11.私、決めましたわ
ジャリジャリと奥歯が砂を噛む。
口をすすいで全ての砂を吐き出した私は、馬小屋に入るとドレスを脱いだ。
生まれて初めて——
従者も無しで服を着替えるなんて。
貴族社会のしがらみのように、私を締め付けるコルセットを外した。
空気が肺の隅々まで行き渡るような気がした。
今ならあのお芝居の長い長いセリフも、息継ぎが必要無いかもしれない。
ヨハンが買ってくれた服に袖を通した。
生成のブラウスは少しゴワゴワした。
私の肌とこの生地の間に合意を取り付けるには、少しの時間が必要そうだ。
袖なしの茶色のコットをその上から被るように着た。
スカート丈はくるぶしより少し上で、アンクルブーツが見えるのが可愛いと思った。
質素だけれども悪くはないような気がする。
それにしてもヒルデガルトを殺害したのは誰なのかしら?
単純に考えればフェルナンド男爵かフランツ伯爵だけれども——
嫌疑が私に向けられているというのは、姿を消したとはいえ少し性急だわ。
それにオスカーの話だと憲兵隊が捜査の指揮を執っているだなんて。
エヴァンス家の自治権を蔑ろにする行為だし、あまりに早い。
——?
そういえば、ヨハンはどうして易々と敷地に侵入出来たのかしら。
不味いことが起きているのかもしれない。
お父様は大丈夫かしら?
ううん、これはお父様を狙ったものでも、ヒルデガルトを殺すのが目的でもないわ。
目的はもっと大きい。
エヴァンス家かエヴァンス領の簒奪。
あるいは——取り潰し。
戻って大きな渦の中で足掻くべきか、このまま外から戦うべきか。
駆け落ちを選んだとはいえ、私は貴族の娘。
——決めましたわ。
私、戦います。
馬小屋を出た私の姿を見たオスカーは「お嬢様、その色は平民の色ではありませんか。貴族、いえ大貴族エヴァンス家令嬢が身につけるべき色ではありません」と窘め、ヨハンを斬り捨てかねない目で睨みつけた。
「あら、素敵じゃないこの服」
私は二人の前でくるりと回ってみせた。
スカートがふわりと風を孕む。
ヨハンは慌てて後ろを向いてしまった。
そんなヨハンの背中に近づくと、私は手を繋いだ。
「さぁヨハン、駆け落ちの続きをしましょう」
驚いて振り向くヨハンと「お嬢様!」と叫ぶオスカーに私は宣言するように言った。
「私は私の領地と貴方の故郷を救って見せるわ。だからヨハン——」
「駆け落ちしますわよ」
私は馬に跨るとヨハンに手を差し出した。




