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伯爵令嬢は人さらいを求婚と勘違いして駆け落ちしているつもりです  作者: 浅見カフカ


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7/12

7.私、何もしてませんわ

こんなに身体が熱いのに、震えが止まらない。

ヨハンが出ていってどのくらい経ったかしら?

寝て起きてを繰り返していたせいで、時間の感覚を失ってしまったみたい。


馬小屋で薄闇を見つめていると焦点が曖昧になってくる。

次第に僅かな光も見えなくなって、薄闇が闇に変わっていった。

そのまま意識も溶けだしていき始めた瞬間——

バンという大きな音と共に、強烈な光が網膜を焼くようにわたくしの瞳を照らした。


「ヨハン!!」

(ああ、戻ってきた!私の為に戻ってきてくれた!!)

鉛のように重たい身体を起こした。

関節の痛みなんて気にならなかった。

もう一度、彼の名を呼んだ。

「ヨハン!」

「ヴィオレッタお嬢様!!」

返ってきた声はヨハンとは違う声。

でも、幼い頃から聞いてきた声だった。

「オスカーなの?」

逆光のシルエットに声を掛けてみた。

「お嬢様、なんという所に——いや、幸いだったか」

エヴァンス家の騎士団の一人、オスカーだった。


彼が私の今の姿を嘆いた後に「幸い」と言ったのはどういう意味だろうか。

「お嬢様、お身体の具合が良くないのですか?」

「風邪を引いたみたい。熱があるの」

「なっ!あの農夫、首を刎ねてやる」

オスカーは腰の剣に手を伸ばすとそう言って肩を震わせた。

「やめて、オスカー。身分を隠してこの馬小屋に泊まっているの」

私はオスカーの袖を掴んで止めた。

オスカーは「ならばここを出ましょう」と向き直って私の両肩を掴んで目を見詰めた。

「私、もう戻りませんわ」

うつむいて言う私に「ええ、お嬢様。もう戻ることは叶いません」とオスカーは告げた。

「そうね、お父様は怒ってらっしゃるのでしょうね。駆け落ちをする娘のことなんて」

私の言葉にオスカーは何も答えなかった。

長い沈黙に耐えられなくなった私が、オスカーの顔を見上げると何か考え込んでいる様子だった。

「駆け落ちをしたと言う話は初耳でした。それとは別の話で、お嬢様は戻ることは出来ないでしょう。私は——我々は、お嬢様を連れ戻しに来たわけではありません」

こんなに深刻な表情のオスカーを見た記憶はなかった。

「どういう意味?」

首を傾げた私に告げられた言葉は、信じ難いものだった。

「ヒルデガルト伯爵夫人殺害の容疑が掛けられています。殺害、逃亡をしたお嬢様の逮捕を騎士団は命ぜられました」

「ヒルダが?私そんなこと知りませんわ。何もしていませんわ」

目眩がした。

でもそれが体調のせいなのか、友人の訃報せいなのか、この濡れ衣のせいなのかは分からなかった。

「お嬢様の人柄を存じている者や、もちろんエヴァンス閣下もお嬢様が犯人だとは思っていません」

「でしたら!」

「犯行の日にお嬢様が姿を消した事実が、その他の薄い根拠や証拠を強固なものにしてしまったのですよ」

私の目の前の景色がひび割れて、音を立てて砕けるように散っていった。


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