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珠巡り  作者: 桜咲 雫紅
一章 兄妹
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意外とモテるのね、あなた

「俺と付き合ってくださいッ」


「・・・・えっと・・どこにでしょうか?」


いったい何度目だろう。男というものが考えることは本当に理解出来ない。人を呼び出しといて「一緒にどこか行こう」ってなんだよ。それなら教室で言えってーのッ!と、桜は苛立ちを隠そうともせず大真面目に考えていた。


「そういう意味じゃ・・・「じゃあどういう意味?」


自分が告白されているなど夢にも思っていない桜だった。自分にはそんな価値ないし、好きになってもらえるような人間ではないと常日頃から思っているので、当然男子生徒が言いたい言葉の真意をこれっぽっちも理解できてない。


「おっ・・・俺、天空の事が好きなんだ」


「あーごめん。やめといた方がいいよ。話しそれだけなら戻るわ」


即行で断りさっさときびすを返す桜。男子生徒はそれでもめげずに桜の腕を掴む。


「俺の事好きじゃなくてもいい。これから好きにさせてみせるから。だから俺と付き合ってください」


困った。ここまで言われたのはなんだかんだ初めての気がする。でも・・・。


かげりを帯びた紅玉色の瞳に痛みに似た感情が過ぎる。目元を歪ませた桜は顔をせた。


私には誰かを好きになる権利も、誰かに好かれる資格もない。


「悪ぃ。こいつ、俺のだから」


突然強い力で後ろに引っ張られ、抱き締められる。一つ目を瞬いてゆっくり目線を上げていくと、見慣れた紅い瞳がそこにはあった。


「恭哉・・・?」


いつになく険しい顔をしている恭哉が立っていた。男子はそれでも退かず、恭哉に詰め寄る。


「お前と天空が付き合ってるなんて初めて聞いたぞ」


「事実だ。諦めろ」


いつも以上に近い距離にある恭哉の顔をまじまじと見つめていると、少しして男子は悔しそうにしながら立ち去っていった。それはありがたかったのだが、彼が去ってからも相も変わらずな距離に次第に居心地が悪いような、なんとも言い表しにくい気持ちになってもういいよと軽く腕を叩く。


「わ・・・悪ッ」


遅ればせながら気づいたのか、慌てて離れる恭哉の顔は若干赤い。離れていく温もりを名残惜しく感じながら1つ息を吐くとまずはとりあえず礼を口にする。


「あっ、ありがと」


「お・・・おう」


そのまま両者の間に沈黙が流れる。桜は勝手に騒ぎ出した心臓に戸惑とまどっていた。


なんで恭哉に抱き締められたぐらいで動揺してんだ?私。こんなこと、昔っから数え切れないほどあったのに。


それに当人は気付いていないが顔が真っ赤だ。耳まで赤い。それを指摘したくても自分も同じであろうため墓穴を掘ることになりかねない恭哉は大きく深呼吸し、自身を落ち着かせてから桜に笑いかけると普段通りの調子で歩き出す。


「教室に戻るか。皆待ってんぞ」


「うん」


彼の笑顔など見慣れてるはずなのに今日はどうしてか胸がざわめく。不気味なことに言動全てが輝いて見える。


きっと目か頭が悪くなったんだ。うん。そうに決まってる。そうじゃなきゃ常日頃から女子達が言っているようなキラキラモテオーラが見えるわけないじゃん。しっかりしろ私!


「そうだ。久々にゲーセン行くか」


「いいね。行く行く」


なんで今日に限って、と原因を探ろうと隣の彼を眺めていると、バチっと目があってしまった。


「じろじろ見んな」


照れ臭そうにそっぽ向くという珍しい表情に、つい弄りたい気持ちが湧き上がってきた。その気持ちのまま彼の正面に回りこみ、顔を覗き込む。


「照れてんだ〜。かーわい。写メ撮ってあげるよ!」


「結構です」


携帯を取り出すとなかなか素早い動きで逃げていく。それを追いかけながらこれからこの感じ、といつもの距離感に戻れた事にどうしてかホッとしていた。



ガラっ



「あっ、帰ってきた。遅いよ」


「ごめんごめん。意外としつこくてな、あの男」


忌々しそうに舌打ちつきで説明するのは事の当人ではなく横槍を入れた恭哉。桜はというと何故彼が突然不機嫌になったのかわからず、戸惑ったような顔をしている。


「独占欲丸出し男は嫌われるよ」


通りすがりに渚がボソッと警告をこぼすと恭哉はボッと一瞬で顔を赤くして小声で「余計なお世話だ」と返す。そんな彼に音もなく近づき、悠紀がニヤニヤしながら赤い頬を突く。


「…何しやがる」


「ん~?恭哉にも可愛いとこあるんだな、っと思ってな」


ギロッと冷たい目で睨むも、悠紀はまったく堪えた様子がなく悪戯っぽい笑みを刻んだ唇を恭哉の耳元に寄せた。


「んで、なんでそんなイライラしてんだ?告白断ったんだろ?桜」


「うるせっ」


「あぁ。嫉妬か」


珍しい彼の様子にふき出しそうになるのを必死に堪えて問題の桜を一瞥いちべつする。当の桜は美優達と楽しそうに話していた。


「桜ちゃん、鞄だよ」


「ありがとう。美優ちゃん」


美優が持ってきてくれた自分の鞄を背負い、礼を言うと「いえいえ」と癒される笑顔が返ってくる。可愛いなぁ、とその笑顔に見入っていると、携帯画面を見ながら一夜がやってきて「あの、今送られてきたんだけど」と前置きしてから読む。


「お前らが遅いんで俺らはかくれんぼをすることにしました。俺らを見つけてください。って」


「またか」「懲りないね、お兄ちゃん達」


呆れたように肩をすくめる桜と千夏に読み上げた一夜は苦笑を返し、会話を聞いていた悠紀が眉間にしわを寄せて沈痛なため息をつく。


「あの人達は中身まったく成長してないのか。龍護さんまで」


「悠紀、そんなに眉間にしわ寄せると消えなくなっちゃうよ」


凛々しい顔に深々と刻まれた眉間のしわを押しながら心配そうな渚らは側から見たらいちゃいちゃしているようにしか映らない。桜と恭哉はそれを見て同時に頭を押さえる。


「ラブラブするなら他所でやってくんない」


はぁ、と重いため息まじりに恭哉が苦言を呈するが、渚は少し目を見開いて悪戯を思いついた子供のように瞳を輝かせ、口には黒い笑みを浮かべて一言。


「なに?自分が同じこと出来ないからって八つ当たりしないでくれる?悔しかったら自分の気持ち言えばいいじゃない。さく「うわあぁぁぁ」


続くはずだった言葉を焦ったように奇声を上げてかき消す。はぁはぁと息を荒げて頬を紅潮させている恭哉へと一夜がニヤニヤ笑いながら追い討ちをかける。


「顔、真っ赤だよ」


「うっせ!お前は黙ってろ」


「おっと、危ない」


顔面目掛けて叩き込まれた肘打ちを寸前で回避する。その隙を突いて鞄を手に取ると恭哉は扉を破壊しそうな勢いで開くと脱兎のごとき勢いで去っていく。


「逃げた」「逃げたね」「逃げやがった」


左から、渚、一夜、悠紀の順である。当事者なのになにがなんだかまったく理解できなかった桜は一部始終をポカンと見ていたが、恭哉が開けた扉の音で我に帰り、慌てて彼を追う。


「待ってよ、恭哉!」


追いかけていく桜の足音を聞きながら残された中の四人はため息をつく。


あの2人がくっつくにはまだまだ時間がかかりそうである。









それは曇り空のある日。


ここは三珠学園内にある学生の息抜き場、ゲーセンである。ゲーム部の部員が作った。土、日のみ営業する三珠学園の生徒が遊べる数少ない場所である。


「はぁ、やっと課題終わった。あんなに勉強したの初めてだ」


「俺もあんなに一生懸命教えたの初めてだ。おかげで教えんの上達したかも」


いまだに方程式や英単語などが脳内に入り乱れている春が頭を抱えている隣で、唇が切れてる真夜が若干疲れた面持ちで眠そうな龍護に寄りかかっている。その後ろには右拳に包帯を巻いている桜、魂の抜けたような顔で突っ立ってる渚、その渚を揺さぶってる悠紀、頬に絆創膏を貼る恭哉、疲れ切った美優と一夜、大きなため息を吐いてる千夏と続く。


何故怪我をしているかというと、ここに来る途中で能力を使って遊んでいるアホな不良共と一喧嘩やってきたからだ。もちろん桜達の圧勝。まぁその時ちょっとした怪我をしたわけだ。


「今は勉強の事忘れて遊ぼうよ。どのUFOキャッチャーやる?」


「・・・眠い」「あれやろうよ」「いいぜ。勝負だ!」「私達は上のお菓子屋に行こうよ」「「賛成」」


千夏と渚と美優は桜に気付かれないようにすばやく悠紀と一夜にウインクする。二人はその意図を察し、ニヤッと笑い合うとひらひらと手を振る。


「俺らはそこのUFOキャッチャーで遊んでるから」


「はっ?・・・ちょっとまっ・・・」


反射的に手を伸ばすが、その手が捉える前に二人はスタスタと行ってしまう。桜は目をパチパチさせ、恭哉を見つめる。


「皆行っちゃったね。恭哉はどうする?」


「おっ・・・俺?・・・俺は・・・その・・・・」


自分の言葉を待っている桜の瞳を覗き込む。その目を見ているうちに無意識に心の中に湧き上がった言葉を口走っていた。


「俺は桜と一緒にいたい」


言ってから猛烈に恥ずかしくなってきた。なにぶっちゃけてんだよ、俺。つうか言う前に気付けよ。


「そっか。じゃあ適当にブラブラしない?」


「そうだな」


無邪気に笑う笑顔がすぐ近くにある。こんなに近くにいるのに、こんなにも遠い。その事に寂しさを感じていると、桜が恭哉の頬に触れる。驚きと恥ずかしさから固まる恭哉。しばらくそうしていた桜は心配そうな表情で問うてきた。


「どうかしたの?やっぱり私といるのヤダ?」


「えっ・・・なんで?」


問いに問いで返され、困ったように自分の頬をかくと視線をあちこちへ泳がせる。


「なんとなくだけど・・・・寂しそう?な顔をして見えたから。それに、なんかを我慢してる気がして・・・。ごめんね。変な事言って・・・」


こんなことを口にしたら絶対怒るだろうけど、どうしてこいつはこういう時だけ鋭いのだろう。


「なんでもない。桜は小さいなって思っただけ」


わざと彼女の怒りワードを取り込むと、予想通り間髪いれず噛み付いてきた。


「小さくない!これでも168㎝あります」


「俺は180㎝だ。お前のが小さいだろ?」


目下にある彼女の頭をぽんぽん叩くと、手の下の彼女はむーっと小さな子供のように頬を膨らませてそっぽを向いてしまった。


「あー悪かったよ。そう怒んなって。お詫びにUFOキャッチャーで好きなもんとってやっから機嫌直せ」


「ホント!」


つい先ほどまでのむくれ顔はどこへやら、ぱぁと顔を輝かせて嬉しそうに笑った。「どれでもいいぞ」と言ってやると桜はさっそくどのUFOキャッチャーがいいか選び始める。


そんな後姿を見守る恭哉の口元には柔らかい微笑が宿っていた。


少し離れたところから馬鹿ップルのような二人を物陰から見つめる怪しい人物がいた。そのうちの一組が龍護達。彼らは二人に見つからないようにこそこそしながら生暖かい目で成り行きを見守っていた。


「良い感だねぇ、あの二人。そう思うだろ?龍」


「・・・どうでもいいな」


「でもなぁ、桜は自分の気持ちに気付いてないし、恭哉は自分の気持ちを伝えようとしないヘタレだしなぁ」


「うぜぇ」


見事に会話が噛み合っていない。


今にも眠ってしまいそうなほどボーっとしている龍護は端から春の言葉など聞いていないし、春は春で自分の見解を好き勝手述べているし。


なおも噛み合わない会話を続ける二人の後ろにいる真夜は壁にもたれかかり、眠そうに目を擦っている龍護を見ていた。何故かその顔をしかめている。どことなく不機嫌そうだ。青い瞳がすっと細められる。


「・・・くっそ」


風に溶けるほど小さな声で呟き、髪をぐしゃぐしゃにする。彼女に似合わず、常に口元に刻まれてる笑みが消えている。いつになく真剣なようだ。


「私だって・・・が好きなんだよ・・・」


その続きは音楽にかき消され自分の耳にも届かなかった。真夜は少し悲しみが滲んだ表情で龍護だけを見つめていた。


「真〜夜。お前はどう思う?」


唐突な問い掛けに龍護を映していた青い瞳がパッと外され、少し見開かれた双眸そうぼうが焦りを滲ませて春を映す。声を掛けた本人は見開かれた青い瞳を真っ向から見つめ返し、首を傾げる。


「どした?顔赤ーぞ」


指摘されてから慌てて顔に手を当ててみるが、もちろん自分の顔が赤いかどうかなどわからない。どこかに鏡はないかと見回していると、春はうとうとしている龍護の肩を揺する。


「なぁ、龍。お前もそう思うよな」


ついさっきまで見つめていた人物に話をふられ、真夜の体温が一気に上がった。鏡を見なくてもわかる。今自分の顔は真っ赤だろう。


「あ?」


どうでもいい、と声と身体全身で訴えている龍護は片目を開け、じろっと春を睨みつける。せっかくうとうとしていたのに起こされて苛立っていることは誰の目から見ても明らかだった。


「真夜の顔、赤いよな。真夜ってやっぱ女なんだな」


失礼極まりないことを本人を前に堂々と言い放つ。問われた龍護はというとちらっと赤い顔を両手で隠している真夜に視線を向け、すぐに春へ戻すと興味が失せたと言いたげな態度で目を閉じる。


「女に決まってんだろ。馬鹿か、お前は」


「ばっ、馬鹿とはなんだ!!馬鹿とはッ!・・・っておい!聞いてんのか!?」


彼の一言に過剰な反応を示し、猛然と噛み付いた春はうるさそうに眉根を寄せて腕を組んでしまった龍護に詰め寄る。迷惑だと全身から訴え、虫を払うが如く春を手で払っている龍護を見つめ、嬉しそうに口元をほころばせた。


「龍・・・ありがと」

桜と恭哉がいい感じになってきましたね。作者としても嬉しい限りです。

次回は桜の意外な思いがわかります。(予定では)

お楽しみに。

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