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珠巡り  作者: 桜咲 雫紅
一章 兄妹
12/108

『普通』とか『異常』とかどうでもいい

恭哉と桜に進展が・・・。そして一夜の裏の顔が・・・!?

それでは十一話をお楽しみ下さい。

委員会・教職員寮。


「うぉ!?どうしたんだよ、お前ら。傷だらけじゃねぇか。特に桜」


「酷いな。何があった」


「今回の仕事そんなにきつかったのか?」


「きつかったね〜。あとで理事長と校長に文句言わなきゃ気がすまないぐらーい」


結構な大怪我のくせして口だけは一人前の桜の様子に千夏達はほっと安心したように息を吐く。これだけ口が回るなら命に別状はないだろう。


「・・・」「疲れた・・・」「お腹減った・・・」


龍護と恭哉と渚がソファーになだれ込み、掠れた声を出す。


「ちょっと待ってて。今夕飯作るから」


疲れ果てている彼らの姿に千夏がばたばたと慌ただしくキッチンに向かう。桜は貧血の為か、ソファーに寄っかかって時折苦しそうな声を漏らしている。相当堪えたようだ。そんな彼女の横に美優が膝をつき、治療を続けている。


ちなみにここにいない悠紀と戒はそれぞれの部屋で仕事中と惰眠貪り中だ。


「おーい。飯まだ~?」


「へ~、ここが龍達の寮か。結構大きいじゃねぇか」


「な・ん・で・オメーがいるんだよ。自分の寮に帰れ」


はえを追い払うようにしっしっと春が手を動かすと、真夜はきょとんとした顔で当然の事のようにこう述べた。


「何で?私ここに住むんだが」


「「「「「はぁ!?」」」」」


春・美優・一夜・桜・恭哉・渚の声が被った。南絃はまったく動じず黙々と報告書をまとめ上げており、龍護はすでに夢の世界へと旅立っている。そこはまぁいつも通りだからいいとして、今の内容は初耳だ。


つ~かなに勝手な事ぬかしてやがんだ、こいつらは。


「父さんがそう言ったんだよ。異能者用の寮より委員会の寮のが友達いていいだろうって。あぁ、そうそう。親父が龍護と桜の誕生日に合わせていいもんやるって言ってたぜ。楽しみにしてな」


「はぁ・・・どーも」


しばらく呆然としていたが、桜がため息をついたのを皮切りに他の面子も仕方がないかといった様子で肩をすくめたり苦笑いを浮かべたりと諦め体勢に入る。


「しょーがねーからお前をここに置いてやる。ただし、ここに住むっていうなら家事をやってもらうからな」


「洗濯、掃除、炊事、ゴミ捨て、買い物を日替わりでやるんだよ。わかったな」


「はいはーい」


軽い口調で返事をする真夜は若干めんどくさそうだが、まぁやる時はやるだろう。多分。


「限界。一応深い箇所は全部治したけど、どうかな。・・・痛くない?」


どうやら桜の治療が終わったみたいだ。塞ぎきれなかった傷は数箇所あるが、ほとんどは完璧に塞がっている。


左右の手を動かし、ゆっくり立ち上がってみる。よし、問題なし。


「ありがとう、美優ちゃん。こんなに短時間で治せるなんてすごいね」


ちょっと申し訳なさそうに笑う桜の言葉に力はない。自分が怪我したせいで美優に負担をかけてることに罪悪感を覚えているのだろう。


「平気だよ」


疲れをにじませた笑顔を浮かべた美優がお茶を一口。丁度そのタイミングで


「夕飯出来たよ。誰かお皿出してもらえる?」


千夏の声が聞こえ、春がソファーに寝転がり漫画を読みつつ「ちょっと庭で野菜取ってきて」的な軽いノリでこう言った。


「恭哉、真夜。準備頼んだ」


「ヘイヘイ」


真夜は普通に返事をして準備に行くが、自分の名前を呼ばれるとは夢にも思っていなかった恭哉は目をいてまじまじと春を見つめる。その視線は今こいつはなんて言った?と言っていた。


「はぁ?何で俺が・・・」


「野宿してくれるんならやんなくていいよ」


「だ・か・ら、何で今日突然来た姉貴ならまだしもずっとここにいた俺まで準備やらされなきゃなんねーんだよ!!」


「ん?姉弟の親睦しんぼくが深まるようにと」


「余計なお世話だ!」


「つべこべ言わずやれよ」


このクソ野郎、と言いたそうな恭哉は拳を握り締めて春を睨みつけるものの、彼はそ知らぬ顔で漫画を読んでいる。よく見ると口元に黒い笑みが見え隠れしていたりするのだが・・・。そのやり取りを見ていた悠紀は部屋の隅で必死に笑いを堪えている。


「あ~ぁ。完璧にいいように使われてるし」


そう言いつつも手伝おうとしない桜は気の毒そうに微苦笑を浮かべる。まぁ手伝おうにもまだ体がうまく動かないのだか。頑張れ、恭哉と真夜。心の中で手を合わせていると、恭哉と目が合った。ばちっと視線がぶつかり合う。二人はさっと顔を背ける。二人の顔が若干赤く染まっている。何かあったのだろうか。


「お茶とお茶菓子持ってきて」


座布団の上で正座をしている美優がさりげなくお願いをすると、勢いよく振り向いた恭哉ががおうと吼えた。


「自分でやれ!」


千夏が恭哉の頭を軽く叩き、美優に向かってニコッと包み込むような微笑を向ける。まるで母親を思い起こさせる笑顔だ。


「今からご飯にするから茶菓子と茶はまた後でね」


「は~い」









騒がしい夕食が終わり、恭哉、龍護、春、真夜、一夜、は龍護の部屋で桜、渚、美優、南絃、戒、千夏は広間で再びさっきの戦いの話になった。のだが、春達はずっと気になっていたことを聞く事にした。


「なーぁ、お前、どうやって桜の暴走止めたんだぁ?」


興味津々といった様子を隠そうともせず春が恭哉に詰め寄る。龍護から大雑把な話を、渚から詳しい話を聞いて事情を知った真夜も詰め寄る。


唯一一夜だけは「あ・・あの~、皆さん顔が怖いんですけど・・・・・落ち着きましょうよ」と言っているが、山火事をコップの水で消そうとしているほど無駄な行為だった。恭哉は顔を真っ赤にして後ずさる。


耳まで赤い。絶対怪しい。


「白状しろ!」


なかなか口を割らない恭哉の肩をがしっと掴み、問いただす。彼は目を泳がせ、口を開いたり閉じたりを繰り返して傍から見たら酸欠の人のようだ。痺れを切らした真夜が春を押し退け、恭哉を揺さぶる。


「どうやって止めたのか聞いてんの!さっさと答えなさい」


ガクガクと恭哉の首が前後に揺れる。その様子が面白かったのか、春はこみ上げてくる爆笑の波を必死に鎮めようと肩を震わせている。一夜は顔を真っ青にして止めようとするが、一秒で撃墜された。


「わっ・・・・かった。言う・・・言うから離し・・・て」


揺さぶられながらどうにか絞り出した声に真夜は揺するのをやめ、座り直す。

けほっと軽くむせた恭哉は喉元を擦りながら気乗りしなさそうに話し出す。


「え~とですね、その・・・揺すっても、叩いても正気に戻んなかったからキス、しちゃいました・・・な~んて・・・」


実に軽い口調で言い放ったが、内容は爆弾並みの威力を持っていた。


「「「「「なに~!!!!」」」」」



トントントン   ガチャ



「うるさいな。どうかしたの?」


桜と渚と美優だ。今の声を聞いて上がってきたらしい。桜は部屋全体を見回し、恭哉と目が合ったとき一瞬で顔が真っ赤になる。春達はぎこちなく首を回し、全員同時に


「「「「「なんでもないデス」」」」」


「・・・まぁいいけど騒がないでよね」


滅茶苦茶訝しげな顔をしながらも美優達に引かれるまま背を向け階段を下りていく桜。春達は安堵のため息を吐き、恭哉に向き直る。向き直られた当人は薄ら笑いを浮かべつつゆっくり後退していく。こうなるのがわかってたから言いたくなかったのにと思うものの、今更後悔しても後の祭りだ。


「ぎゃぁ~」


夜の街に男子校生の悲鳴が響き渡った。









今日は全員お疲れのようで寮の明かりは消えている。


桜は電気を消した部屋で、ベットに寝転がりながら“空の珠”を弄っていた。こんな物のためにためにずっと戦わないといけないのか。何も知らないで暮らしている一般人が羨ましい。その一般人から見ると、特別な力を持っている私達が羨ましく見えるのだろうか。


「普通から外れた人は省かれる。それがこの人間社会せかいの常識」


それが普通だと思っている人々。それを一ミリたりともおかしいと思わない人間。


「普通じゃない力を持った私達も、一般人から見たら『異常』なんだろうな」


そう考えるとイライラしてきた。『普通』って何さ。


周りと同じなら『普通』っていうのか?


皆が出来ることを出来たら『普通』なのか?


ちょっとでも違う事をしたり、ちょっとでも周りと違うものをもってたら普通じゃないのか?


考え方が違ったり喋り方が違ったりしただけで『異常』と思われる人間社会せかい。他の人よりちょっと秀でていると叩かれる。そんな人間社会せかいおかしいじゃん。


「これを言ったら「頭おかしいんじゃないの?」って言われるのがオチだろうな」


自嘲気味に笑う。『異常』で結構。むしろ私的には『普通』が『異常』だと思うね。


「私は一般人と違って特別な力を持ってるからこう思うだけかもしれないけどね」


だがこの力を疎んだ事は一度もなかった。不思議なことに今まで一度も、だ。それに最近はこの力を持ててよかったと思っている。


「どんなに特別な力を持っていても、自分の本当の気持ちを知ってもらえないということは物凄く悲しいことなんだな」


同じ立場にならないとわからないことの方が多い。いくら『普通』の立場の者が私達の事を気遣っても「慰められてる」「同情されてる」「可哀想だと思われてる」としか感じられない事が多い。どんなに私達の事を思ってくれても、どんなに優しい言葉をかけてくれても、『普通』の人には私達の本当の気持ちがわからない。表面上は理解出来ても、本当の意味では理解できない。


だから届くことはない。わかろうとしてくれても気持ちを共有するなど不可能だ。同じ立場にならない限り。


この力の事を知らない友達ひとにこの事を話したら・・・確実に「化け物」「よく平気な面で今まで友達面してきたね」とか言われるのがオチだろうな。


もしかしたら「大事な事話してくれてありがとう。それでもあなたはあなたでしょ。その力だってあなたのホンの一部分でしかない。これくらいの事で親友やめたりしないよ」と言ってくれるかもしれない。まぁないと思うが。


「いや、居たな」


過去に一人だけ、このことを話しても友のままで居てくれた子が、いた。他の友はみな口々に「化け物」とののしり、さげすんだ眼差しでこちらを見ていた。そいつらの記憶からそのことは抹消しといたが、唯一あいつだけは私達を認めてくれた。


だが、その子は今はいない。原因は未だ不明。いつもいつも桜の後ろについて回り、気弱だった女の子。彼女は今まで生きてきた中で最初の無能力者の友達で、親友だった。


(のぞみ)・・・」


何故か彼女に無性に会いたくなった。会って、今の話を聞いて欲しかった。そして、どう答えるか聞きたかった。


今はもう、叶わぬ願いであるけれど。





数日後。


「「夏休みだ!」」


歓喜の声を上げる桜と恭哉。子供のようにはしゃぎまくっている。渚は呆れたような目付きでそんな二人を眺めて一言。


「馬鹿みたい」


「「んだとコラ」」


訂正。呆れたような、ではない。確実に呆れた、だ。


二人同時に渚の方を見て、二人同時に怒鳴り、二人同時に詰め寄る。息がぴったりだ。妙なとこで息が合うなぁ。この二人。


悠紀が心の中で拍手をしていると、一夜が囁いてきた。


「あの二人って仲良いね。何で付き合わないんだろ。世の中不思議だね」


「桜があり得ないぐらい鈍感だからね。自分の気持ちにも相手の気持ちにも気づかないんだよ」


同じく囁き返す。一夜には珍しく意地悪げな笑みを浮かべ、悠紀にこう言う。


「この学校の女子で一番人気なの藤崎さんだけど、桜も若干人気があるって教えたらさすがに焦るかな?」


「お前、性格変わってるぞ」


「そうかな?俺はこんなんだよ」


ニッと不敵な笑みを刻む一夜。いつもの彼と違ってかっこよく見えるのは何故だろう。しかも、不敵な笑みがとても似合っている。


「じゃ、知らせてみようかな。いや、あえて焦らすのもありかな」


さりげに黒い発言をする一夜。こいつホントに一夜か?別人だったりして・・・。もしかしたらこれがこいつの裏の顔なのか?そういえば昔もこういう黒い発言あった気がするな、等と悠紀がつらつら考えてると、一夜がいつもの笑顔で笑いかけつつこう言った。


「悠紀君も手伝ってくれるよね?」


君付け?何かの前兆か。つ~かさっきのあの顔は錯覚?幻?夢?見間違え?


「あぁ、協力する」


頷くと、一夜はニコッと笑い、美優と千夏、渚の三人に耳打ちしていく。さっきの笑みが再び一夜の口元に刻まれている。それに数人の女子生徒が気付き、顔を赤くしている。まぁ普段の一夜からは考えられないだろうからな。こいつもいつもこういう顔してればモテんのに・・・勿体ね。


「じゃあさっそく決行するか」


話が終わったのを見計らって悠紀がそう言うと、一夜が楽しそうに黒い笑みを浮かべて頷く。渚はふふふふふふと恐ろしい顔で笑っている。どっかのホラー映画に出てきそうだ。こちらの心臓を鷲掴みにしそうな顔を見て、数人のクラスメイトが石化してしまっている。可哀想に。


「根に持ってるね」


美優が石化してしまっているクラスメイトの前にお茶を供えながら遠い目をする。あのカウントダウンメールがよほど堪えたとみえる。でも結果的に思いを伝えられたし、くっついたし結果オーライな気がするけど。


「じゃ俺、伝えてくる」


くっくっくっと普段の彼からは想像できない笑い方をしつつ恭哉に近づいてく。悠紀達が見守る中、一夜は恭哉の耳に顔を寄せ、囁いている。恭哉の顔は見事なほど劇的に変化した。青から赤へ、そして青へと面白いように変わる。


「どうかした?」


黙ってその様子を眺めていた桜が首を傾げて一夜と恭哉を交互に見る。一夜はにこやかに笑って「なんでもないよ」と言っているが、恭哉の顔を見る限り、なんでもなくはない気がする。そう言おうと口を開いた時、


「天空、ちょっといいか?」


同じクラスの男子に声をかけられた。声をかけられた当人は一応後ろを見てから前に視線を戻し、自分を指で示すと首を傾げる。


「・・・・私?」


「そう。天空にこっ・・・言いたい事があるんだ」


男子はなぜか頬を赤く染めつつ桜を見つめる。桜は曖昧な笑みを顔に貼り付けたまま考え込む。私、なんかしたっけ?まぁ喧嘩なら買うし、万が一にも負ける確率なんかないし行くだけ行ってみっか、等と斜め方向に誤解している。


男子と共に教室を出て行く桜を見送り、一夜は意地悪げに恭哉にウインクしてみせた。


「ね?桜は男子に人気があるんだよ。藤崎さんには及ばないけどね」


恭哉は一夜をギッと睨み、一度深呼吸してから声を押し殺して言った。


「キャラ変わってんぞ、お前」


「これが俺の素だし。それよりいいの?桜に行ってほしくなかったんじゃないの?」


恭哉はもう一度一夜を睨み、桜が去った方向へ走っていく。悠紀は一夜の肩に腕を置き


「お前、そんなにあの二人くっつけたいのか?」


「だって両思いなのに付き合わないとか歯痒いじゃん。恭哉はずっと昔から桜の事好きなんだし・・・くっつけたくなるんだよ」

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