5.私、飛べましたわ
燃えるように身体が熱い。
これはヨハンに向けた気持ちの表れ?
こんなに激情的な一面が私にあっただなんて。
つい昨日まで——
あの社交場で、退屈に埋没する我が身を嘆いていたのが嘘みたい。
その証拠に、籠の中で朽ちていく未来を思うと、激しい悪寒と動悸を感じる。
ヨハンの姿だってほら、二人に——
夢を見ていた。
自由に外を飛び回る夢。
背中に生えた翼で、私が望んだ空を望んだ雲の上を。
星のキャンディを一粒つまんで、三日月のハンモックひと休み。
そしてあの人の手に引かれて——
誰だったかしら?
必死な目をしたあの人は——
痛みを堪えるような瞳のあの人は——
額に心地良い冷たさを感じた。
目を覚ますとふかふかのベッド——
干し草の上だった。
暖かいけど少しだけチクチクする。
「気分はどうだ、ヴィオレッタ」
ヨハンが額のタオルを取ると、冷水に浸して搾って再び乗せてくれた。
「気持ちいい」
「すまない」
ヨハンはそう言うと干し草に背中を預けた。
「スープ、不味かったよな。パンも硬すぎた。何より、夜通し寒い中を——無理をさせてすまなかった」
「そう......ですわね。私、伯爵令嬢なの」
「ああ、分かってる。でもな、パンもスープもあれが俺たちの日常なんだ」
「分かってませんわ、ヨハン」
「どういう意味だ」
ヨハンは振り向いて怪訝な顔をした。
私は胸の宝石を外して、ヨハンの手に握らせた。
「これを売って、暖かい服を買ってきてくださる?ドレスは寒いのです」
ヨハンは驚いた顔をしていたけれど、私は上手に笑えていたかしら?
少しだけ息が苦しかったから。
「ヴィオレッタ。図々しい頼みだが、馬に水と飼葉を買っても良いだろうか?」
「私のものは貴方のものよ、ヨハン」
「すぐに戻る」
ヨハンはそう言って馬小屋を出て行った。
お父様はお怒りかしら。
ヒルデガルトは驚いている頃ね。
社交界の噂は——当然、私ね。
面白おかしく脚色されて。
なのにどうして清々しいのかしら。
ヨハンが戻って来る保証も無いのに、不安も無いの。
籠を飛び立った金糸雀が、生きていけないことは知っている。
それでも翼を持って生まれたなら、空を
飛んでから死にたいじゃない。
私も飛べたわ、短くても——




