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珠巡り  作者: 桜咲 雫紅
一章 兄妹
11/108

血ってそういう風に使えるんだ

少し長いです。戦闘シーンだと切るタイミングが見つからず、長くなってしまいます。

「私達に仕事だよ」


渚の言った一言によって近くの公園へ向かった龍護、桜、恭哉、渚の四人。何故この四人なのかというと他の人達にはもうすでに他の仕事が回っていたからだ。仕事内容は「怪しい動きを見せてる組織がこのあたりで目撃されたので見つけ出し叩けみ。


何故公園に向かっているかというと、最初に目撃されたのが今向かっている公園だからなのだそうだ。他人に見られないようにやれよ、と聞いた瞬間、桜血ってそういう風には毒づいた。余計な仕事を増やすんじゃねーよ、と。


「けーどさー、ホント無茶苦茶だよね。この仕事内容」


公園に向かうまで幾度も言った言葉を再び口にする桜に対し、龍護は「くどい」とばっさり切り捨てる。


「やれって言われたからにはやらねーとな。理事長と校長あたりにまた小言言われるぞ」


「それはヤダ」


誰よりも小言を言われる回数が多い桜はその時のことを思い出したのか、苦虫を百匹程噛み潰したような表情になる。彼らは心からの反省が見られるまで解放してくれないのだ。どんどん暗くなってく桜の横顔を一瞥いちべつし、「叱られるようなことやらなきゃいいじゃん」と正論を口にする渚にもっともだ、と同意するのは恭哉。


「ほっとけ」


いじけたような声で一度も校長などに叱られたことがない優等生に舌を出して早足に前方に見えた公園に入る。


瞬間。


「雪・・・?」


急速に視界を覆い始める白いものに見覚えのあるモノを重ねると、横から即座に否定の声が上がった。


「違う。これは、紙だ」


小さな四角い白い紙がまるで紙ふぶきのように公園内を覆っているのだ。それはまるで雪のようにひらひらと宙を舞う。


「へぇ、思わぬお客様だ」


不意に鼓膜を打った聞いた事のない声は少し驚いたような響きを持っていた。


誰だ。


白い紙ふぶきの中、背中合わせで構えていると突然視界が晴れた。そこにいたのは見知った三人と、初めて見る二人。


「大地先輩・・・夜空・・・先輩?とウザ先輩」


「誰がウザ先輩よ。陽菜先輩って呼びなさい」


見知った二人とどこかで見たような気がする夜空 翼先輩とウザイ先輩、入江 陽菜だ。残りの二人は知らない。


見覚えのない二人のうち、男が一歩前に出て名乗った。


「初めましてと、言うべきかな。俺は三珠学園大学部二年、藍澤 ひじり。または“隻眼の堕天使ワンイヤー・フォールン・エンジェル”のⅢ」


「同じく“隻眼の堕天使”の飛天ひてん 深雪(みゆき)。三珠学園高等部二年」


「なっ・・・」


藍澤 聖と名乗った方は髪は黒で短く、瞳は漆黒。飛天 深雪と名乗った方は髪は白銀でツインテール 瞳は白。どちらも初めて聞く名前だ。だが、驚いたのはそこではない。


“隻眼の堕天使”のⅢ・・・だと。何で“隻眼の堕天使”の中で三番目に強い奴がこんなとこに・・・。


すっと藍澤が動いた。普通の人、いや、そこらの異能者よりも数段速い。数メートルの距離を一瞬で無にし、桜の前に文字通り出現する。


こいつ・・・・・・はやい。


桜は本能が警告するままに身を伏せる。すると頭上を何かが通過していく音が鼓膜に触れる。犠牲になった髪が数本、はらはらと視界を過ぎる。そのまま後ろにとんぼ返りし、合間に太刀を呼び出す。


全ては十秒足らずで行われていた。


まったく見えていなかった渚は目をパチクリさせている。彼女の斜め後ろにいる恭哉は一連の動きを見て「また腕上げやがって」とぶつぶつ呟き、右太腿にあるホルスターに手を伸ばし、いつでも抜けるように構えていた龍護は短く息を吐く。


「余計な心配だったか」


「ふぅ、危なかった。しっかし滅茶苦茶疾いな、あの聖って人」


冷や汗を拭い、太刀を構える。いつの間にか出てきていた不死鳥と狼が警戒の唸り声を上げる。パチパチと適当に拍手した大地はこれまた適当に賞賛しょうさんを送る。


「すごいじゃん。今のをかわすなんて。会うたび成長するんだね」


「うっせ」


短く吐き捨てた桜は制服姿の事を心底から呪った。邪魔だし動きにくいんだよ、くそっ。


そんなことを考えていると、藍澤が挑発するように片方の唇の端を吊り上げた。ヒクッと桜の頬が盛大に引きった。


「三番目だかなんだか知んないけど、私に喧嘩売るたぁいい度胸だ。ぶった斬ってる!」


紅玉色の瞳が好戦的に輝き、やられたらやり返すがモットーの彼女はわき目も振らず飛び出す。


「はい、ストップ。それから殺るになってたよ。人殺しはいけません。自粛じしゅくしろ」


桜の襟首を掴み、動作で待ったをかける龍護と言葉で制した恭哉が微苦笑を浮かべ、やれやれと言いたげに肩をすくめる。渚は呆れたように頭を左右に振る。三人の心の声は一致していた。


この単純馬鹿はッ・・・・もっと考えてから行動しろよ。


これだ。


「離せ!アイツをぶっ飛ばさないと、私の気が済まん」


「知るか。落ち着け」


暴れる桜の襟首を掴みそう言うが、全然聞いていないし。“珠狩”の方々は全員笑いを噛み殺している。それが余計しゃくに障るのか、ぎゃあぎゃあと女の子にあるまじき言葉遣いで喚く。


彼女の喚き声を間近で聞いている龍護の眉間に深々としわが寄る。彼は何の前触れもなく無言のまま桜を後方へ放り投げた。



ドカ   メキメキメキ   ドサッ



何かが木にぶつかり、木が悲鳴を上げながら倒れていく音が後方からした。「なにすんだクソ兄貴!!」と口汚くののしる声がしたが、当の本人は素知らぬ顔で明後日の方向を眺めている。


「可哀想な木」


振り返らずにボソッと呟く渚。恭哉は「あ~らら」と言わんばかりの表情だ。


「茶番は終わりだ」


夜空が大刀を手に、走り出す。狙いは渚だ。斜め下から大刀が振り上げられる。目前まで迫った大刀を迎え撃つように顕現けんげんした三叉槍が陽光を浴びてきらめく。



キィーン



金属同士がぶつかる音が響く。夜空の大刀は紅く燃え上がる太刀によって止められていた。一つ瞬いた茶色の瞳を見返し、太刀と同じ紅い瞳が不敵な色に染まる。


「そう簡単に珠取れると思うなよ。センパイ」


「邪魔するな」


二人は同時に飛びずさり、斬り合う。その隙に大地と陽菜が渚に向かっていく。その二人を龍護が銃で迎え撃ち、足止めしながら瞳を一瞬後方へ向ける。


「さっさと起きろ!存分に暴れて来い!!」


そう怒鳴ると、実に嬉しそうな声が返ってきた。


「待ってました」


元気よくはね起きアイボリーのベストをそこらに脱ぎ捨て、飛天と藍澤に向かっていく。飛天は冷たい笑みを顔に張りつけ、何かを投げる仕草をする。


「・・・っ・・!!」


桜は本能の命ずるまま横に飛ぶ。後ろにあった木が倒れていく音が聞こえる。


「いい判断だね。避けなきゃ首と胴体がお別れしてたよ」


言いながらも忙しく両手を動かす。その度に桜は何かを避けるように左右かわし、上下に飛ぶ。


「ちぃっ。遠くから、こそこそとしやがって・・・」


苛立ちを含んだ唸りと共に彼女の感情に呼応(こおう)するように太刀が淡く輝く。桜の体を紅玉色のオーラが包んでいき、彼女の周囲に無数の劫火の固まりを生み出していく。


「うっとおしいんだよッ!!!」


怒鳴り声と共に劫火が飛天目掛けて放たれる。不死鳥が「おいおい」と言いたそうな顔をしている。こいつ、自分のスタミナ考えてんのか?


飛天は血相を変えて避ける。が、いかんせん数が多過ぎて、とてもじゃないが避けられる数じゃない。


「ッ!!!!」


命中した。桜はふぅと息をつき、手を横に振ると劫火を消す。飛天は軽い火傷を負ってはいるが、ほぼ無傷のはずだ。地面は黒焦げだが。


「雪、下がれ。お前の異能はこいつと相性が悪い」


「くっ・・・わかりました」


飛天の姿が紙に包まれ、かき消える。藍澤は手を上げ、小さく何かを呟く。


それと同時に桜の全身のいたる所に傷が出来る。白いワイシャツがみるみるうちに鮮やかな赤に侵食されていく。遅い来る激痛に桜の顔が歪み、片膝が地に落ちる。


まったく見えなかった。いったい何が飛んできたんだよ。くそっ・・・。


額が切れたのか、血が目に入る。桜は片目を閉じつつも、藍澤から視線を外さない。再び何かが飛んできた。


見えないものを見えるようにするには・・・・色をつければいい。


桜は傷口の血を口に含み、宙にく。これで見えない何かに色をつけようというのだ。見えるようになれば避けられる。


見えたッ。


無数に飛来してくる何かを比較的傷が浅い両手で一つ残らず斬る。その度に血飛沫が上がり、桜の顔に苦痛があらわになる。かなり深くまでえぐられていたのだろう。地面に落ちたのはガラスの破片のようなものだった。だが、ここまで透明度があるのは始めてみた。拾ってまじまじ見ていると、


「っ・・」


指に鋭い痛みが走り、ガラスの破片がこぼれ落ちる。ガラスの破片を持っていた指が切れたのだ。遅れて傷口に薄く血が滲む。なんて切れ味だ。


「致命傷は避けたか。見事だ」


「なに上から、物言ってんだよ。年上だからって、偉そうに、すんな」


桜はよろめきつつ立ち上がる。動くたびに傷口から血が滴り、血が苦手なものが見れば即失神しそうな光景だった。激痛が体を駆け巡り、ぐっと息をつめてそれをやり過ごす。


「ほぅ、立ち上がるか」


藍澤は手を上げ、また何かを呟いた。藍澤の体から漆黒のオーラが溢れ出す。身構えていると、藍澤の手のひらに黒い野球ボールくらいの球体が浮いている。


「我が異能は『闇』」


黒い球体はふわりと浮き上がった。


「我が『闇』に飲まれて」


桜は一歩後ずさる。アレはヤバイ。不死鳥と狼に戻るように指示すると、球体を見つめる。黒い球体が通った場所から全てが消えていく。木が消え、地面が消え、草も虫も全てが消える。いや、違う。・・・あの闇に飲み込まれてるんだ!


アレを食らったら、死ぬ。


「消えろ」「皆、逃げろ!!」


藍澤の最後の声と桜の警告する声が同時に別々の言葉を言う。少しでも黒い球体から離れようとがむしゃらに駆け出した桜の警告に反応し、三人が同時に別々の行動をとった。


龍護は足元に落ちていた桜のベストを拾い、拳銃(ハンドガン)を黒い球体に向けた。


恭哉は桜の声を聞き、結界を破ろうとした。


渚は三叉槍を回転させた。


龍護の体を黒いオーラが、恭哉の体を紅いオーラが、渚の体を青玉色のオーラが包んでいく。二人が行動を起こす前に、渚は鋭く命ずる。


「水よ、我らを包め」


どこからともなく水が現れ、桜・龍護・恭哉を包んでいく。もちろん渚も。そして四人の水の膜は合して宙に浮く。


桜はその膜に触り、首を傾げる。


「なんだ?このぶにょぶにょの変な膜は。ブチ破ろがほ」


「アホか。せっかく助けてやったのに。これは私の異能、『水』で作った防壁だよ」


「なにしやがんだ!馬鹿ネギげふぉ」


「人の話を聞け。もういい、黙れ」「怪我が増えたな」


「へぇ。攻めはありえないほどダメでも守りは出来たんだな。すごいじゃん」


恭哉が太刀を鞘に戻し、感心したように水の膜を眺める。龍護は桜の傷に応急手当を施している。渚は恭哉を射殺できそうなほど鋭い眼差しで睨みつける。


膜の外な何もかもなくなっていた。文字通り、何にもない。木も地面も草も花も全て、あの黒い球体が飲み込んでしまったのだ。緑豊かだった公園はただの黒い穴へと変わってしまった


「ありえねぇ。なんなんだよ、アイツの力」


「アイツの異能はおそらく『闇』。まぁブラックホールみたいなものなんだろう。全てを飲み込んでたし。よく体力・精神力が持つよな」


龍護はさっきまで自分達がいたはずの場所に目をやる。何故はずなのかというと、公園があった場所にぽっかりと穴が開いているため、確信が持てないのだ。まるで抉り取られた様なこの巨大な落とし穴は、底が見えない。どんだけ深いんだよ。


「そういえばあいつ等は?」


「逃げたんじゃん?さすがにこれに巻き込まれたら命はないからな」


「残念でした。ここにいるよ」


三人は声がしたほうを見る。そこには大地、夜空、陽菜、藍澤が空中に立っていた。なんかのマジックショーかよ。


「何で浮いてる訳?」


「お前らだって浮いてんじゃん。まぁいいや、教えてやるよ。これは俺の異能、『空』。空中に立つことぐらい造作もないって事だよ」


大地が手のひらに小型の台風を作りながら丁寧に説明してくれる。それはいいのだが、渚が苦しそうな呼吸を繰り返している。体力の限界が近いのだ。汗だくで今にも倒れそうな渚を、恭哉が無造作に担ぎあげる。


「くそっ、どうする。龍先輩」


「俺に聞くなよッ。・・・桜?」


桜は下を見たまま固まっていた。龍護は桜を揺さぶり、名を呼ぶ。が、桜にその声は届いていない。桜は今、昔父に言われた言葉を懸命に思い返していた。私には二つの力があるって言ってたよな。炎と・・・もう一つは?


『お前は・・・』


何だったっけ?思い出せ。・・・確か、何かを再生する・・・力・・。



――――『お前は『再生と死滅』をもってるんだ。『命を司る力』とも言うな。在るものを無いとし、無いものを在るとする。だがな、お前が答えを示さない限り本来の力は発揮しない上、術者の体を蝕む。一日一回が限度だと思え。そしてその力を使った後の戦闘はほぼ不可能だ』



「『再生と死滅』・・・だ」


桜の唇から吐息のような声が漏れた。思い出した。よし、一か八か。気を静め、目を閉じる。桜の体を薄桜色のオーラが包んでいく。


恭哉と龍護はいつもと違う桜のオーラに戸惑いを隠せない。こいつのオーラは紅玉色じゃなかったっけ?


「渚、この水の膜消して」


「はっ?そんなことしたら俺ら落ちんじゃん」


「いいから」


渚は言われたとおり水の膜を消す。四人は宙に放り出された。桜は巨大な穴を指差し


「『再生と死滅』よ」


巨大な穴を薄桜色のオーラが覆っていく。そのオーラが消えると、地面が元通りになっていた。倒れた木も、黒焦げになった地面も全て来たときの姿だ。


「なんだ・・・この異能は・・・」


驚きを隠せない夜空の声が上から降ってきた。多重能力者、か。数千人に一人と言われる貴重な多重能力者がこんなに近くにいたとは。アイツの狙いは当たったようだ。


桜は“空の珠”を握り、叫ぶ。


「雲、出てこい!」


すると、真っ白な雲が現れ、四人が地面に激突する前に四人の下に滑り込む。助かった。雲はゆっくり下へ降りていく。


「“空の珠”って便利だな」


恭哉が雲から下へ降りながら桜に声をかけるが、彼女からの返事はない。


「桜?」


渚に手を貸しつつ、桜を呼ぶ。しかし、反応なし。


「恭哉、呼んでも無駄だよ。異能の使い過ぎで動けないっぽいから」


龍護は先ほどの薄桜色のオーラの正体を悟った。あれは『再生と死滅』だ。(別名『命を司る』力。)いつもは紅玉色のオーラで異能、『終焉の劫火(ごうか)』ばかりを使っているので忘れていた。桜が多重能力者だったことを。


龍護が桜を背負って降りてきた。龍護の背中の桜は目を閉じ、もう一歩も動けないといった様子だ。疲弊(ひへい)しきっている。


「よっぽど疲れたんだな」


『当たり前だ。まだ完全に目覚めてない『再生と死滅』は桜の体力・精神力をほぼ使い切る。しかもその前に『終焉の劫火(ごうか)』を使ったんだ。こうなったのもある意味当然。最悪の場合、死ぬかもしれなかったんだ。大怪我してるってのに、まったく』


桜色の羽で頭を押さえる不死鳥。呆れているようだ。いや、もはや諦めが入っている気がする。


「『再生と死滅』、か。・・・面白いものを見せてもらったよ。・・・だがね、もう一つ見たいものがあるんだよ」


藍澤は後半だけ口の中で呟く。


「そろそろお暇させてもらおう。体力も少ないし。一つ、教えてやろう」


龍護は(いぶ)しげに眉をしかめる。桜は重い瞼を無理にこじ開け、焦点を合わせる。


「天空家当主、天空 大斗を殺したのは・・・俺だ・・・と言ったら、どうする?」


無邪気な子供のような語調で紡がれた言葉に桜の双眸(そうぼう)は凍りつく。藍澤の言葉が桜の心を激しく揺さぶる。コイツガ、トウサンヲ・・・。


桜の体から真紅のオーラが漏れ出す。感情の制御が効かないのだ。


『ダメだ!!!今のお前が異能を使ったら、死ぬぞっ!』


不死鳥がいち早く気づき、制止の声を上げる。しかし、今の桜には届かない。桜の怒りに呼応(こおう)して、異能が暴走しかかっている。


周囲には不気味な風が吹き始め、気温が上昇していく。十年前とは比べ物にならない劫火が桜の体から噴き出していく。


このままじゃ桜の体が持たない。


刹那。“空の珠”から光が迸り、桜を包み込んでいく。よく見ると、桜の左腕の紋章に鎖が巻き付いていた。気温はゆっくり元に戻っていくがまだおさまる気配はない。


恭哉が灼熱の風と化している暴風に突進していく。とにかく桜をどうにかしないと・・・。


「これだよ、この異能だ。六年前のあの感情をそのまま炎にしたようなこの異能が見たかったんだ。最高だよ、天空 桜。やはりお前は・・に相応しい。だが第三の異能を“空の珠”に封印されているようだね。誰がやったのかしらないけど迷惑なことだ。それに加え、無意識に自分の異能を抑えている、か」


藍澤は興奮を隠そうともせず歓喜の声を上げ、最後は口の中で呟く。続けて夜空も普通の音量で独白する。


「これが天空 桜の異能か。この世の全てを焼き尽くし、呑み込む劫火。そして命を与え、奪う力。どちらもアイツらが欲しがりそうな力だな」


龍護と恭哉は目を見開く。六年前と言ったか。何故あの日の事を知ってるんだ。


「お前はいったい・・・」


龍護が思わずといった様子で声を出す。藍澤は高らかに哄笑こうしょうしながらこう宣告した。


「我らは三珠を奪う者だ。そして天空 桜。お前のその“空の球”が欲しい。出来ればお前のその異能もな。我らと共に来い」


「「誰が行くか(行かせるか)!顔洗って出直せ、馬鹿」」


即答だ。しかも恭哉のおかげで正気を取り戻した桜までも恭哉に背負われたまま怒鳴る。二人の顔が若干赤いが、一体全体どうやって桜の暴走を止めたのだろうか。気になる。


「光が光であり続けることは容易ではない。それでも断ると?」


「確かに光が光であり続けることは出来ないかもしれない。でもそれがなんだ。光が光でありたいと思ってる間は光だ!たとえ闇に呑まれても光だと思い続ければ光だ。誰かの光でありたいと思うその思いこそが光だ!」


そう言い切ってからついでの様に付け足す。


「少なくとも私は、両親にそう教わった。だから光でありたいと思い続ける」


藍澤は意外そうに瞬き、ふっと小さく笑う。


「まぁいい。我らも異能を使い過ぎた。今日は様子見だしな。ここは退かせてもらおう。天空 桜。お前の持つ球は“隻眼の堕天使”が貰い受ける。それまでせいぜい死神の鎌デス・サイズ”に奪われないようにな。それからこいつは忠告だ。お前の事を狙っている奴は他にもいる。せいぜい気をつけることだ」


最後に笑い声だけを残し、去っていった。桜は呆然としながら、呟く。


「狙ってる奴が・・・いる・・・?“死神の鎌”?」


初めて聞く組織名だ。最近出来たのか?


「桜、帰るぞ。お前の傷、美優に治して貰わないと・・・死ぬぞ」


龍護が結界をぶっ壊して桜を呼ぶ。桜は聖達が消えた場所をもう一度見つめる。彼らの残していった言葉が頭の中でぐるぐる回っている。


狙っている奴とは誰なのか。“死神の鎌”とは何なのか。

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