表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
伯爵令嬢は人さらいを求婚と勘違いして駆け落ちしているつもりです  作者: 浅見カフカ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/12

6.俺、再会しました

「もうすぐ、もう少しだ」

俺は愛馬にそう言い聞かせながら街へと急いだ。

体調が良くなったらヴィオレッタを解放しよう。

村の皆には済まないが、俺だけが罪を被ればいい。


街が見えてきた。

騎士も兵士も見当たらない。

偽装が成功したのか、単に追っ手が来ていないのか。

俺はホッと胸を撫で下ろした。


城塞都市タグレ——

エヴァンス伯爵領の最西にある都市。

隣国がこのグレイス王国に侵攻した時には、ここが最初の戦場となる。

危険な分、この街の税率は優遇されていた。

その為に多くの商人が集まり様々な商売を始めた。

防御の要のこの城塞都市は、経済の要の商業都市でもあった。

ちなみにタグレは初見殺しの街でもある。

最初の商店が並ぶ通りを過ぎると、迷路のように細く入り組んだ路地が四方八方に伸びていた。

これは大軍の侵攻を防ぐ為と、容易に中心部に侵入させない為の構造だった。


父が生きていた頃、麦を売りに来ていた。

路地の中にも商店はあるが、地元民向けがほとんどだった。


別名『迷宮都市』

——つまり、商店街より奥に行ってはいけないということだ。


カエサル商会。

俺は数年ぶりに麦を購入してくれていた雑穀店を訪ねた。

俺も世間知らずの子供ではない。

分不相応なこの宝石を安易に売ればどうなるか位は想像がつく。

良くて足元を見られ買い叩かれるか、通報されて詰所に連行されるのがオチだ。

オヤジの代からの付き合いのこの店で、信頼出来る買い手を紹介して貰う。

これが最適解だ。


店の扉を開けると、そこには歳若い青年しか居なかった。

店主のオヤジさんは不在だろうか?

(ツイてない)

少し落胆しながら俺は青年に声を掛けた。

「あのう、店主のカエサルさんはいらっしゃいますか?」

そう言うと青年は振り向いて「私がカエサルです」と言った。

「あっ」

思わず声が出たが、それは向こうもそうだった。

「ヨハン、ヨハンじゃないか!」

「アウルス!!」


少年時代——

オヤジたちが小麦の価格交渉をしている間、俺たちは二人でよく遊んだ。

毎年アウルスに会うのが楽しみで仕方無かった。


「今日はどうしたんだ?まだ小麦の時期ではないのに」

「実は——」

宝石を見せると目を丸くして、俺と宝石を交互に見た。

そして察したように「つまり、多少は買い叩かれても口の固い商人にこれを売りたいんだな」と言った。

「ありがとう」

俺はアウルスの手を取って礼を言った。


そしてこの期に及んでだが、嘘を交えた説明を彼に話した。

実は貴族の令嬢と駆け落ち中であると。

路銀も尽きた中、彼女が病に伏せてしまっていると。

そしてこの宝石を——

「金に変えて薬を買うんだな」

アウルスは優しい顔でそう言った。


嘘をついている心苦しさはあった。

だがこの嘘が万が一のときに彼を守ってくれるはずだ。


「お前も隅に置けないな」

アウルスは笑ってそう言うと、店の奥から地図を出してきた。

タグレの地図はこの街の禁忌だ。

一部の人間にしか所有は許されていない。

その人間でさえ、家から一歩でも持ち出せば老若男女問わず縛り首が確定していた。

もちろん、他人に見せるこの行為もだ。

見た側も同様に吊るされてしまう。


「いいか、しっかり覚えろよ」

アウルスは商会の場所と商人の家の二つを指で示した。

そこは少年時代によく探検した場所だった。

「海賊船ロジャー号!!」

「そうだ、そこの向かいの家だ」

船首に似た形の家を、海賊船に見立てて遊んだことを思い出した。

「ここから間違えるなよ。合図がある」



海賊船ロジャー号は少しだけくすんでいたが、立派にそこにあった。

俺はその向かいの家の裏口に回った。

下が黒くくすんで汚れた白いドアがそれだ。


ノックを三回。

次に二回。

最後に五回。


「うるさいな、急かさなくても今開けるよ」

ドア越しに、少しくぐもって聞こえた声の主に俺は言った。

「幸運の神様はせっかちなんだ。慌てるには十分な理由じゃないか」

「——あんた誰だ?帰ってくれ」

相変わらずくぐもっていたが、低く太いトーンに変わった。

「嘘、だろ?」

「......」

ドアを二回ノックした。

「......」

俺はドアを蹴り上げた。

一度だけ、思い切り。


ガチャリと鍵が開く音がして扉が僅かに開いた。

そして隙間から「入んな」と声が聞こえた。

「アウルスの紹介です」

そう言うと「モノは」と手を出した。

俺が懐からヴィオレッタの宝石を取り出すと「アンタ、正気か?」と鼻白んだ。

「エヴァンス家の紋章じゃないか」

商人はそう言って、宝石の枠の金細工を指し示した。

「見てみろ」

確かによく見ると背中合わせで直立するライオンの紋章が掘られていた。

「3000リゲルだ」

その言葉に目を瞑った。

3000はとてつもない大金だ。

だが流石に安すぎはしないだろうか。


「金細工は外して溶かせば良いではないですか。もう少し、あと1500は上げて下さい」

「持って帰んな」

「よん......4200」

「しつこい」

「4000」

俺の言葉に商人は口角を僅かに上げた。

「用意しよう」

差し出された右手。

俺が握り返して商談は成立した。


「カエサル商会に小麦の代金として金を持っていく。次はアウルスと手数料の交渉だな」

商人はそう言うと大きな金庫に宝石をしまった。


扉を開けて再び外に出ると、太陽がやけに目にしみた。

そして扉が閉まる直前——

「8000」と声が聞こえた。

やられた。

相場の半額だ。

だが4000リゲルでもレンガ作りの家が建つ大金だ。

それも日干しレンガでは無い。

焼き物の本当のレンガだ。


だがこの大金、どう持ち歩くべきだろうか——




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ