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伯爵令嬢は人さらいを求婚と勘違いして駆け落ちしているつもりです  作者: 浅見カフカ


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4.俺、偽装します

夜が明ける——

朝焼けに赤黒い影を映した雲が、空の端を覆っていた。

それは、風に乗って徐々に太陽に迫っていくように見えた。


追っ手はどこまでせまっているだろうか?

蹄の跡をしっかり見つけてくれているだろうか?

俺はそう思いながら、最後の仕上げをすることにした。


エヴァンス領北部にある、街道の宿場に馬を止めた。

そこでヴィオレッタを下ろすと、馬に飼葉と水を買い与えた。

宿場に入ると皆が俺たちを見た。

当然だ。

煌びやかなドレスの女と、みすぼらしい農夫が安宿の食堂に居るのだ。

だが、これが重要だ。

これで俺たちは誰の印象にも違和感としてしっかり残る。

ヴィオレッタは「ごきげんよう」と場違いな挨拶を繰り返しながら、にこやかにテーブルについた。


最初、テーブルの横に突っ立っていたのでどうしたのかと思えば「椅子を引いてもらうのを待っている」と答えた。

この場でトラブルは面倒だ。

結局、椅子は俺が引いた。

ヴィオレッタは優雅な微笑みを浮かべると「ありがとう」と腰を下ろした、


ヴィオレッタは、出された豆のスープを黙って見詰めていた。

俺が飲み出すとそれがスープだと理解したようだった。

ひとくち飲んで、スプーンを置いた。

「美味しいですわね。舌の奥で味を探り出す斬新な調理法ですわ」

浮かべた笑顔の前——

一瞬、伏せた瞳があった。


「これは、キャンディですか?」

それから真剣な顔で手にしたパンを凝視していた。

「キャンディってなんだ?」

俺は逆に問い掛けた。

「甘くて丸くて硬いお菓子ですわ。噛まずに舐めて溶かして味わうのです」

うっとりした表情で、甘味を懐かしむように話した。

「そうか。残念だがそれはパンだ。硬いならスープに浸すといい」

ヴィオレッタはそれがパンということに驚き、スープという言葉に表情を曇らせた。


お口には合わなかったらしい。


宿場の食堂を出て、馬に跨った。

厩舎の爺さんに、エバンス領を北に抜ける道を尋ねた。

爺さんは、山を抜けるならくれぐれも麓で防寒具を買うように忠告してくれた。

ヴィオレッタを心配そうに見ながら。

「ありがとう」

俺はそう言うと、宿が見えなくなるまで北へ向かい、そこから西へと馬を向けた。


これが時間稼ぎになってくれれば——


祈るようにそう願った。






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