光の記憶
恭哉の過去です。昔はこんなだったのか、と思いながら読んでみてください。
一人でいいと思ってたんだ
ずっとずっと、そう思ってた
一人だったら、こんなに息苦しくなることもなかった
独りだったら、こんなに生き苦しくなることもなかった
だから、孤独でいいと、思っていたんだ
空峰 恭哉。
これが、彼本来の名前。普段は身分を隠すために縁のある天空の名を借りており、必要な時のみ本名を名乗るように言いつけられていた。
当時の彼はいつもどこか疲れたようにしていた。幼い子供に似つかわしくない無愛想な態度と、何に対しても熱のこもらない無機質な眼差し。
それが、幼い頃の彼の姿だった。
幼い頃の俺には、すでに全てがどうでもよく思えていた。
息苦しい。
近寄ってくるのは顔目当ての女か地位か財産目当ての大人ばかりで、同世代の子供と遊んだ記憶などなかった。
そういえば月に一度違う女と引き合わされていたが、その誰にも心が動いたことはなかった。それ以前に視界にも入っていなかった気がする。
あの時の俺にとって、女と会うのは最早一つの仕事のように思えていたのだろう。
それをおかしいと思うことすらなかったのだから、空峰家の教育は根本から間違っていたのだろう。
自由はなかった。外に出るときは必ず護衛付きな上、車で移動をしていた。別段外に出たいという欲求もなかった気がする。自分から何かを望んだ記憶もない。
ただ、ひどく生き苦しかった。
そうして当時の俺が出来上がった。
感情も望みもなく、ただ言われた通りのことをする人形のような子供。
次期当主という価値と、空峰を繁栄させるための道具でしかない俺には持つ必要すらないと。
その通りだと、思った。
所詮人形にすぎない“空峰 恭哉”という存在に己の意思など、ましてや感情など無用の長物だ。
そんな時、彼女に出逢った。
天空家本家長女であり、両親はおろか天空家の者全員から祝福されて産まれてきた少女に。
いやでも入ってくる噂では本家の者は皆無茶苦茶で無鉄砲で人の話聞かない上に喧嘩っ早くて皆武術に秀でているそうだ。
特に自分と同い年だという桜という少女が天空家本家の者の特性を体現したような性格の持ち主だとか。
初めて見たときあぁ、あいつか、とすんなに腑に落ちた。兄らしき少年二人の後をついてまわり、同年代の子供達とは喧嘩三昧。やる事なす事全部無茶苦茶で後先考えずに行動する姿。
そんな少女の姿を見た時、どんな時でも動かなかった心がわずかに動き、心臓が高鳴った。
目が、離せなかった。
己のやりたいように行動し、笑いたい時は思いっきり笑い、怒る時は烈火の如く怒りを露わにして、悲しい時は人目を憚らず大声で泣き喚く。
自分とはまるで正反対の彼女の存在が眩しかった。太陽のようなからりとした屈託のない笑顔をひだまりのようだと感じた。
きっと、その時からすでに俺は惹かれていたんだ。
「いらっしゃい、千夜」
「邪魔するよ、緋咲」
桜達本家の者に会う日の当日。俺等が本家の中へ入ると桜の母、天空 緋咲さんが出迎えてくれた。薄い紅玉色の瞳と長い黒髪が美しい女性だった。緋咲に先導され初めて入る本家をきょろきょろと物珍しげに見回す真夜。空峰 洸哉は表情を崩さず親父の後に続いている。
俺はというと彼らから数歩遅れて無表情で黙々と付いて行っていた。
そうこうしていると目的の場所に着いたらしく緋咲が足を止め、襖を開けようと手を伸ばす。
「離せ!くそ親父っ。・・・は・な・せ!」
聞こえてきたのは聞いたことがある声音だった。ピクッと自分の指が反応したのを感じ、俺はぐっと拳を握った。
「ダメだ。もうすぐ千夜達が来る。そこで大人しくしてろ」
「やなこった。――――炎よ」
「ぉわっ。馬鹿かお前は!ここで異能使う奴があるっっ!!」
焦ったような言葉が終わる前に派手な爆発音が響いた。その音に思わず顔をしかめると吹っ飛んだ戸から一人の少女が飛び出してきた。呆気に取られて固まっていると少女は立ち尽くす俺らには目もくれず脱兎の如き勢いで走り去っていった。
「くそ、やられた!」
破壊された部屋から埃をかぶった男性が悪態をつきながら出てきた。
「あらあら。大丈夫?」
楽しそうに笑いながら男の体から埃をはたき落とす緋咲がまったく心配していない口調で訊ねる。男性はその言葉に頷き、俺らに気付いたのか気まずそうに苦笑いを浮かべた。
「せっかく来てくれたってのに悪ぃな。ちょっとここで待っててくれよ。すぐ捕まえてくっからよ」
「あぁ。わかった」
切れ長の澄んだ桜色の瞳に呆れを滲ませ、薄黒でざんばらな髪を揺らした陽斗がそう言い残し、席を外してから三十分が過ぎた。十分過ぎたとこで緋咲も部屋を出て行った。おそらくあの少女を探しに行ったのだろう。
親父は持参してきた本で暇つぶしをしている。どうやら前にもこういうことがあったらしく、暇つぶしの準備は万端だ。真夜は座ったまま居眠りし始めていた。その隣の洸哉も親父と同じく読書中。
俺はというと、先ほど見た少女の姿を思い返していた。あれほど間近で見たのは初めてだったが、目に入った横顔はとても無邪気でいかにも「してやったり」とでも言いたげな顔だった。
「・・・はっ」
そこまで思い返すと不意に小さな笑いが喉を震わせた。その事に驚き、俺は固まった。
今まで誰にも動かなかった心があの少女のたった一つの表情で動き、さらには笑ったことに純粋に驚いていた。こんなこと何年ぶりだろうか。
ドタドタ、と荒々しい足音と共に話し声が少し遠くから聞こえてきた。顔を上げるのと障子が力一杯開けられるのは同じだった。
「入れ!ったくなんでお前はいつもいつもいつもいつもっ」
「せっきょうならもういい!わたし、けんといのーをじゆうにできるようにしたいのっ。こんなどーでもいいことしてるひまないの!」
陽斗に抱えられて連れてこられたのは天空家特有の吸い込まれそうな綺麗な紅玉色の瞳を持った少女だった。自分の瞳より濃く、澄み切っている。本家の人は色が濃いと誰かが言っていたのを思い出した。
綺麗だと、思った。
「遅れてすまん。ほら、お前も謝らないか!」
「ヤダよ。わたし、わるいことしてないもーん。千夜、げんき?」
「あぁ。久しぶり、桜ちゃん。今日も元気そうだな」
「うん!元気だよ!」
ベーっと陽斗に向かって舌を出し、千夜に挨拶をする少女。親父も本から目を離しにこやかに挨拶を返す。その瞳は珍しいぐらい温かい光に包まれている。
遅れてやって来た紅玉色の瞳を持つひ弱そうな兄らしき人がたしなめるように、黒目の無気力さを前面に出した少年はかったるそうに欠伸をして言った。
「桜。おくれたのはほんとうなんだからあやまらないとダメだよ」
「そんなこともできねぇのかよ、お前」
「龍兄うるさい!!でも螢兄がいうなら・・・。おくれてゴメンナサイ」
棒読みの謝罪をして用は済んだとばかりにさっさと踵を返す桜と呼ばれた少女の首根っこを素早く掴み、陽斗は俺と真夜と洸哉に紹介する。
「コレが俺の娘、桜だ。年は五つ。恭哉とは同い年だったかな。仲良くしてやってくれ」
「コレ言うな!」
あとから知ったことだが、俺の親父が俺に友達を作らせようとしたらしい。あの頃は親父が空峰の教育方針に常々怒りをあらわにしていたのを知らなかった俺はこれも仕事なのだと思っていたので無理矢理心の中に生じた波紋をなかったことにした。
「おい!コレって言うなっつってんだよッ、アホ親父。・・・・・・むしんな!」
桜が首根っこを掴まれたままきゃんきゃんと子犬が飼い主にじゃれ付くように吠える。その様子が面白かったのか真夜は笑っている。隣の洸哉は眉根を寄せ、声には出していないが口が「この方が本当に本家の者ですか?信じられない」と動いていた。
「やかましい!おら、お前も挨拶せんか」
ポイっと俺達の前に放られ、むーっと頬を膨らませていた桜は真夜から順に顔を眺め、最後に行き着いた俺の顔をじーっと凝視してくる。
「・・・何か?」
どうしてか無視することができずに淡々と問うと、首を傾げた桜の小さな手が俺の頬に伸ばされ、そぅっと触れた。
人に触れられるのは好きではなかったのだが、伝わってきた仄かな温もりが心地よいと感じている自分がいて戸惑った。
何故か今日はやたらと抑え込んでいた感情が表面に出てくる。それにさらに戸惑い、改めて厳重に蓋をする。
「どうしてそんなにつまらなそうにしてるの?もっと楽しもうよ!ねっ、螢兄、龍兄」
息を呑んだ音がすぐ近くで聞こえた。それが自分の物だと遅ればせながら気づき、俺は硬直した。
にこっと頬笑み兄に同意を求める。螢斗は片膝をつき桜の頭を撫でつつ「そうだね」と答える。その隣の龍護は「お前は楽しみすぎだ」と桜のことを小突いている。
何も言えなかった。今まで誰も気付いてくれなかった胸の内を一目見ただけで見抜かれたことに驚き、どうしてかほっとしている自分が理解できなかった。訳のわからない自分の反応に困惑していると誰かが背中を押した。
「お前らは外で遊んできなさい。俺はこれから陽斗と話がある」
親父がそう言い半ば追い出されるように家の外へと出された。俺は戸惑いを隠せなかった。だいたい護衛という名の見張り役なしで外に出るのは初めての経験だ。親父のほうを見ると優しい顔で笑っていた。
「遊ぶなって言ったり遊べって言ったりなんなんだよ」
不満ありありの顔で文句を言う桜を螢斗がまぁまぁと宥める。
「じゃあ遊ぼっか。名前は?」
「天空 真夜。あなたの一つ上よ。よろしくね」
「よろしく。真夜さん」
「天空 洸哉ともうします。いご、おみしりおきを」
「よろしく、洸哉君。ねぇ、いごとかおみちりおきをってどういうこと?」
「それはですね「天空 恭哉」
答えようとした洸哉を遮り名乗ると、桜はふーんと俺の全身を無遠慮に眺め回す。
「よろしく!きみ、すっごくきれいだね。ねっ、笑ってみて?」
よく言われてきた言葉だが、彼女に言われたというだけでひどく特別な気がした。そうしてふわっと花が咲くように笑った彼女を目にして何故か心臓が早鐘を打ち始め、顔が熱くなったのを今でも覚えてる。
彼女は自由だった。
自分とは正反対の存在。やりたいことをやり、言いたいことを言う。喜怒哀楽がはっきりと表れ、感情の起伏も激しい。
そして、よく笑った。
光のような存在だった。俺を覆う闇に射した一筋の光。
人形のような俺に人らしい感情を、人並みの欲求を教えてくれたのは、すべて桜だった。
初めて会って、遊んだ翌日。俺は専属の家庭教師に異能についてを学んでいた。この次は政治経済について、その次は・・・思い出すのも嫌になってきた。真夜と洸哉も同じように勉強させられているはずだ。部屋は別だが。真夜は俺より本格的な勉学を、洸哉の方は秘書勉強をしている。
「・・・」
立てた人差し指を見つめるとそこに意識を集中ささてみる。皮膚を撫ぜる空気がひやりと冷たくなるのと同時にぼっと指先に小さな火が灯った。
ゆらゆらと揺れ動く小さな火の赤をぼんやりと眺めていると昨日見たあの鮮やかな紅玉が重なった。驚きでビクッと揺れた指先から呆気なく火が消えてしまう。
なんだって、あの目が・・・。
ぐしゃぐしゃと髪をかき混ぜつつ窓の外に視線を流すと、視界の隅を赤いものがよぎった。はっと息を詰め、らしくもなく動揺しながらそっと視線を滑らせと、先ほど重なった大きな紅玉色の瞳が興味津々といった様子でこちらを見ていた。
天空 桜・・・ッ。
昨日から蓋をしたはずの感情を揺り動かす存在を認め、心の中で低く毒づき目をそらす。窓の外には木に登ってこちらの様子を覗き見ている桜がいた。
「なにしてるの?」
口の形がそう動いていた。まさか勉強させるためにこの部屋にほぼ軟禁させられてる、などとホントの事は言えない。答えを考えるのも面倒になり、勉強に集中する。といっても勉強が入るわけなく、ほとんど聞いていなかった。
「では今日はここまで。十分の休憩の後、次の教師がいらっしゃいます」
事務的な言葉を淡々とつらねるのは志井だ。俺の世話係という名の見張り役。
「ハイハイ」
適当に返事をするとちらっと窓の外に目をやる。そこにはまだ桜がいた。目が合うと嬉しそうに笑み崩れた。なにがそんなに面白いのだろう。理解に苦しむ。
「遊ぼ?」
桜の口の形がそう動いた。俺は志井の目を盗んでノートにこう書いた。多少悪筆になったが気にしない。
「むりだ。おれは見張られてる」
それを自分の体に隠して見せ、桜が読み終わったのを目の動きで確認すると志井を指差してみせる。
桜は俺の字と、指差した志井を見比べ、納得したように頷く。大人しく帰ってくれるか、と思った瞬間、桜は木から飛び降りる。ここは二階。いくら異能者といえど、子供。運が悪ければ怪我もする。
思わず立ち上がりそうになり必死に自制する。落ち着け。なにをそんなに焦っている。俺らしくないぞ。そう自分に言い聞かせてみるも動悸は治まらない。
しばらくすると次の教師が来て志井が退出した。それに安堵する暇なく桜が紙と鉛筆らしき物を持って木に登ってきた。どうやらそれを取りに行っていたらしい。心配させるな、と怒鳴りたくなった。
「まやねえとこうやくんのとこにはくれにいとりゅうにいがいってる。あそぼ?」
人の話聞いてたか!、と思わず怒鳴りそうになり必死に出かけた言葉を飲み込む。落ち着くんだ、俺。理性を総動員させ、なんとか気を落ち着かせる。
どうしてか。今日の自分はいつもの自分とかけ離れている。昨日から、桜と出逢ってからずっとそうだ。感情がコントロールできない。
「むりだといっているだろう」
感情が制御できないことに苛立ち、その苛立った事に対してまた苛立つ。悪循環だと知りながらイライラを止められずにそのまま紙に書き殴る。さっきより更に悪筆になったが気にしない。桜はそれを読み、何かを考え込み始めた。
嫌な予感がビシビシするんだが・・・気のせいだよな?気のせいだと思いたい。無表情下でそう呟いていると、嫌な予感は見事に的中した。
桜は再び下に降りた。ここまではよかった。ようやく話が通じたのか、と胸を撫で下ろしたぐらいだ。この次がいけない。
ビキ、という不穏な音と共に窓ガラスにひびが入る。さすがの教師もその音にはすぐに気付き、窓に近寄る。反対に嫌な予感が確信に変わった俺はそっと窓から離れる。次の瞬間。
ガッシャーン
窓ガラスが粉々に砕け散り、教師に直撃。教師は悲鳴を上げて床を転げ回る。といっても教師は怪我らしき怪我はしていない。俺はというと割れる音と共に一目散に割れた窓から飛び降りた。着地して周りを見ると予想どおり真夜と洸哉を連れた桜の兄二人と桜が笑っていた。
「これであそべるね、恭哉」
「お前・・・むちゃくちゃしすぎだろ」
わずかな呆れを無表情の顔に滲ませて嘆息すると、桜は「気にしない気にしない」と楽しげに笑っている。いや、気にしろよ。
ガラスの割れる音を聞きつけて部屋に入ってきた志井が割れた窓からこちらを見ている。その顔に怒気が露になっているのを見て俺は内心ため息をつく。説教かな。それとも勉強時間延長の刑かな。
そう思っていると桜が俺を庇うように前に出た。なにするつもりだ、と見守る中、桜は声を張り上げる。
「ほんじつづけで天空 恭哉を私の親友とします。いっ、いろんがあるものはまえにでろ。たたきのめす」
小さな紙切れに書いてあるセリフを読み、太刀を抜く桜。その瞳はやる気満々だ。志井の眉間にしわが寄る。
怒るか?怒るよな。
「異論は、ありません」
「はっ?」
思わぬ答えに俺らしくない間抜けな声が口を突いて出た。こんな声を出したのは初めてかもしれない。それぐらい驚いていた。
あの志井が素直に引いた?あり得ない。天変地異の前触れか?等と大変失礼な事を考えていると、志井は肩を竦めて俺を見た。反射的に身構えると志井は下に飛び降り、俺の前に跪く。
「恭哉様。私は貴方のお父様と約束をしていたのです。貴方がご自分の意思で外に飛び出すことを望んだ時、私は身を引くと。ご安心ください。影満様には私がしかとご報告しておきます」
「親父と・・・」
「えぇ。発案者は陽斗様です」
陽斗という事は・・・。視線を隣に流すと昨日同様、してやったり、と言わんばかりに笑っている桜がいた。そうか、こいつが。
「私は今後も貴方の教育役として務めを果たすように仰せつかっておりますので」
志井はそう言って立ち上がると一礼し、隣の桜の前に膝をつくと彼女の頭を撫で、「桜様。恭哉様をよろしくお願いします」と囁きかけた。
「うん!」
桜は彼の言葉に元気よく頷くと志井の頭を慣れない手つきで撫でる。志井はその手の下で大人しくされるがままになっている。
あの志井が。殊の外身分に口煩かったあの志井がっ。桜の手を受け入れている。いつもなら「恐れ多い」とか「私などに勿体無い」とか言いそうなのにッ。
「ではこれにて」
志井は桜の気が済んだ頃を見計らい、静かに立つと去っていった。桜は志井の後姿に手を振り、勢いよく振り返ると太陽のようにからりと笑い、俺の手を握った。
「こわい人ではないんだね、あの人。きっと恭哉君にけがしてほしくなかったんだよ」
そうだったのか。桜の真っ直ぐな瞳を見ているとそうだったのだとうっかり信じそうになってしまう。なんとなく答えに困って黙り込んでいると、優しく頭を撫でられた。
「ほら、行こう」
優しい笑みに不覚にも見惚れてしまった。息をすることも忘れ、ただただその笑みに魅せられていた。女の笑顔なんぞもう見飽きたと思っていたのに、この笑顔はずっと見ていたいとほんの一瞬だけ思ってしまった。
そのことに動揺し、意志の力を総動員して彼女の笑顔から目を引き剥がす。動悸が鳴り止まず、頬が熱くなっていくのがわかった。逸らした先にいた真夜が意味ありげな顔で笑っていたのでとりあえず睨んでおいた。
一人でいいと思ってたんだ
ずっとずっと、そう思ってた
一人だったら、こんなに息苦しくなることもなかった
独りだったら、こんなに生き苦しくなることもなかった
だから、一人でいいと、思っていた
光に出会うまでは――――
後日。この話を真夜が親父に流したらしく、俺はかなり執拗な質問攻めにあった。俺はしらを切りとおしたが、どこまで隠し通せたか自信がない。
あの日から桜の事が好きになった。まぁ好きという感情に気付いたのはもう少し後だったけれど。
やっぱり俺は桜の事好きなんだなっと改めて実感した一日だった。
少しばかり長くなりました。恭哉と桜の出会いを書くのは楽しかったです。読者の皆さんも楽しんでいただけたら嬉しいです。