表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
伯爵令嬢は人さらいを求婚と勘違いして駆け落ちしているつもりです  作者: 浅見カフカ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/5

1.私、求婚されましたわ

退屈な日常——

夜毎の社交は同じ顔ぶれ、同じ話題に同じ目的。

成功を讃える陰で妬み、醜聞を嬉々として伝え話す。


「ヴィオレッタ皇后殿下、ご機嫌麗しゅうございます」

「まぁ、気が早いですわ。ヒルデガルト伯爵夫人」

わたくしは夫人の言葉に、広げたエヴァンタイユで口許を隠して笑うと「婚約は来月ですわよ」と続けた。


楽団の演奏する曲が切れ間なく、次の曲に変わった。

「あら、私この曲好きですの」

ヒルデガルト伯爵夫人はそう言うと、ダンスの輪の中へ消えて行った。

きっと噂のフェルナンド男爵と踊るのだろう。

歳の離れたヒルデガルト伯爵夫人を娶ったフランツ伯爵は、踊る程度ならと黙認しているらしい。


もしもその先へ行ったなら、夫人と男爵はどうなるのだろうか。

名誉を守るなら決闘を挑むだろう。

溜飲を下げるなら、結果の決まった裁判での公開処刑。


退屈な日常のエッセンス。

きっと、ヒルデガルト伯爵夫人は私たちの退屈しのぎにはならないと思う。

彼女、スリルは好きだけれどもフェルナンドのことは好きじゃないもの。


——結婚って、つまらないものなのかしら。


私はため息をいてバルコニーに向かった。

夜風に当たりたかった。

ホールの、よどんだ人の気に当てられたのかもしれない。


私も殿下の妃になったら、彼女以上の退屈と過ごすのかしら。

大きな硝子の扉を開いた先は、新月の闇だった。

空に細く引いた、糸のようなか細い月明かりは夜に溶け、室内の明かりが作り出すはずの私の影すら、闇に奪いさられてしまった。


(ああ、誰か。この影のように私を奪い去って欲しい)

月にも星にも届かない指先は、どれだけ伸ばしても虚空を彷徨うだけだった。

(この退屈な日常の籠から金糸雀カナリアのように——)


木々のざわめきに耳を傾けようと、手摺てすりに手を掛けた時だった。

私の首筋に冷たい何かが当てられた。

そして耳元で「一緒に来てもらおう」と囁かれた。


突然の出来事に鼓動が早まった。

(嘘でしょ、信じられない)

楽団の演奏が遠ざかって行くように聞こえた。

反対に脈拍の音が大きくなって、耳が熱い。

頭の芯が痺れて蕩ける。

(私、初対面の殿方に求婚されてしまった)

「なんて情熱的な求婚なのかしら」

私は殿方の手を握った。


「はっ?」

殿方はきっと断られると思っていたみたい。

求婚を受け入れた私に驚いた様子だった。

「国を敵に回しても私が欲しいだなんて......」

命を投げ打ってまでの想いに、私の心は魂と共に震えた。

「さぁ、私を連れ去って。貴方の覚悟に私もこの身を捧げますわ」

私は握手を交わした右腕を引くと右足をかけた。

そうして首に両腕を回して、左足で地面を蹴った。

殿方は少しよろけながら私を抱きかかえてくれた。


「さぁ、早く。人が来ますわ」

その言葉を合図に殿方は走り出した。

奥の階段から駆け下りると、繋いだ馬に私を乗せた。

私は殿方の腰に手を回して背中に頬を当てると「末永くこのヴィオレッタ・エヴァンスを、よろしくお願いしますね」と言った。


「えええええええええぇ!?」

夜の静寂しじまひづめと人の声に似た、馬のいななきが響いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ