする桜の肩が激しく上下する。


『再生と死滅』は行使とともに凄まじい負担が行使した者にかかる。故に乱用は厳禁とされている禁忌異能の一つだ。この異能を持つ天空家の当主は早死にすると言われている。


『あなたのその異能は完全に目覚めてはいません』


どこからか声が聞こえ、一拍置いて桜の肩に狼と不死鳥が現れる。


「どういう・・・意味だ」


気を抜けば砕けそうな膝を支えながら問う桜。薄桜色のオーラは今にも消えそうなほど弱々しい。


『お前は・・・・二つの異能を持っている。一つは『終焉の劫火』。これは完全に目覚めた。答えを出したからだ』


これは不死鳥だ。桜は訳がわからず目を瞬く。答えってどういうことだ?


「答え・・・」


『大切な人を守るための力を。これが『終焉の劫火(ごうか)』の答えです。でもあなたは『再生と死滅』の答えをまだ出してません』


「答・・・え・・・・」


桜の瞳が大きく揺れた。ぎりっと奥歯を噛み締め、目を閉じる。思い悩んでいるのが一目瞭然。自分の心を掴みあぐねている様だ。


「私は・・・・」


そこで言葉が途切れ、もどかしそうに優の額に触ってないほうの手で頭を押さえる。すぐそこなのに掴めない。そんな感じだった。


「・・・・・わ・・・私は、ただ・・・」


『あなたは何のためにこの異能を求めるのです?何故この子を治すのですか?』


「それはっ・・・・・彼に、死んでほしくないと、思ってる人がいるから・・・。悲しい思いをしてほしくないから。もう二度と、私と同じ思いを大切な人達に味わってほしくないから。大切な人達と共に、生きたいから」


最初はゆっくり言葉を選ぶように話していたが、最後は考えるより先に出てくるようにすらすら出てきた。


『それが答えですか。あなたらしい』


狼はふっと意味ありげに笑うと地を蹴る。その姿には人を惹きつける何かがあった。


『いいだろう。『再生と死滅』を使うに相応しい者としてお前を認めよう』


不死鳥がそう宣言すると先ほどまで弱々しかった薄桜色の炎が桜色に変わった。それと同時に不死鳥の姿が桜色に変わる。苦しそうにしていた桜も驚いたように自分の両手を見つめていた。


「体が、軽い」


『中途半端な目覚め方をした『再生と死滅』は本領を発揮できていません。これが『再生と死滅』の真の力。きちんと摑めてなかったときは対象物を元に戻すだけと壊すだけの異能でしたよね?ですが、本来の力は再生の異能が対象物に命を吹き込む異能。死滅の異能に触れられたものは、たとえ異能者の異能や治癒能力をもってしても治せない。そんな異能なんです。もちろん今でも中途半端だったときの異能も使えますよ』


「『再生と死滅』・・・」


桜は再び優の額に手を置き、力を流し込む。と、制御し切れてないのか洪水のように桜色の光が優に流れ込む。


『もっと異能を抑えろ!このままじゃこいつの体が耐えられないぞ』


「く・・・・思ってた以上に・・・きつい・・・」


桜の瞳が剣呑(けんのん)な色に染まる。彼女の体から紅玉色のオーラが溢れ出す。


「二つの異能を同時に!?そんなのっ」


そんなのあり得ない、と続くはずだった言葉が途切れる。紅玉色のオーラが桜色のオーラを抑え込んでいる。こんなの、あり得ない。二つの異能を同時に使うことは多重能力者といえどかなり難しいことなのに・・・。


「いい加減に、しろよ。誰が暴れて、いいっと、言った」


桜の不機嫌率百越えの声が耳朶(じだ)を打つ。声音が静かな分怒りのほどがわかる。彼女の感情に呼応(こおう)するように紅玉色のオーラが一際輝く。


「私の一部が偉そうに出しゃばんじゃねぇ!」


叱声と共に紅玉色のオーラが完全に桜色のオーラを呑み込み、必要ない分を引き摺り戻す。


「無茶苦茶すぎますね。さすが桜さん」


悠紀が引き攣(つ)った顔で肩を竦(すく)めていた。狼は満足そうに目を細め『それでこそ我が主』と呟いていた。


「ふぅ。あとはっと」


ゆっくり、優の体に負担がかからない程度の異能を流し込んでいく。それは見ているだけの瑠璃にもわかった。相手をいたわるように限界まで異能を抑えている。不器用な彼女がここまで異能をコントロールするとは。


「――――――――ぅ・・・・」


優が小さく身動ぎし、薄く瞼を開ける。紫水晶(アメジスト)の瞳が隙間から見える。桜はそっと優から手を離し、ふらふらと後退する。


「やっぱ第二封印式使った後に異能使うのはきついな・・・」


トン、と壁に背中を押し付けるとぼやけた視界を閉ざす。体が異様に熱を持っている。全身が妙に気だるく、苦しそうな自分の呼吸音が耳をつく。


ヤッベ。体に負担かけ過ぎた・・・。『リミット』か。


異能はなにも無限ではない。使えば減るし、その分体力や精神力、生命力も削られる。異能を極端に使い過ぎると体が変調をきたすことがある。桜の場合は主に熱に似た症状が出る。これを三珠では異能の『限界(リミット)』という。


人によって『リミット』は異なり、『リミット』から回復する時間も人それぞれだ。普通の病気と同じ症状の『リミット』もあるが、自分で『リミット』か病気か判別できる。どうしてもわからないなら具象化に聞けばそうかそうでないかはわかる。


また、『リミット』している時も一応異能は使える。だが、『リミット』はいわゆる警告信号。『リミット』しているのに無理に異能を行使すれば、死ぬ。


普通の人間で言えば、急所ギリギリに突き刺さった刃を急所に向けてじりじり動かすようなものだ。つまり、自殺行為に等しい。


「一日、空けるべきだったな・・・。失敗した」


小さなぼやきは思った以上に小さく、自身の耳にすら聞き取りがたい音量だった。熱い呼吸を繰り返しながら重くなっていく体を壁に預けることでかろうじて支える。そうして体勢を安定させた桜は己の思考に沈んだ。


思い出すのは、昨日のこと。


悠紀に施(ほどこ)した封印式には確かな手ごたえを感じた。つまり、封印式は成功したと言っていい。しかし、その事実(こと)が桜の胸中に大いなる疑念を抱かせていた。


真海家現当主の禁術が、天空家現当主であってもまだ何もかも彼の足元にも及ばない未熟な自分の封印式程度で本当に封印できたのだろうか、と。


そんなのは自分自身が一番わかっている。出来るはずがないのだ。力量以前の問題に、経験値やその他諸々が圧倒的に足りていない自分の封印式は穴だらけで、抜ける隙はいくらでもあったはずだ。あの場に居た全員の力を借りたとしても、それは埋められないはず。なのに、どうして手ごたえがあったのか。


昨日、目覚めてからずっとそのことについて考えていた。おかげで一睡もできず、疲れが取れぬどころか異能が少しも回復しないままここに来てしまったのだが。


「真海 怜・・・」


真海家現当主の名を呟き、桜は目を閉じた。


彼の姿を見た最後の記憶は夏休みの終わり、螢斗が帰ってきたとき正式に二人で天空家当主を継ぐことに決まったとき天空家本家で挨拶した時だ。


感情の読めない無機質で冷め切った青玉色の瞳。氷のように冷たい表情。抑揚(よくよう)がない話し声。人を寄せ付けない独特の雰囲気。本家以外の人に対しては同じ人とも思わないような態度をとる姿。


この世のありとあらゆる感情を切り落としたかのような、徹底的な無表情さ。なのに、どうしてだろう。



――――「昔と相も変わらず、兄妹仲睦(むつ)まじいな」



そう言った彼の瞳が、自分の娘達が殺し合いを演じたと聞いても表情一つ動かさなかった鉄面皮が、わずかに揺れたように見えたのは。

一夜 「おっ、俺は菊地(木ノ本) 一夜。木ノ本は俺の本当の名字です。16歳。身長165cm。体重62kg。血液型AB型。三珠学園一年です・・・。好きなこと(もの)は皆といることとレモン。好きな言葉は親友(とも)。嫌いなこと(もの)は喧嘩。怖いことは大切な人を守れないこと。異性の好みは・・・いっ、いいいいい言えません!」


桜咲 「そんな真っ赤にならなくても・・・。鈍い一部を除いた全員知ってますよ?あなたが美「うわぁぁぁぁ!!!!!(涙目になって大声を出す)」


桜咲 「そこまで必死にならなくても・・・。告白とかはしないんですか?」


一夜 「でっ、出来ませんよ!今はこのままでいいんです。隣にいれればそれだけでいいんです」


桜咲 「そういえばあなたには裏の顔がありますよね。あれがあなたの本性ですか?」


一夜 「俺に裏の顔なんかありませんよ。恭哉達が言うにはキレたりするとちょっと口調とか表情が変わるらしいですけど・・・そんなに変わってますか?」


桜咲 「(ええ。かなり。)彼らがそう言っているならそうなんじゃないですか?では最後に」


一夜 「みんなの足を引っ張らないよう善処します!」

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