空飛ぶ伯爵令嬢
しいな ここみ様主催『空飛ぶ○○企画』参加作品です。
わたくしには夢があります。
貴族の令嬢として、伯爵家を繁栄させること……?
いいえ、違います。
わたくしの夢は――
「鳥のように、空を飛ぶこと」。
誰かに話せば、いつも笑われてきました。
それでも、わたくしは本気です。
必ず、空を飛びたい。
どんな方法でも構いません。
あの大空を――飛んでみたいのです。
◇
「リアーナ、準備は良いかい?」
そう声をかけてきたのは、婚約者のエジソール様。
侯爵家の嫡男でありながら、研究に没頭している変わり者です。
わたくしの夢を話したところ、なぜか大層喜ばれ、協力してくださることになりました。
しかし――
「エ……エジソール様……これは……?」
「これは“パタパタくん2号”だ!」
現在、わたくしの両腕には、翼のようなものが装着されています。
「いえ、名前ではなく……。これで、本当に空を飛べるのでしょうか……?」
「ああ、もちろんだ! 崖から飛び降りて、両腕をパタパタさせるのだ!」
――崖!?
この人、正気ですの!?
それ、ただの自殺行為ではなくて!?
「あ、あの……パタパタしたところで、飛べるとは思えませんし……体力も――」
「大丈夫だ!」
な、何なのですの、その即答……!
なぜ、食い気味でかぶせてきますの!?
「さあ、早く飛び降りるのだ!」
キラキラとした瞳で見つめてくるエジソール様。
――ごくり。
わたくしは断崖絶壁の縁に立ち、思わず息を呑みました。
「あの……これ、本当に――」
「大丈夫だ!」
だから、何が大丈夫なのですの!?
「さあ……飛ぶのだ……」
じわり、じわりと距離を詰めてくるエジソール様。
今にも突き落とされそうな勢いですわ!
「何か、言い残すことはあるかい?」
――遺言!?
今、完全に遺言を聞きましたわよね!?
「あ……あの──」
「大丈夫だ!」
もうその言葉、信用できませんわよ!?
こんな崖から飛ばせておいて、どこが大丈夫なのですの!?
わたくし、そんなに恨まれていましたの!?
「さあ! さあ!」
エジソール様――
目が……
目が完全に、常軌を逸していますわ。
もう、無理ですわ。
逃げ場はありません。
後ろにはエジソール様。
前には断崖絶壁。
左右は――岩。
ええ、詰みですわ。
わたくしは、そっと目を閉じました。
(……お父様、お母様……)
短い人生でしたわ……。
そして――
ひらり。
わたくしは、空へと身を投げ出しました。
◇
――風。
頬を撫でる、やわらかな風。
体が、軽い。
落ちているはずなのに――
なぜか、苦しくありません。
それどころか
――ふわり。
「……あら?」
わたくしは、目を開きました。
「と……飛んで、いますわ?」
そう。
わたくしは今、宙に浮かんでいるのです。
まるで鳥のように。
いえ、それ以上に自由に。
羽ばたく必要すらなく、ただ思うままに。
「ふふ……ふふふ……!」
思わず、笑みがこぼれました。
――叶ったのですわ。
わたくしの夢。
空を飛ぶという、あの願いが。
「エジソール様! 見てくださいまし!」
振り返り、崖の上を見上げます。
そこには――
青ざめた顔で、こちらを見下ろすエジソール様。
そして、その視線の先には──
地面に倒れている、“わたくし”。
「……あら?」
少しの間、沈黙しました。
理解が、ゆっくりと追いついてきます。
つまり、これは――
「……魂だけ、飛んでいますのね」
なるほど──
“どんな方法でも良い”とは、言いましたけれど。
「これは……少々、想定外ですわね……」
上では、エジソール様が叫んでいます。
「リ、リアーナぁぁぁぁ!!?」
あらあら。
ようやく事の重大さに気づかれたようですわ。今さらですけれど──。
わたくしは、ふわりと空を漂いながら――
少しだけ考え、
そして、にっこりと微笑みました。
「……まあ、よろしいですわ」
だって──
夢は叶ったのですから……。
たとえ、この身を代償にしたとしても。
「――とても、気持ちが良いですわ」
風が、わたくしを運んでいきます。
どこまでも、どこまでも。
自由に。軽やかに。
そして崖の上では――
「君の体重が予想より重かったからだぁぁ~!!」
最低の原因分析が響いていました。
そして、コメディーなので、わたくしは生き返りましたわ。
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