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珠巡り  作者: 桜咲 雫紅
一章 兄妹
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マンガみたいですね

今色々と修正中です。プロローグからちょくちょく書き足したり書き直したりしてます。作者の思惑から大きく外れて物語が一人歩きしてしまってます。読んでくださってる皆様、すみません。

三連休明けの火曜日。思わぬ人物が三珠学園高等部に転校してきた。


ここは2Eの教室。龍護と戒のクラスだ。


「今日は転校生を紹介します」


入ってきて、という担任の声と共にドアの開く音と靴音が耳に入る。戒は寝ているのでなんの反応もないが、珍しく寝ていなかった龍護は入ってきた転校生の姿を見た途端小さく息を呑んだ。


ちなみに、龍護の席は窓側の一番前。戒の席は窓側の後ろから二番目。戒の席は大変寝心地のよい席で、教師にも見つかりにくい場所なので、寝るのには好都合な場所だ。


「天空 真夜です。よろしくお願いします」


そこにいたのは昔仲のよかったあの真夜だった。昔と変わらない青い瞳に、笑みを含んだ明るい声、陽の光を反射する綺麗に染まった茶髪。


…記憶の中とは違う部分もあるが、彼女である事は間違いようがない。


「「「「「おぉッ!!!可愛い」」」」」


男子共の野太い歓声が上がった。うるさくて真夜の自己紹介が聞こえない。どこぞのアイドルのライブ会場並みのうるささだ。


あまりの喧しさに頭痛を感じた龍護は眉間をみつつ深々とため息をつく。


「じゃあ天空さんは天空 龍護君の後ろね」


かろうじて聞こえてきた言葉の断片と唇の動きとで担任がそう告げたのがわかった。ゆっくりと真夜がこちらに歩き出す。すれ違う瞬間、昔を思い起こす悪戯っぽい笑みを咲かせた唇が動く。


久しぶり


返事の代わりに気怠げに手を上げると小さく吹き出された。なんとなく目だけで後ろ姿を追いかけていると、何を勘違いしたのか一人の女子がこちらに向かって手を振っているのが見えた。


名前は覚えていないが、人口的な顔に少し離れていても鼻孔をかすめる同じく人口的なにおいは彼の嫌いなものである。


見なかったことにして明後日の方向に首を捻り、窓の外を眺める。今日は快晴。良い一日になりそうだ。


寝るか。



キーンコーンカーンコーン



SHRの終わりを告げるチャイムの音で龍護は目を開けた。寝惚け眼で虚空を眺め、何度か目を瞬いて視界を正常に戻す。


「・・・んぁ?」


大きく伸びをし、ガリガリと頭を掻く。寝る前に懐かしい顔を見た気がする。今日は大掃除だけだったな。早く帰って寝てぇ、等と早くもなまけたことを考えていると寝る前に聞いた声が後ろからした。


「久しぶり、龍」


伸びをした体勢のまま龍護は固まる。この声は・・・。間違いない。少し記憶と違う声だが、確かにアイツの・・・。


まだ眠気が強く残る頭をのろのろと動かすと、そこには昔と変わらない笑顔を浮かべている真夜の姿があった。前より女らしくなっている上に背も伸びているが見間違えるはずがない。


この鮮やかな青い瞳だけは、決して忘れることはない。


夢じゃなかったのか・・・。


「…戻ってきたのか」


「うん。これからはずっとこっちにいられるって。父さんがそういう風に手配してくれたみたい」


「・・・あぁ。親父さん理事長と顔見知りだったか。桜達も喜ぶ。嫌がる奴もいるが」


「あはは。あいつとはいまいち合わないんだよね」


軽やかに笑った彼女は昔と同じように悪戯っぽい笑みで拳を差し出す。一つ瞬いた龍護はその拳に自分の拳をぶつけるとわずかに口元を緩めた。


「おかえり、真夜」


「ただいま、龍」


「二人とも、そろそろ掃除場所に散った方がいいと思うよ」


いつの間にか二人の傍にいた戒がそう言い、チョコを一口。丁度そこに教師が来て教室内にいる二人を認め、怒鳴る。


「おい!天空×2。さっさと来んか!」


「・・・」


まとめ呼びされた2人は顔を見合わせ、片やめんどくささを隠そうともせず、片やまとめて呼ばれた事におかしさを感じて笑いながら教師の方へ歩き出した。











ここは屋上。普段は静かな場所に、何度目かの声が響く。


「腹、減った~」


「桜、うるさい」


「桜ちゃんは今日も元気だねぇ」


時刻は十時半。お腹が減るのには早いのでは?という疑問はさて置いて、桜は「腹減った~腹減った~」と連呼し、喚いている。隣に座っている渚はあからさまに嫌そうに顔をしかめ、美優は一夜と千夏と共にくつろぎ中だ。


「それにしてもお前らの兄貴達遅いな」


待ちくたびれたのか持参したサッカーボールで遊び出す恭哉。そこに悠紀と一夜も加わって楽しそうにパス回し、に見える恭哉と悠紀によるどっちのパスが上手いかの競い合いに否応なく巻き込まれる一夜の図が展開された。


兄2人のうち1人の妹である千夏は申し訳なさそうに俯き、小さな声で謝る。


「ごめんね。私の馬鹿兄貴のせいで・・・」


「気にしなくて、いいよ、夕空さん。悪いのは、遅れている先輩達の方なんだから」


強烈なパスの勢いを見事に殺し、ポンポンと膝でのリフティングを披露した悠紀がボールを思いっきり恭哉に蹴り返しながら千夏を慰める。ヒートアップしていくパス練というよりもはやシュート練のようなやり合いに止めようかと思い悩んでいた一夜も悠紀の言葉に頷いて同意の言葉を述べる。


「そっ・・・そうだよ。千夏さんは悪くないよ」


「そーそ。わりーのは兄貴達だし。ったく、せっかく部活サボって一緒に帰ろうと思ったのに・・・遅刻魔が」


苛立ち混じりに吐き捨てた桜が固い地面を殴蹴りつける。雑誌に目を落としていた渚が読み終わってしまったのか鞄へと戻しつつ提案した。


「私らだけで帰っちゃわない?なにも待ってる事ないし、遅れてくる奴のことなんか知らないし」


「それがいい。お前もたまには良いこと言うじゃん」


「失礼な。私は良いことしか言わないよ」


「お前が良いことしか言わねーんなら、世界中の人間皆良いことしか言わなくなるっての」


小さく、本当に小さく恭哉がそう呟いた。そんな彼の頬すれすれをボールがうねりをあげて飛んでいき、ガシャンとフェンスにぶち当たる。一気に気温が下がり、冷たい声音が冷気とともに忍び寄る。


「今、何かおっしゃいましたか?恭哉君」


氷のような微笑みを浮かべているが、冬の空を模した瞳は決して笑っていない。いつもの爽やかさと真面目さ120%で構成された優等生面は何処へやら、見ているだけで寒気を催す。


「何も言っていませんよ。悠紀君」


「そうですか?確かに何か聞こえたんですが」


「気のせいじゃないですかぁ?耳鼻科行った方がいいですよ、悠紀君」


「怖っ。君って付けてる辺りがかなり怖い」


口の中で呟いた桜は引きった笑顔で適当な本に目を落とす。今目が合ったら確実にとばっちりが来る。すでに渚はipodで全ての音をシャットアウトしており、美優と千夏は安全地帯でのんびりお茶を飲み、茶菓子を頬張っている。唯一一夜は止めるべきか迷っているようだ。文字通り右往左往している。可哀想だが見てて面白い。


「悠紀、そんな恭哉バカと一緒にいたら悠紀までバカになっちゃうよ。こっちにきて一緒に音楽聞かない?私の好きなアーティストのニューシングル出たんだよ」


彼女にしては珍しい部類に入る無邪気な子供のような笑顔が弾ける。にっこり笑顔が不穏な応酬を繰り広げていた悠紀は相手そっちのけでぼっと一瞬で顔を真っ赤にして口元を押さえる。「可愛すぎ」とか小声で呟いているが、渚には聞こえなかったらしく「早く早く」と悠紀を急かしている。


「今行くよ」


あっさりと切り上げて小走りに渚の元へ向かった悠紀は彼女の隣に腰を下ろし、イヤホンの片方を受け取ると耳につける。


「青春だね~」


淹れたてのお茶を飲みながら穏やかな声で呟く美優と頷く千夏。一方やり合う相手を失った恭哉は「ちっ、ラブラブバカップルめ。イチャイチャすんなら他所でやれ。そしてそのまま帰ってくんな」と消化不良の苛立ちのまま柵を蹴る。


その時だった。ヘリウムガスより軽い間延びした声が桜達の名を呼ぶ。


「お~。桜に美優に千夏、一夜に我が弟もいるじゃん。なっつかしいなぁ~」


突然聞いたことのある声に名前を呼ばれ、桜は声の主に視線を流す。そこにいた人物を見て、紅玉色の瞳が大きく見開かれる。


「真夜姉!」


歓喜の声を上げ真夜に抱きつく。勢いがよ過ぎたのか、固いコンクリートに真夜を押し倒してしまった。真夜はぶつけた頭を何度もさする。


「いつ戻ってきたの?いつまでいられるの?髪、染めたの?今までどこにいたの?何組になったの?」等々。


質問の嵐だ。真夜は質問には答えず、桜の体を支えながら体を起こす。打った頭がまだ痛むのか、青い瞳が片方瞼に隠されている。


「質問がありすぎて一度に答えらんないって」


微苦笑を浮かべつつ桜の頭をぽんぽん叩く。久しぶりの触れ合いに桜は嬉しそうにニコニコしながら立ち上がり、それに合わせて真夜もゆっくり立ち上がり、ふっと笑って桜と目線を合わせる。


「背、伸びたな」


「まあね。もうチビ桜とは言わせないよ」


「あぁ、そういやぁそんなあだ名もあったっけな」


得意げな桜の頭を撫でてやりながらは懐かしそうに彼方を見やる。子供の頃の桜は平均より身長が低く、それでよく恭哉達に弄られていたのだ。一緒に来ていた春が何を思い出したのか吹きだしている。


「真夜さん、お久しぶりです」


「また会えて、嬉しいですよ」


お茶を片手に持った美優が空いている方の手をあげ、その横にいる千夏も座したまま頭を下げる。未だ抱きついたままの桜を立たせつつ「私もだよ」と微笑みながら返す。


「真夜さん。これからずっと、こっちにいられるんですか?」


おずおずといった感じで一夜が話しかけると、ニヤッと笑った真夜が親しげ小動物のようなその肩を強引に抱く。肩を抱かれた一夜はというと顔を真っ赤にしてあたふたとしている。女性に免疫がないのも昔と変わらないな、とその光景を見ていた恭哉が心の中で呟く。


「もっちろん。親父がそういう風に手配してくれた。これからはずっとこっちにいられるよ」


「真夜と恭哉のお父さんってここの校長と親しかった・・・・っけ?」


桜が記憶を掘り返しながら胡乱うろんげに聞く。龍護は頭を押さえ、わざとらしくため息をつく。恭哉がムスっとしながらも説明する。なぜムスッとしているのだろう?不思議に思いながら説明に耳を傾ける。


「俺の親父はここの卒業生だ。当然校長とも仲が良いらしくてな。姉貴がすぐ入れたのもそのおかげ」


へーぇ、と今知ったかのような顔で相槌(あいづち)を打つ。


「この学校は異能者のための学校だからな。これのおかげで異能の扱い方がわかるし」


「そうだね。もしここに入ってなかったら今頃どうなっていたか」


渚が真夜から失礼にならない程度離れながら頷く。見た目で判断してはダメだとわかってはいるが、明るい茶髪と軽薄そうな顔をした人は苦手なのだ。真夜は渚と悠紀に視線を流し、幼馴染メンバーに訊く。


「誰?彼女達は」


「中等部の時に親友になった真海 悠紀と真海 渚っていって、真海家の人だよ」


そういえば、と桜が慌てて紹介する。真夜との再会が嬉しすぎて頭からすっぽり抜けてた。真海の名を聞いた真夜がわずかに表情を曇らせ、眉根を寄せる。


まぁそういう反応になるだろうな。天空&菊地家と真海家はあんまり仲良くないもんね。むしろ悪いほうに部類されるし。


というか真海家あっちが勝手に天空&菊池家こっちのこと嫌ってるんじゃん。私らが何したって言うんだよっ。


物に八つ当たりをはじめた桜をほっといて、春が説明を引き継ぐ。


「中等部ん時桜達と仲良くなったんだよ。なっ、千夏」


「私にふらないでくださいよ。そうなんじゃないですか?知りませんけど」


興味なさそうに戒とチョコを食べている千夏の返答は素っ気ない。隣では美優が美術部の先輩に頼まれた絵を仕上げており、邪魔にならないように脇から覗き込んでいる一夜が「すごい」と感想をもらしていた。


「しゅーん。あなたの妹、あなたに対してさらに冷たくなってるじゃない」


「…ほっといてくれ」


何が面白いのか大笑いしている真夜の口を、最愛の妹に冷たくされて傷心の春がムキになって無理矢理塞ごうとする。


「ホント懐かしいなぁ。この感じ」


皆それぞれ外見は成長したものの、中身はちっとも変わっていない。それが嬉しくて、同時に安心した。



どんなに離れていても、家族よりも濃い絆で結ばれたこの縁が切れることはないのだと、実感できたから。

彼女らの願いとは裏腹に次回はある方が面倒ごとを押し付けてきます。

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